「バレル皮質」の版間の差分

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==発生、可塑性==
==発生、可塑性==
胎児期または生後直後、バレル皮質は形成されておらずマウスで生後2日から5日の間に形成される。視床軸索がそれぞれのhollow内に収束する形でターミナルを形成し、その周りに大脳皮質の細胞が集まってバレル構造ができる。このバレル形成には、ヒゲの刺激による神経活動が必要であり、生後ヒゲを抜いたり、毛根を焼き切るなどしてヒゲからの入力を遮断するとバレル構造が形成されない (Harris and Woolsey, 1979, 1981)。バレル構造の形成には[[臨界期]]があり、生後7日目以降はヒゲからの入力が遮断されても一度形成されたバレル構造は維持されたままとなる。バレルの形成には神経活動が必要であること、は大脳皮質の[[興奮性]]ニューロンに限定してNMDA型[[グルタミン酸受容体]]のNR1サブユニットを欠損する[[ノックアウトマウス]]や (Iwasato et al., 1997)、代謝型[[グルタミン酸]]受容体mGluR5のノックアウトマウスにおいてもバレルの形成が不全になる (Ballester-Rosado et al., 2010)。さらにグルタミン酸受容体の下流に位置するタンパク質としてNeuroD2がバレル形成に必要であること (Ince-Dunn et al., 2006)、およびmGluR5の下流に位置する因子として[[ホスホリパーゼC]]β1のノックアウトマウスはバレルの形成不全を起こすことが報告されている (Hannan et al., 2001)。視床軸索側からバレルを形成する要素として、視軸軸索のAC1 ([[CA2|Ca2]]+/calmodulin-activated type-I adenylyl cyclase)が[[AMPA]]受容体のトラフィッキングをコントロールすることによって、視床—大脳皮質細胞のシナプス結合の強化に必要であることが報告されている (Lu et al., 2003; Suzuki et al., 2015)。
胎児期または生後直後、バレル皮質は形成されておらずマウスで生後2日から5日の間に形成される。視床軸索がそれぞれのhollow内に収束する形でターミナルを形成し、その周りに大脳皮質の細胞が集まってバレル構造ができる。このバレル形成には、ヒゲの刺激による神経活動が必要であり、生後ヒゲを抜いたり、毛根を焼き切るなどしてヒゲからの入力を遮断するとバレル構造が形成されない (Harris and Woolsey, 1979, 1981)。バレル構造の形成には[[臨界期]]があり、生後7日目以降はヒゲからの入力が遮断されても一度形成されたバレル構造は維持されたままとなる。バレルの形成には神経活動が必要であること、は大脳皮質の[[興奮性]]ニューロンに限定してNMDA型[[グルタミン酸受容体]]のNR1サブユニットを欠損する[[ノックアウトマウス]]や (Iwasato et al., 1997)、代謝型[[グルタミン酸]]受容体mGluR5のノックアウトマウスにおいてもバレルの形成が不全になる<ref><pubmed> 21159961</pubmed></ref> (Ballester-Rosado et al., 2010)。さらにグルタミン酸受容体の下流に位置するタンパク質としてNeuroD2がバレル形成に必要であること (Ince-Dunn et al., 2006)、およびmGluR5の下流に位置する因子として[[ホスホリパーゼC]]β1のノックアウトマウスはバレルの形成不全を起こすことが報告されている (Hannan et al., 2001)。視床軸索側からバレルを形成する要素として、視軸軸索のAC1 ([[CA2|Ca2]]+/calmodulin-activated type-I adenylyl cyclase)が[[AMPA]]受容体のトラフィッキングをコントロールすることによって、視床—大脳皮質細胞のシナプス結合の強化に必要であることが報告されている (Lu et al., 2003; Suzuki et al., 2015)。


バレルの形成に関わっている他の因子としては神経伝達物質である[[セロトニン]]も重要であることが報告されている。まずセロトニン分解酵素である[[モノアミン酸化酵素]]Aのノックアウトマウスでバレルの形成不全になる (Cases et al., 1996)。さらに、セロトニンを細胞に取り込むセロトニン輸送体のノックアウトマウスにおいてもバレルの形成が阻害されていたことから、大脳皮質でセロトニンの濃度が上昇するとバレルの形成が阻害されることが推測された (Cases et al., 1998)。このことを裏付けるように、[[モノアミン]]酸化酵素Aのノックアウトマウスとセロトニン1B受容体のノックアウトマウスとを掛け合わせることにより,バレルの形成の異常は軽減されることも報告されている (Rebsam et al., 2002)。以上のように、Nisslなどの染色で可視化できる細胞密度の違いによる“バレル構造“は視床軸索からの入力と大脳皮質細胞の神経活動の[[バランス]]、さらには細胞外セロトニン濃度の調節が必要である(Erzurumlu and Kind, 2001)。
バレルの形成に関わっている他の因子としては神経伝達物質である[[セロトニン]]も重要であることが報告されている。まずセロトニン分解酵素である[[モノアミン酸化酵素]]Aのノックアウトマウスでバレルの形成不全になる (Cases et al., 1996)。さらに、セロトニンを細胞に取り込むセロトニン輸送体のノックアウトマウスにおいてもバレルの形成が阻害されていたことから、大脳皮質でセロトニンの濃度が上昇するとバレルの形成が阻害されることが推測された (Cases et al., 1998)。このことを裏付けるように、[[モノアミン]]酸化酵素Aのノックアウトマウスとセロトニン1B受容体のノックアウトマウスとを掛け合わせることにより,バレルの形成の異常は軽減されることも報告されている (Rebsam et al., 2002)。以上のように、Nisslなどの染色で可視化できる細胞密度の違いによる“バレル構造“は視床軸索からの入力と大脳皮質細胞の神経活動の[[バランス]]、さらには細胞外セロトニン濃度の調節が必要である(Erzurumlu and Kind, 2001)。
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図1 A.マウスの鼻口部の写真。ヒゲの並び方は統一されており、A-E列と名前が付けられている。B.バレル皮質をチトクロームオキシダーゼ染色により可視化したもの。鼻口部でのヒゲの並びに対応したパターンが見られる。
図1 A.マウスの鼻口部の写真。ヒゲの並び方は統一されており、A-E列と名前が付けられている。B.バレル皮質をチトクロームオキシダーゼ染色により可視化したもの。鼻口部でのヒゲの並びに対応したパターンが見られる。


 
==参考文献==
Reference
<references />


Ballester-Rosado, C.J., Albright, M.J., Wu, C.S., Liao, C.C., Zhu, J., Xu, J.A., Lee, L.J., and Lu, H.C. (2010). mGluR5 in Cortical Excitatory Neurons Exerts Both Cell-Autonomous and -Nonautonomous Influences on Cortical Somatosensory Circuit Formation. Journal of Neuroscience 30, 16896-16909.
Ballester-Rosado, C.J., Albright, M.J., Wu, C.S., Liao, C.C., Zhu, J., Xu, J.A., Lee, L.J., and Lu, H.C. (2010). mGluR5 in Cortical Excitatory Neurons Exerts Both Cell-Autonomous and -Nonautonomous Influences on Cortical Somatosensory Circuit Formation. Journal of Neuroscience 30, 16896-16909.