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英語名:Phospholipase C 英語略名:PLC  
英語名:Phospholipase C 英語略名:PLC  


<br>  フォスフォリパーゼ C(phospholipase C、PLC)は、生体膜の主要成分であるリン脂質を加水分解する酵素群(phospholipase)の中の、グリセロールとリン酸の間のエステル結合を加水分解する酵素の総称である。PLCは受容体刺激により活性化され、主な基質であるフォスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate, PIP<sub>2</sub>)を、イノシトール1,4,5-三リン酸(inositol 1,4,5-triphosphate, IP<sub>3</sub>)とジアシルグリセロール(diacylglycerol, DAG)に分解する。この反応により生じる(1)PIP<sub>2</sub>低下、(2)IP<sub>3</sub>生成、(3)DAG生成、はそれぞれシグナルとして働き細胞内で多様な反応を引き起こす。例えば、(1)PIP<sub>2</sub>低下はイオンチャネルの働きを変化させ、(2)IP<sub>3</sub>はIP<sub>3</sub>受容体を介する小胞体からのCa<sup>2+</sup>放出により細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度を局所的に上昇させ、(3) DAGはプロテインキナーゼC(protein kinase C, PKC)やTRPCチャネルを活性化する。また、DAGがジアシルグリセロールリパーゼ(diacylglycerol lipase, DGL)により分解されると、内因性カンナビノイドである2-アラキドノイルグリセロール(2-arachidonoylglycerol, 2-AG)が生成され、それはさらにカンナビノイド受容体(CB1, CB2)を介して様々な反応を引き起こす(図 1)。  
 フォスフォリパーゼ C(phospholipase C、PLC)は、[[wikipedia:ja:生体膜|生体膜]]の主要成分である[[wikipedia:ja:リン脂質|リン脂質]]を[[wikipedia:ja:加水分解|加水分解]]する[[wikipedia:ja:酵素|酵素]]群(phospholipase)の中の、[[wikipedia:ja:リン|リン]]グリセロールと[[wikipedia:ja:リン|リン]]リン酸の間の[[wikipedia:ja:リン|リン]]エステル結合を加水分解する酵素の総称である。
[[wikipedia:ja:リン|リン]]
 
==活性==
 
 PLCは、生体膜の主要成分であるリン脂質を加水分解する酵素群の中の、グリセロールとリン酸の間のエステル結合を加水分解する酵素の総称である。PLCは[[受容体]]刺激により活性化され、主な基質である[[フォスファチジルイノシトール4,5-二リン酸]](phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate, PIP<sub>2</sub>)を、[[イノシトール1,4,5-三リン酸]](inositol 1,4,5-triphosphate, IP<sub>3</sub>)と[[ジアシルグリセロール]](diacylglycerol, DAG)に分解する。この反応により生じる(1)PIP<sub>2</sub>低下、(2)IP<sub>3</sub>生成、(3)DAG生成、はそれぞれシグナルとして働き細胞内で多様な反応を引き起こす。例えば、(1)PIP<sub>2</sub>低下は[[イオンチャネル]]の働きを変化させ、(2)IP<sub>3</sub>はIP<sub>3</sub>受容体を介する[[小胞体]]からのCa<sup>2+</sup>放出により[[細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度]]を局所的に上昇させ、(3) DAGは[[プロテインキナーゼC]](protein kinase C, PKC)や[[TRPCチャネル]]を活性化する。また、DAGが[[ジアシルグリセロールリパーゼ]](diacylglycerol lipase, DGL)により分解されると、内因性[[カンナビノイド]]である[[2-アラキドノイルグリセロール]](2-arachidonoylglycerol, 2-AG)が生成され、それはさらに[[カンナビノイド受容体]](CB1, CB2)を介して様々な反応を引き起こす(図 1)。  


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== 分子構造による分類  ==
== 分子構造による分類  ==


