「ノルアドレナリン」の版間の差分

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 脳においてノルアドレナリンの多くは、MAO、[[アルデヒド還元酵素]]、およびCOMTにより[[wikipedia:3-Methoxy-4-hydroxyphenylglycol|3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール]] (3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol, MHPG)へ代謝され、さらに[[wikipedia:Vanillylmandelic acid|3-メトキシ-4-ヒドロキシマンデル酸]] (3-methoxy-4-hydroxymandelic acid) (または[[wikipedia:Vanillylmandelic acid|バニリルマンデル酸]] (vanillylmandelic acid, VMA)となって尿中に排出される<ref name="ref15">'''D E Golan, A H Tashjian Jr, E J Armstrong, A W Armstrong'''<br> Principles of Pharmacology, Second Edition<br>''Wolters Kluwer Health (Philadelphia)'':2002</ref>。MHPGの硫酸化物も尿中に排出される<ref name="ref15" />。  
 脳においてノルアドレナリンの多くは、MAO、[[アルデヒド還元酵素]]、およびCOMTにより[[wikipedia:3-Methoxy-4-hydroxyphenylglycol|3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール]] (3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol, MHPG)へ代謝され、さらに[[wikipedia:Vanillylmandelic acid|3-メトキシ-4-ヒドロキシマンデル酸]] (3-methoxy-4-hydroxymandelic acid) (または[[wikipedia:Vanillylmandelic acid|バニリルマンデル酸]] (vanillylmandelic acid, VMA)となって尿中に排出される<ref name="ref15">'''D E Golan, A H Tashjian Jr, E J Armstrong, A W Armstrong'''<br> Principles of Pharmacology, Second Edition<br>''Wolters Kluwer Health (Philadelphia)'':2002</ref>。MHPGの硫酸化物も尿中に排出される<ref name="ref15" />。  


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== 受容体  ==
 
 ノルアドレナリンはアドレナリンと共にアドレナリン受容体(adrenergic receptorまたはadrenoceptor)に結合し活性化する。αおよびβのサブファミリーからなる(表)。より細かくは、α<sub>1A</sub>-α<sub>1D</sub>、α<sub>2A</sub>-α<sub>2C</sub>、β<sub>1</sub>-β<sub>3</sub>、から構成されている。いずれも三量体[[Gタンパク質共役型受容体]]である。α<sub>1</sub>はG<sub>q</sub>、α<sub>2</sub>はG<sub>i</sub>、β<sub>1</sub>-β<sub>3</sub>はG<sub>s</sub>と共役し、、異なるシグナル伝達を行う。Gqはphospho-lipase Cを活性化し、 inositol 1,4,5-trisphosphate (IP3) の産生からIP3受容体を介して細胞内Ca<sup>2+</sup>の上昇を引き起こす。またdiacylglicerol (DAG) の産生を介してProtein kinase Cの活性化を引き起こす。G<sub>i</sub>、G<sub>s</sub>はそれぞれadenylate cyclaseを阻害、または活性化し、cAMPの産生の増減、そしてPKA活性の増減を引き起こす。
 
 中枢神経系において、ノルアドレナリンは主にα<sub>1</sub>、α<sub>2</sub>、そしてβ<sub>1</sub>受容体を介して作用する。。海馬神経細胞において、β1受容体の活性化はCa2+依存性K+チャンネルを阻害し、afterhyperpolarizationを減少させ、結果的にシナプス入力依存的な発火を亢進させる(PMID: 2873241, 6300681)。この作用はcAMPを介している(PMID: 8274274)。さらに、β受容体は海馬におけるシナプス長期増強(LTP)をポジティブに調節する(PMID: 6311345, 20043991)。そのメカニズムとして、樹上突起状のA型K+チャンネルの不活性化によるbackpropagationの促進が考えられている(PMID: 9914302, 12077183)。また、SK型K+チャンネルの活性化やグルタミン酸受容体のリン酸化の可能性も指摘されている(PMID: 20043991)。前頭前野では、α1、α2、そしてβ1受容体が異なる働きを示すことが示唆されている(PMID: 17303246)。<br>
 


