「トポグラフィックマッピング」の版間の差分

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=== 視覚系  ===
=== 視覚系  ===
====網膜-視蓋/上丘投射====
 網膜から視蓋/[[上丘]]への投射がトポグラフィックになっていることはよく知られている。この形成には幾つかの過程があり、様々な分子が関与しているが、基本的にはSperryの仮説の様に分子が濃度勾配を呈して発現していることによる。まず、網膜の視神経細胞の軸索は視蓋/上丘に入り、将来の標的位置よりも後方へ越えて、伸長することが知られている。その後、軸索が網膜内の耳側−鼻側の軸内のどこの位置からでているかで視蓋/上丘での前後軸に沿った正しい位置で、EphAs-EphrinAsの濃度勾配によって、軸索からinterstitial branching(日本語に御願い致します)がおこり、その後そのbranchが、今度は網膜内の背側−腹側軸によって視蓋/上丘の内側−外側の軸に沿った、EphAs-EphrinAsとは異なる分子の濃度勾配(EphBs-EphrinBs)で、正しい最終集結点に導かれる。ここまでは神経活動に依存せずにおこる。その後、更なるマップのリファインメント(標的領域がさらに集束する)が起こるがこれには神経活動が必要であり、ウェーブ状に発生する網膜内での自発的な電気活動の存在が重要であることが示されている(図4)<ref><pubmed>16022599</pubmed></ref>。


 ここではマウスについてまとめる。網膜から視蓋/上丘への投射がトポグラフィックになっていることはよく知られている。この形成には幾つかの過程があり、様々な分子が関与しているが、基本的にはSperryの仮説の様に分子が濃度勾配を呈して発現していることによる。まず、網膜の視神経細胞の軸索は視蓋/上丘に入り、将来の標的位置よりも後ろへオーバーシュートして伸長することが知られている。その後、軸索が網膜内の耳側−鼻側の軸内のどこの位置からでているかで視蓋/上丘での前後軸に沿った正しい位置で、EphAs-EphrinAsの濃度勾配によって、軸索からinterstitial branchingがおこり、その後そのbranchが、今度は網膜内の背側−腹側軸によって視蓋/上丘の内側−外側の軸に沿った、EphAs-EphrinAsとは異なる分子の濃度勾配(EphBs-EphrinBs)で、正しい最終集結点に導かれる。ここまでは神経活動に依存せずにおこる。その後、更なるマップのリファインメント(標的領域がさらに集束する)が起こるがこれには神経活動が必要であり、ウェーブ状に発生する網膜内での自発的な電気活動の存在が重要であることが示されている(図4)<ref><pubmed>16022599</pubmed></ref>。  
 こういった過程に関わる分子の濃度勾配に関してはカウンターバランスを示す2つの濃度勾配が必要という考え方と、1つの濃度勾配がプッシュとプルと両方やれるという考え方とある。その他、もう一つの可能性として、軸索同士が競合するという可能性もあり、最近の知見では軸索同士の競合も視覚系におけるトポグラフィックマッピングに必要であるとされている<ref><pubmed>22065784</pubmed></ref>。  


 こういった過程に関わる分子の濃度勾配に関してはカウンターバランスを示す2つの濃度勾配が必要という考え方と、1つの濃度勾配がプッシュとプルと両方やれるという考え方とある。その他、もう一つの可能性として、軸索同士が競合するという可能性もあり、最近の知見では軸索同士の競合も視覚系におけるトポグラフィックマッピングに必要であるとされている<ref><pubmed>22065784</pubmed></ref>。  
====外側膝状体-大脳皮質視覚野投射====


