「ネプリライシン」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0080377 岩田 修永]、[http://researchmap.jp/read0018784 染矢 俊幸]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0080377 岩田 修永]</font><br>
''長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科''<br>
''長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科''<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0153860 城谷 圭朗]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0153860 城谷 圭朗]</font><br>
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0137703 浅井 将]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0137703 浅井 将]</font><br>
''長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科''<br>
''長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年3月27日 原稿完成日:2013年8月12日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月27日 原稿完成日:2013年8月12日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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 [[遺伝子欠損マウス]]は生存可能で、繁殖能力も見掛け上正常であるが、末梢組織では幾つかの表現型を呈する。
 [[遺伝子欠損マウス]]は生存可能で、繁殖能力も見掛け上正常であるが、末梢組織では幾つかの表現型を呈する。


 たとえば、[[wikipedia:ja:エンドトキシン|エンドトキシン]](脚注1)ショックによる感受性<ref name="ref16"><pubmed> 7760013 </pubmed></ref>や[[wikipedia:ja:低酸素|低酸素]]負荷による換気応答<ref name="ref17"><pubmed> 10517751 </pubmed></ref>が著しく増大している。[[wikipedia:ja:消化管|消化管]]では血管透過性が2〜3倍亢進しているが、これはリコンビナントのネプリライシンやブラジキニンまたはサブスタンスPの[[wikipedia:ja:受容体|受容体]][[wikipedia:ja:アンタゴニスト|アンタゴニスト]]の投与によって回避される<ref name="ref18"><pubmed> 9256283 </pubmed></ref>。
 たとえば、[[wikipedia:ja:エンドトキシン|エンドトキシン]]<ref group="注">エンドトキシ(内毒素):[[wikipedia:ja:グラム陰性菌|グラム陰性菌]]の外膜に存在する耐熱性の毒素。糖脂質と糖鎖からなるリポ多糖で、免疫系などに作用して[[wikipedia:ja:マクロファージ|マクロファージ]]や[[wikipedia:ja:好中球|好中球]]を活性化してサイトカインなどの炎症性因子の放出を促す。</ref>)ショックによる感受性<ref name="ref16"><pubmed> 7760013 </pubmed></ref>や[[wikipedia:ja:低酸素|低酸素]]負荷による換気応答<ref name="ref17"><pubmed> 10517751 </pubmed></ref>が著しく増大している。[[wikipedia:ja:消化管|消化管]]では血管透過性が2〜3倍亢進しているが、これはリコンビナントのネプリライシンやブラジキニンまたはサブスタンスPの[[wikipedia:ja:受容体|受容体]][[wikipedia:ja:アンタゴニスト|アンタゴニスト]]の投与によって回避される<ref name="ref18"><pubmed> 9256283 </pubmed></ref>。


 また、遺伝子欠損マウスでは心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の分解が抑制されるため、血圧が20%程度低下している<ref name="ref18" />。しかし、慢性的低酸素負荷を与えると、野生型マウスに比較して、肺動脈の血管平滑筋細胞が異常増殖するため、肺組織内は[[wikipedia:ja:高血圧|高血圧]]状態になることが示されている<ref name="ref19"><pubmed> 19234135 </pubmed></ref>。サブスタンスP誘発[[wikipedia:ja:アレルギー性接触皮膚炎|アレルギー性接触皮膚炎]]<ref name="ref20"><pubmed> 11145711 </pubmed></ref>やブラジキニン誘発[[痛覚]]過敏<ref name="ref21"><pubmed> 11931342 </pubmed></ref>に対する感受性の亢進も観察されることから、ネプリライシンは末梢組織でブラジキニン、サブスタンスPやANPに作用して炎症反応や血圧の調節に携わると考えられている。
 また、遺伝子欠損マウスでは心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の分解が抑制されるため、血圧が20%程度低下している<ref name="ref18" />。しかし、慢性的低酸素負荷を与えると、野生型マウスに比較して、肺動脈の血管平滑筋細胞が異常増殖するため、肺組織内は[[wikipedia:ja:高血圧|高血圧]]状態になることが示されている<ref name="ref19"><pubmed> 19234135 </pubmed></ref>。サブスタンスP誘発[[wikipedia:ja:アレルギー性接触皮膚炎|アレルギー性接触皮膚炎]]<ref name="ref20"><pubmed> 11145711 </pubmed></ref>やブラジキニン誘発[[痛覚]]過敏<ref name="ref21"><pubmed> 11931342 </pubmed></ref>に対する感受性の亢進も観察されることから、ネプリライシンは末梢組織でブラジキニン、サブスタンスPやANPに作用して炎症反応や血圧の調節に携わると考えられている。
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 しかし、Aβの分解に関しては補償的分解経路が十分でないために、ネプリライシン活性が低下しただけで脳内Aβ濃度が上昇する。前脳特異的に発現するように遺伝子操作したネプリライシン[[トランスジェニックマウス]]では脳内のニューロペプチドYレベルが顕著に低下することが明らかにされている<ref name="ref23"><pubmed> 19176820 </pubmed></ref>。この研究では、ネプリライシンによって限定分解を受けたニューロペプチドYのカルボキシル末端フラグメント(NPY-CTF: NPY21-36またはNPY 31-36)が神経保護作用をもつことが示されている。しかし、ネプリライシン欠損マウス脳ではNPY-CTF 量は減少しているがNPY量はほとんど変化していないので、ニューロペプチドYの場合にも脳内で分解を補償する系が十分に機能していると考えられる。  
 しかし、Aβの分解に関しては補償的分解経路が十分でないために、ネプリライシン活性が低下しただけで脳内Aβ濃度が上昇する。前脳特異的に発現するように遺伝子操作したネプリライシン[[トランスジェニックマウス]]では脳内のニューロペプチドYレベルが顕著に低下することが明らかにされている<ref name="ref23"><pubmed> 19176820 </pubmed></ref>。この研究では、ネプリライシンによって限定分解を受けたニューロペプチドYのカルボキシル末端フラグメント(NPY-CTF: NPY21-36またはNPY 31-36)が神経保護作用をもつことが示されている。しかし、ネプリライシン欠損マウス脳ではNPY-CTF 量は減少しているがNPY量はほとんど変化していないので、ニューロペプチドYの場合にも脳内で分解を補償する系が十分に機能していると考えられる。  
 