 PLCは構造的にβ、γ、δ、ε、ζ、ηの6つのタイプに分類され、哺乳動物ではβ1-4、γ1-2、δ1,3-4、ε、ζ、η1-2の合わせて13種類のサブタイプが同定されている。また、いくつかのサブタイプについてはsplicing variantが報告されている。splicing variantの一部を除くと、すべてのPLCは酵素活性を司るXドメインとYドメインの他に、さまざまなシグナル関連物質と相互作用するPHドメイン(ζ型を除く)、Ca<sup>2+</sup>結合能を有するEFハンドモチーフおよびC2ドメインを共通に有する(図2)。これらの基本的なドメイン構造に加え、PLCγではSrc相同ドメインのSH2およびSH3, PLCεではRasGEF(Ras guanine nucleotide exchange factor)様ドメインおよびRA(Ras association)ドメインなど、各タイプに特徴的なドメイン構造がみられる。  
 PLCは構造的にβ、γ、δ、ε、ζ、ηの6つのタイプに分類され、[[wikipedia:ja:リン|リン]]哺乳動物ではβ1-4、γ1-2、δ1,3-4、ε、ζ、η1-2の合わせて13種類のサブタイプが同定されている。また、いくつかのサブタイプについてはsplicing variantが報告されている。splicing variantの一部を除くと、すべてのPLCは酵素活性を司るXドメインとYドメインの他に、さまざまなシグナル関連物質と相互作用するPHドメイン(ζ型を除く)、Ca<sup>2+</sup>結合能を有する[[wikipedia:ja:リン|リン]]EFハンドモチーフおよび[[wikipedia:ja:リン|リン]]C2ドメインを共通に有する(図2)。これらの基本的なドメイン構造に加え、PLCγでは[[wikipedia:ja:リン|リン]]Src相同ドメインのSH2およびSH3, PLCεでは[[wikipedia:ja:リン|リン]]RasGEF(Ras guanine nucleotide exchange factor)様ドメインおよび[[wikipedia:ja:リン|リン]]RA(Ras association)ドメインなど、各タイプに特徴的なドメイン構造がみられる。  


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=== PLCβ  ===
=== PLCβ  ===


 PLCβ1, 3, 4は脳で発現が高いが、その分布は脳領域により異なる。PLCβ1は主に大脳で、PLCβ3 は小脳尾側部で、PLCβ4は小脳吻側部、視床、脳幹に分布する<ref><pubmed>9753089</pubmed></ref>。PLCβ2は脳での発現は低い。脳以外の部位としては、PLCβ2は造血組織由来細胞で、PLCβ3は肝臓、耳下腺で、PLCβ4は網膜に多く分布する。
 PLCβ1, 3, 4は脳で発現が高いが、その分布は脳領域により異なる。PLCβ1は主に[[大脳]]で、PLCβ3 は[[小脳]]尾側部で、PLCβ4は小脳吻側部、[[視床]]、[[脳幹]]に分布する<ref><pubmed>9753089</pubmed></ref>。PLCβ2は脳での発現は低い。脳以外の部位としては、PLCβ2は[[wikipedia:ja:リン|リン]]造血組織由来細胞で、PLCβ3は[[wikipedia:ja:リン|リン]]肝臓、[[wikipedia:ja:リン|リン]]耳下腺で、PLCβ4は[[網膜]]に多く分布する。


=== PLCγ  ===
=== PLCγ  ===


 PLCγ1は脳および胎生組織で発現が高く、脳内では広く分布している。一方、PLCγ2は造血組織由来細胞で発現が高く、脳内では下垂体前葉や小脳などの限られた領域に選択的に発現している。
 PLCγ1は脳および胎生組織で発現が高く、脳内では広く分布している。一方、PLCγ2は造血組織由来細胞で発現が高く、脳内では[[下垂体前葉]]や小脳などの限られた領域に選択的に発現している。


=== PLCδ  ===
=== PLCδ  ===


 PLCδはPLCβやPLCγに比べると相対的に量は少ない。PLCδ1はPLCδタイプの中で最も量が多くかつ広く分布しており、高発現組織は骨格筋、脾臓、精巣、肺などである。脳では主にアストログリアに発現し、ニューロンでは少ない。PLCδ3は腎臓および心臓に、PLCδ4は脳、骨格筋、精巣、腎臓に発現している。
 PLCδはPLCβやPLCγに比べると相対的に量は少ない。PLCδ1はPLCδタイプの中で最も量が多くかつ広く分布しており、高発現組織は[[wikipedia:ja:リン|リン]]骨格筋、[[wikipedia:ja:リン|リン]]脾臓、[[wikipedia:ja:リン|リン]]精巣、[[wikipedia:ja:リン|リン]]肺などである。脳では主に[[アストログリア]]に発現し、ニューロンでは少ない。PLCδ3は[[wikipedia:ja:リン|リン]]腎臓および[[wikipedia:ja:リン|リン]]心臓に、PLCδ4は脳、骨格筋、精巣、腎臓に発現している。


