「マイクロニューログラム」の版間の差分

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 皮膚由来の感覚に関わる求心性神経線維の場合、皮膚表面に圧を加え(フォンフレイの毛や先の尖っていないプローブ等)、皮膚の変形刺激に対する発射応答と順応の様子を観察すると、遅順応型(SA)と速順応型(FA)の活動を同定することが可能である<ref name=ref2 />。例えば、矩形波状に刺激が加わった場合、FAは刺激のオンとオフのタイミングにしかその発火活動が生じず、SAは圧刺激中持続的にその発火活動が生じる。この2つのタイプは、さらに、受容野(単一神経活動が機械刺激によって反応しうる皮膚領域)の大きさとその境界の明瞭さ、持続的発火活動の規則性などの違いによって、I型(FAI、SAI)とII型(FAII、SAII)に分類できるといわれている<ref name=ref2 />。FAI,およびSAIは受容野が小さく、その境界についても明瞭である。しかしながら、FAIIおよびSAIIでは受容野が広く、その境界も不明瞭である。この理由の一つとして、II型は、その受容器が皮下深部に分布し、I型は皮膚表層に分布していることにあると考えられている。これらの活動は、動物実験等で形態学的に同定されたマイスナー小体(FA I)、メルケル盤(SA I)、パチニ小体 (FA IIまたPCと分類される)、ルフィニ終末(SAII)等に当てはまる<ref name=ref26><pubmed>6280572</pubmed></ref> <ref name=ref7>'''岩村吉晃'''<br>手の運動の触覚的制御<br>''神経進歩'' 1998 42, 78-84 </ref>。例えば皮膚表面に物体が触れたとき、上述した数種の触覚受容器由来の神経活動が、同期または非同期的に起こり、それが符号化され、脳に伝達することにより物体の形状等を知覚することができると考えられる。
 皮膚由来の感覚に関わる求心性神経線維の場合、皮膚表面に圧を加え(フォンフレイの毛や先の尖っていないプローブ等)、皮膚の変形刺激に対する発射応答と順応の様子を観察すると、遅順応型(SA)と速順応型(FA)の活動を同定することが可能である<ref name=ref2 />。例えば、矩形波状に刺激が加わった場合、FAは刺激のオンとオフのタイミングにしかその発火活動が生じず、SAは圧刺激中持続的にその発火活動が生じる。この2つのタイプは、さらに、受容野(単一神経活動が機械刺激によって反応しうる皮膚領域)の大きさとその境界の明瞭さ、持続的発火活動の規則性などの違いによって、I型(FAI、SAI)とII型(FAII、SAII)に分類できるといわれている<ref name=ref2 />。FAI,およびSAIは受容野が小さく、その境界についても明瞭である。しかしながら、FAIIおよびSAIIでは受容野が広く、その境界も不明瞭である。この理由の一つとして、II型は、その受容器が皮下深部に分布し、I型は皮膚表層に分布していることにあると考えられている。これらの活動は、動物実験等で形態学的に同定されたマイスナー小体(FA I)、メルケル盤(SA I)、パチニ小体 (FA IIまたPCと分類される)、ルフィニ終末(SAII)等に当てはまる<ref name=ref26><pubmed>6280572</pubmed></ref> <ref name=ref7>'''岩村吉晃'''<br>手の運動の触覚的制御<br>''神経進歩'' 1998 42, 78-84 </ref>。例えば皮膚表面に物体が触れたとき、上述した数種の触覚受容器由来の神経活動が、同期または非同期的に起こり、それが符号化され、脳に伝達することにより物体の形状等を知覚することができると考えられる。


