「ニューロブラスト」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/kosodo 小曽戸 陽一]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/kosodo 小曽戸 陽一]</font><br>
''Korea Brain Research Institute(韓国)Mechanoneuroscience Lab''<br>
''Korea Brain Research Institute(韓国)Mechanoneuroscience Lab''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月21日 原稿完成日:2016年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月21日 原稿完成日:2016年6月12日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
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===胎生期===
===胎生期===
 上記で述べたとおり、ショウジョウバエの場合においてニューロブラストは自己複製的分裂能があり、非対称細胞分裂を起こすことで再びニューロブラストおよび分化した娘細胞を生み出すことができる。これに対し、哺乳類におけるニューロブラストは全く状況が異なり、[[ニューロブラスト#教科書的理解|教科書的理解]]に挙げたとおり、生まれたばかりの幼若なニューロン(young neuron)のことを神経芽細胞(ニューロブラスト) neuroblastと呼ぶ慣習があった。
 上記で述べたとおり、ショウジョウバエの場合においてニューロブラストは自己複製的分裂能があり、非対称細胞分裂を起こすことで再びニューロブラストおよび分化した娘細胞を生み出すことができる。哺乳類の神経発生の研究が進むにつれ、自己複製能を持ち更に分化細胞を産生できる能力を持つ「ショウジョウバエにおけるニューロブラスト」にあたる細胞は脳室(アピカル)側に存在する[[神経上皮細胞]]もしくは[[放射状グリア細胞]]、および基底膜側に存在する[[OSVZ(Outer SubVentricularZone)前駆細胞]]といった「[[神経前駆細胞]](neural progenitor cells)」であることが明らかになってきている。近年の用例では、古くからの呼称であるニューロブラストは既に分裂能を喪失している(post-mitotic)細胞を指しており、これらはむしろnew-born neuronという呼称が適切と考えられる。例として、"asymmetric divisions generate one new RG (=Radial Glia) and either a postmitotic neuroblast, or a basal progenitor." 「非対称分裂により、一つのラジアルグリア細胞と、一つの増殖停止したニューロブラストもしくはbasal progenitor(=中間前駆細胞)が生み出される」<ref><pubmed>16908105</pubmed></ref>等が挙げられる。解釈の相違を避けるため、著者自身により論文中でその定義を記載している場合もある。例; "Here we define neuroblasts as migratory immature neuronal descendants of progenitor cells that express basic helix-loop-helix (bHLH) proteins such as Neurod1"「ここで我々(=著者)は、Neurod1などのbasic helix-loop-helixタンパク質を発現している未成熟な神経細胞(前駆細胞を由来とする)をニューロブラストと定義する」<ref><pubmed>18223201</pubmed></ref>。


 しかしながら、哺乳類の神経発生の研究が進むにつれ、自己複製能を持ち更に分化細胞を産生できる能力を持つ「ショウジョウバエにおけるニューロブラスト」にあたる細胞は脳室(アピカル)側に存在する[[神経上皮細胞]]もしくは[[放射状グリア細胞]]、および基底膜側に存在する[[OSVZ前駆細胞]](<u>編集部コメント:何の略でしょうか?</u>)といった「[[神経前駆細胞]](neural progenitor cells)」であることが明らかになってきている。古くからの呼称であるニューロブラストは既に分裂能を喪失している(post-mitotic)細胞を指しており、これらはむしろnew-born neuronという呼称が適切と考えられる'''(日本語では「新生ニューロン」?)'''。
 発生期大脳皮質においては、new-born neuronは上記に挙げた自己複製能を持ち非対称細胞分裂を行う神経前駆細胞(代表的マーカー分子として[[Pax6]]を発現<ref name=ref8><pubmed>9856459</pubmed></ref> <ref name=ref22><pubmed>18467663</pubmed></ref>、また自己複製能は持たないが対称的分裂によりニューロンを産生する[[intermediate progenitor]](もしくは[[basal progenitor]])<ref name=ref9><pubmed>14963232</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>15175243</pubmed></ref> <ref name=ref21><pubmed>14703572</pubmed></ref>(代表的マーカー分子として[[Tbr2]]を発現<ref name=ref6><pubmed>15634788</pubmed></ref>)からの細胞分裂直後に生じた細胞のことを指すと言える。
 
