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 転移因子は上述のように有害な影響を及ぼす可能性があることから、一般の細胞内では転移が抑制されていることが多い。例外として、[[wikipedia:ja:生殖細胞|生殖細胞]]および[[脳神経細胞]]では転移が観察されており、特にニューロンの[[wikipedia:ja:モザイク|モザイク]]性を生み出している可能性が指摘されている<ref><pubmed> 15959507 </pubmed></ref>。しかしなぜこれらの細胞内のみで転移可能なのかは明らかになっていない。[[wikipedia:ja:体細胞|体細胞]]における抑制機構としては、転移因子配列の[[メチル化]]や[[wikipedia:ja:ヘテロクロマチン化|ヘテロクロマチン化]]などの[[エピジェネティック]]な制御を受けていることが知られている。また、[[wikipedia:small RNA|small RNA]]による抑制も受けていることが近年明らかになってきている<ref><pubmed> 19165215 </pubmed></ref>。
 転移因子は上述のように有害な影響を及ぼす可能性があることから、一般の細胞内では転移が抑制されていることが多い。例外として、[[wikipedia:ja:生殖細胞|生殖細胞]]および[[脳神経細胞]]では転移が観察されており、特にニューロンの[[wikipedia:ja:モザイク|モザイク]]性を生み出している可能性が指摘されている<ref><pubmed> 15959507 </pubmed></ref>。しかしなぜこれらの細胞内のみで転移可能なのかは明らかになっていない。[[wikipedia:ja:体細胞|体細胞]]における抑制機構としては、転移因子配列の[[メチル化]]や[[wikipedia:ja:ヘテロクロマチン化|ヘテロクロマチン化]]などの[[エピジェネティック]]な制御を受けていることが知られている。また、[[wikipedia:small RNA|small RNA]]による抑制も受けていることが近年明らかになってきている<ref><pubmed> 19165215 </pubmed></ref>。


 転移因子の挿入は進化的に中立の変異であり、一般にその配列は進化の過程で塩基置換が蓄積し、やがて転移因子であることの検出が困難になると考えられる。しかし例外的に、その過程で転移因子由来の配列が生物の生存に有利な何らかの機能を獲得する場合が知られている(exaptationまたはco-optionとも呼ばれる)。それらの配列は進化的に保存されることが多く<ref><pubmed> 16717141 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16625209 </pubmed></ref>、特に[[wikipedia:ja:有胎盤類|有胎盤類]]では、保存領域の16%が転移因子に由来することが分かっている<ref><pubmed> 17495919 </pubmed></ref>。転移因子が獲得した機能としては、遺伝子の[[wikipedia:ja:エキソン|エキソン]]化や[[wikipedia:ja:選択的スプライシング|選択的スプライシング]]の生成といったタンパク質[[wikipedia:ja:コード|コード]]配列の改変に加え、[[wikipedia:ja:エンハンサー|エンハンサー]]や[[wikipedia:ja:インシュレーター|インシュレーター]]などの調節配列となることが知られている。特に哺乳類の[[脳]]において複数のレトロポゾンがエンハンサー機能を有することが報告されており、哺乳類の脳の形成に関与したexaptationの好例として知られている<ref><pubmed> 18334644 </pubmed></ref>。
 転移因子の挿入は進化的に中立の変異であり、一般にその配列は進化の過程で塩基置換が蓄積し、やがて転移因子であることの検出が困難になると考えられる。しかし例外的に、その過程で転移因子由来の配列が生物の生存に有利な何らかの機能を獲得する場合が知られている(exaptationまたはco-optionとも呼ばれる)。それらの配列は進化的に保存されることが多く<ref><pubmed> 16717141 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16625209 </pubmed></ref>、特に[[wikipedia:ja:有胎盤類|有胎盤類]]では、保存領域の16%が転移因子に由来することが分かっている<ref><pubmed> 17495919 </pubmed></ref>(編集 林 コメント:この文献はmarsupialとありますので、有袋類ではないでしょうか)。転移因子が獲得した機能としては、遺伝子の[[wikipedia:ja:エキソン|エキソン]]化や[[wikipedia:ja:選択的スプライシング|選択的スプライシング]]の生成といったタンパク質[[wikipedia:ja:コード|コード]]配列の改変に加え、[[wikipedia:ja:エンハンサー|エンハンサー]]や[[wikipedia:ja:インシュレーター|インシュレーター]]などの調節配列となることが知られている。特に哺乳類の[[脳]]において複数のレトロポゾンがエンハンサー機能を有することが報告されており、哺乳類の脳の形成に関与したexaptationの好例として知られている<ref><pubmed> 18334644 </pubmed></ref>。


==生物学的利用==
==生物学的利用==