== 受容体  ==


 ノルアドレナリンはアドレナリンと共にアドレナリン受容体(adrenergic receptorまたはadrenoceptor)に結合し活性化する。αおよびβのサブファミリーからなる(表)。より細かくは、α<sub>1A</sub>-α<sub>1D</sub>、α<sub>2A</sub>-α<sub>2C</sub>、β<sub>1</sub>-β<sub>3</sub>、から構成されている。いずれも三量体[[Gタンパク質共役型受容体]]である。α<sub>1</sub>はG<sub>q</sub>、α<sub>2</sub>はG<sub>i</sub>、β<sub>1</sub>-β<sub>3</sub>はG<sub>s</sub>と共役している。
 末梢神経系において、ノルアドレナリンはα<sub>1</sub>およびβ<sub>1</sub>アドレナリン受容体のアゴニストとして作用する。(アドレナリンは、低濃度ではβ<sub>1</sub>およびβ<sub>2</sub>アドレナリン受容体に作用し、高濃度ではα<sub>1</sub>を介した作用が主となる。)


 中枢神経系において、ノルアドレナリンは主にα<sub>1</sub>、α<sub>2</sub>、そしてβ<sub>1</sub>受容体を介して作用し、それぞれに異なる影響を与える。さらにノルアドレナリンの働きは、標的細胞における他の入力にも依存するので、複雑である。
 心筋において、β1受容体はGsを介してadenylate cyclaseの活性化、cAMPの産生、PKAの活性化が引き起こす。さらに、cyclic nucleotideがhyperpolarization-activated cyclic nucleotide gated (HCN) channelに直接結合し、チャンネル活性を亢進し、心筋の興奮性を高める (PMID 20156590, 18953682)。また、PKAによりL型電位依存性カルシウムチャンネルや、筋小胞体リアノジン受容体がリン酸化されて活性化し、細胞内のカルシウム濃度が上昇、結果的に心筋の興奮性を亢進する。この時A-kinase anchoring protein (AKAP)が受容体とPKAの相互作用を手助けする(PMID 20156590, 9687361)。また、内向き整流性カリウムチャンネルの一種であるslowly activated K channels (IKs) もPKAのリン酸化を受け、活性化する(PMID 20156590)。これにより、心拍数が増加した時でも、心臓の拡張期の時間が適切に調節されると考えられる。アドレナリンによるα2受容体の活性化は、Giを介して上記β1受容体と逆の効果がある。


 末梢神経系において、ノルアドレナリンはα<sub>1</sub>およびβ<sub>1</sub>アドレナリン受容体のアゴニストとして作用する。(アドレナリンは、低濃度ではβ<sub>1</sub>およびβ<sub>2</sub>アドレナリン受容体に作用し、高濃度ではα<sub>1</sub>を介した作用が主となる。)
 平滑筋において、ノルアドレナリンα1受容体の活性化は、Gqを介してphospholipaseの活性化、inositol 1,4,5-trisphosphate (IP3)とdiacylglycerolの産生、IP3受容体の活性化による細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出、myosin-light chain kinaseの活性化、そして結果的に筋収縮を引き起こす(&lt;ref&gt;'''D E Golan, A H Tashjian Jr, E J Armstrong, A W Armstrong'''&lt;br&gt; Principles of Pharmacology, Second Edition&lt;br&gt;''Wolters Kluwer Health (Philadelphia)'':2002&lt;/ref&gt;) (PMID: 11096123)。<br>逆に、アドレナリンによるβ2受容体の活性化は、Gsを介してPKAの活性化、MLCKのリン酸化による抑制の結果、筋弛緩をもたらすと考えられる(&lt;ref&gt;'''D E Golan, A H Tashjian Jr, E J Armstrong, A W Armstrong'''&lt;br&gt; Principles of Pharmacology, Second Edition&lt;br&gt;''Wolters Kluwer Health (Philadelphia)'':2002&lt;/ref&gt;)(PMID: 6259152)。<br>  


