「トランスポゾン」の版間の差分

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 転移因子は、その転移機序に応じて2つのクラスに分類される(Kapitonov)。1つはカット&ペースト型の転移をするDNA(型)トランスポゾンであり、その転移機構をトランスポジションと呼ぶ。もう1つはレトロトランスポジション(またはレトロポジション)と呼ばれる転移機序を持つレトロトランスポゾンであり、いわゆるコピー&ペースト型の転移をおこなう。
 
 転移因子は、その転移機序に応じて2つのクラスに分類される(Kapitonov)。1つはカット&ペースト型の転移をするDNA(型)トランスポゾンであり、その転移機構をトランスポジションと呼ぶ。もう1つはレトロトランスポジション(またはレトロポジション)と呼ばれる転移機序を持つレトロトランスポゾンであり、いわゆるコピー&ペースト型の転移をおこなう。
 
 またそれぞれの転移因子は、その転移様式によって自律型と非自律型に分類できる。自律型の転移因子は、その配列自身がコードする転移酵素(レトロトランスポゾンの場合は逆転写酵素)を利用して転移する。一方で非自律型の転移因子は転移のための酵素コードしておらず、自律型の転移因子から発現した酵素を利用して転移する。そのため、自律型のみならず非自律型の転移因子も、転移酵素や逆転写酵素の認識配列を持つのが一般的である。
 
 またそれぞれの転移因子は、その転移様式によって自律型と非自律型に分類できる。自律型の転移因子は、その配列自身がコードする転移酵素(レトロトランスポゾンの場合は逆転写酵素)を利用して転移する。一方で非自律型の転移因子は転移のための酵素コードしておらず、自律型の転移因子から発現した酵素を利用して転移する。そのため、自律型のみならず非自律型の転移因子も、転移酵素や逆転写酵素の認識配列を持つのが一般的である。
 
 DNAトランスポゾンやレトロトランスポゾンは、その転移機序と進化的起源によって細かく分類されている。特に最近は膨大なゲノム情報の蓄積によって、新規の転移因子ファミリーが次々と発見されており、中にはこれまでの分類に当てはまらない転移因子が発見されることもある。
 
 DNAトランスポゾンやレトロトランスポゾンは、その転移機序と進化的起源によって細かく分類されている。特に最近は膨大なゲノム情報の蓄積によって、新規の転移因子ファミリーが次々と発見されており、中にはこれまでの分類に当てはまらない転移因子が発見されることもある。
  
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===DNA(型)トランスポゾン===
 
===DNA(型)トランスポゾン===

2013年8月11日 (日) 18:53時点における版

英:Transposable elements、英略語:TEs

 トランスポゾンとは、広義には細胞内でゲノム上の位置を移動する(転移する)DNA配列を指し、狭義にはその一種であるDNA(型)トランスポゾンを指す。前者は一般的に転移因子(Transposable Elements)と呼ばれ、時にJumping genesとも呼ばれる。本項では転移因子(広義のトランスポゾン)について解説する。転移因子の中でも特にレトロポゾンはゲノム中で膨大なコピー数が存在し、例えばヒトゲノムの46%を占めるなど、ゲノム構造の多様性およびゲノムサイズに大きな影響を与えている。


発見の歴史

 転移因子の存在は、1950年にバーバラ・マクリントック(Barbara McClintock, 1902 - 1992年)によって提唱された(McClintock)。マクリントックは斑入りのトウモロコシの染色体を調べることで、斑の形成に関わる遺伝子座が染色体の異なる位置に移動することを発見し、この現象をトランスポジションと名付けた。しかし、遺伝子が染色体内を移動するといった概念は当時の常識をはるかに越えており、マクリントックの学説はほとんど受け入れられることは無かった。その後1960年代後半から70年代前半にかけて、バクテリアや酵母で「動く遺伝子」が発見されるようになり、それらはトランスポゾンと名付けられた。またマクリントックが発見したトウモロコシの斑の形成に関わる遺伝子座もDNAトランスポゾンの一種であることが明らかにされた。こうしてマクリントックが提唱した学説は認められるようになり、1983年には単独女性として初めてノーベル医学生理学賞を受賞した。


