「パニック症」の版間の差分

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 32歳の主婦、Aさん。これまで特に大きな病気はしたことがなく、健康に過ごしてきた。半年前、自宅で突然、動悸、呼吸困難、発汗が出現し、手足がしびれ出したため、「このままでは死ぬのではないか」、「狂ってしま うのではないか」、「この状態をコントロールできないのではないか」と思い、救急車を呼び、近くの総合病院救急外来を受診。しかしその発作は救急車で搬送中におさまり、救急外来受診時の心電図や血液検査では異常が 見つからなかった。医師からは「ちょっと過呼吸気味ですね。でも問題ないでしょう。」と言われ、点滴をして帰宅。  
 32歳の主婦、Aさん。これまで特に大きな病気はしたことがなく、健康に過ごしてきた。半年前、自宅で突然、動悸、呼吸困難、発汗が出現し、手足がしびれ出したため、「このままでは死ぬのではないか」、「狂ってしま うのではないか」、「この状態をコントロールできないのではないか」と思い、救急車を呼び、近くの総合病院救急外来を受診。しかしその発作は救急車で搬送中におさまり、救急外来受診時の心電図や血液検査では異常が 見つからなかった。医師からは「ちょっと過呼吸気味ですね。でも問題ないでしょう。」と言われ、点滴をして帰宅。  


 しかし、その二日後、夜睡眠中に同様の発作が出現。再度救急外来を受診するも異常はなく、医師の対応も冷たかった。翌朝、「やはり病気に違いない」、「またあの発作が起こったらどうしよう」と不安になり、今度は大学病院の内科を受診。心エコー等の精密検査を受けるも異常はなかった。
 しかし、その二日後、夜[[睡眠]]中に同様の発作が出現。再度救急外来を受診するも異常はなく、医師の対応も冷たかった。翌朝、「やはり病気に違いない」、「またあの発作が起こったらどうしよう」と不安になり、今度は大学病院の内科を受診。心エコー等の精密検査を受けるも異常はなかった。


 Aさんは、医者に何度問題なしと言われても納得できず、逆に発作に対する不安は大きくなる一方で、「外で発作が起きたら大変だ」という思いから好きであった家族ドライブや趣味の陶芸教室もやらなくなった。買い物は近くのスーパーでもご主人と出かけるようになり、家から出る機会も少なくなり、最近では気分も落ち込んで、食欲もなく、夜中によく目が覚めるという。  
 Aさんは、医者に何度問題なしと言われても納得できず、逆に発作に対する不安は大きくなる一方で、「外で発作が起きたら大変だ」という思いから好きであった家族ドライブや趣味の陶芸教室もやらなくなった。買い物は近くのスーパーでもご主人と出かけるようになり、家から出る機会も少なくなり、最近では気分も落ち込んで、食欲もなく、夜中によく目が覚めるという。  
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 BoxにPDの典型例を示す。その主な病像は、まず、[[wikipedia:JA:動悸|動悸]]、[[wikipedia:JA:窒息|窒息]]感、[[wikipedia:JA:発汗|発汗]]、[[wikipedia:JA:めまい|めまい]]、手足の[[wikipedia:JA:しびれ|しびれ]]感等の身体症状、そして死の恐怖やコントロール不能感に代表される精神症状が、何の前触れもなく、急に襲ってくる[[不安発作]](=パニック発作、Panic Attack: PA)である。そのため、多くの患者は「これはきっと体の病気に違いない」と思い込み、救急外来を受診する。また、PAは、“青天の霹靂”と言われるように、全く突然に生じ、症状は急速に出現し、その強さのピークは10分以内である。通常、20から30分で発作は消失するが、患者は「1時間くらいは症状が続いた」と訴えることが多い。これは発作後もしびれ感等は少し残ることや発作が起こったことによる不安によって身体症状(軽い、[[wikipedia:JA:頻脈|頻脈]]や[[wikipedia:JA:呼吸困難|呼吸困難]]感等)が生じているからかもしれない。  
 BoxにPDの典型例を示す。その主な病像は、まず、[[wikipedia:JA:動悸|動悸]]、[[wikipedia:JA:窒息|窒息]]感、[[wikipedia:JA:発汗|発汗]]、[[めまい]]、手足の[[wikipedia:JA:しびれ|しびれ]]感等の身体症状、そして死の恐怖やコントロール不能感に代表される精神症状が、何の前触れもなく、急に襲ってくる[[不安発作]](=パニック発作、Panic Attack: PA)である。そのため、多くの患者は「これはきっと体の病気に違いない」と思い込み、救急外来を受診する。また、PAは、“青天の霹靂”と言われるように、全く突然に生じ、症状は急速に出現し、その強さのピークは10分以内である。通常、20から30分で発作は消失するが、患者は「1時間くらいは症状が続いた」と訴えることが多い。これは発作後もしびれ感等は少し残ることや発作が起こったことによる不安によって身体症状(軽い、[[wikipedia:JA:頻脈|頻脈]]や[[wikipedia:JA:呼吸困難|呼吸困難]]感等)が生じているからかもしれない。  