 α<sub>2</sub>アドレナリン受容体はノルアドレナリン[[軸索終末]]に存在し([[自己受容体]]またはオートレセプター)、ノルアドレナリンの放出を抑制する<ref name="ref19"><pubmed> 11520889 </pubmed></ref>。  
 α<sub>2</sub>アドレナリン受容体はノルアドレナリン[[軸索終末]]に存在し([[自己受容体]]またはオートレセプター)、ノルアドレナリンの放出を抑制する<ref name="ref19"><pubmed> 11520889 </pubmed></ref>。  
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| [[wikipedia:ja:平滑筋|平滑筋]]収縮  
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| [[Gq alpha subunit|G<sub>q</sub>]]: [[ホスホリパーゼC]] (PLC) 活性化により[[イノシトール3リン酸]]と[[ジアシルグリセロール]]、細胞内[[カルシウム]]の上昇  
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*[[ノルアドレナリン]]  
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*[[アルフゾシン]]  
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| [[Gs alpha subunit|G<sub>s</sub>]]: [[アデニル酸シクラーゼ]]活性化、[[サイクリックAMP|cAMP]]上昇  
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*[[ドブタミン]]  
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*[[メトプロロール]]  
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*[[サルブタモール]]  
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*[[ブトキサミン]]  
*[[ブトキサミン]]  
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'''表 アドレナリン性受容体''' Wikipedia項目[[wikipedia:Adrenergic Receptor|Adrenergic Receptor]]から翻訳、修正の上転載。 <sup>†</sup>α<sub>1C</sub>受容体と呼ばれる物は、存在しない。  
'''表 アドレナリン性受容体''' Wikipedia項目[[wikipedia:Adrenergic Receptor|Adrenergic Receptor]]から翻訳、修正の上転載。 <sup>†</sup>α<sub>1C</sub>受容体と呼ばれる物は、存在しない。  


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主たる投射系と機能


主たる投射系と機能
中枢神経系<br> 脳におけるノルアドレナリン作動性の神経細胞群は、主に髄質(延髄でしょうか?)、橋に存在し、A1-A7に分けられている。<br>A1、A2:A1は髄質の腹外側に位置し、A2は背側に位置する。共に視床下部に上行性投射をし、ホルモン循環器系やホルモン内分泌系の調節を行う。<br>A5、A7:橋の腹外側に位置し、脊髄へ投射し、自律神経反射や、痛覚の調節を行う。<br>A6:青斑核(locus ceruleus)と呼ばれる。橋の背側に位置し、最も主要なノルアドレナリン作動性神経細胞の核である。青斑核からは、大脳皮質、視床、視床下部、小脳、中脳、脊髄、など脳のほぼ全域にわたって投射している。青斑核のノルアドレナリン作動性神経細胞は覚醒状態や不意な環境変化への応答性に関係している。例えば、ラット青斑核神経細胞の発火頻度は、覚醒-睡眠のサイクルに応じて変化し、また継続中の行動を中断するような場合に上昇する。さらに近年、ノルアドレナリンの注意、記憶、学習への関与、またシナプス可塑性への関与が報告されている 。これらのことから、ノルアドレナリンの働きは、動物が環境の変化に適応する際に、注意や認知のシフト、そして行動の適応化を早めることであると提唱されている。<br>自律神経系<br> 自律神経系のうちの交感神経系では、節後神経細胞がノルアドレナリン作動性であり、脊髄中の節前神経細胞よりアセチルコリン性の入力を受け、ノルアドレナリン性の出力を内臓器官に与える。その結果、血管の収縮、血圧の上昇、心拍数の増加、などを引き起こす。  
 