 この他にも、外側膝状体と大脳皮質の視覚野でもトポグラフィックマップは形成されているがその分子メカニズムは視蓋/上丘ほどは明らかにされていない。ここで一つ注意しておきたいのは上記のニワトリの系は両眼視をする系ではないということである。したがって、Eph-ephrinによるChemoaffinityのメカニズムは対側に投射する軸索に当てはまるものである。マウスではヒトほど顕著ではないものの、両眼視をすることができ、したがって外側膝状体では対側の眼からの軸索の投射する場所と同側の眼からの軸索の投射する場所が存在し、結果として同じ視野フィールドからの情報が同じ側の視覚中枢に集束することになる。この場合、対側からの投射についてはニワトリと同じ様なメカニズムが当てはまると考えられるが、同側からの投射については対側と同じメカニズム(Eph-ephrin)が働くのかそれとも全く異なったメカニズムなのかについてはわかっていない。同側の投射は最初は領域内にある程度広がっているが発達の段階で最終的な標的に集束することが知られているが、この集束する過程には神経活動依存性のメカニズムが働いていることは明らかにされている。ヒトでは50%の投射が同側からであり、したがって上記で推測される対側の投射のメカニズム以外に、同側のトポグラフィックマッピングのメカニズム及び同側と対側の情報の統合のメカニズムが何らかの形で必要である。
 [[外側膝状体]]と大脳皮質の視覚野でもトポグラフィックマップは形成されているがその分子メカニズムは視蓋/上丘ほどは明らかにされていない。ここで一つ注意しておきたいのは上記のニワトリの系は両眼視をする系ではないということである。したがって、Eph-エフリンによる化学親和のメカニズムは対側に投射する軸索に当てはまるものである。マウスではヒトほど顕著ではないものの、両眼視をすることができ、したがって外側膝状体では対側の眼からの軸索の投射する場所と同側の眼からの軸索の投射する場所が存在し、結果として同じ視野フィールドからの情報が同じ側の視覚中枢に集束することになる。この場合、対側からの投射についてはニワトリと同じ様なメカニズムが当てはまると考えられるが、同側からの投射については対側と同じメカニズム(Eph-エフリン)が働くのかそれとも全く異なったメカニズムなのかについてはわかっていない。同側の投射は最初は領域内にある程度広がっているが発達の段階で最終的な標的に集束することが知られているが、この集束する過程には神経活動依存性のメカニズムが働いていることは明らかにされている。ヒトでは50%の投射が同側からであり、したがって上記で推測される対側の投射のメカニズム以外に、同側のトポグラフィックマッピングのメカニズム及び同側と対側の情報の統合のメカニズムが何らかの形で必要である。


 一方、外側膝状体と大脳皮質の視覚野の系でよく研究されているのはこれらの視覚中枢における右目と左目から投射を受けている部位の交互なストライプ状の配置である。大脳皮質においてはこのストライプ状にならんだカラムをを優位視覚性円柱ocular dominance columnという。猫で片方の眼を視覚の発達段階に閉じることでこのストライプのサイズに変化を与えることができるのでこれには神経活動依存的なメカニズムが関与していることが知られている。  
 一方、外側膝状体と大脳皮質の視覚野の系でよく研究されているのはこれらの視覚中枢における右目と左目から投射を受けている部位の交互なストライプ状の配置である。大脳皮質においてはこのストライプ状にならんだカラムをを[[優位視覚性円柱]] ocular dominance columnという。猫で片方の眼を視覚の発達段階に閉じることでこのストライプのサイズに変化を与えることができるのでこれには神経活動依存的なメカニズムが関与していることが知られている。  


 トポグラフィックマップの形成後はそれを変えることは難しいが、形成の前に脳の領域ごとに[[可塑性]]が持続する時期があり、それを[[臨界期]]と呼ぶ。この時期は神経活動依存的な修飾が可能な時期であり、この時期内での神経活動の変化は脳内でのマップのパターンを変えることができる。臨界期における神経活動の変化は上記の優位視覚性円柱(すなわちトポグラフィカルマップ)のパターンを変える(例えば右目と左目のカラムでサイズが変わる)(詳しくは臨界期及び優位視覚性円柱の項を参照されたい)。  
 トポグラフィックマップの形成後はそれを変えることは難しいが、形成の前に脳の領域ごとに[[可塑性]]が持続する時期があり、それを[[臨界期]]と呼ぶ。この時期は神経活動依存的な修飾が可能な時期であり、この時期内での神経活動の変化は脳内でのマップのパターンを変えることができる。臨界期における神経活動の変化は上記の優位視覚性円柱(すなわちトポグラフィカルマップ)のパターンを変える(例えば右目と左目のカラムでサイズが変わる)(詳しくは臨界期及び優位視覚性円柱の項を参照されたい)。


=== 嗅覚系  ===
=== 嗅覚系  ===