「ヒストン脱アセチル化酵素」の版間の差分

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== ヒストン脱アセチル化酵素とは ==
== ヒストン脱アセチル化酵素とは ==
 DNAはヒストンに巻き付いてヌクレオソームと呼ばれるユニットにまとめられ、さらにこのユニットを高度に折り畳むことでクロマチンを形成して細胞核にDNAを収納している。ヌクレオソームは、コアヒストンと総称される4種類のヒストン(H2A、H2B、 H3、 H4) の各2分子ずつで形成される8量体の周りに145~147 bp の二本鎖DNAが1.75 回巻き付いた構造を持っている。各々のヒストンには、安定な8量体を形成する際に重要なカルボキシル末端側の「フォールドドメイン」と、DNA が巻き付いた状態でもヌクレオソーム構造から外に突出するような状態で存在し、特定の二次構造を持たないアミノ末端側の「テールドメイン」という二つのドメインを持っている。フォールドドメインはDNA の収納に必須な構造体であるのに対し、テールドメインは細胞内で、アセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化など様々な翻訳後修飾を受けることが知られている。コアヒストンのテールドメインは、正電荷を持つアミノ酸残基に富んでおり、その中の特定の側鎖がアセチル化されると、電荷が変化することでDNA との相互作用が弱まり、ヌクレオソームの構造変化を伴って転写因子などのDNA 結合蛋白質が接近しやすくなる。逆に、HDACの作用によってヒストンが脱アセチル化されると、DNAと強く結合することでクロマチン構造がコンパクトになって標的遺伝子の発現が抑制される。
[[Image:Nm-Kinichinakashima fig 2.png|thumb|350px|'''図1. ヒストンのアセチル化、脱アセチル化による転写活性状態の変化'''<br>
ヒストンがヒストンアセチル基転移酵素 (HAT)によりアセチル化された状態では[[ヒストン]]-[[DNA]]間の結合が緩むことで、TFやPolⅡの結合が可能となり、転写は活性化される。逆に[[ヒストン脱アセチル化酵素]] (HDAC)により、ヒストンが脱アセチル化されるとTF、PolⅡが結合出来ないため転写は抑制される。<br>GTF:general transcription factor:[[基本転写因子]]群、Ac:acetylation:[[アセチル化]]。<br>村尾 直哉作成。[[アセチル化]]の項目より。]]
 DNAはヒストンに巻き付いてヌクレオソームと呼ばれるユニットにまとめられ、さらにこのユニットを高度に折り畳むことでクロマチンを形成して細胞核にDNAを収納している。ヌクレオソームは、コアヒストンと総称される4種類のヒストン(H2A、H2B、 H3、 H4) の各2分子ずつで形成される8量体の周りに145~147 bp の二本鎖DNAが1.75 回巻き付いた構造を持っている。各々のヒストンには、安定な8量体を形成する際に重要なカルボキシル末端側の「フォールドドメイン」と、DNA が巻き付いた状態でもヌクレオソーム構造から外に突出するような状態で存在し、特定の二次構造を持たないアミノ末端側の「テールドメイン」という二つのドメインを持っている。フォールドドメインはDNA の収納に必須な構造体であるのに対し、テールドメインは細胞内で、アセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化など様々な翻訳後修飾を受けることが知られている'''図1'''。コアヒストンのテールドメインは、正電荷を持つアミノ酸残基に富んでおり、その中の特定の側鎖がアセチル化されると、電荷が変化することでDNA との相互作用が弱まり、ヌクレオソームの構造変化を伴って転写因子などのDNA 結合蛋白質が接近しやすくなる。逆に、HDACの作用によってヒストンが脱アセチル化されると、DNAと強く結合することでクロマチン構造がコンパクトになって標的遺伝子の発現が抑制される。