中枢神経系<br> 脳におけるノルアドレナリン作動性の神経細胞群は、主に髄質(延髄でしょうか?)、橋に存在し、A1-A7に分けられている。<br>A1、A2:A1は髄質の腹外側に位置し、A2は背側に位置する。共に視床下部に上行性投射をし、ホルモン循環器系やホルモン内分泌系の調節を行う。<br>A5、A7:橋の腹外側に位置し、脊髄へ投射し、自律神経反射や、痛覚の調節を行う。<br>A6:青斑核(locus ceruleus)と呼ばれる。橋の背側に位置し、最も主要なノルアドレナリン作動性神経細胞の核である。青斑核からは、大脳皮質、視床、視床下部、小脳、中脳、脊髄、など脳のほぼ全域にわたって投射している。青斑核のノルアドレナリン作動性神経細胞は覚醒状態や不意な環境変化への応答性に関係している。例えば、ラット青斑核神経細胞の発火頻度は、覚醒-睡眠のサイクルに応じて変化し、また継続中の行動を中断するような場合に上昇する。さらに近年、ノルアドレナリンの注意、記憶、学習への関与、またシナプス可塑性への関与が報告されている 。これらのことから、ノルアドレナリンの働きは、動物が環境の変化に適応する際に、注意や認知のシフト、そして行動の適応化を早めることであると提唱されている。<br>自律神経系<br> 自律神経系のうちの交感神経系では、節後神経細胞がノルアドレナリン作動性であり、脊髄中の節前神経細胞よりアセチルコリン性の入力を受け、ノルアドレナリン性の出力を内臓器官に与える。その結果、血管の収縮、血圧の上昇、心拍数の増加、などを引き起こす。


== 抗うつ薬とノルアドレナリン  ==
== 抗うつ薬とノルアドレナリン  ==

2012年9月25日 (火) 19:11時点における版

Norepinephrine[1]
{{{画像alt1}}}
Identifiers
(l) 51-41-2 (l) N
ATC code
ChEBI
ChEMBL ChEMBL1437 YesY
ChemSpider 388394 YesY
DrugBank {{{value}}}
Jmol-3D images Image
KEGG D00076
PubChem 439260
Properties
C8H11NO3
Molar mass 169.18 g/mol g·mol−1
Density 1.397±0.06 g/cm^3 (20 °C and 760 Torr)[2]
Melting point L: 216.5–218 °C (decomp.)
D/L: 191 °C (decomp.)
Boiling point
Vapor pressure 1.30e-8 Torr[2]
Acidity (pKa) 9.57±0.10[2]
特記なき場合、データは常温(25 °C)・常圧(100 kPa)におけるものである。

英:noradrenaline, norepinephrine 独:Noradrenalin, Norepinephrin 仏:noradrénaline, norépinéphrine 略称:NA, NE

同義語:ノルエピネフリン

 ノルアドレナリンはモノアミンの一種、またカテコールアミンの一種である。生体内において、神経伝達物質またはホルモンとして働く。生体内ではチロシンから合成される。ノルアドレナリンの受容体アドレナリン受容体ファミリーであり、三量体Gタンパク質共役型である。末梢神経系では交感神経における神経伝達物質として重要である。中枢神経系では、にある青斑核にノルアドレナリン作動性神経細胞が多く存在し、そこからほぼ脳全域に投射している。中枢神経系ノルアドレナリンは覚醒-睡眠ストレスに関する働きをし、注意記憶学習などにも影響すると考えられている。

発見

 1946年、Ulf Svante von Euler(スウェーデン)およびPeter Holtz(ドイツ)により、ノルアドレナリンがほ乳類の交感神経において神経伝達物質として働くことが示された[3] [4]

構造

 カテコール基と一級アミノ基をもつ、カテコールアミン神経伝達物質の一種。また、ドーパミンセロトニンヒスタミンなどとともにモノアミン系神経伝達物質のグループを形成する。

