「ホスファチジルイノシトール」の版間の差分

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=== PI(3)P  ===
=== PI(3)P  ===
 
====生合成====
 PI(3)Pは酵母から哺乳類まで保存されたホスファチジルイノシトールであり、主に[[初期エンドソーム]]やエンドソーム中にさらに小さな小胞が存在するmulti-vesicular endosome (MVE)と呼ばれる構造に存在するが、細胞膜、[[wikipedia:ja:クラスリン|クラスリン]]被覆小胞や核にも存在することが知られている。  
 PI(3)Pは酵母から哺乳類まで保存されたホスファチジルイノシトールであり、主に[[初期エンドソーム]]やエンドソーム中にさらに小さな小胞が存在するmulti-vesicular endosome (MVE)と呼ばれる構造に存在するが、細胞膜、[[wikipedia:ja:クラスリン|クラスリン]]被覆小胞や核にも存在することが知られている。  


 PI(3)Pの生合成はPIがリン酸化される経路とPI(3,5)P2が脱リン酸化される経路が存在する。細胞膜やクラスリン被覆小胞ではPIがクラスIIのPI3キナーゼによってリン酸化されPI(3)Pが産生される。細胞膜ではPI(3)Pは恒常的には存在しておらず、増殖因子などの刺激依存的に一過的に産生されている。一方、エンドソームに局在するPI(3)Pは主にクラスIIIのPI3キナーゼである[[wikipedia:Vps34]]によって産生される。Vps34はPIのみを基質としてPI(3)Pを産生する酵素である。エンドソームにはSACファミリーの[[ホスファターゼ]]である[[wikipedia:FIG4|Fig4]]/SAC3によってPI(3,5)P2が脱リン酸化されてPI(3)Pが産生される経路も存在し、エンドソームでの小胞輸送を制御している。一方、myotubularinファミリーのホスファターゼであるMTM1やMTMR2はPI(3)Pを脱リン酸化して細胞内PI(3)P量を調節する役割を担っている。  
 PI(3)Pの生合成はPIがリン酸化される経路とPI(3,5)P2が脱リン酸化される経路が存在する。細胞膜やクラスリン被覆小胞ではPIがクラスIIのPI3キナーゼによってリン酸化されPI(3)Pが産生される。細胞膜ではPI(3)Pは恒常的には存在しておらず、増殖因子などの刺激依存的に一過的に産生されている。一方、エンドソームに局在するPI(3)Pは主にクラスIIIのPI3キナーゼである[[wikipedia:Vps34]]によって産生される。Vps34はPIのみを基質としてPI(3)Pを産生する酵素である。エンドソームにはSACファミリーの[[ホスファターゼ]]である[[wikipedia:FIG4|Fig4]]/SAC3によってPI(3,5)P2が脱リン酸化されてPI(3)Pが産生される経路も存在し、エンドソームでの小胞輸送を制御している。一方、myotubularinファミリーのホスファターゼであるMTM1やMTMR2はPI(3)Pを脱リン酸化して細胞内PI(3)P量を調節する役割を担っている。  
 
====機能====
 PI(3)Pはエンドソームの融合に重要である。PI(3)Pは[[wikipedia:FYVE_domain|FYVE]]ドメインや[[wikipedia:Phox_domain|phox]]ドメインを持つ分子をエンドソームに局在させる<ref><pubmed>18784754<pubmed></ref>。例えば、[[wikipedia:EEA1|EEA]]1はそのFYVEドメインでPI(3)Pと結合し、一方で[[Rab]]5 GTPaseを結合してエンドソーム融合を促進する。実際細胞内のPI(3)Pを取り除くと、初期エンドソームを介したタンパク質の輸送が遅くなったり、[[wikipedia:ja:増殖因子|増殖因子]]受容体の[[wikipedia:ja:リソソーム|リソソーム]]への取込みが阻害されたりする。インスリンシグナルにおけるグルコーストランスポーターGLUT4の細胞膜への移行にもPI(3)Pが正の役割を果たしていることが明らかとなっている。最近、PI(3)Pがアミノ酸飢餓などによって誘導される[[wikipedia:ja:オートファジー|オートファジー]]構造(オートプァゴソーム)の形成に積極的な働きをすることが明らかとなった。この構造は細胞における病原体の感染防御に必要であるが、Vps34とAtg6, Bif-1などの分子が結合してこの構造の形成が促進され、同時にPI(3)Pが産生される。PI(3)Pはオートファゴソームの形成に直接関与しているだけでなく、オートファジー形成を促進する[[mTOR]]の活性化も制御している。mTORはがんや糖尿病と密接な関係があるが、PI(3)Pとこれらの病気の関係は明らかになっていない。
 PI(3)Pはエンドソームの融合に重要である。PI(3)Pは[[wikipedia:FYVE_domain|FYVE]]ドメインや[[wikipedia:Phox_domain|phox]]ドメインを持つ分子をエンドソームに局在させる<ref><pubmed>18784754<pubmed></ref>。例えば、[[wikipedia:EEA1|EEA]]1はそのFYVEドメインでPI(3)Pと結合し、一方で[[Rab]]5 GTPaseを結合してエンドソーム融合を促進する。実際細胞内のPI(3)Pを取り除くと、初期エンドソームを介したタンパク質の輸送が遅くなったり、[[wikipedia:ja:増殖因子|増殖因子]]受容体の[[wikipedia:ja:リソソーム|リソソーム]]への取込みが阻害されたりする。インスリンシグナルにおけるグルコーストランスポーターGLUT4の細胞膜への移行にもPI(3)Pが正の役割を果たしていることが明らかとなっている。最近、PI(3)Pがアミノ酸飢餓などによって誘導される[[wikipedia:ja:オートファジー|オートファジー]]構造(オートプァゴソーム)の形成に積極的な働きをすることが明らかとなった。この構造は細胞における病原体の感染防御に必要であるが、Vps34とAtg6, Bif-1などの分子が結合してこの構造の形成が促進され、同時にPI(3)Pが産生される。PI(3)Pはオートファゴソームの形成に直接関与しているだけでなく、オートファジー形成を促進する[[mTOR]]の活性化も制御している。mTORはがんや糖尿病と密接な関係があるが、PI(3)Pとこれらの病気の関係は明らかになっていない。