「ナノボディ」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
22行目: 22行目:


==既知ナノボディの例==
==既知ナノボディの例==
ナノボディの情報を系統的に収集してきている中国の南京にある東南大学の[http://ican.ils.seu.edu.cn iCAN (Institute Collection & Analysis of Nanobody)]には、2018年8月現在、約2400のナノボディ配列が登録されている。図2に、ナノボディの1つとして構造が解かれた リャマ由来のGFPナノボディ、図3にはそのアミノ酸配列を示した。このGFPとGFPナノボディのKd値は約1nMである<ref><pubmed>20945358</pubmed></ref>。
ナノボディの情報を系統的に収集してきている中国の南京にある東南大学の[http://ican.ils.seu.edu.cn iCAN (Institute Collection & Analysis of Nanobody)]<ref><pubmed>29041922</pubmed></ref>には、2018年8月現在、約2400のナノボディ配列が登録されている。図2に、ナノボディの1つとして構造が解かれた リャマ由来のGFPナノボディ、図3にはそのアミノ酸配列を示した。このGFPとGFPナノボディのKd値は約1nMである<ref><pubmed>20945358</pubmed></ref>。
[[ファイル:nanobody2.jpg ‎|サムネイル|300px|'''図2.リャマ由来のGFPナノボディとGFP <br>Protein Data Bank(RCSB)で3OGO<br> http://www.rcsb.org/structure/3OGO]]
[[ファイル:nanobody2.jpg ‎|サムネイル|300px|'''図2.リャマ由来のGFPナノボディとGFP <br>Protein Data Bank(RCSB)で3OGO<br> http://www.rcsb.org/structure/3OGO]]
[[ファイル:nanobody3.jpg ‎|サムネイル|750px|'''図3.リャマ由来のGFPナノボディのアミノ酸配列 <br>FR1, FR2, FR3, FR4というフレームワーク領域を挟んで超可変領域である相補性決定領域と呼ばれる3つのCDR1, CDR2, CDR3が見られる。リャマ由来のナノボディでは、普通、一本のジスルフィド結合(S-S)がある。]]
[[ファイル:nanobody3.jpg ‎|サムネイル|750px|'''図3.リャマ由来のGFPナノボディのアミノ酸配列 <br>FR1, FR2, FR3, FR4というフレームワーク領域を挟んで超可変領域である相補性決定領域と呼ばれる3つのCDR1, CDR2, CDR3が見られる。リャマ由来のナノボディでは、普通、一本のジスルフィド結合(S-S)がある。]]
45行目: 45行目:
このスクリーニングを効果的に行うための工夫が多数開発されてきている<ref><pubmed>29477934</pubmed></ref>。ファージディスプレイの担体の工夫、グラム陽性バクテリア表面へのディスプレイ、酵母細胞表面へのディスプレイ、[[mRNAディスプレイ]]、[[リボソームディスプレイ]]、細胞内での[[2ハイブリッドスクリーニング]]などが用いられてきている。
このスクリーニングを効果的に行うための工夫が多数開発されてきている<ref><pubmed>29477934</pubmed></ref>。ファージディスプレイの担体の工夫、グラム陽性バクテリア表面へのディスプレイ、酵母細胞表面へのディスプレイ、[[mRNAディスプレイ]]、[[リボソームディスプレイ]]、細胞内での[[2ハイブリッドスクリーニング]]などが用いられてきている。


特に、最近、これらの方法を組み合わせることで、効率的に行う戦略が考案されている。Fridyらは、免疫動物の結合抗体を精製しその質量スペクトルの結果とファージディスプレイのハイスループットな配列決定を組み合わせる方法で、蛍光タンパク質に結合する多数のナノボディを報告した<ref><pubmed>25362362</pubmed></ref>  。Zimmermann は、リボソームディスプレイ、ファージディスプレイ、ELISAを組み合わせることで、短期間にナノボディ配列を得る戦略を報告している<ref><pubmed>29792401</pubmed></ref>。また、McMahon らは、酵母ディスプレイを用いて、免疫動物を用いない合成ライブラリーをスクリーニングすることで親和性の高いナノボディ配列を得ることができることを示している<ref><pubmed>29434346</pubmed></ref> 。ただ、このような非免疫ライブラリーや合成ライブラリーを用いる方法については、まだ適用例が多くなく、標準的な方法とされるものが存在しないというのが実情であろう。また、ある程度の抗原親和性を示すナノボディの配列を調整することで、[[親和性の成熟]](affinity maturation)を行うこともできる<ref><pubmed>15777944</pubmed></ref> 。
特に、最近、これらの方法を組み合わせることで、効率的に行う戦略が考案されている。Fridyらは、免疫動物の結合抗体を精製しその質量スペクトルの結果とファージディスプレイのハイスループットな配列決定を組み合わせる方法で、蛍光タンパク質に結合する多数のナノボディを報告した<ref><pubmed>25362362</pubmed></ref>  。Zimmermann は、リボソームディスプレイ、ファージディスプレイ、ELISAを組み合わせることで、短期間にナノボディ配列を得る戦略を報告している<ref><pubmed>29792401</pubmed></ref>。また、McMahon らは、酵母ディスプレイを用いて、免疫動物を用いない合成ライブラリーをスクリーニングすることで親和性の高いナノボディ配列を得ることができることを示している<ref><pubmed>29434346</pubmed></ref> 。ただ、このような非免疫ライブラリーや合成ライブラリーを用いる方法については、まだ適用例が多くなく、標準的な方法とされるものが存在しないというのが実情であろう。また、ある程度の抗原親和性を示すナノボディの配列を調整することで、[[親和性の成熟]](affinity maturation)を行うこともできる<ref><pubmed>15777944</pubmed></ref> 。将来的には人工知能などを使ったナノボディのデザインなども可能になるのかもしれない<ref><pubmed>29672675</pubmed></ref><ref><pubmed>28953867</pubmed></ref>。




