「パッチ・マトリクス構造」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/fuminofujiyama 藤山 文乃]</font>、執筆協力:[http://researchmap.jp/toshi-aka 赤沢年一]<br>
''同志社大学 脳科学研究科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年8月15日 原稿完成日:2015年4月22日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br>
</div>
英:patch and matrix compartments
英:patch and matrix compartments


同義語:ストリオソーム・マトリックス構造
同義語:ストリオソーム・マトリックス構造


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 [[線条体]]は細胞化学的にパッチ・マトリックスコンパートメントに分けられ、マトリックスは[[運動感覚系]]、[[連合野系]]の[[ループ連絡]]に、パッチは[[辺縁系]]のループ連絡に関与しているようである。
 [[線条体]]は細胞化学的にパッチ・マトリックスコンパートメントに分けられ、マトリックスは[[運動感覚系]]、[[連合野系]]の[[ループ連絡]]に、パッチは[[辺縁系]]のループ連絡に関与しているようである。
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== 定義 ==
== 定義 ==


[[Image:striosome-matrix-compartments.jpg|thumb|300px|'''図1.パッチ・マトリックス構造の概念図'''<br>文献<ref name="ref3" />より改変して転載。SP:サブスタンスP、DYN:ダイノルフィン、ENK:エンケファリン]]
[[Image:striosome-matrix-compartments.jpg|thumb|300px|'''図1.パッチ・マトリックス構造の概念図'''<br>文献<ref name="ref3" />より改変して転載。SP:サブスタンスP、DYN:ダイノルフィン、ENK:エンケファリン.]]


 線条体は[[大脳基底核]]の入力部位であり、[[小脳]]とともに[[錐体路]]の[[運動系]]を修飾し運動をスムーズに遂行するための大脳核である。この線条体のニューロンは[[大脳皮質]]や小脳と違って、層構造をなしているわけではない。一見ランダムに存在しているのであるが、実は発生学的に異なるパッチ([[wikipedia:ja:齧歯類|齧歯類]]ではストリオソームと呼ばれることが多い)とマトリックスという名の二つのコンパートメントの中に散在している。パッチは発生学的に古く[[ドーパミン]]入力を受けながら出現してくるのでドーパミンアイランドとも呼ばれるが、マトリックスはその後に発生し結果的に線条体全体の85%程度を占めるようになる。
 [[大脳基底核]][[小脳]]とともに[[錐体路]]の[[運動系]]を修飾し運動をスムーズに遂行するための大脳核であり、線条体はその大脳基底核の入力部位である。この線条体のニューロンは[[大脳皮質]]や小脳と違って、層構造をなしているわけではない。一見ランダムに存在しているのであるが、実は発生学的に異なるパッチ([[wikipedia:ja:齧歯類|齧歯類]]ではストリオソームと呼ばれることが多い)とマトリックスという名の二つのコンパートメントの中に散在している。パッチは発生学的に早く生まれ、[[ドーパミン]]入力を受けながら出現してくるのでドーパミンアイランドとも呼ばれるが、マトリックスはその後に発生し結果的に線条体全体の85%程度を占めるようになる。


== 分子マーカー ==
== 分子マーカー ==
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== 入力パターン ==
== 入力パターン ==


[[Image:striosome-matrix-inputs.jpg|thumb|300px|'''図2.線条体パッチ・マトリックス領域と興奮性入力(ラット)'''<br>文献<ref name="ref7" />より改変して転載。MOR:&mu;オピオイド受容体、VGluT1:シナプス小胞型グルタミン酸トランスポーター1型、VGluT2:同2型(編集コメント:動物種を御願い致します。)]]
[[Image:striosome-matrix-inputs.jpg|thumb|300px|'''図2.線条体パッチ・マトリックス領域と興奮性入力(ラット)'''<br>文献<ref name="ref7" />より改変して転載。MOR:&mu;オピオイド受容体、VGluT1:シナプス小胞型グルタミン酸トランスポーター1型、VGluT2:同2型。]]


 入力に関しては大脳皮質からパッチへの入力は主として[[眼窩前頭皮質]]や[[島]]などの辺縁系大脳皮質に由来するのに対し、マトリックスへの入力は[[運動系皮質]]・[[体性感覚野]]・[[頭頂葉]]など広範囲な大脳[[新皮質]]に由来すると言われている。もっと明確な違いは大脳皮質の層構造であり、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]では大脳皮質のⅢ層とⅤa層はマトリックスに、Ⅴb層とⅥ層はパッチに投射していることが報告されている<ref name="ref5"><pubmed> 8910736 </pubmed></ref>。
 入力に関しては大脳皮質からパッチへの入力は主として[[眼窩前頭皮質]]や[[島]]などの辺縁系大脳皮質に由来するのに対し、マトリックスへの入力は[[運動系皮質]]・[[体性感覚野]]・[[頭頂葉]]など広範囲な大脳[[新皮質]]に由来すると言われている。もっと明確な違いは大脳皮質の層構造であり、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]では大脳皮質のⅢ層とⅤa層はマトリックスに、Ⅴb層とⅥ層はパッチに投射していることが報告されている<ref name="ref5"><pubmed> 8910736 </pubmed></ref>。


