「トランスポゾン」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
36行目: 36行目:
 一般的に転移因子は、ゲノム中を移動するだけの利己的DNAあるいは寄生因子にすぎないと見なされる場合が多い。それでも、膨大なコピー数が存在し転移を繰り返していることから、その影響は無視できないものとなっている。例えば、転移因子が遺伝子内部に挿入されることで血友病や癌などの疾患をもたらす例が知られている<ref><pubmed> 18256243 </pubmed></ref>。また複数の転移因子の間で非相同組換えが起こり、ゲノム構造を改変することもある<ref><pubmed> 14638329 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15016989 </pubmed></ref>。
 一般的に転移因子は、ゲノム中を移動するだけの利己的DNAあるいは寄生因子にすぎないと見なされる場合が多い。それでも、膨大なコピー数が存在し転移を繰り返していることから、その影響は無視できないものとなっている。例えば、転移因子が遺伝子内部に挿入されることで血友病や癌などの疾患をもたらす例が知られている<ref><pubmed> 18256243 </pubmed></ref>。また複数の転移因子の間で非相同組換えが起こり、ゲノム構造を改変することもある<ref><pubmed> 14638329 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15016989 </pubmed></ref>。
 また進化的視点から考えると、ゲノムサイズの増大、およびゲノム構造の多様化に大きな影響を与えており、ゲノムの重要な構成要素として認識されている。ゲノム中で転移因子の占める割合は、ヒトでは46%、トウモロコシでは80%以上であり、ゲノムサイズを決定する主要因となっている。一方で転移因子の水平伝播が起こっていることも知られているが、その詳細なメカニズムはほとんど明らかになっていない<ref><pubmed> 20591532 </pubmed></ref>。
 また進化的視点から考えると、ゲノムサイズの増大、およびゲノム構造の多様化に大きな影響を与えており、ゲノムの重要な構成要素として認識されている。ゲノム中で転移因子の占める割合は、ヒトでは46%、トウモロコシでは80%以上であり、ゲノムサイズを決定する主要因となっている。一方で転移因子の水平伝播が起こっていることも知られているが、その詳細なメカニズムはほとんど明らかになっていない<ref><pubmed> 20591532 </pubmed></ref>。
 転移因子は上述のように有害な影響を及ぼす可能性があることから、一般の細胞内では転移が抑制されていることが多い。例外として、生殖細胞および[[脳神経]]細胞では転移が観察されているが、なぜこれらの細胞内のみで転移可能なのかは明らかになっていない。体細胞における抑制機構としては、転移因子配列のメチル化やヘテロクロマチン化などのエピジェネティックな制御を受けていることが知られている。また、small RNAによる抑制も受けていることが近年明らかになってきている<ref><pubmed> 19165215 </pubmed></ref>。
 転移因子は上述のように有害な影響を及ぼす可能性があることから、一般の細胞内では転移が抑制されていることが多い。例外として、生殖細胞および脳神経細胞では転移が観察されており、特にニューロンのモザイク性を生み出している可能性が指摘されている<ref><pubmed> 15959507 </pubmed></ref>。しかしなぜこれらの細胞内のみで転移可能なのかは明らかになっていない。体細胞における抑制機構としては、転移因子配列のメチル化やヘテロクロマチン化などのエピジェネティックな制御を受けていることが知られている。また、small RNAによる抑制も受けていることが近年明らかになってきている<ref><pubmed> 19165215 </pubmed></ref>。
 転移因子の挿入は進化的に中立の変異であり、一般にその配列は進化の過程で塩基置換が蓄積し、やがて転移因子であることの検出が困難になると考えられる。しかし例外的に、その過程で転移因子由来の配列が生物の生存に有利な何らかの機能を獲得する場合が知られている(exaptationまたはco-optionとも呼ばれる)。それらの配列は進化的に保存されることが多く<ref><pubmed> 16717141 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16625209 </pubmed></ref>、特に有胎盤類では、保存領域の16%が転移因子に由来することが分かっている<ref><pubmed> 17495919 </pubmed></ref>。転移因子が獲得した機能としては、遺伝子のエキソン化や選択的スプライシングの生成といったタンパク質コード配列の改変に加え、[[エンハンサー]]やインシュレーターなどの調節配列となることが知られている。特に哺乳類の脳において複数のレトロポゾンがエンハンサー機能を有することが報告されており、哺乳類の脳の形成に関与したexaptationの好例として知られている<ref><pubmed> 18334644 </pubmed></ref>。
 転移因子の挿入は進化的に中立の変異であり、一般にその配列は進化の過程で塩基置換が蓄積し、やがて転移因子であることの検出が困難になると考えられる。しかし例外的に、その過程で転移因子由来の配列が生物の生存に有利な何らかの機能を獲得する場合が知られている(exaptationまたはco-optionとも呼ばれる)。それらの配列は進化的に保存されることが多く<ref><pubmed> 16717141 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16625209 </pubmed></ref>、特に有胎盤類では、保存領域の16%が転移因子に由来することが分かっている<ref><pubmed> 17495919 </pubmed></ref>。転移因子が獲得した機能としては、遺伝子のエキソン化や選択的スプライシングの生成といったタンパク質コード配列の改変に加え、[[エンハンサー]]やインシュレーターなどの調節配列となることが知られている。特に哺乳類の脳において複数のレトロポゾンがエンハンサー機能を有することが報告されており、哺乳類の脳の形成に関与したexaptationの好例として知られている<ref><pubmed> 18334644 </pubmed></ref>。