合成

図1 ノルアドレナリン生合成経路

 他に、副腎髄質中にあるクロム親和性細胞においても合成されている。合成に関わる酵素は以下の通り(図1)。

放出、再取り込み

 ノルアドレナリンの前駆体であるドーパミンは小胞型モノアミントランスポーター(vesicular monoamine transporter, vMAT)によりシナプス小胞内に輸送される。vMAT1は主に副腎のクロム親和性細胞、vMAT2は神経細胞で発現している。vMATはH+との交換輸送によりモノアミンを小胞内に蓄積させる[11]
 ノルアドレナリンの放出は他の神経伝達物質と同様に、神経活動依存的、カルシウム依存的なシナプス小胞のエキソサイトーシスによる。

 放出された後、ノルエピネフリントランスポーター(norepinephrine transporter, NET、またはノルアドレナリントランスポーター (noradrenaline transporter, NAT))により再取り込みされる。他のカテコールアミン同様、細胞外に放出されたノルアドレナリンの量の調節は、この再取込みの寄与が高い[12]。NETはNa+/K+-ATPase依存的で、Na+/Cl-の共輸送によりノルアドレナリンを細胞内に輸送する。またNETはリン酸化により制御される[13]

代謝分解

 ノルアドレナリンの代謝分解には次の二つの酵素が重要である。

  • モノアミン酸化酵素(monoamine oxidase, MAO):MAOはモノアミンのアミノ基をアルデヒド基に酸化する。MAOはミトコンドリア外膜に局在しに存在し、細胞内のノルアドレナリン(再取込みされたものを含む)の分解に関与する。ただしMAOに比べてvMAT2の方がノルアドレナリンに対する親和性がずっと高いため、シナプス小胞への取り込みの方がMAOによる分解よりも優先されると考えられる[14]。MAOにはMAO-AMAO-Bがあり、二つの別の遺伝子によりコードされている。MAO-AとMAO-Bはモノアミン作動性神経細胞およびグリア細胞に発現しているが、発現量は細胞の種類により異なり、また動物種によっても違いが見られる[14]マウス脳のノルアドレナリン作動性神経細胞には主にMAO-Aが発現している[15]。。
  • カテコール-O-メチル基転移酵素(catechol-O-methyltransferase, COMT):これはカテコール基のメタ水酸基メチル基を転移させる。腎臓肝臓に豊富だが、カテコールアミン作動性神経細胞の投射先においても発現している。細胞外で働くと考えられている[16]

 脳においてノルアドレナリンの多くは、MAO、アルデヒド還元酵素、およびCOMTにより3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール (3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol, MHPG)へ代謝され、さらに3-メトキシ-4-ヒドロキシマンデル酸 (3-methoxy-4-hydroxymandelic acid) (またはバニリルマンデル酸 (vanillylmandelic acid, VMA)となって尿中に排出される[17]。MHPGの硫酸化物も尿中に排出される[17]

受容体

 ノルアドレナリンはアドレナリンと共にアドレナリン受容体(adrenergic receptorまたはadrenoceptor)に結合し活性化する。αおよびβのサブファミリーからなる(表)。より細かくは、α1A1D、α2A2C、β13、から構成されている。いずれも三量体Gタンパク質共役型受容体である。α1はGq、α2はGi、β13はGsと共役し、、異なるシグナル伝達を行う。Gqはphospho-lipase Cを活性化し、 inositol 1,4,5-trisphosphate (IP3) の産生からIP3受容体を介して細胞内Ca2+の上昇を引き起こす。またdiacylglicerol (DAG) の産生を介してProtein kinase Cの活性化を引き起こす。Gi、Gsはそれぞれadenylate cyclaseを阻害、または活性化し、cAMPの産生の増減、そしてPKA活性の増減を引き起こす。