 [[視床]]からの入力に関しては[[束傍核]]からの入力は主にマトリックスに終止するという報告が[[wikipedia:ja:サル|サル]]サルやラットでなされている。一方、パッチに特異的に投射する視床核はネコでは[[中心線核]]が報告されているものの<ref name="ref6"><pubmed> 1719043 </pubmed></ref>他の動物種では明らかにされていない。筆者らは視床から線条体への興奮性入力はマトリックスに比べるとパッチへの入力は3分の1程度であること(図2)やシナプス構造が違うことなどから<ref name="ref7"><pubmed> 17156206 </pubmed></ref><ref>'''藤山文乃、日置寛之、金子武嗣'''<br>中枢神経ネットワークにおけるシナプス小胞性グルタミン酸トランスポーター.<br>''脳21'': 2005, 8(4); 37-42, ''金芳堂''</ref><ref>'''藤山文乃、金子武嗣'''<br>大脳基底核の解剖.<br>''Clinical Neuroscience'': 2007, 25(1); 22〜24, ''中外医学社''</ref>、大脳皮質のみならず視床線条体入力においてもパッチとマトリックス各々に特徴的なネットワークがあると考え単一ニューロントレースで解析中である。一方、ドーパミンニューロンはシングルニューロンレベルでもパッチおよびマトリックス領域の両方に投射していることを証明した
 [[視床]]からの入力に関しては[[正中中心核]]・[[束傍核]](サル)または束傍核(げっ歯類)からの入力は主にマトリックスに終止するという報告が[[wikipedia:ja:サル|サル]]やラットでなされている。一方、パッチに特異的に投射する視床核はネコでは[[中心線核]]が報告されているものの<ref name="ref6"><pubmed> 1719043 </pubmed></ref>他の動物種では明らかにされていない。筆者らは視床から線条体への興奮性入力はマトリックスに比べるとパッチへの入力は3分の1程度であること(図2)やシナプス構造が違うことなどから<ref name="ref7"><pubmed> 17156206 </pubmed></ref><ref>'''藤山文乃、日置寛之、金子武嗣'''<br>中枢神経ネットワークにおけるシナプス小胞性グルタミン酸トランスポーター.<br>''脳21'': 2005, 8(4); 37-42, ''金芳堂''</ref><ref>'''藤山文乃、金子武嗣'''<br>大脳基底核の解剖.<br>''Clinical Neuroscience'': 2007, 25(1); 22〜24, ''中外医学社''</ref>、大脳皮質のみならず視床線条体入力においてもパッチとマトリックス各々に特徴的なネットワークがあると考え単一ニューロントレースで解析中である。一方、ドーパミンニューロンはシングルニューロンレベルでもパッチおよびマトリックス領域の両方に投射していることを証明した
<ref name="ref10"><pubmed> 19144844 </pubmed></ref>。
<ref name="ref10"><pubmed> 19144844 </pubmed></ref>。


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== 機能 ==
== 機能 ==


 [[強化学習アルゴリズム]]の中でパッチのニューロンがstate valueを、マトリックスのニューロンがaction valueを担っていると考えられている
 [[強化学習アルゴリズム]]の中でパッチのニューロンがstate valueを、マトリックスのニューロンがaction valueを担っているという説がある
<ref name="ref14"><pubmed> 12371507 </pubmed></ref>。
<ref name="ref14"><pubmed> 12371507 </pubmed></ref>。
行動の動機づけの側面に深く関係するドーパミンニューロンが、辺縁系大脳皮質と強い神経連絡を持つパッチのニューロンの神経支配を受けているというのは極めて興味深く、学習と運動の両面において、今後さらなる機能的な解析が期待される。
行動の動機づけの側面に深く関係するドーパミンニューロンが、辺縁系大脳皮質と強い神経連絡を持つパッチのニューロンの神経支配を受けているというのは極めて興味深く、学習と運動の両面において、今後さらなる機能的な解析が期待される。
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<references />
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(執筆者:藤山文乃 執筆協力:赤沢年一 担当編集委員:渡辺大)

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