 単一神経線維活動がどのような知覚を生み出すのかいう問いに対して、神経線維の種類を同定後、刺激電極に切り替えて電気刺激(微小神経刺激)し、被験者からどのような感覚が生起したのかについて調べることも可能である。今までの報告では、速順応型のFAIおよびII型は“振動”のような感覚を生起させ、遅順応型のSAI型は持続的な“圧力”が加わる感覚を生み出すことが知られている<ref name=ref28><pubmed>6478176</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>2148951</pubmed></ref>。また、物体を持っているときの不意なスリップ時には、知覚が引き起こされる前に、反射反応が生じ、物体を握りなおす修正反応が起こる。これには、速順応型の神経活動(FAI型)が重要であることが知られており、スリップから約70から100ミリ秒に反射性の筋活動が生じ、その後の随意活動ともに修正反応に貢献していることが報告されている<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>。興味深いことに、皮膚受容器は、自然刺激(皮膚表面などを擦る等)による単一神経線維の活動(FAI, IIおよびSAI型)でも強い反射応答を筋電図上に誘発するが<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>、筋由来の単一神経活動では反射性反応はほとんど誘発されない<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>。しかしながら、神経束への電気刺激(Ia群線維を標的とした運動閾値の0.7-0.8倍程度の刺激強度)では、強い単シナプス性の伸張反射(Hoffmann 反射)が誘発される。これらのことを総合的に考えると、近由来の複数のIa線維の活動は同期して発生し、その斉射(Volley)が運動ニューロンに入力したとき、伸張反射が強く誘発されると考えられる。
 単一神経線維活動がどのような知覚を生み出すのかいう問いに対して、神経線維の種類を同定後、刺激電極に切り替えて電気刺激(微小神経刺激)し、被験者からどのような感覚が生起したのかについて調べることも可能である。今までの報告では、速順応型のFAIおよびII型は“振動”のような感覚を生起させ、遅順応型のSAI型は持続的な“圧力”が加わる感覚を生み出すことが知られている<ref name=ref28><pubmed>6478176</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>2148951</pubmed></ref>。また、物体を持っているときの不意なスリップ時には、知覚が引き起こされる前に、反射反応が生じ、物体を握りなおす修正反応が起こる。これには、速順応型の神経活動(FAI型)が重要であることが知られており、スリップから約70から100ミリ秒に反射性の筋活動が生じ、その後の随意活動ともに修正反応に貢献していることが報告されている<ref name=ref30><pubmed>3582528</pubmed></ref> <ref name=ref31><pubmed>8721165</pubmed></ref>。興味深いことに、皮膚受容器は、自然刺激(皮膚表面などを擦る等)による単一神経線維の活動(FAI, IIおよびSAI型)でも強い反射応答を筋電図上に誘発するが<ref name=ref6 /><pubmed></pubmed></ref>、筋由来の単一神経活動では反射性反応はほとんど誘発されない<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>。しかしながら、神経束への電気刺激(Ia群線維を標的とした運動閾値の0.7-0.8倍程度の刺激強度)では、強い単シナプス性の伸張反射(Hoffmann 反射)が誘発される。これらのことを総合的に考えると、近由来の複数のIa線維の活動は同期して発生し、その斉射(Volley)が運動ニューロンに入力したとき、伸張反射が強く誘発されると考えられる。


====関節受容器に由来した求心性神経活動====
====関節受容器に由来した求心性神経活動====


 ヒト関節受容器由来の神経線維の場合、1.関節上の皮膚への刺激(摩擦や皮膚の挙上等)や2.近隣筋の叩打によってその発火活動が生じないこと、さらに、3.硬いプローブ(直径1mm程度)で関節嚢への強い圧力によって神経発射活動が生じることにより、関節受容器に由来した発射活動として同定できると考えられている<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>。これらの活動は、安静状態での関節角度ですでに、持続的な発火活動を呈しているものもあり、関節の受動運動(屈曲伸展および内転外転)で発火頻度が変化するものも多い。また、運動の方向性(屈曲伸展方向および内転外転方向)に関わらず、その発火活動頻度が増大するものも多いとされている<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>。しかしながら、これらの特徴を持つ発射活動動態が、機能的にどのような意味を持つのかについては、これからの検討が待たれる。興味深いことに、Macefieldら(1990)は、得られた単一神経線維に電気刺激を与えると、関節がわずかに動く感覚や関節上に圧力が加わる感覚が生じると報告している。これら発射活動には、関節内に存在するルフィニ終末、ゴルジ終末、パチニ小体等が対応すると考えられる<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>。
 ヒト関節受容器由来の神経線維の場合、1.関節上の皮膚への刺激(摩擦や皮膚の挙上等)や2.近隣筋の叩打によってその発火活動が生じないこと、さらに、3.硬いプローブ(直径1mm程度)で関節嚢への強い圧力によって神経発射活動が生じることにより、関節受容器に由来した発射活動として同定できると考えられている<ref name=ref33><pubmed>2976823</pubmed></ref>。これらの活動は、安静状態での関節角度ですでに、持続的な発火活動を呈しているものもあり、関節の受動運動(屈曲伸展および内転外転)で発火頻度が変化するものも多い。また、運動の方向性(屈曲伸展方向および内転外転方向)に関わらず、その発火活動頻度が増大するものも多いとされている<ref name=ref33 /> <ref name=ref34><pubmed>15730450</pubmed></ref>。しかしながら、これらの特徴を持つ発射活動動態が、機能的にどのような意味を持つのかについては、これからの検討が待たれる。興味深いことに、Macefieldら<ref name=ref29 />は、得られた単一神経線維に電気刺激を与えると、関節がわずかに動く感覚や関節上に圧力が加わる感覚が生じると報告している。これら発射活動には、関節内に存在するルフィニ終末、ゴルジ終末、パチニ小体等が対応すると考えられる<ref name=ref35><pubmed>4061868</pubmed></ref>。


===交感神経活動===
===交感神経活動===
 交感神経節後遠心性の神経線維の場合、筋および皮膚交感神経活動がその対象となるが、前者の場合、各種循環器系パラメータとの関係、後者の場合、皮膚血管と汗腺を支配する血管収縮神経と発汗運動神経活動を反映するパラメータとの関連によって同定可能である<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>。
 交感神経節後遠心性の神経線維の場合、筋および皮膚交感神経活動がその対象となるが、前者の場合、各種循環器系パラメータとの関係、後者の場合、皮膚血管と汗腺を支配する血管収縮神経と発汗運動神経活動を反映するパラメータとの関連によって同定可能である<ref name=ref21 /> <ref name=ref3 />。


====筋交感神経活動====
====筋交感神経活動====