「バーグマングリア」の版間の差分

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[[Image:Kengaku Fig 1.jpg|thumb|right|294px|'''図1.生後3週令マウスのバーグマングリア'''<br>スケールバーは20 µm。編集コメント:染色法を御願い致します。]]
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/fujishima 藤島 和人]、[http://researchmap.jp/minekokengaku 見学 美根子]</font><br>
''京都大学 物質ー細胞統合システム拠点''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年10月31日 原稿完成日:2015年1月5日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0080380 上口 裕之](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
</div>
 
[[Image:Kengaku Fig 1.jpg|thumb|right|294px|'''図1.生後3週令マウスのバーグマングリア'''<br>アデノ随伴ウイルスベクターで一部のバーグマングリアにGFPを強制発現し、可視化している。スケールバーは20 µm。]]


英語名:Bergmann glia, Golgi epithelial cell, radial epithelial cell
英語名:Bergmann glia, Golgi epithelial cell, radial epithelial cell
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同義語:ベルグマン膠細胞、ゴルジ上皮細胞  
同義語:ベルグマン膠細胞、ゴルジ上皮細胞  


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 長く発達した放射状線維([[バーグマン線維]])をもつ[[小脳]]皮質の[[アストロサイト]]の一種。小脳皮質分子層を縦断する放射状線維は皮質の支持構造として機能し、発生中には[[顆粒細胞]]と[[プルキンエ細胞]]を含む小脳皮質ニューロンの[[神経細胞移動]]と突起伸展の足場を提供する。成体では出力細胞のプルキンエ細胞[[シナプス]]を被包してシナプス放出された[[グルタミン酸]]を吸収し、細胞外環境の維持と神経回路機能の調節に重要な役割を果たす。  
 長く発達した放射状線維([[バーグマン線維]])をもつ[[小脳]]皮質の[[アストロサイト]]の一種。小脳皮質分子層を縦断する放射状線維は皮質の支持構造として機能し、発生中には[[顆粒細胞]]と[[プルキンエ細胞]]を含む小脳皮質ニューロンの[[神経細胞移動]]と突起伸展の足場を提供する。成体では出力細胞のプルキンエ細胞[[シナプス]]を被包してシナプス放出された[[グルタミン酸]]を吸収し、細胞外環境の維持と神経回路機能の調節に重要な役割を果たす。  
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== 歴史  ==
== 歴史  ==
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 バーグマングリアにはカルシウムイオン透過性[[AMPA型グルタミン酸受容体]]が発現し、グルタミン酸刺激に対し[[カルシウム|Ca<sup>2+</sup>]]流入が起こり、内向き[[wikipedia:ja:整流性|整流]]性の速い電流応答を示す。生体内では登上線維および平行線維に由来するグルタミン酸を受容すると考えられるが、バーグマングリアとプルキンエ細胞の発火は必ずしも同期せず、Ca<sup>2+</sup>-伝達物質放出連関や[[短期可塑性]]などの応答特性も異なることから、プルキンエ細胞シナプスからの漏出ではなく、登上線維および平行線維終末付近でバーグマングリアに対する異所性(シナプス外)の放出があると考えられる<ref><pubmed> 16107641 </pubmed></ref>。バーグマングリアには[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]も発現し、プルキンエ細胞樹状突起および細胞体の抑制性シナプスの付近に集積する<ref><pubmed> 12486165 </pubmed></ref>。神経伝達物質応答能があるため、バーグマングリアは求心性線維終末の位置を検知し、シナプス周辺に薄片状突起を発達させることが可能になるのかもしれない。バーグマングリアのAMPA型グルタミン酸受容体の透過性を変化させると、グリア突起が退縮してミクロドメインが解離し、登上線維、平行線維ともシナプス後電流が遷延し、さらには登上線維異所支配が誘発される<ref><pubmed> 11340205 </pubmed></ref>。  
 バーグマングリアにはカルシウムイオン透過性[[AMPA型グルタミン酸受容体]]が発現し、グルタミン酸刺激に対し[[カルシウム|Ca<sup>2+</sup>]]流入が起こり、内向き[[wikipedia:ja:整流性|整流]]性の速い電流応答を示す。生体内では登上線維および平行線維に由来するグルタミン酸を受容すると考えられるが、バーグマングリアとプルキンエ細胞の発火は必ずしも同期せず、Ca<sup>2+</sup>-伝達物質放出連関や[[短期可塑性]]などの応答特性も異なることから、プルキンエ細胞シナプスからの漏出ではなく、登上線維および平行線維終末付近でバーグマングリアに対する異所性(シナプス外)の放出があると考えられる<ref><pubmed> 16107641 </pubmed></ref>。バーグマングリアには[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]も発現し、プルキンエ細胞樹状突起および細胞体の抑制性シナプスの付近に集積する<ref><pubmed> 12486165 </pubmed></ref>。神経伝達物質応答能があるため、バーグマングリアは求心性線維終末の位置を検知し、シナプス周辺に薄片状突起を発達させることが可能になるのかもしれない。バーグマングリアのAMPA型グルタミン酸受容体の透過性を変化させると、グリア突起が退縮してミクロドメインが解離し、登上線維、平行線維ともシナプス後電流が遷延し、さらには登上線維異所支配が誘発される<ref><pubmed> 11340205 </pubmed></ref>。  


