「マイクロカラム」の版間の差分

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<font size="+1">[https://researchmap.jp/hosoya 細谷俊彦]</font><br>
<font size="+1">[https://researchmap.jp/hosoya 細谷俊彦]</font><br>
''理化学研究所脳神経科学研究センター 局所神経回路研究チーム''<br>
''理化学研究所脳神経科学研究センター 局所神経回路研究チーム''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2018年9月29日 原稿完成日:<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2018年9月29日 原稿完成日:2018年10月15日<br>
担当編集委員:[https://researchmap.jp/masahikowatanabeo 渡辺 雅彦] (北海道大学大学院医学研究院 解剖学分野 解剖発生学教室)<br>
担当編集委員:[https://researchmap.jp/masahikowatanabeo 渡辺 雅彦] (北海道大学大学院医学研究院 解剖学分野 解剖発生学教室)<br>
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英語名:micro column
英語名:microcolumn
{{box|text= 大脳皮質第5層では、主要なタイプの神経細胞が細胞タイプ特異的な細い柱状のクラスター(マイクロカラム)を形成している。マイクロカラムは皮質に沿って六方格子状に並び、様々な皮質領野に共通に存在する。個々のマイクロカラムの細胞は特異的な神経回路を持ち類似した神経活動を示す。これらは第5層の回路がマイクロカラムを単位とした繰り返し構造をもつことを示し、多数のマイクロカラムによる並列処理が多様な皮質機能を担う可能性を示唆する。}}
{{box|text= 大脳皮質第5層では、主要なタイプの神経細胞が細胞タイプ特異的な細い柱状のクラスター(マイクロカラム)を形成している。マイクロカラムは皮質に沿って六方格子状に並び、様々な皮質領野に共通に存在する。個々のマイクロカラムの細胞は特異的な神経回路を持ち類似した神経活動を示す。これらは第5層の回路がマイクロカラムを単位とした繰り返し構造をもつことを示し、多数のマイクロカラムによる並列処理が多様な皮質機能を担う可能性を示唆する。}}


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== 構造 ==
== 構造 ==
[[ファイル:Hosoya Fig1.png|300px|サムネイル|'''図1. 大脳皮質第5層の構造<br>''' 皮質下投射細胞 (SCPN)マイクロカラムと皮質投射細胞(CPN)マイクロカラムは互い違いに並んでいる。パルブアルビミン(PV)細胞とソマトスタチン(SOM)細胞は皮質下投射細胞マイクロカラムに選択的に含まれるが、皮質投射細胞マイクロカラムには有意には含まれない。マイクロカラムは脳表に沿って六方格子配列を取る。]]
[[ファイル:Hosoya Fig1.png|300px|サムネイル|'''図1. 大脳皮質第5層の構造<br>''' 皮質下投射細胞 (SCPN)マイクロカラムと皮質投射細胞(CPN)マイクロカラムは互い違いに並んでいる。パルブアルビミン(PV)細胞とソマトスタチン(SOM)細胞は皮質下投射細胞マイクロカラムに選択的に含まれるが、皮質投射細胞マイクロカラムには有意には含まれない。マイクロカラムは脳表に沿って六方格子配列を取る。<u>(編集部コメント:組織の写真があればと思います。)</u>]]


 大脳皮質第5層の二種類の主要な興奮性細胞のうちの一種は[[皮質下投射細胞]](subcortical projection neurons, SCPNs)と呼ばれ、[[脊髄]]、[[上丘]]、[[橋]]などへ長い[[軸索]]を伸ばし大脳皮質からの主要な出力経路を形成する<ref name=Greig2013><pubmed>24105342</pubmed></ref>。皮質下投射細胞は広範な皮質領野に存在しており、例えば[[運動野]]の皮質下投射細胞は[[上位運動ニューロン]]として[[皮質脊髄路]]を形成している。
 大脳皮質第5層の二種類の主要な興奮性細胞のうちの一種は[[皮質下投射細胞]](subcortical projection neurons, SCPNs)と呼ばれ、[[脊髄]]、[[上丘]]、[[橋]]などへ長い[[軸索]]を伸ばし大脳皮質からの主要な出力経路を形成する<ref name=Greig2013><pubmed>24105342</pubmed></ref>。皮質下投射細胞は広範な皮質領野に存在しており、例えば[[運動野]]の皮質下投射細胞は[[上位運動ニューロン]]として[[皮質脊髄路]]を形成している。
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 マイクロカラムは発生上近縁でない細胞から形成されている<ref name=Maruoka2011/>。一方、発生上近縁な興奮性細胞は、マイクロカラムでギャップ結合が見られる時期より早い時期に一過的にギャップ結合を持つことが知られている<ref name=Yu2012><pubmed>22678291 </pubmed></ref>。発生上近縁な興奮性細胞は後に相互にシナプス結合し類似した視覚応答特性を示す<ref name=Yu2012/><ref><pubmed>22794261 </pubmed></ref><ref><pubmed>22678292</pubmed></ref>。従って、発生上近縁でない細胞からなるマイクロカラムと、発生上近縁な細胞からなる回路の両方が存在し異なる機能を担っている可能性がある。
 マイクロカラムは発生上近縁でない細胞から形成されている<ref name=Maruoka2011/>。一方、発生上近縁な興奮性細胞は、マイクロカラムでギャップ結合が見られる時期より早い時期に一過的にギャップ結合を持つことが知られている<ref name=Yu2012><pubmed>22678291 </pubmed></ref>。発生上近縁な興奮性細胞は後に相互にシナプス結合し類似した視覚応答特性を示す<ref name=Yu2012/><ref><pubmed>22794261 </pubmed></ref><ref><pubmed>22678292</pubmed></ref>。従って、発生上近縁でない細胞からなるマイクロカラムと、発生上近縁な細胞からなる回路の両方が存在し異なる機能を担っている可能性がある。


 [[ネコ]]や[[サル]]などの視覚野には眼優位性あるいは方位選択性の類似した細胞からなるカラム状のクラスターが存在し、それぞれ眼優位性カラムおよび方位選択性カラムと呼ばれている。眼優位性カラムの幅は細胞数十個分ほどでありマイクロカラムよりはるかに大きい。また、隣り合った方位選択性カラムが応答する刺激方位は似ているが、隣り合ったマイクロカラムが応答する刺激方位は似ていない。この違いは、ネコやサルなどでは方位選択性や眼優位性の似たマイクロカラムが近傍に並ぶことによって眼優位性カラムや方位選択性カラムが形成されていれば説明できる。実際、方位選択性カラムが六方格子状の周期構造を持つことが示唆されている<ref><pubmed>21623365 </pubmed></ref>。
 [[ネコ]]や[[サル]]の視覚野には眼優位性あるいは方位選択性の類似した細胞からなるカラム状のクラスターが存在し、それぞれ眼優位性カラムおよび方位選択性カラムと呼ばれている。眼優位性カラムの幅は細胞数十個分ほどでありマイクロカラムよりはるかに大きい。また、隣り合った方位選択性カラムが応答する刺激方位は似ているが、隣り合ったマイクロカラムが応答する刺激方位は似ていない。この違いは、ネコやサルでは方位選択性や眼優位性の似たマイクロカラムが近傍に並ぶことによって眼優位性カラムや方位選択性カラムが形成されていれば説明できる。実際、方位選択性カラムが六方格子状の周期構造を持つことが示唆されている<ref><pubmed>21623365 </pubmed></ref>。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references/>
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