 その後もPAは繰り返し起こるために、患者は「また発作が起きるのではないか」と過度に不安な状態となる。これを“予期不安”と言う。  
 その後もPAは繰り返し起こるために、患者は「また発作が起きるのではないか」と過度に不安な状態となる。これを“予期不安”と言う。  
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{| class="wikitable" style="width: 654px; height: 322px;"
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|- style="background-color:#ddf"
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| 診断基準:パニック障害(DSM-IV-TR)
| 診断基準:パニック障害([[DSM-IV]]-TR)
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'''表2 DSM-IV-TRによるパニック発作の診断基準'''<br>  
'''表2 DSM-IV-TRによるパニック発作の診断基準'''<br>  


 表1と2に、現在、最も国際的な使用頻度の高い診断基準である[[DSM-Ⅳ-TR]]<ref name="ref12">American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Forth Edition, Text Revision, American Psychiatric Association, Washington D.C., 2002. <br>(高橋三郎,大野裕,染矢俊幸訳.DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版,医学書院,2004)</ref>のPDとPAに関する診断基準を示した。表1からもわかるように、PDは“広場恐怖“の有無によって、「300.21 広場恐怖を伴うパニック障害」と「300.01 広場恐怖を伴わないパニック障害」の2つにさらに分けられるが、2013年5月に出版予定の次期[[DSM-5]]ではこの区別はなくなっている。また、PDとの鑑別診断としては、表1にも記載があるように、同じく不安障害の範疇では、社会不安障害(social anxiety disorder:SAD)、特定の恐怖症、強迫性障害(obsessive-compulsive disorder:OCD)、心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)、分離不安障害等がある。
 表1と2に、現在、最も国際的な使用頻度の高い診断基準である[[DSM-Ⅳ-TR]]<ref name="ref12">American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Forth Edition, Text Revision, American Psychiatric Association, Washington D.C., 2002. <br>(高橋三郎,大野裕,染矢俊幸訳.DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版,医学書院,2004)</ref>のPDとPAに関する診断基準を示した。表1からもわかるように、PDは“広場恐怖“の有無によって、「300.21 広場恐怖を伴うパニック障害」と「300.01 広場恐怖を伴わないパニック障害」の2つにさらに分けられるが、2013年5月に出版予定の次期[[DSM-5]]ではこの区別はなくなっている。また、PDとの鑑別診断としては、表1にも記載があるように、同じく不安障害の範疇では、社会不安障害(social anxiety disorder:SAD)、特定の恐怖症、強迫性障害([[obsessive-compulsive disorder]]:[[OCD]])、心的[[外傷後ストレス障害]](posttraumatic stress disorder:[[PTSD]])、分離不安障害等がある。


===鑑別診断===
===鑑別診断===
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[[Image:図3:扁桃体によるストレス反応の制御.png|thumb|300px|<b>図1 扁桃体によるストレス反応の制御</b>]]  
[[Image:図3:扁桃体によるストレス反応の制御.png|thumb|300px|<b>図1 扁桃体によるストレス反応の制御</b>]]  