分類

転移因子の構造

 転移因子は、その転移機序に応じて2つのクラスに分類される(Kapitonov)。1つはカット&ペースト型の転移をするDNA(型)トランスポゾンであり、その転移機構をトランスポジションと呼ぶ。もう1つはレトロトランスポジション(またはレトロポジション)と呼ばれる転移機序を持つレトロトランスポゾンであり、いわゆるコピー&ペースト型の転移をおこなう。  またそれぞれの転移因子は、その転移様式によって自律型と非自律型に分類できる。自律型の転移因子は、その配列自身がコードする転移酵素(レトロトランスポゾンの場合は逆転写酵素)を利用して転移する。一方で非自律型の転移因子は転移のための酵素コードしておらず、自律型の転移因子から発現した酵素を利用して転移する。そのため、自律型のみならず非自律型の転移因子も、転移酵素や逆転写酵素の認識配列を持つのが一般的である。  DNAトランスポゾンやレトロトランスポゾンは、その転移機序と進化的起源によって細かく分類されている。特に最近は膨大なゲノム情報の蓄積によって、新規の転移因子ファミリーが次々と発見されており、中にはこれまでの分類に当てはまらない転移因子が発見されることもある。


DNA(型)トランスポゾン

 クラスIIトランスポゾンとも呼ばれ、トランスポザーゼ(transposase)と呼ばれる転移酵素をコードしている。このトランスポザーゼがトランスポゾンの両末端にある逆向き配列(inverted repeat)を認識してゲノムから切り出し、切り出されたトランスポゾンDNAをゲノム上の別の位置に再び挿入させる。DNAトランスポゾンの種類によって、挿入のターゲットとなるゲノム配列の選好性は異なる。  DNAトランスポゾンは自律性と非自律性の2種類に分けられる。自律性トランスポゾンは上記のように内部にコードするトランスポザーゼを用いて転移する。一方で非自律性の因子は、内部にタンパク質をコードしておらず、自律性因子と類似した逆向き配列を持つ数百塩基対程度の短い因子である。一般にこうした短い非自律性トランスポゾンはMITE (miniature inverted-repeat transposable element)と呼ばれている。非自律性因子は自律性因子がコードするトランスポザーゼを利用して転移する。

レトロトランスポゾン

 クラスIトランスポゾンとも呼ばれる。転移の際、まずレトロトランスポゾン配列が内部プロモーターによって転写され、自身がコードする逆転写酵素が翻訳される。逆転写酵素はレトロトランスポゾンRNAを鋳型としてcDNAを合成し、それをゲノム上の別の位置に挿入させる。したがってすべてのレトロポジションはレトロポゾン配列のコピー数の増加を伴い、ゲノムサイズに大きな影響を与えることが知られている。レトロトランスポゾンはLTR (long terminal repeat)型レトロトランスポゾン、およびLINE (long interspersed element)(非LTR型レトロトランスポゾンとも呼ばれる)に大別され、それぞれ次のように異なる転移機序を持つ。  LTR型レトロトランスポゾンは両末端に数百~数千塩基対の反復配列(LTR)を持ち、内部に逆転写酵素とインテグラーゼをコードしている。レトロウイルスはLTRに加えて内部にenv遺伝子を持つが、分類上LTR型レトロトランスポゾンに含まれることが多い。LTR型レトロトランスポゾンにもLTRのみを持つ非自律性因子が知られており、それらは長さに応じてLARDやTRIMと呼ばれることもある。  LINE(long interspersed elements)は内部に逆転写酵素とエンドヌクレアーゼをコードする。LINEタンパク質はLINE RNAの3’末端配列を認識して結合し、逆転写およびゲノムへの挿入をおこなう。LINEには様々な種類が知られており、生物群ごとにそれぞれ異なる種類のLINEがゲノムの大きな割合を占める。例えば哺乳類ではL1と呼ばれるLINEが主要であり、例えばヒトゲノムの約17%はL1が占めている。一方、ニワトリゲノムではCR1、ゼブラフィッシュではL2がレトロトランスポゾンの中で最も大きな割合を占める。  さらにLINEに関連する非自律性因子として、SINE(short interspersed elements)が知られている。多くのSINEはtRNAに起源を持ち、RNA polymerase IIIによって転写されたSINE RNAが、LINEタンパク質を利用して転移する。そのためSINEの3’末端配列がLINEの3’末端配列と類似している例が数多く報告されている。SINEは進化的に異なる系統で独立に生成する場合が多く見られる。例えば霊長類のAlu、齧歯類のB1やB2など、哺乳類では目あるいは科レベルで独自のSINEを持つ。Aluはヒトゲノムの10%を占めており、そのコピー数は100万を超える。


