「ノイズ解析」の版間の差分

編集の要約なし
(ページの作成:「<div align="right"> <font size="+1">[http://researchmap.jp/harunoriomori 大森 治紀]</font><br> ''京都大学''<br> DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年8...」)
 
編集の要約なし
14行目: 14行目:
 単位電流iを流すN個のチャネルが開状態と閉状態をそれぞれ確率pおよび1−pで取る2項分布を想定した時、分散はσ2=i2Np(1−p)であり、平均値はμ=Npiとなる。従って σ2/μ=i(1-p)となる。pが推定できるとき、あるいはpが1に比べて充分小さい事が予想される時 電流の分散値と平均値の比から単位電流iが求まる。
 単位電流iを流すN個のチャネルが開状態と閉状態をそれぞれ確率pおよび1−pで取る2項分布を想定した時、分散はσ2=i2Np(1−p)であり、平均値はμ=Npiとなる。従って σ2/μ=i(1-p)となる。pが推定できるとき、あるいはpが1に比べて充分小さい事が予想される時 電流の分散値と平均値の比から単位電流iが求まる。


 イオン電流が定常的に流れる場合は、より精密には電流雑音スペクトル解析をすることで、速度常数を含むより精密なチャネル開閉の情報をうることが出来る。この詳細は幾つかの原著あるいは解説書に記載されている(Stevens, 1973; Anderson & Stevens, 1973; 大森,2011)。
 イオン電流が定常的に流れる場合は、より精密には電流雑音スペクトル解析をすることで、速度常数を含むより精密なチャネル開閉の情報をうることが出来る。この詳細は幾つかの原著あるいは解説書に記載されている<ref name=ref5><pubmed>5044577</pubmed></ref> <ref name=ref1><pubmed>4543940</pubmed></ref> <ref name=ref6>'''大森治紀'''<br>チャネルノイズ解析法 最新パッチクランプ実験技術法<br>第6章74-85ページ岡田泰伸編<br>吉岡書店 2011</ref>。


 さらに、膜電位固定下にパルス電圧に対応して流れるイオン電流は、開確率pが経時的に変化する。一定のパルス電圧を繰り返し与えた場合に、繰り返して一定の時間経過でpは変化し、対応したイオン電流が流れる。この様な状況ではイオン電流の流れは非定常的であるが、繰り返しの中では統計的に安定している。つまり、Nあるいはiは一定であり、pが時間の関数として毎回同一の軌跡をたどって変化する。従って、電流の軌跡の1刻1刻で分散値と平均値を評価することが出来る。こうした評価によっても単位チャネル電流iおよびチャネル数Nを推定できる(Sigworth, 1977, 1980; Ohmori, 1981; Robinson, Sahara & Kawai, 1991; 大森,2011)。σ2=i2Np(1−p)であり、μ=Npiであることからσ2=μ(i-μ/N)。このことから、電流の分散を電流値に対してプロットすると上に凸の2次曲線となり、μ=0に外挿するスロープから単位チャネル電流iが推定できる。より直接的にはσ2/μ=i-μ/Nの関係から、μに対してσ2/μをプロットする事で、y[[切片]]がi、スロープが1/Nを与える。
 さらに、膜電位固定下にパルス電圧に対応して流れるイオン電流は、開確率pが経時的に変化する。一定のパルス電圧を繰り返し与えた場合に、繰り返して一定の時間経過でpは変化し、対応したイオン電流が流れる。この様な状況ではイオン電流の流れは非定常的であるが、繰り返しの中では統計的に安定している。つまり、Nあるいはiは一定であり、pが時間の関数として毎回同一の軌跡をたどって変化する。従って、電流の軌跡の1刻1刻で分散値と平均値を評価することが出来る。こうした評価によっても単位チャネル電流iおよびチャネル数Nを推定できる<ref name=ref3><pubmed>593345</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>6259340</pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>1706951</pubmed></ref> <ref name=ref6 />。σ2=i2Np(1−p)であり、μ=Npiであることからσ2=μ(i-μ/N)。このことから、電流の分散を電流値に対してプロットすると上に凸の2次曲線となり、μ=0に外挿するスロープから単位チャネル電流iが推定できる。より直接的にはσ2/μ=i-μ/Nの関係から、μに対してσ2/μをプロットする事で、y[[切片]]がi、スロープが1/Nを与える。


 しかし、電流の揺らぎにはチャネルの開閉成分以外に様々な要因があり、それらの揺らぎ成分は電流ノイズに混在する。例えば、細胞膜自体の抵抗成分から発生する熱雑音、イオンが膜を横切ることに対応するshotノイズあるいは1/fノイズなどである。Shotノイズは相当に高い周波数帯域の現象であり、速くともmsecオーダーのチャネル開閉ノイズには影響しない。1/fノイズは周波数帯も重なり時に深刻な背景雑音源となる。基本的にノイズ解析のためには低域通過フィルターを用いることによって、不必要に高い周波数成分は除去する。電流のサンプル周波数との関係でナイキスト周波数が(fnyquist = 1/(2h); hはサンプル時間間隔)定義できるが、少なくともナイキスト周波数以上の高周波数成分は除去する。さらに対象となるイオン電流の開閉の時定数から予測される特徴周波数(f=1/(2τ); τ は対象とするイオンチャネル[[ゲート]]の時定数)より高い周波数成分はナイキスト周波数より低くとも低域通過型フィルターを用いて除去することなど、極力高いS/N比で電流記録を行う必用がある。特に、定常状態で記録する場合一定の実験状況を比較的長いデータサンプル時間の間維持する必用がある。また、非定常状態のイオン電流の場合は繰り返し電流を発生させる間に平均電流値が変化することがしばしば生ずる。対象とするイオン電流の波形の変化などから一連の電流が果たして同一の統計的性質を維持し続けているかは常に注意すべきである。
 しかし、電流の揺らぎにはチャネルの開閉成分以外に様々な要因があり、それらの揺らぎ成分は電流ノイズに混在する。例えば、細胞膜自体の抵抗成分から発生する熱雑音、イオンが膜を横切ることに対応するshotノイズあるいは1/fノイズなどである。Shotノイズは相当に高い周波数帯域の現象であり、速くともmsecオーダーのチャネル開閉ノイズには影響しない。1/fノイズは周波数帯も重なり時に深刻な背景雑音源となる。基本的にノイズ解析のためには低域通過フィルターを用いることによって、不必要に高い周波数成分は除去する。電流のサンプル周波数との関係でナイキスト周波数が(fnyquist = 1/(2h); hはサンプル時間間隔)定義できるが、少なくともナイキスト周波数以上の高周波数成分は除去する。さらに対象となるイオン電流の開閉の時定数から予測される特徴周波数(f=1/(2τ); τ は対象とするイオンチャネル[[ゲート]]の時定数)より高い周波数成分はナイキスト周波数より低くとも低域通過型フィルターを用いて除去することなど、極力高いS/N比で電流記録を行う必用がある。特に、定常状態で記録する場合一定の実験状況を比較的長いデータサンプル時間の間維持する必用がある。また、非定常状態のイオン電流の場合は繰り返し電流を発生させる間に平均電流値が変化することがしばしば生ずる。対象とするイオン電流の波形の変化などから一連の電流が果たして同一の統計的性質を維持し続けているかは常に注意すべきである。