 
脚注1: エンドトキシ(内毒素):[[wikipedia:ja:グラム陰性菌|グラム陰性菌]]の外膜に存在する耐熱性の毒素。糖脂質と糖鎖からなるリポ多糖で、免疫系などに作用して[[wikipedia:ja:マクロファージ|マクロファージ]]や[[wikipedia:ja:好中球|好中球]]を活性化してサイトカインなどの炎症性因子の放出を促す。


== アルツハイマー病との関係 ==
== アルツハイマー病との関係 ==
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== がんとの関連 ==
== がんとの関連 ==
 別名、急性リンパ性白血病共通抗原(CALLA)としても知られているように、[[wikipedia:ja:白血病|白血病]]小児の特定の[[wikipedia:ja:リンパ球|リンパ球]]の細胞表面に一過性に過剰発現するため、診断マーカーとしても用いられている<ref name="ref1" /><ref name="ref2" />(編集コメント:参考文献は本文に移しました。これでよいかご確認ください。)。また、血液系以外にも、前立腺、[[wikipedia:ja:子宮内膜|子宮内膜]]、[[wikipedia:ja:腎臓|腎臓]]および[[wikipedia:ja:肺|肺]]などの[[wikipedia:ja:がん|がん]]の進行にも関与している。特に注目されているのは[[wikipedia:ja:前立腺がん|前立腺がん]]で、ネプリライシンの発現レベルの低下により、[[ボンベシン]]などの細胞増殖作用を持つペプチドの分解低下を通して[[アンドロゲン]]非依存的にがんの進行に関わるとされている。実際、''in vitro''で前立腺がん細胞にネプリライシン遺伝子を過剰発現させると腫瘍の増殖が抑制されることが示されている。
 別名、急性リンパ性白血病共通抗原(CALLA)としても知られているように、[[wikipedia:ja:白血病|白血病]]小児の特定の[[wikipedia:ja:リンパ球|リンパ球]]の細胞表面に一過性に過剰発現するため、診断マーカーとしても用いられている<ref name="ref1" /><ref name="ref2" />。また、血液系以外にも、前立腺、[[wikipedia:ja:子宮内膜|子宮内膜]]、[[wikipedia:ja:腎臓|腎臓]]および[[wikipedia:ja:肺|肺]]などの[[wikipedia:ja:がん|がん]]の進行にも関与している。特に注目されているのは[[wikipedia:ja:前立腺がん|前立腺がん]]で、ネプリライシンの発現レベルの低下により、[[ボンベシン]]などの細胞増殖作用を持つペプチドの分解低下を通して[[アンドロゲン]]非依存的にがんの進行に関わるとされている。実際、''in vitro''で前立腺がん細胞にネプリライシン遺伝子を過剰発現させると腫瘍の増殖が抑制されることが示されている。


==脚注==
<references group="注" />
== 関連項目 ==
== 関連項目 ==


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