「トポグラフィックマッピング」の版間の差分

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 嗅覚系においてもトポグラフィックマッピングが行われることが知られているが、坂野らのグループによる精力的な研究によりその詳細な分子メカニズムが明らかにされてきている<ref name=sakano><pubmed>21469960</pubmed></ref>。匂いは[[嗅覚受容体]]で感知されるが、一つの嗅上皮細胞は一種類の嗅覚受容体を発現している。しかしながら、同じ嗅覚受容体を発現する細胞の嗅上皮内における分布はバラバラであるので、同じ嗅覚受容体を発現する細胞からの情報は嗅球の中の同じ糸球体に収束する必要がある。嗅覚受容体はヒトでは約350種類、マウスでは約1000種類の嗅覚受容体が存在し、[[嗅球]]上に嗅覚受容体の数に対応した糸球体を素子とする2次元マップが形成される。  
 嗅覚系においてもトポグラフィックマッピングが行われることが知られているが、坂野らのグループによる精力的な研究によりその詳細な分子メカニズムが明らかにされてきている<ref name=sakano><pubmed>21469960</pubmed></ref>。匂いは[[嗅覚受容体]]で感知されるが、一つの嗅上皮細胞は一種類の嗅覚受容体を発現している。しかしながら、同じ嗅覚受容体を発現する細胞の嗅上皮内における分布はバラバラであるので、同じ嗅覚受容体を発現する細胞からの情報は嗅球の中の同じ糸球体に収束する必要がある。嗅覚受容体はヒトでは約350種類、マウスでは約1000種類の嗅覚受容体が存在し、[[嗅球]]上に嗅覚受容体の数に対応した糸球体を素子とする2次元マップが形成される。  


 嗅球の中での嗅上皮細胞の軸索の配置は前後軸及び背側腹側の軸で決定されているが、背側腹側の軸での配列は嗅上皮内での配置によって決定される。前後軸に関してはどの嗅覚受容体が発現されているかによって産生される[[cAMP]]の量が変わり、これによって[[Sema3A]]/[[Neuropilin1]]のカウンターバランスを示す濃度勾配が[[嗅上皮細胞]]の軸索内に発生し、これによって標的にたどり着く前に軸索がソーティングされることによって、前後軸のどこに軸索が到着するかが決定される。背側腹側に関しては、まず、嗅上皮内での[[Robo2]]の濃度勾配と嗅球内での[[Slit1]]の濃度勾配よって[[パイオニア軸索]]の嗅球での配置が背側に決定され、その後、嗅上皮細胞の軸索内での[[Sema3F]]/[[Neuropilin2]]のカウンターバランスを示す濃度勾配によって嗅球内での背側腹側の位置が決まる。つまり、後から到着する軸索は先に到着した背側の軸索が発現するSema3Fによってより腹側に配置される(図5)。嗅覚の場合に特徴的なのは、軸索ー軸索の相互作用が非常に重要な役割を果たしていることである。 これはSperryのモデルとは少し異なり、嗅覚系では軸索間で自律的に制御されているということを示しており、また、嗅球がなくてもある程度トポグラフィックマップが形成されるという事実とも合致する。視覚系においては位置情報以外は(網膜のどこからくるか以外は)それぞれの軸索で同じ情報が伝えられているが、嗅覚系では違う嗅覚受容体の情報がそれぞれの軸索によって伝えられているところが異なるのかもしれない。  
 嗅球の中での嗅上皮細胞の軸索の配置は前後軸及び背側腹側の軸で決定されているが、背側腹側の軸での配列は嗅上皮内での配置によって決定される。前後軸に関してはどの嗅覚受容体が発現されているかによって産生される[[cAMP]]の量が変わり、これによって[[Sema3A]]/[[Neuropilin1]]のカウンターバランスを示す濃度勾配が[[嗅上皮細胞]]の軸索内に発生し、これによって標的にたどり着く前に軸索がソーティングされることによって、前後軸のどこに軸索が到着するかが決定される<ref name=sakano />。背側腹側に関しては、まず、嗅上皮内での[[Robo2]]の濃度勾配と嗅球内での[[Slit1]]の濃度勾配よって[[パイオニア軸索]]の嗅球での配置が背側に決定され、その後、嗅上皮細胞の軸索内での[[Sema3F]]/[[Neuropilin2]]のカウンターバランスを示す濃度勾配によって嗅球内での背側腹側の位置が決まる<ref name=sakano />。つまり、後から到着する軸索は先に到着した背側の軸索が発現するSema3Fによってより腹側に配置される(図5)。嗅覚の場合に特徴的なのは、軸索ー軸索の相互作用が非常に重要な役割を果たしていることである。 これはSperryのモデルとは少し異なり、嗅覚系では軸索間で自律的に制御されているということを示しており、また、嗅球がなくてもある程度トポグラフィックマップが形成されるという事実とも合致する。視覚系においては位置情報以外は(網膜のどこからくるか以外は)それぞれの軸索で同じ情報が伝えられているが、嗅覚系では違う嗅覚受容体の情報がそれぞれの軸索によって伝えられているところが異なるのかもしれない。  


 こういった過程で軸索が標的位置に到達しシナプスを形成したあと、嗅覚系でも視覚系と同様に神経活動依存的なリファインメントがおこる(隣同士の[[糸球体]]がきっちりとセグレゲートする)。この過程においては神経活動依存的にホモフィリック結合をする[[細胞接着因子]][[Kirrel]]2/3と接着依存性の反発因子である[[EphA5]]-[[EphrinA5]]がやはり濃度勾配を呈する形で発現し、それによって糸球体が相互にセグレゲートする(図3)<ref> name=sakano />。  
 こういった過程で軸索が標的位置に到達しシナプスを形成したあと、嗅覚系でも視覚系と同様に神経活動依存的なリファインメントがおこる(隣同士の[[糸球体]]がきっちりとセグレゲートする)。この過程においては神経活動依存的にホモフィリック結合をする[[細胞接着因子]][[Kirrel]]2/3と接着依存性の反発因子である[[EphA5]]-[[EphrinA5]]がやはり濃度勾配を呈する形で発現し、それによって糸球体が相互にセグレゲートする(図3)<ref name=sakano />。  


 嗅覚系におけるトポグラフィックマッピングは様々な嗅覚受容体からの情報を処理するのに必要であるだけでなく、その匂いによって誘発される動物の行動を規定するのに重要であり、嗅球から脳のどこにつながるかということとトポグラフィックマッピングは密接に関わっている。詳細は[[嗅覚]]系の項を参照されたい。
 嗅覚系におけるトポグラフィックマッピングは様々な嗅覚受容体からの情報を処理するのに必要であるだけでなく、その匂いによって誘発される動物の行動を規定するのに重要であり、嗅球から脳のどこにつながるかということとトポグラフィックマッピングは密接に関わっている。詳細は[[嗅覚]]系の項を参照されたい。