 中枢神経系において、ノルアドレナリンは主にα1、α2、そしてβ1受容体を介して作用する。。海馬神経細胞において、β1受容体の活性化はCa2+依存性K+チャンネルを阻害し、afterhyperpolarizationを減少させ、結果的にシナプス入力依存的な発火を亢進させる(PMID: 2873241, 6300681)。この作用はcAMPを介している(PMID: 8274274)。さらに、β受容体は海馬におけるシナプス長期増強(LTP)をポジティブに調節する(PMID: 6311345, 20043991)。そのメカニズムとして、樹上突起状のA型K+チャンネルの不活性化によるbackpropagationの促進が考えられている(PMID: 9914302, 12077183)。また、SK型K+チャンネルの活性化やグルタミン酸受容体のリン酸化の可能性も指摘されている(PMID: 20043991)。前頭前野では、α1、α2、そしてβ1受容体が異なる働きを示すことが示唆されている(PMID: 17303246)。


 末梢神経系において、ノルアドレナリンはα1およびβ1アドレナリン受容体のアゴニストとして作用する。(アドレナリンは、低濃度ではβ1およびβ2アドレナリン受容体に作用し、高濃度ではα1を介した作用が主となる。)

 心筋において、β1受容体はGsを介してadenylate cyclaseの活性化、cAMPの産生、PKAの活性化が引き起こす。さらに、cyclic nucleotideがhyperpolarization-activated cyclic nucleotide gated (HCN) channelに直接結合し、チャンネル活性を亢進し、心筋の興奮性を高める (PMID 20156590, 18953682)。また、PKAによりL型電位依存性カルシウムチャンネルや、筋小胞体リアノジン受容体がリン酸化されて活性化し、細胞内のカルシウム濃度が上昇、結果的に心筋の興奮性を亢進する。この時A-kinase anchoring protein (AKAP)が受容体とPKAの相互作用を手助けする(PMID 20156590, 9687361)。また、内向き整流性カリウムチャンネルの一種であるslowly activated K channels (IKs) もPKAのリン酸化を受け、活性化する(PMID 20156590)。これにより、心拍数が増加した時でも、心臓の拡張期の時間が適切に調節されると考えられる。アドレナリンによるα2受容体の活性化は、Giを介して上記β1受容体と逆の効果がある。

 平滑筋において、ノルアドレナリンα1受容体の活性化は、Gqを介してphospholipaseの活性化、inositol 1,4,5-trisphosphate (IP3)とdiacylglycerolの産生、IP3受容体の活性化による細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出、myosin-light chain kinaseの活性化、そして結果的に筋収縮を引き起こす(<ref>D E Golan, A H Tashjian Jr, E J Armstrong, A W Armstrong<br> Principles of Pharmacology, Second Edition<br>Wolters Kluwer Health (Philadelphia):2002</ref>) (PMID: 11096123)。
逆に、アドレナリンによるβ2受容体の活性化は、Gsを介してPKAの活性化、MLCKのリン酸化による抑制の結果、筋弛緩をもたらすと考えられる(<ref>D E Golan, A H Tashjian Jr, E J Armstrong, A W Armstrong<br> Principles of Pharmacology, Second Edition<br>Wolters Kluwer Health (Philadelphia):2002</ref>)(PMID: 6259152)。

 α2アドレナリン受容体はノルアドレナリン軸索終末に存在し(自己受容体またはオートレセプター)、ノルアドレナリンの放出を抑制する[18]

受容体 アゴニスト選択性 主な作用 細胞内シグナル アゴニスト アンタゴニスト
α&lt;sub&gt;1&lt;/sub&gt;:
A, B, D
ノルアドレナリン > アドレナリン >> イソプレナリン 平滑筋収縮 Gq: ホスホリパーゼC (PLC) 活性化によりイノシトール3リン酸ジアシルグリセロール、細胞内カルシウムの上昇

(α&lt;sub&gt;1&lt;/sub&gt;アゴニスト)

(α&lt;sub&gt;1&lt;/sub&gt;アンタゴニスト)