 発生期大脳皮質において、これらnew-born neuronは上記に挙げた自己複製能を持ち非対称細胞分裂を行う神経前駆細胞(代表的マーカー分子として[[Pax6]]を発現<ref name=ref8><pubmed>9856459</pubmed></ref> <ref name=ref22><pubmed>18467663</pubmed></ref>、また自己複製能は持たないが対称的分裂によりニューロンを産生する[[intermediate progenitor]](もしくは[[basal progenitor]])<ref name=ref9><pubmed>14963232</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>15175243</pubmed></ref> <ref name=ref21><pubmed>14703572</pubmed></ref>(代表的マーカー分子として[[Tbr2]]を発現<ref name=ref6><pubmed>15634788</pubmed></ref>)からの細胞分裂直後に生じた細胞のことを指すと言える。


 ただし、神経前駆細胞およびintermediate progenitorについては、タイムラプス研究を通じた新規的分裂パターンの発見、また動物種による差違もあり、哺乳類[[大脳皮質]]の範疇内においても各細胞種の体系的な呼称については未だ確定していないといえる<ref name=ref7><pubmed>24866113</pubmed></ref>。
 ただし、神経前駆細胞およびintermediate progenitorについては、タイムラプス研究を通じた新規的分裂パターンの発見、また動物種による差違もあり、哺乳類[[大脳皮質]]の範疇内においても各細胞種の体系的な呼称については未だ確定していないといえる<ref name=ref7><pubmed>24866113</pubmed></ref>。
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 ニューロブラストは顆粒細胞下帯に沿って[[wikipedia:ja:接線|接線]]方向に移動した後に未熟なニューロンとなり、その後顆粒細胞層を放線方向に移動、歯状回ニューロンへと分化するとされるが、他の神経細胞種に分化する能力を有する可能性も報告されている<ref name=ref23><pubmed>10906710</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>12574400</pubmed></ref>。
 ニューロブラストは顆粒細胞下帯に沿って[[wikipedia:ja:接線|接線]]方向に移動した後に未熟なニューロンとなり、その後顆粒細胞層を放線方向に移動、歯状回ニューロンへと分化するとされるが、他の神経細胞種に分化する能力を有する可能性も報告されている<ref name=ref23><pubmed>10906710</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>12574400</pubmed></ref>。


 Type3細胞はマーカーとしてDCX、[[PSA-NCAM]]、[[NeuroD]]、[[Prox1]]を発現しており、Type2細胞で見られるネスチの発現は押さえられている<ref name=ref11 />。DCXの発現はPSA-NCAMとほぼ重なっている。通常条件下で、Type 3細胞の増殖は限られているが、[[カイニン酸]]により実験的に脳に障害を与えた場合、[[ネスチン]]陽性のType1およびType2細胞の増殖能は変わらないものの、Type3細胞の増殖が増加することが示されている<ref name=ref10><pubmed>16168988</pubmed></ref>。
 Type3細胞はマーカーとしてDCX、[[PSA-NCAM]]、[[NeuroD]]、[[Prox1]]を発現しており、Type2細胞で見られるネスチンの発現は押さえられている<ref name=ref11 />。DCXの発現はPSA-NCAMとほぼ重なっている。通常条件下で、Type 3細胞の増殖は限られているが、[[カイニン酸]]により実験的に脳に障害を与えた場合、[[ネスチン]]陽性のType1およびType2細胞の増殖能は変わらないものの、Type3細胞の増殖が増加することが示されている<ref name=ref10><pubmed>16168988</pubmed></ref>。


==哺乳類以外の脊椎動物種のニューロブラスト==
==哺乳類以外の脊椎動物種のニューロブラスト==