84行目: 84行目:
免疫グロブリンを利用しない組み換え結合体には、このほかにも、アンキリンリピートを利用した'''DARPin'''(Designed ankyrin repeat proteins)などの方法がある<ref name=Helma2015/>。DARPinの場合、凸型で隠れた構造を認識しやすいナノボディとは対照的に認識に関わる構造が凹型になりやすい。
免疫グロブリンを利用しない組み換え結合体には、このほかにも、アンキリンリピートを利用した'''DARPin'''(Designed ankyrin repeat proteins)などの方法がある<ref name=Helma2015/>。DARPinの場合、凸型で隠れた構造を認識しやすいナノボディとは対照的に認識に関わる構造が凹型になりやすい。


==抗体利用の再現性==
==抗体利用研究の再現性==
近年、生命科学系の研究では、論文発表された実験結果の一部が容易に再現できないとされる問題がしばしば指摘されている。抗体の利用は、この再現性問題の重要な要因の1つであるとされる<ref><pubmed>25993940</pubmed></ref><ref><pubmed>12949777</pubmed></ref><ref><pubmed>29688318</pubmed></ref>。例えば、ウサギなどからのポリクローン抗体は、多数の異なる抗体分子を含んだポリクローン抗体という性格上、免疫した動物などバッチごとの差が大きい。また、[[wj:モノクローン抗体]]は、ハイブリドーマ細胞を増殖させることで、永遠に同じものを得ることができるはずであるが、市販抗体は予期せず販売中止になったり、ハイブリドーマ細胞は極低温で凍結維持しなくてはならず、災害や個々の研究者の都合により失われてしまうこともある。ナノボディは、アミノ酸配列で定義されるので質は同じであり、DNAという形で安価で長期保存が可能である。またDNAが失われても、登録されたアミノ酸配列から容易に再生できるので、抗体の利用周辺の再現性問題の解決法として注目されている。
近年、生命科学系の研究では、論文発表された実験結果の一部が容易に再現できないとされる問題がしばしば指摘されている。抗体の利用は、この再現性問題の重要な要因の1つであるとされる<ref><pubmed>25993940</pubmed></ref><ref><pubmed>12949777</pubmed></ref><ref><pubmed>29688318</pubmed></ref>。例えば、ウサギなどからのポリクローン抗体は、多数の異なる抗体分子を含んだポリクローン抗体という性格上、免疫した動物などバッチごとの差が大きい。また、[[wj:モノクローン抗体]]は、ハイブリドーマ細胞を増殖させることで、永遠に同じものを得ることができるはずであるが、市販抗体は予期せず販売中止になったり、ハイブリドーマ細胞は極低温で凍結維持しなくてはならず、災害や個々の研究者の都合により失われてしまうこともある。ナノボディは、アミノ酸配列レベルで定義されるので質は同じであり、DNAという形で安価で長期保存が可能である。またDNAが失われても、登録されたアミノ酸配列から容易に再生できるので、抗体の利用研究の再現性問題の解決法として注目されている。


==ナノボディの応用==
==ナノボディの応用==
通常の抗体同様に診断への利用とともに、[[抗体医薬]]として、感染症、がん、神経系疾患の治療薬などへの利用が期待されている<ref><pubmed>29209322</pubmed></ref> 。 特に、Ablynx社が開発した 後天性血栓性血小板減少性紫斑病を対象とした抗VonWillebrand因子ナノボディであるcaplacizumabは、既に III相試験で良好な結果が得られており、まもなく発売予定であるとみられる<ref>http://www.ablynx.com/rd-portfolio/overview/</ref>。  
通常の抗体同様に、診断への利用とともに、[[抗体医薬]]として、感染症、がん、神経系疾患、再生医療などへの利用が期待される<ref><pubmed>29209322</pubmed></ref><ref><pubmed>27499623</pubmed></ref><ref><pubmed>29163515</pubmed></ref>。 特に、Ablynx社が開発した 後天性血栓性血小板減少性紫斑病を対象とした抗VonWillebrand因子ナノボディであるcaplacizumabは、既に第III相試験で良好な結果が得られている<ref>http://www.ablynx.com/rd-portfolio/overview/</ref>。  




==参考文献==
==参考文献==
<references/>
<references/>