「プロスタグランジン」の版間の差分

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 これらPG受容体は組織、細胞レベルの発現分布や[[細胞内情報伝達]]が異なることで、特異的な機能を発揮すると考えられている<ref name="ref3" />。DP2以外の八種の受容体はプロスタノイド受容体ファミリーを形成し、細胞内情報伝達とその作用からrelaxant receptor、contractile receptor、inhibitory receptorの三種に分類されている<ref name="ref3" />。Relaxant receptorは主に[[Gs]]を介して[[CAMP]]上昇を惹起し[[平滑筋]]の弛緩を誘導する受容体で、DP1、EP2、EP4、IPを含む。Contractile receptorは主に細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇を惹起し平滑筋の収縮を誘導する受容体で、TP、FP、EP1を含む。Inhibitory receptorは主に[[Gi]]を介するcAMP抑制により平滑筋の弛緩を抑制する受容体で、EP3を含む。但し、EP3にはマウスでは三種、ヒトでは四種のalternative splicingアイソフォームが存在し、ヒトTPにもαとβと呼ばれる二つのアイソフォームが存在する。これらのアイソフォームは異なる細胞内情報伝達に共役することが知られている。DP2は他の八種の受容体とは別のファミリーに属し、CRTH2やGPR44とも称される<ref name="ref15"><pubmed>12895600</pubmed></ref>。Giと共役して[[Th2細胞]]、[[wikipedia:ja:好酸球|好酸球]]、[[wikipedia:ja:好塩基球|好塩基球]]の遊走を誘導することが知られている。  
 これらPG受容体は組織、細胞レベルの発現分布や[[細胞内情報伝達]]が異なることで、特異的な機能を発揮すると考えられている<ref name="ref3" />。DP2以外の八種の受容体はプロスタノイド受容体ファミリーを形成し、細胞内情報伝達とその作用からrelaxant receptor、contractile receptor、inhibitory receptorの三種に分類されている<ref name="ref3" />。Relaxant receptorは主に[[Gs]]を介して[[CAMP]]上昇を惹起し[[平滑筋]]の弛緩を誘導する受容体で、DP1、EP2、EP4、IPを含む。Contractile receptorは主に細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇を惹起し平滑筋の収縮を誘導する受容体で、TP、FP、EP1を含む。Inhibitory receptorは主に[[Gi]]を介するcAMP抑制により平滑筋の弛緩を抑制する受容体で、EP3を含む。但し、EP3にはマウスでは三種、ヒトでは四種のalternative splicingアイソフォームが存在し、ヒトTPにもαとβと呼ばれる二つのアイソフォームが存在する。これらのアイソフォームは異なる細胞内情報伝達に共役することが知られている。DP2は他の八種の受容体とは別のファミリーに属し、CRTH2やGPR44とも称される<ref name="ref15"><pubmed>12895600</pubmed></ref>。Giと共役して[[Th2細胞]]、[[wikipedia:ja:好酸球|好酸球]]、[[wikipedia:ja:好塩基球|好塩基球]]の遊走を誘導することが知られている。  


 このように、プロスタグランジンの生合成や作用に関わる分子種は多岐にわたるが、PGを標的とした従来の化合物は特異性が低く、各種PGの作用機序は長らく不明であった。PG生合成酵素群やPG受容体の同定とクローニングが進み、[[遺伝子欠損マウス]]や特異的阻害薬が開発されたことで、各種PGとその受容体の特異的な役割が解明されてきた。本稿では、脳機能と関連の深い機能に限って紹介する。<br>
 このように、プロスタグランジンの生合成や作用に関わる分子種は多岐にわたるが、PGを標的とした従来の化合物は特異性が低く、各種PGの作用機序は長らく不明であった。PG生合成酵素群やPG受容体の同定とクローニングが進み、[[遺伝子欠損マウス]]や特異的阻害薬が開発されたことで、各種PGとその受容体の特異的な役割が解明されてきた。本稿では、脳機能と関連の深い機能に限って紹介する。<br>  
 
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{| width="974" height="455" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1"
|-
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | ファミリー
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | 受容体
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | 主な内因性リガンド
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | 主な細胞内シグナル
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | 神経機能に関わる主な役割
|-
| rowspan="4" | プロスタノイド受容体ファミリー<br>Relaxant receptor
| DP1
| PGD<sub>2</sub>
| G<sub>s</sub>: cAMP上昇
| 睡眠促進、摂食促進、筋萎縮性側索硬化症モデル
|-
| EP2
| PGE<sub>2</sub>
| G<sub>s</sub>: cAMP上昇
| 疼痛、長期的空間学習、文脈型恐怖条件付け、<br>シナプス長期可塑性、興奮性神経細胞死、<br>アルツハイマー病モデル、筋萎縮性側索硬化症モデル
|-
| EP4
| PGE<sub>2</sub>
| G<sub>s</sub>: cAMP上昇
| 覚醒促進、摂食抑制、アルツハイマー病モデル
|-
| IP
| PGI<sub>2</sub>
| G<sub>s</sub>: cAMP上昇
| 疼痛
|-
| rowspan="3" | プロスタノイド受容体ファミリー<br>Contractile receptor
| EP1
| PGE<sub>2</sub>
| 細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇<br>(G蛋白は不明)
| 末梢炎症によるACTH分泌、疼痛、<br>衝動性抑制、慢性ストレスによる抑うつ・不安、<br>コカインによる運動刺激作用、<br>興奮性神経細胞死、アルツハイマー病モデル
|-
| FP
| PGF<sub>2α</sub>
| G<sub>q</sub>: 細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇、PI代謝回転
|
|-
| TP
| TXA<sub>2</sub>
| G<sub>q</sub>: 細胞内Ca<sup>2+</sup>上昇、PI代謝回転
|
|-
| プロスタノイド受容体ファミリー<br>Inhibitory receptor
| EP3
| PGE<sub>2</sub>
| G<sub>i</sub>: cAMP減少
| 末梢炎症による発熱・ACTH分泌、疼痛、<br>シナプス長期可塑性、興奮性神経細胞死
|-
| 白血球遊走因子受容体ファミリー
| DP2
| PGD<sub>2</sub>とその活性代謝物<br>(Δ<sup>12</sup>-PGD<sub>2</sub>など)
| G<sub>i</sub>: cAMP減少
|
|}


== 脳機能におけるプロスタグランジンの役割  ==
== 脳機能におけるプロスタグランジンの役割  ==