「プレパルス・インヒビション」の版間の差分

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 ヒトのPPIは測定毎のばらつきが少ない安定した指標と考えられているが、性別(とくに女性の場合、月経周期) <ref name=ref6><pubmed> 21374020 </pubmed></ref>や喫煙<ref name=ref1 />などの影響を受けることも知られている。女性は男性に比べ、PPIが減弱しており、性周期による変動が見られ、[[wikipedia:JA:卵胞期|卵胞期]]は男性と変わらないが[[wikipedia:JA:黄体期|黄体期]]に男性より低くなる。喫煙によりPPIが増強するが、喫煙10分後には有意な増強効果を認めなくなる。
 ヒトのPPIは測定毎のばらつきが少ない安定した指標と考えられているが、性別(とくに女性の場合、月経周期) <ref name=ref6><pubmed> 21374020 </pubmed></ref>や喫煙<ref name=ref1 />などの影響を受けることも知られている。女性は男性に比べ、PPIが減弱しており、性周期による変動が見られ、[[wikipedia:JA:卵胞期|卵胞期]]は男性と変わらないが[[wikipedia:JA:黄体期|黄体期]]に男性より低くなる。喫煙によりPPIが増強するが、喫煙10分後には有意な増強効果を認めなくなる。


 PPIに関しては、薬物、特に[[抗精神病薬]]の影響も多く研究されている<ref name=ref2 />。動物に[[ドーパミン]]作動薬を投与するとPPIが低下し、抗精神病薬で回復することから、PPIは抗精神病薬のスクリーニングテストとして前臨床試験の重要な指標と考えられ、動物を用いた研究が多くなされており、[[ドーパミン神経系]]・[[セロトニン神経系]]・[[グルタミン酸]]系・[[コリン]]系など複数の神経系がPPIに関連していることが報告されている。[[統合失調症]]患者を対象とした研究では、抗精神病薬、特に[[非定型抗精神病薬]]の投与により[[統合失調症]]患者のPPIの障害が改善するという報告が多い。
 PPIに関しては、薬物、特に[[抗精神病薬]]の影響も多く研究されている<ref name=ref2 />。動物に[[ドーパミン]]作動薬を投与するとPPIが低下し、抗精神病薬で回復することから、PPIは抗精神病薬のスクリーニングテストとして前臨床試験の重要な指標と考えられ、動物を用いた研究が多くなされており、[[ドーパミン神経系]]・[[セロトニン神経系]]・[[グルタミン酸]]系・[[コリン]]系など複数の神経系がPPIに関連していることが報告されている。[[統合失調症]]患者を対象とした研究では、抗精神病薬、特に[[非定型抗精神病薬]]の投与により統合失調症患者のPPIの障害が改善するという報告が多い。


 他にも、[[カフェイン]]や[[大麻]]、[[アンフェタミン]]などの影響も報告されている<ref name=ref1 />。
 他にも、[[カフェイン]]や[[大麻]]、[[アンフェタミン]]などの影響も報告されている<ref name=ref1 />。
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==脳部位==
==脳部位==


 動物を使った多数の基礎的研究から、PPIを構成する神経回路網が同定されている<ref name=ref7><pubmed> 11549223 </pubmed></ref>。[[聴覚性驚愕反射]]は、[[聴覚神経]]から[[尾側橋網様体核]]を介して[[脊髄運動神経核]]に伝えられことで引き起こされ、先行音による信号は、[[辺縁系皮質]]-[[線条体]]―[[淡蒼球]]―[[橋]]より尾側橋網様体核に至る神経回路を介して後続する驚愕音刺激に対する驚愕反射を抑制する。最近、[[positron emission tomography]] (PET) や anatomical/[[functional magnetic resonance imaging]] (MRI)などを用いてヒトのPPIに関する脳画像研究も行われており、[[前頭葉]]―[[線条体]]―[[視床]]回路がヒトのPPIと関連していると考えられる<ref name=ref1 />。
 動物を使った多数の基礎的研究から、PPIを構成する神経回路網が同定されている<ref name=ref7><pubmed> 11549223 </pubmed></ref>。[[聴覚性驚愕反射]]は、[[聴覚神経]]から[[尾側橋網様体核]]を介して[[脊髄運動神経核]]に伝えられことで引き起こされ、先行音による信号は、[[辺縁系皮質]][[線条体]]―[[淡蒼球]]―[[橋]]より尾側橋網様体核に至る神経回路を介して後続する驚愕音刺激に対する驚愕反射を抑制する。最近、[[positron emission tomography]] (PET) や anatomical/[[functional magnetic resonance imaging]] (MRI)などを用いてヒトのPPIに関する脳画像研究も行われており、[[前頭葉]]―[[線条体]]―[[視床]]回路がヒトのPPIと関連していると考えられる<ref name=ref1 />。