 では、扁桃体というのは具体的にどんな機能を司っているのだろうか。非常に大雑把にいうと、[[視覚]]や[[聴覚]]等の様々な感覚刺激(つまり、[[ストレス]])によるストレス反応を制御しているということになる。例えば、様々な感覚情報は全て[[視床]]に入力され、そこから扁桃体の[[基底外側核]]という部分に入る(図1参照)。この入り方には大きく分けて2つのパターンがあり、1つは視床⇒扁桃体基底外側核というように、直接入ってくるもの、そしてもう一方は、視床から[[高次感覚皮質]]や[[連合皮質]]等の大脳皮質、あるいは[[海馬]]等を経由してから入ってくるものである。そして扁桃体基底外側核から[[扁桃体中心核]]へと移行し、そこから様々な脳部位に出力系が伸びている(図3には主な投射経路のみを示している)。もし扁桃体が過活動になると、それらの部分も当然過活動となる。つまり、[[視床下部]]では[[HPA系]]が亢進して[[コルチゾール]]が上昇し、さらに[[交感神経系]]の亢進がみられ、[[橋]]にある[[結合腕傍核]]の過活動により[[wikipedia:JA:過換気|過換気]]あるいは[[wikipedia:JA:過呼吸|過呼吸]]が生じ、[[青斑核]]が興奮するとノルアドレナリンの増加によって[[wikipedia:JA:血圧|血圧]]上昇や[[wikipedia:JA:心拍数|心拍数]]増加が起こり、警戒反応が増す。さらに[[中脳灰白質]]は回避行動を促進すると言われている。このように、感覚情報というストレスによって扁桃体が過活動状態となると、様々なストレス反応が生じることになる。但し、一般に正常な場合には、ストレス因子によってストレス反応を経験しても、学習によってそれらを制御することが可能である。しかしながら、不安障害ではストレス因子のない時に、あるいはストレス因子がすぐに生命の危機、あるいは恐怖に結びつかない状況においても、不適切にこの神経回路が働いてしまい、その結果このようなストレス反応が起こってしまう、というように推測される。
 では、扁桃体というのは具体的にどんな機能を司っているのだろうか。非常に大雑把にいうと、[[視覚]]や[[聴覚]]等の様々な感覚刺激(つまり、[[ストレス]])による[[ストレス反応]]を制御しているということになる。例えば、様々な感覚情報は全て[[視床]]に入力され、そこから扁桃体の[[基底外側核]]という部分に入る(図1参照)。この入り方には大きく分けて2つのパターンがあり、1つは視床⇒扁桃体基底外側核というように、直接入ってくるもの、そしてもう一方は、視床から[[高次感覚皮質]]や[[連合皮質]]等の[[大脳皮質]]、あるいは[[海馬]]等を経由してから入ってくるものである。そして扁桃体基底外側核から[[扁桃体中心核]]へと移行し、そこから様々な脳部位に出力系が伸びている(図3には主な投射経路のみを示している)。もし扁桃体が過活動になると、それらの部分も当然過活動となる。つまり、[[視床下部]]では[[HPA系]]が亢進して[[コルチゾール]]が上昇し、さらに[[交感神経系]]の亢進がみられ、[[橋]]にある[[結合腕傍核]]の過活動により[[wikipedia:JA:過換気|過換気]]あるいは[[wikipedia:JA:過呼吸|過呼吸]]が生じ、[[青斑核]]が興奮するとノル[[アドレナリン]]の増加によって[[wikipedia:JA:血圧|血圧]]上昇や[[wikipedia:JA:心拍数|心拍数]]増加が起こり、警戒反応が増す。さらに[[中脳灰白質]]は回避行動を促進すると言われている。このように、感覚情報というストレスによって扁桃体が過活動状態となると、様々なストレス反応が生じることになる。但し、一般に正常な場合には、ストレス因子によってストレス反応を経験しても、学習によってそれらを制御することが可能である。しかしながら、不安障害ではストレス因子のない時に、あるいはストレス因子がすぐに生命の危機、あるいは恐怖に結びつかない状況においても、不適切にこの神経回路が働いてしまい、その結果このようなストレス反応が起こってしまう、というように推測される。