ゲノムにおける影響

 一般的に転移因子は、ゲノム中を移動するだけの利己的DNAあるいは寄生因子にすぎないと見なされる場合が多い。それでも、膨大なコピー数が存在し転移を繰り返していることから、その影響は無視できないものとなっている。例えば、転移因子が遺伝子内部に挿入されることで血友病や癌などの疾患をもたらす例が知られている(Belancio)。また複数の転移因子の間で非相同組換えが起こり、ゲノム構造を改変することもある(Deininger 2003??、Kazazian 2004??、)。  また進化的視点から考えると、ゲノムサイズの増大、およびゲノム構造の多様化に大きな影響を与えており、ゲノムの重要な構成要素として認識されている。ゲノム中で転移因子の占める割合は、ヒトでは46%、トウモロコシでは80%以上であり、ゲノムサイズを決定する主要因となっている。一方で転移因子の水平伝播が起こっていることも知られているが、その詳細なメカニズムはほとんど明らかになっていない(Schaack 2008)。  転移因子は上述のように有害な影響を及ぼす可能性があることから、一般の細胞内では転移が抑制されていることが多い。例外として、生殖細胞および脳神経細胞では転移が観察されているが、なぜこれらの細胞内のみで転移可能なのかは明らかになっていない。体細胞における抑制機構としては、転移因子配列のメチル化やヘテロクロマチン化などのエピジェネティックな制御を受けていることが知られている。また、small RNAによる抑制も受けていることが近年明らかになってきている(Kim)。  転移因子の挿入は進化的に中立の変異であり、一般にその配列は進化の過程で塩基置換が蓄積し、やがて転移因子であることの検出が困難になると考えられる。しかし例外的に、その過程で転移因子由来の配列が生物の生存に有利な何らかの機能を獲得する場合が知られている(exaptationまたはco-optionとも呼ばれる)。それらの配列は進化的に保存されることが多く、特に有胎盤類では、保存領域の16%が転移因子に由来することが分かっている(Nishihara、Mikkelsen)。転移因子が獲得した機能としては、遺伝子のエキソン化や選択的スプライシングの生成といったタンパク質コード配列の改変に加え、エンハンサーやインシュレーターなどの調節配列となることが知られている。特に哺乳類の脳において複数のレトロポゾンがエンハンサー機能を有することが報告されており、哺乳類の脳の形成に関与したexaptationの好例として知られている(Sasaki)。


生物学的利用

 また、転移という特徴を利用し、転移因子を遺伝学的ツールとして用いることができる。具体的な利用方法の1つとして、転移因子を用いた順遺伝学的スクリーニングがある。これは転移因子を生体内で転移させることで変異体を多数作成し、特定の表現型を示す個体を選別してその原因となる転移因子の挿入サイトを特定する方法である。代表的なものとして、P element、Sleeping beauty、piggyBac、Tol2などが用いられている(Ivics 2009)。この手法は、ショウジョウバエをはじめ、ゼブラフィッシュやマウスなどの脊椎動物でも幅広く用いられている。  また転移因子を利用したゲノムへの遺伝子導入、すなわち遺伝子組み換え生物の作成も広くおこなわれている。目的遺伝子の両端にDNAトランスポゾンの末端配列を付加したコンストラクトを胚へ導入し、トランスポゼースを利用して転移させることで、効率良くゲノム中に導入することができる。この方法では、piggyBacやTol2がよく利用されている(Kawakami 2007)。



(執筆者:西原秀典、岡田典弘  担当編集委員:大隅典子)