 バーグマングリアには[[代謝型グルタミン酸受容体]][[ATP受容体]]([[P2Y受容体]])、[[NO受容体]](編集コメント:NO受容体という分子は無いと思いますので、ご確認下さい)なども発現し、電流応答の特性に寄与すると考えられる。自発運動中の動物において、バーグマングリアに強いCa<sup>2+</sup>濃度上昇が起こり<ref><pubmed> 19447095 </pubmed></ref>、しばしば波状に伝播していくのが観察されるが<ref><pubmed> 19211787 </pubmed></ref>、バーグマングリアの活動の生理的意義についてコンセンサスは得られていない。
 バーグマングリアには[[代謝型グルタミン酸受容体]][[ATP受容体]]([[P2Y受容体]])なども発現し、これらが電流応答の特性に寄与すると考えられる。自発運動中の動物において、バーグマングリアに強いCa<sup>2+</sup>濃度上昇が起こり<ref><pubmed> 19447095 </pubmed></ref>、しばしば波状に伝播していくのが観察されるが<ref><pubmed> 19211787 </pubmed></ref>、バーグマングリアの活動の生理的意義についてコンセンサスは得られていない。


== 病理  ==
== 病理  ==


 [[遺伝性脊髄小脳失調症7型]]([[spinocerebellar ataxia type 7]]; [[SCA7]])では、原因遺伝子[[Ataxin-7]]の変異によりバーグマンクリアにおけるEAAT1発現が減少し、興奮毒性による進行性のプルキンエ細胞の脱落が起こると考えられている<ref><pubmed> 16936724 </pubmed></ref>。また、遺伝性脊髄小脳失調症1型の原因遺伝子[[Ataxin-1]]の変異によりバーグマンクリアの増殖が抑えられ、プルキンエ細胞の脱落が誘発されるとする報告がある<ref><pubmed>  20531390 </pubmed></ref>。
 [[遺伝性脊髄小脳失調症7型]]([[spinocerebellar ataxia type 7]]; [[SCA7]])では、原因遺伝子[[Ataxin-7]]の変異によりバーグマンクリアにおけるEAAT1発現が減少し、興奮毒性による進行性のプルキンエ細胞の脱落が起こると考えられている<ref><pubmed> 16936724 </pubmed></ref>
 
 また、[[遺伝性脊髄小脳失調症1型]]の原因遺伝子[[Ataxin-1]]の変異によりバーグマンクリアの増殖が抑えられ、プルキンエ細胞の脱落が誘発されるとする報告がある<ref><pubmed>  20531390 </pubmed></ref>。


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />
<references />
(執筆者:見学美根子 担当編集委員:岡本仁)

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