=== “Stress-induced fear circuit”とPD ===  
=== “Stress-induced fear circuit”とPD ===  
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 図2は、今まで述べてきた、“stress-induced fear circuit”の模式図である。先ほどから述べているように、感覚情報、例えばPD患者であればパニック発作時の動悸や発汗、息切れ等の身体感覚、SADであれば“人前でのスピーチ(public speaking)”の最中の緊張状態における身体感覚が、まず視床に入る。そして前述した2つのパターンで、一部はすぐに扁桃体に伝わり、他方は海馬や[[前部帯状回]]や前部帯状回を通り高次機能での分析が行われてから、扁桃体に投射する。この経路(青の点線)は抑制系なので、視床からの入力(=アクセル)によって扁桃体が過活動状態になるのにブレーキをかける。その結果、アクセルとブレーキの兼ね合いで扁桃体中心核から出力系が調整されるが、不安障害ではブレーキの効きが悪いために、前述したような視床下部、青斑核(LC)、結合腕傍核といった脳部位を病的に活性化してしまい、様々な身体症状(心拍数の増加、血圧上昇、過呼吸等)を出現させると考えられる。そしてまたこの身体症状を新たな感覚情報として取り込むと、再びこの神経回路が働いてしまうという、負のスパイラルが生じるであろう。そうなると、意識に調節(=前頭前野等の高次機能による抑制)はできなくなり、どんどん悪い方向へ向かってしまうと推定される。このように“stress-induced fear circuitry disorders”というのは、扁桃体が病的に過活動になってしまう、そして本来それを抑制しなければならない[[前頭前野]]あるいは前部帯状回等の機能が低下している病気、と言えるかもしれない(図3参照)。  
 図2は、今まで述べてきた、“stress-induced fear circuit”の模式図である。先ほどから述べているように、感覚情報、例えばPD患者であればパニック発作時の動悸や発汗、息切れ等の身体感覚、SADであれば“人前でのスピーチ(public speaking)”の最中の緊張状態における身体感覚が、まず視床に入る。そして前述した2つのパターンで、一部はすぐに扁桃体に伝わり、他方は海馬や[[前部帯状回]]や前部帯状回を通り高次機能での分析が行われてから、扁桃体に投射する。この経路(青の点線)は抑制系なので、視床からの入力(=アクセル)によって扁桃体が過活動状態になるのにブレーキをかける。その結果、アクセルとブレーキの兼ね合いで扁桃体中心核から出力系が調整されるが、不安障害ではブレーキの効きが悪いために、前述したような視床下部、青斑核(LC)、結合腕傍核といった脳部位を病的に活性化してしまい、様々な身体症状(心拍数の増加、血圧上昇、過呼吸等)を出現させると考えられる。そしてまたこの身体症状を新たな感覚情報として取り込むと、再びこの神経回路が働いてしまうという、負のスパイラルが生じるであろう。そうなると、意識に調節(=前頭前野等の高次機能による抑制)はできなくなり、どんどん悪い方向へ向かってしまうと推定される。このように“stress-induced fear circuitry disorders”というのは、扁桃体が病的に過活動になってしまう、そして本来それを抑制しなければならない[[前頭前野]]あるいは前部帯状回等の機能が低下している病気、と言えるかもしれない(図3参照)。  


 また、[[背側縫線核]]から起こる[[セロトニン神経系]]の投射は、一般に青斑核を抑制するのに対し、青斑核から起こる投射は背側縫線核のセロトニンニューロンを刺激し、[[正中縫線核]]ニューロンを抑制する。さらに、背側縫線核からの投射は、前頭前野、扁桃体、視床下部、中脳水道周囲灰白質等へ伸びている。そのため、セロトニン神経系を調節することによって、「恐怖条件づけ」の神経回路の主要な領域に影響を与えられる可能性があり、[[ノルアドレナリン]]の活性低下、[[コルチコトロピン放出因子]]の放出低下、防衛と逃避行動の修正等が可能となる<ref name="ref17">'''Stein D J'''<br>Cognitive-Affective Neuroscience of Depression and Anxiety Disorders<br>Martin Dunitz, London, 2003.<br>(田島治,荒井まゆみ訳:不安とうつの脳と心のメカニズム:感情と認知のニューロサイエンス,星和書店,東京,2007)</ref>。また、前頭前野(あるいは前部帯状回)の働きにより恐怖条件づけが消去されることがわかっている<ref><pubmed>18668096</pubmed></ref>。[[認知行動療法]](cognitive behavioral therapy, CBT)による治療の際にも、同様のプロセスが生じていると推定される(図5、参照)。
 また、[[背側縫線核]]から起こる[[セロトニン神経系]]の投射は、一般に青斑核を抑制するのに対し、青斑核から起こる投射は背側[[縫線核]]の[[セロトニン]]ニューロンを刺激し、[[正中縫線核]]ニューロンを抑制する。さらに、背側縫線核からの投射は、前頭前野、扁桃体、視床下部、中脳水道周囲灰白質等へ伸びている。そのため、[[セロトニン神経]]系を調節することによって、「恐怖条件づけ」の神経回路の主要な領域に影響を与えられる可能性があり、[[ノルアドレナリン]]の活性低下、[[コルチコトロピン放出因子]]の放出低下、防衛と逃避行動の修正等が可能となる<ref name="ref17">'''Stein D J'''<br>Cognitive-Affective Neuroscience of Depression and Anxiety Disorders<br>Martin Dunitz, London, 2003.<br>(田島治,荒井まゆみ訳:不安とうつの脳と心のメカニズム:感情と認知のニューロサイエンス,星和書店,東京,2007)</ref>。また、前頭前野(あるいは前部帯状回)の働きにより恐怖条件づけが消去されることがわかっている<ref><pubmed>18668096</pubmed></ref>。[[認知行動療法]](cognitive behavioral therapy, [[CBT]])による治療の際にも、同様のプロセスが生じていると推定される(図5、参照)。