α2:
A, B, C
アドレナリンノルアドレナリン >> イソプレナリン 自己受容体活性化による神経伝達物質放出減少
心筋弛緩、血小板活性化
Gi: アデニル酸シクラーゼ抑制, cAMP減少

(α2アゴニスト)

(α2アンタゴニスト)

β1 イソプレナリン > アドレナリン = ノルアドレナリン 心筋収縮 Gs: アデニル酸シクラーゼ活性化、cAMP上昇

(β&lt;sub&gt;1&lt;/sub&gt;アゴニスト)

(β&lt;sub&gt;1&lt;/sub&gt;アンタゴニスト)

β2 イソプレナリン > アドレナリン >> ノルアドレナリン 平滑筋弛緩 Gs: アデニル酸シクラーゼ活性化、cAMP上昇 (Giと共役することもある)

(β&lt;sub&gt;2&lt;/sub&gt;アゴニスト)

(β&lt;sub&gt;2&lt;/sub&gt;アンタゴニスト)

β3 イソプレナリン = ノルアドレナリン > アドレナリン 脂肪代謝亢進、膀胱排尿筋弛緩 Gs: アデニル酸シクラーゼ活性化、cAMP上昇

表 アドレナリン性受容体 Wikipedia項目Adrenergic Receptorから翻訳、修正の上転載。 α1C受容体と呼ばれる物は、存在しない。


主たる投射系と機能

中枢神経系
 脳におけるノルアドレナリン作動性の神経細胞群は、主に髄質(延髄でしょうか?)、橋に存在し、A1-A7に分けられている。
A1、A2:A1は髄質の腹外側に位置し、A2は背側に位置する。共に視床下部に上行性投射をし、ホルモン循環器系やホルモン内分泌系の調節を行う。
A5、A7:橋の腹外側に位置し、脊髄へ投射し、自律神経反射や、痛覚の調節を行う。
A6:青斑核(locus ceruleus)と呼ばれる。橋の背側に位置し、最も主要なノルアドレナリン作動性神経細胞の核である。青斑核からは、大脳皮質、視床、視床下部、小脳、中脳、脊髄、など脳のほぼ全域にわたって投射している。青斑核のノルアドレナリン作動性神経細胞は覚醒状態や不意な環境変化への応答性に関係している。例えば、ラット青斑核神経細胞の発火頻度は、覚醒-睡眠のサイクルに応じて変化し、また継続中の行動を中断するような場合に上昇する。さらに近年、ノルアドレナリンの注意、記憶、学習への関与、またシナプス可塑性への関与が報告されている 。これらのことから、ノルアドレナリンの働きは、動物が環境の変化に適応する際に、注意や認知のシフト、そして行動の適応化を早めることであると提唱されている。
自律神経系
 自律神経系のうちの交感神経系では、節後神経細胞がノルアドレナリン作動性であり、脊髄中の節前神経細胞よりアセチルコリン性の入力を受け、ノルアドレナリン性の出力を内臓器官に与える。その結果、血管の収縮、血圧の上昇、心拍数の増加、などを引き起こす。

抗うつ薬とノルアドレナリン

 気分障害の治療に使われる薬のうち、歴史的に古いMAO阻害剤三環系抗うつ薬はセロトニン系だけでなくノルアドレナリン系を刺激する。近年使用頻度が増えている薬に選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)あるが、これはノルアドレナリン系には作用しない。さらに、セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)も開発され、これはその名の通り、セロトニン系とノルエピネフリン系の両方を選択的に刺激する。

 こうした薬の作用から、うつ状態の原因がセロトニンやノルアドレナリンなどのモノアミンの減少によるのではないかというモノアミン仮説が生まれた。しかし、これらの薬の治療効果が現れるのは、モノアミン神経伝達が亢進されるよりもずっと遅いことから、この仮説よりももっと複雑なことが起きていると考えられている[19] [20]

関連項目

参考文献

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(執筆者:徳岡宏文、一瀬宏 担当編集者:林 康紀)