「ドリフト拡散モデル」の版間の差分

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ドリフト拡散モデルにおけるエビデンスの蓄積過程は,開始点<math>z</math>から始まり,一定のドリフト率に従ってエビデンスが蓄積される(図1)。そして,上下の境界までエビデンスが蓄積されると反応が出力される。図1の場合,上側の境界<math>a</math>に到達すると反応Aが出力され,下側の境界0に到達すると反応Bが出力される。開始点と境界(a)との距離が遠いほど,エビデンスの蓄積にかかる時間が長くなる。また,開始点から境界までの蓄積過程における速度は,ドリフト率に依存する。ドリフト率が大きいほど,境界まで到達する時間は短くなる。開始点,ドリフト率,境界,そして非決定時間がドリフト拡散モデルの振る舞いを決定する主なパラメータである。
ドリフト拡散モデルにおけるエビデンスの蓄積過程は,開始点<math>z</math>から始まり,一定のドリフト率に従ってエビデンスが蓄積される(図1)。そして,上下の境界までエビデンスが蓄積されると反応が出力される。図1の場合,上側の境界<math>a</math>に到達すると反応Aが出力され,下側の境界0に到達すると反応Bが出力される。開始点と境界(a)との距離が遠いほど,エビデンスの蓄積にかかる時間が長くなる。また,開始点から境界までの蓄積過程における速度は,ドリフト率に依存する。ドリフト率が大きいほど,境界まで到達する時間は短くなる。開始点,ドリフト率,境界,そして非決定時間がドリフト拡散モデルの振る舞いを決定する主なパラメータである。


 生体が注意深く反応するほどパラメータ<math>a</math>は大きくなり,開始点と境界の間は広がると仮定される。逆に,素早く反応することが求められる場合は<math>a</math>は小さくなると仮定される。開始点パラメータ<math>z</math>は刺激に関する事前の期待を表すと考えられる。例えば,反応Bを起こすべき刺激より反応Aを起こすべき刺激の出現がより期待される場合は,このパラメータは大きい (<math>a</math>に近い) 値をとるとされる。


==モデルの定式化==
==モデルの定式化==
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この式で<math>x</math>を更新していくことによりエビデンスの蓄積過程をシミュレートできる。図2の軌道はこの計算により得られたものである。
この式で<math>x</math>を更新していくことによりエビデンスの蓄積過程をシミュレートできる。図2の軌道はこの計算により得られたものである。
 生体が注意深く反応するほどパラメータ<math>a</math>は大きくなり,開始点と境界の間は広がると仮定される。逆に,素早く反応することが求められる場合は<math>a</math>は小さくなると仮定される。開始点パラメータ<math>z</math>は刺激に関する事前の期待を表すと考えられる。例えば,反応Bを起こすべき刺激より反応Aを起こすべき刺激の出現がより期待される場合は,このパラメータは大きい (<math>a</math>に近い) 値をとるとされる。


 標準的なドリフト拡散モデル<ref name=Ratclif1978 />。では,開始点とドリフト率,および非決定時間は,試行間で変動すると仮定される。ドリフト率の試行間変動は,刺激に対する注意の変動などに対応すると考えられ,正規分布に従って変動すると仮定される。この変動を仮定することで,正反応より誤反応の方が反応時間が長くなるということが説明可能となる。これは,ドリフト率が小さくなる試行において,誤反応が起こりやすくなり,かつ反応時間が長くなるためである。開始点の試行間変動は一様分布に従うと仮定され,ある特定の刺激がどの程度呈示されやすいかについての期待が試行間で変動することを表現する。この変動により,誤反応が起こる試行で反応時間が短くなることが説明できる。これは,開始点が誤反応側の境界に寄っているときに,反応が早くなり,かつ誤反応が起きやすいためである。
 標準的なドリフト拡散モデル<ref name=Ratclif1978 />。では,開始点とドリフト率,および非決定時間は,試行間で変動すると仮定される。ドリフト率の試行間変動は,刺激に対する注意の変動などに対応すると考えられ,正規分布に従って変動すると仮定される。この変動を仮定することで,正反応より誤反応の方が反応時間が長くなるということが説明可能となる。これは,ドリフト率が小さくなる試行において,誤反応が起こりやすくなり,かつ反応時間が長くなるためである。開始点の試行間変動は一様分布に従うと仮定され,ある特定の刺激がどの程度呈示されやすいかについての期待が試行間で変動することを表現する。この変動により,誤反応が起こる試行で反応時間が短くなることが説明できる。これは,開始点が誤反応側の境界に寄っているときに,反応が早くなり,かつ誤反応が起きやすいためである。
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