== 治療 ==
== 治療 ==
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=== 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 ===  
=== 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 ===  


 前述の治療ガイドラインでは、薬物療法における第一選択薬は、[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]](selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)を挙げている。本邦でも、2008年に[[wikipedia:JA:厚生労働省|厚生労働省]]こころの健康科学事業「パニック障害の治療法の最適化と治療ガイドラインの策定に関する研究班」により作成されたPDに関するハンドブックがあり、こちらも大筋では前述のガイドラインに一致し、本邦で適応が通っている[[wikipedia:ja:パロキセチン | パロキセチン]]か[[wikipedia:ja:セルトラリン|sertraline]]で治療を開始することを推奨している<ref name="ref26">'''竹内龍雄,大野裕,貝谷久宣 他'''<br>パニック障害の治療ガイドライン.パニック障害ハンドブック 治療ガイドラインと診療の実際(熊野宏昭,久保木富房 編<br>pp13-28,医学書院,東京,2008.</ref>。その理由として、選択的セロトニン再取り込み阻害薬の抗パニック効果としては、前述した三還系抗うつ薬と同等であるとされているものの、三還系抗うつ薬は抗コリン作用や[[wikipedia:JA:心血管系|心血管系]]への副作用が強く、忍容性の面で問題があるからである。また、[[wikipedia:venlafaxine|venlafaxine]]のように、[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]](serotonin noradrenalin reuptake inhibitor, SNRI)の中にもPDに有効とされる薬剤もあるが<ref><pubmed>19358784</pubmed></ref><ref><pubmed>16894619</pubmed></ref>、残念ながらわが国では使用できないのが現状である。
 前述の治療ガイドラインでは、薬物療法における第一選択薬は、[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]([[selective serotonin reuptake inhibitor]]:[[SSRI]])を挙げている。本邦でも、2008年に[[wikipedia:JA:厚生労働省|厚生労働省]]こころの健康科学事業「パニック障害の治療法の最適化と治療ガイドラインの策定に関する研究班」により作成されたPDに関するハンドブックがあり、こちらも大筋では前述のガイドラインに一致し、本邦で適応が通っている[[wikipedia:ja:パロキセチン | パロキセチン]]か[[wikipedia:ja:セルトラリン|sertraline]]で治療を開始することを推奨している<ref name="ref26">'''竹内龍雄,大野裕,貝谷久宣 他'''<br>パニック障害の治療ガイドライン.パニック障害ハンドブック 治療ガイドラインと診療の実際(熊野宏昭,久保木富房 編<br>pp13-28,医学書院,東京,2008.</ref>。その理由として、選択的セロトニン再取り込み阻害薬の抗パニック効果としては、前述した三還系[[抗うつ薬]]と同等であるとされているものの、三還系抗うつ薬は抗[[コリン]]作用や[[wikipedia:JA:心血管系|心血管系]]への副作用が強く、忍容性の面で問題があるからである。また、[[wikipedia:venlafaxine|venlafaxine]]のように、[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]]([[serotonin]] noradrenalin reuptake inhibitor, [[SNRI]])の中にもPDに有効とされる薬剤もあるが<ref><pubmed>19358784</pubmed></ref><ref><pubmed>16894619</pubmed></ref>、残念ながらわが国では使用できないのが現状である。


=== ベンゾジアゼピン系抗不安薬 ===  
=== ベンゾジアゼピン系抗不安薬 ===