==遺伝子多型 ==
==遺伝子多型 ==


 近年PPIと[[遺伝子多型]]との関連について多くの報告があり、これらには[[カテコールO-メチル基転移酵素]](COMT) Val158Met、ドーパミンD3受容体(DRD3) Ser9Gly、[[ニューレグリン]]1(NRG1) Arg38Gln、セロトニン2A受容体(5-HT2AR) A1438G/T102C、[[ニコチン性アセチルコリン受容体]](nAChR)のα3サブユニット(CHRNA3)、v-rel avian reticuloendotheliosis viral oncogene homolog A (RELA) geneなど、多くの[[遺伝子多型]]が含まれる。これらの報告は、PPIが複数の神経系に関連したpolygenetic traitであり、genetic studyにおけるエンドフェノタイプの使用を支持していると考えられる<ref name=ref1 />。  
 近年PPIと[[遺伝子多型]]との関連について多くの報告があり、これらには[[カテコールO-メチル基転移酵素]](COMT) Val158Met、ドーパミンD3受容体(DRD3) Ser9Gly、[[ニューレグリン]]1(NRG1) Arg38Gln、セロトニン2A受容体(5-HT2AR) A1438G/T102C、[[ニコチン性アセチルコリン受容体]](nAChR)のα3サブユニット(CHRNA3)、v-rel avian reticuloendotheliosis viral oncogene homolog A (RELA) geneなど、多くの遺伝子多型が含まれる。これらの報告は、PPIが複数の神経系に関連したpolygenetic traitであり、genetic studyにおけるエンドフェノタイプの使用を支持していると考えられる<ref name=ref1 />。  


==統合失調症とPPI==
==統合失調症とPPI==


 統合失調症のPPIに関する研究は1978年に初めて報告されて以後さかんに行われており、PPIは、[[統合失調症]]の[[エンドフェノタイプ]]として、最もよく用いられる精神生理学的指標の一つである<ref name=ref2 />。[[統合失調症]]患者におけるPPIの低下は、一貫して報告されている。服薬歴のない初発の患者群や患者の第一親等で症状のない家族、[[統合失調症]]型人格障害患者でもPPIの減弱を認めている。PPIのheritabilityは32-50%と報告されている。ヨーロッパ系人種とアジア系人種、アフリカ系人種との間に、PPIを含む聴覚性驚愕反射の制御機構のプロフィールが異なるという報告があるが、最近、アジア系人種を対象にした研究が行われており、いずれも[[統合失調症]]患者のPPIは健常群より減弱していた。また、欧米の研究同様、日本人においても健常者のPPIはschizotypal personalityと負の相関を認めた。[[統合失調症]]のPPIの障害は、人種を超えて存在すると考えられる。
 統合失調症のPPIに関する研究は1978年に初めて報告されて以後さかんに行われており、PPIは、統合失調症のエンドフェノタイプとして、最もよく用いられる精神生理学的指標の一つである<ref name=ref2 />。統合失調症患者におけるPPIの低下は、一貫して報告されている。服薬歴のない初発の患者群や患者の第一親等で症状のない家族、統合失調症型人格障害患者でもPPIの減弱を認めている。PPIのheritabilityは32-50%と報告されている。ヨーロッパ系人種とアジア系人種、アフリカ系人種との間に、PPIを含む聴覚性驚愕反射の制御機構のプロフィールが異なるという報告があるが、最近、アジア系人種を対象にした研究が行われており、いずれも統合失調症患者のPPIは健常群より減弱していた。また、欧米の研究同様、日本人においても健常者のPPIはschizotypal personalityと負の相関を認めた。統合失調症のPPIの障害は、人種を超えて存在すると考えられる。


 最近は、精神病状態の前駆期あるいはultra-high risk (UHR) を対象にした研究も増えており、PPIは、精神病状態の前駆期あるいはUHRに関連し、早期発見などに有用な指標の一つとなる可能性が示唆される<ref name=ref1 />。
 最近は、精神病状態の前駆期あるいはultra-high risk (UHR) を対象にした研究も増えており、PPIは、精神病状態の前駆期あるいはUHRに関連し、早期発見などに有用な指標の一つとなる可能性が示唆される<ref name=ref1 />。
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(執筆者:高橋秀俊 担当編集委員:加藤忠史)
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