=== PLCε  ===
=== PLCε  ===
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=== PLCη  ===
=== PLCη  ===


 PLCη1およびPLCη2は神経系で発現が高く、大脳皮質、海馬、小脳、嗅球で発現が高い。
 PLCη1およびPLCη2は神経系で発現が高く、大脳皮質、[[海馬]]、小脳、[[嗅球]]で発現が高い。


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=== PLCβ  ===
=== PLCβ  ===


 主な活性化経路は7回膜貫通型3量体G蛋白質共役型受容体(以下、G蛋白質共役型受容体)を介したものである。Gq共役型受容体を介して活性化される3量体G蛋白質のαサブユニットが作用する経路と、Gi共役型受容体刺激により遊離するβγサブユニットが作用する経路とがある。PLCβを活性化しうるαサブユニットはGαqファミリー(脳ではGαqおよびGα11)であり、PLCβのC末の調節ドメインに結合し作用する。PLCβ1-4のいずれも活性化しうるがPLCβ1およびPLCβ4への作用が最も強く、PLCβ2への作用が最も弱い。一方、GβγサブユニットはPLCβ2およびPLCβ3に作用するが、PLCβ1への作用は弱く、PLCβ4には作用しない。また、PLCβ2およびPLCβ3は、Racなどの低分子量G蛋白質による活性化も報告されている。  
 主な活性化経路は7回膜貫通型三量体[[G蛋白質共役型受容体]](以下、G蛋白質共役型受容体)を介したものである。Gq共役型受容体を介して活性化される三量体G蛋白質のαサブユニットが作用する経路と、Gi共役型受容体刺激により遊離するβγサブユニットが作用する経路とがある。PLCβを活性化しうるαサブユニットはGαqファミリー(脳ではGαqおよびGα11)であり、PLCβのC末の調節ドメインに結合し作用する。PLCβ1-4のいずれも活性化しうるがPLCβ1およびPLCβ4への作用が最も強く、PLCβ2への作用が最も弱い。一方、GβγサブユニットはPLCβ2およびPLCβ3に作用するが、PLCβ1への作用は弱く、PLCβ4には作用しない。また、PLCβ2およびPLCβ3は、Racなどの低分子量G蛋白質による活性化も報告されている。  


=== PLCγ  ===
=== PLCγ  ===


 主な活性化経路は増殖因子や神経栄養因子などに対するチロシンキナーゼ活性を有する受容体を介したものである。リガンドの結合により受容体の自己チロシンリン酸化が起こり、その部位にPLCγがSH2ドメインを介して結合し、その後PLCγ自身もチロシンリン酸化され活性化される。それと同時に、受容体はフォスファチジルイノシトール3-キナーゼ(phosphatidylinositol 3-kinase, PI3K)を活性化し、それにより産生されるフォスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(phosphatidylinositol 3,4,5-triphosphate, PIP<sub>3</sub>)はPLCγを膜へ移動させ活性化を促進する。また、G蛋白質共役型受容体などのチロシンキナーゼ活性を持たない受容体がチロシンキナーゼ活性を有する受容体あるいは非受容体性チロシンキナーゼを介してPLCγを活性化させる経路、さらにはチロシンリン酸化を介さない経路など、さまざまな活性化経路が報告されている。
 主な活性化経路は[[wikipedia:ja:リン|リン]]増殖因子や[[神経栄養因子]]などに対する[[チロシンキナーゼ]]活性を有する受容体を介したものである。[[リガンド]]の結合により受容体の自己チロシンリン酸化が起こり、その部位にPLCγがSH2ドメインを介して結合し、その後PLCγ自身も[[チロシンリン酸化]]され活性化される。それと同時に、受容体は[[フォスファチジルイノシトール3-キナーゼ]](phosphatidylinositol 3-kinase, PI3K)を活性化し、それにより産生される[[フォスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸]](phosphatidylinositol 3,4,5-triphosphate, PIP<sub>3</sub>)はPLCγを膜へ移動させ活性化を促進する。また、G蛋白質共役型受容体などを介してPLCγを活性化させる経路、さらにはチロシンリン酸化を介さない経路など、さまざまな活性化経路が報告されている。


=== PLCδ  ===
=== PLCδ  ===