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<font size="+1">[http://researchmap.jp/dmiyamoto 宮本 大祐]</font><br>
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''名古屋大学 環境医学研究所''<br>
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[http://researchmap.jp/murayama 村山 正宜]</font><br>
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''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2014年4月10日 原稿完成日:2014年月日<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2014年4月10日 原稿完成日:2014年月日<br>
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== 歴史 ==
== 歴史 ==
 マルチノッチ細胞は19世紀末にイタリアの神経形態学者ゴルジ (Camillo Golgi) の弟子であるマルチノッチ (Carlo Martinotti) により発見された[1]。しかし、近年までマルチノッチ細胞の定義は統一されていなかった。2013年、42名の介在細胞の専門家が、新たな介在細胞の分類法を提唱している[2]。これによると、マルチノッチ細胞は数ある介在細胞種の中でシャンデリア細胞に次いで高い同意を得ることが出来る。
 マルチノッチ細胞は19世紀末にイタリアの神経形態学者ゴルジ (Camillo Golgi) の弟子であるマルチノッチ (Carlo Martinotti) により発見された<ref name=ref1><pubmed></pubmed></ref>。しかし、近年までマルチノッチ細胞の定義は統一されていなかった。2013年、42名の介在細胞の専門家が、新たな介在細胞の分類法を提唱している<ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref>。これによると、マルチノッチ細胞は数ある介在細胞種の中でシャンデリア細胞に次いで高い同意を得ることが出来る。


 大脳皮質の第Ⅱ層-第Ⅵ層に細胞体を有する。
 大脳皮質の第Ⅱ層-第Ⅵ層に細胞体を有する。
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 軸索側枝を主に浅層に向けている。
 軸索側枝を主に浅層に向けている。


 軸索側枝を細胞体付近及び、浅層側に離れた位置の2 箇所おいて形成する。
 軸索側枝を細胞体付近及び、浅層側に離れた位置の2箇所おいて形成する。


== 各層のマルチノッチ細胞における投射 ==
== 各層のマルチノッチ細胞における投射 ==
 第Ⅱ/Ⅲ層のマルチノッチ細胞は主に第Ⅰ層に投射し、第Ⅱ/Ⅲ層への投射は少ない。第Ⅳ層のマルチノッチ細胞は主に第Ⅳ層に投射し第Ⅰ層への投射は少ない。第Ⅴ層及び第Ⅵ層のマルチノッチ細胞は主に第Ⅳ層及び第Ⅰ層に投射し、各細胞の細胞体が位置する層への投射は少ない[3]。深層になるほど、全介在神経数に対するマルチノッチ細胞数の比が高くなる。第Ⅱ/Ⅲにおいては、[[バスケット細胞]]が最も多いが、第Ⅵ層においては、マルチノッチ細胞が最も多い[4]
 第Ⅱ/Ⅲ層のマルチノッチ細胞は主に第Ⅰ層に投射し、第Ⅱ/Ⅲ層への投射は少ない。第Ⅳ層のマルチノッチ細胞は主に第Ⅳ層に投射し第Ⅰ層への投射は少ない。第Ⅴ層及び第Ⅵ層のマルチノッチ細胞は主に第Ⅳ層及び第Ⅰ層に投射し、各細胞の細胞体が位置する層への投射は少ない<ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref>。深層になるほど、全介在神経数に対するマルチノッチ細胞数の比が高くなる。第Ⅱ/Ⅲにおいては、[[バスケット細胞]]が最も多いが、第Ⅵ層においては、マルチノッチ細胞が最も多い<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref>


