「プリオン」の版間の差分

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&nbsp;英 prion<br>プリオンとはタンパク質からなる感染性因子のことであり、ミスフォールドしたタンパク質が、その構造を伝えることによって伝播すると考えられる<ref><pubmed> 9811807 </pubmed></ref>。他の感染性因子と異なり、プリオンにはDNAやRNAといった核酸は含まれていないと考えられている。プリオンは、哺乳類において、狂牛病やクロイツフェルト・ヤコブ病などの伝達性海綿状脳症の原因となることが知られており、これらの病気はプリオン病と呼ばれている。プリオン病は脳などの神経組織の構造に影響を及ぼす極めて進行が速い疾患として知られており、治療法が確立していない致死性の疾患である。哺乳類のプリオン病は、ミスフォールドしたプリオンタンパク質(PrP)によって引き起こされると考えられている。すなわち、ミスフォールドしたPrPが健康な個体に感染すると、健康な個体に存在していた正常な構造のPrPがミスフォールドしたPrPへの構造変換が起きる。つまりミスフォールドしたPrPは他のPrPの構造変換を引き起こす鋳型としてふるまっていると考えられている。このミスフォールドしたPrPをPrPScと、正常型をPrPCと表記される。<br>プリオンはミスフォールドした異常型タンパク質の構造が、正常型タンパク質の構造を異常型へと変換することによって感染・伝播すると考えられている。プリオンとなるタンパク質は、異常型構造としてアミロイドと呼ばれるβシート構造に富んだ不溶性タンパク質凝集体を形成するとされている<ref><pubmed> 22424229 </pubmed></ref>。可溶性の正常型タンパク質がアミロイドに重合していくことによって、構造変化がおこり異常型タンパク質の構造へと変化すると考えられている。また、アミロイドは物理的にも化学的にも非常に安定な構造であり、このことがプリオン病の封じ込めを困難にしていると考えられる。<br>哺乳類以外にも菌類やアメフラシでもプリオンが存在することが知られている。ここでいうプリオンとは、タンパク質からなる細胞質性の遺伝因子という意味である。つまり、あるタンパク質が可溶性の正常型構造と不溶性のアミロイド構造をとることによって異なる機能となることであり、タンパク質の構造が伝播することによって遺伝因子となることである。哺乳類以外のプリオンは疾病というよりむしろ、何らかの細胞機能を担っているのではないかと考えられている。
&nbsp;英 prion<br>プリオンとはタンパク質からなる感染性因子のことであり、ミスフォールドしたタンパク質が、その構造を伝えることによって伝播すると考えられる<ref><pubmed> 9811807 </pubmed></ref>。他の感染性因子と異なり、プリオンにはDNAやRNAといった核酸は含まれていないと考えられている。プリオンは、哺乳類において、狂牛病やクロイツフェルト・ヤコブ病などの伝達性海綿状脳症の原因となることが知られており、これらの病気はプリオン病と呼ばれている。プリオン病は脳などの神経組織の構造に影響を及ぼす極めて進行が速い疾患として知られており、治療法が確立していない致死性の疾患である。哺乳類のプリオン病は、ミスフォールドしたプリオンタンパク質(PrP)によって引き起こされると考えられている。すなわち、ミスフォールドしたPrPが健康な個体に感染すると、健康な個体に存在していた正常な構造のPrPがミスフォールドしたPrPへの構造変換が起きる。つまりミスフォールドしたPrPは他のPrPの構造変換を引き起こす鋳型としてふるまっていると考えられている。このミスフォールドしたPrPをPrPScと、正常型をPrPCと表記される。<br>プリオンはミスフォールドした異常型タンパク質の構造が、正常型タンパク質の構造を異常型へと変換することによって感染・伝播すると考えられている。プリオンとなるタンパク質は、異常型構造としてアミロイドと呼ばれるβシート構造に富んだ不溶性タンパク質凝集体を形成するとされている<ref><pubmed> 22424229 </pubmed></ref>。可溶性の正常型タンパク質がアミロイドに重合していくことによって、構造変化がおこり異常型タンパク質の構造へと変化すると考えられている。また、アミロイドは物理的にも化学的にも非常に安定な構造であり、このことがプリオン病の封じ込めを困難にしていると考えられる。<br>哺乳類以外にも菌類やアメフラシでもプリオンが存在することが知られている<ref><pubmed> 22879407 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14697205 </pubmed></ref>。ここでいうプリオンとは、タンパク質からなる細胞質性の遺伝因子という意味である。つまり、あるタンパク質が可溶性の正常型構造と不溶性のアミロイド構造をとることによって異なる機能となることであり、タンパク質の構造が伝播することによって遺伝因子となることである。哺乳類以外のプリオンは疾病というよりむしろ、何らかの細胞機能を担っているのではないかと考えられている。


歴史<br>プリオン研究の歴史は、18世紀にイギリスでヒツジやヤギのスクレイピーが記録されたことから始まると考えられる。ヒトでは1920年と1921年にCreutzfeldtとJakobによってクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease: CJD)が報告された。1936 年には、現在はプリオン病であると考えられているゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(Gerstmann-Straussler-<br>Scheinker syndrome: GSS)が報告された。1947年には伝達性ミンク脳症の発生が報告された。1957年には、Gajdusekらによってパプア・ニューギニアにおけるクール―が報告され、1959年にはクール―とCJDとの類似性が指摘されている。1976年、Gajdusekがノーベル医学・生理学賞を受賞した。1982年、Prusinerがスクレイピー感染脳を用いた実験からproteinaceous infectious particlesの概念を提唱し、この感染性因子をprionと命名した(prion仮説の提唱)。1986年、ウシ海綿状脳症(BSE)の発生がイギリスで報告され、1987年には人由来乾燥硬膜移植による医源性CJDが発生し、1996年にはBSE由来とされる変異型CJD (vCJD)が報告された。1997年にはPrusinerがノーベル医学・生理学賞を受賞した。  
歴史<br>プリオン研究の歴史は、18世紀にイギリスでヒツジやヤギのスクレイピーが記録されたことから始まると考えられる。ヒトでは1920年と1921年にCreutzfeldtとJakobによってクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease: CJD)が報告された。1936 年には、現在はプリオン病であると考えられているゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(Gerstmann-Straussler-<br>Scheinker syndrome: GSS)が報告された。1947年には伝達性ミンク脳症の発生が報告された。1957年には、Gajdusekらによってパプア・ニューギニアにおけるクール―が報告され、1959年にはクール―とCJDとの類似性が指摘されている。1976年、Gajdusekがノーベル医学・生理学賞を受賞した。1982年、Prusinerがスクレイピー感染脳を用いた実験からproteinaceous infectious particlesの概念を提唱し、この感染性因子をprionと命名した(prion仮説の提唱)。1986年、ウシ海綿状脳症(BSE)の発生がイギリスで報告され、1987年には人由来乾燥硬膜移植による医源性CJDが発生し、1996年にはBSE由来とされる変異型CJD (vCJD)が報告された。1997年にはPrusinerがノーベル医学・生理学賞を受賞した。  
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