== 分類 ==
== 分類 ==
 現在までに、哺乳動物では18種類のHDACが同定されており、構造の違いからクラスIからクラスIVに大別される。クラスⅠ(HDAC1、2、3、8)、クラスⅡa(HDAC4、5、7、9)、クラスⅡb(HDAC6、10)、クラスⅢ(SIRT1~7)、クラスⅣ(HDAC11)である。HDACは単独の酵素として機能するのではなく、転写因子やコリプレッサーなどを含む複数の構成要素からなる大きな複合体を形成することで脱アセチル化酵素として機能している。
 現在までに、哺乳動物では18種類のHDACが同定されており、構造の違いからクラスIからクラスIVに大別される。クラスⅠ(HDAC1、2、3、8)、クラスⅡa(HDAC4、5、7、9)、クラスⅡb(HDAC6、10)、クラスⅢ(SIRT1~7)、クラスⅣ(HDAC11)である。HDACは単独の酵素として機能するのではなく、転写因子やコリプレッサーなどを含む複数の構成要素からなる大きな複合体を形成することで脱アセチル化酵素として機能している。
{| class="wikitable" style="text-align: center; "
|+ 表. 高等真核生物におけるHDACの分類
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! クラス!! メンバー!!触媒部位!! 細胞内局在!! 組織分布!! 基質!! 結合タンパク質!!ノックアウト表現型
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| rowspan="4"|I|[[HDAC1]]の項参照。|| 1|核|ユビキタス|[[アンドロゲン受容体]]、[[スモールヘテロダイマーパートナー|SHP]]、[[p53]]、[[MyoD]]、[[E2F1]]、[[STAT3]]] 。| -|胚性致死、ヒストンアセチル化の増加、[[p21]]と[[p27(遺伝子)|p27]]の増加。
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| [[HDAC2]] | | 1|核||ユビキタス||[[グルココルチコイド受容体]]、[[YY1]]、[[BCL6]]、[[STAT3]]]。| - | 心筋障害
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| [[HDAC3]] || 1||核||ユビキタス||[[スモールヘテロダイマーパートナー|SHP]]、[[YY1]]、[[GATA1]]、[[RELA]]、[[STAT3]]、[[MEF2D]]]。|[[NCOR1]]<ref>{{cite journal | vauthors = You SH, Lim HW, Sun Z, Broache M, Won KJ, Lazar MA | title = Nuclear receptor corepressors are required for the histone-deacetylase activity of HDAC3 in vivo | journal = Nature Structural & Molecular Biology | volume = 20 | issue = 2 | pages = 182-187 | date = February 2013 | pmid = 23292142 | pmc = 3565028 | doi = 10. 1038/nsmb.2476 }}</ref>|| -
|-
| [[HDAC8]] | 1|核・細胞質||ユビキタス?| - |[[smg5|est1b]]|| -
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| rowspan="4" | IIA || [[HDAC4]] の場合 || 1|核・細胞質|心臓・骨格筋・脳|[[GCM1|GCMA]]、[[GATA1]]、[[ヘテロクロマチンタンパク質1|HP1]]。|| [[RFXANK] | | [[軟骨細胞]]分化の欠陥
|-
| [[HDAC5]] || 1|核・細胞質|心臓・骨格筋・脳|[[GCM1|GCMA]]、[[SMAD7]]、[[ヘテロクロマチンタンパク質1|HP1]]》。|| [[PHB2|REA]]、[[エストロゲン受容体]]。| | 心筋障害
|-
| [[HDAC7]] || 1|核・細胞質・ミトコンドリア||心臓・骨格筋・膵臓・胎盤|| [[PLAG1]],[[PLAG2] |[[HIF1A]], [[BCL6]], [[エンドセリン受容体]], [[ACTN1]], [[ACTN4]], [[アンドロゲン受容体]], [[KAT5|Tip60]]]. | 血管統合性の維持、[[MMP10]]の増加
|-
| [[HDAC9]]である。| | 1|核・細胞質||脳・骨格筋||-|[[FOXP3]]]。| | 心筋障害
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| rowspan="2" | IIB || [[HDAC6]] の場合 || 2||ほとんどが細胞質||心臓、肝臓、腎臓、胎盤|| [[Tubulin#.CE.B1-Tubulin|α-Tubulin]], [[HSP90]], [[Small heterodimer partner|SHP]],[[SMAD7] || [[RUNX2]]です。|| -
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| | [[HDAC10]]
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| rowspan="2" | III|哺乳類の[[サーチュイン]]([[サーチュイン1|SIRT1]], [[SIRT2]], [[SIRT3]], [[SIRT4]], [[SIRT5]], [[SIRT6]], [[SIRT7]]) || - || - || - || - || - || -
|-
| iv|[[hdac11]]の場合。
|}


== 発現 ==
== 発現 ==