== 分子発現 ==
== 分子発現 ==
 ソマトスタチン、血管作動性腸管ペプチド (vasoactive intestinal peptide) といったペプチドホルモンを発現する。ソマトスタチン細胞のみに[[GFP]]を発現させるGIN (GFP-expressing Inhibitory Neurons) [[トランスジェニックマウス]]のラインにおいて、マルチノッチ細胞はGFP陽性細胞の約80%を占める[5]。ソマトスタチンをマーカーとして利用することにより、マルチノッチ細胞の効率的な探索が可能となる。マルチノッチ細胞の中には、カルビンディン (calbindin)、カルレチニン (calretinin) といった[[カルシウム]]結合タンパク、[[神経ペプチド]]Yやコレシストキニン (cholecystokinin) を共発現する細胞も存在する[3]
 ソマトスタチン、血管作動性腸管ペプチド (vasoactive intestinal peptide) といったペプチドホルモンを発現する。ソマトスタチン細胞のみに[[GFP]]を発現させるGIN (GFP-expressing Inhibitory Neurons) [[トランスジェニックマウス]]のラインにおいて、マルチノッチ細胞はGFP陽性細胞の約80%を占める<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref>。ソマトスタチンをマーカーとして利用することにより、マルチノッチ細胞の効率的な探索が可能となる。マルチノッチ細胞の中には、カルビンディン (calbindin)、カルレチニン (calretinin) といった[[カルシウム]]結合タンパク、[[神経ペプチド]]Yやコレシストキニン (cholecystokinin) を共発現する細胞も存在する<ref name=ref3 />


== 電気生理学的特性 ==
== 電気生理学的特性 ==
 マルチノッチ細胞の多くは、細胞体に脱分極性電流を与えると、スパイク頻度順応 (spike frequency adaptation) を示す[3]。バースト発火しないregular spiking細胞(RS細胞)とバースト発火するburst spiking細胞(BS細胞)の両方がある[6]。第Ⅴ層に細胞体を有するマルチノッチ細胞は、発火活動の[[閾値]]が低く、[[シナプス]]入力が無くても周期的に発火する[7]。そのため、大脳皮質が自発的に生じるオシレーションのペースメーカー細胞の一つとなると考えられている。
 マルチノッチ細胞の多くは、細胞体に脱分極性電流を与えると、スパイク頻度順応 (spike frequency adaptation) を示す<ref name=ref3 />。バースト発火しないregular spiking細胞(RS細胞)とバースト発火するburst spiking細胞(BS細胞)の両方がある<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref>。第Ⅴ層に細胞体を有するマルチノッチ細胞は、発火活動の[[閾値]]が低く、[[シナプス]]入力が無くても周期的に発火する<ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref>。そのため、大脳皮質が自発的に生じるオシレーションのペースメーカー細胞の一つとなると考えられている。


== 局所神経回路における役割 ==
== 局所神経回路における役割 ==
 第Ⅴ層のマルチノッチ細胞は、同じく第Ⅴ層[[錐体細胞]]から[[興奮性]]入力を受けて活性化し、近傍の錐体細胞の遠位樹状突起における活動を抑制する。この2つのシナプスを介した抑制様式を2シナプス性抑制 (disynaptic inhibition) と呼ぶ。錐体細胞の細胞体に連続発火を引き起こす樹状突起スパイクもdisynaptic inhibitionを介して抑制される[9]。この錐体細胞-マルティノッチ細胞間のフィードバック抑制の役割として、大脳皮質が異常興奮した際における皮質活動の正常化が考えられる[8]。また、生きた[[マウス]]の感覚野5層錐体細胞の遠位樹状突起から活動を記録した研究において、後肢への刺激強度(入力)と樹状突起活動(出力)との間に正比例の入出力関係が報告されている。この入出力関係はマルチノッチ細胞の活動により維持されている事が明らかになっている[9]
 第Ⅴ層のマルチノッチ細胞は、同じく第Ⅴ層[[錐体細胞]]から[[興奮性]]入力を受けて活性化し、近傍の錐体細胞の遠位樹状突起における活動を抑制する。この2つのシナプスを介した抑制様式を2シナプス性抑制 (disynaptic inhibition) と呼ぶ。錐体細胞の細胞体に連続発火を引き起こす樹状突起スパイクもdisynaptic inhibitionを介して抑制される<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>。この錐体細胞-マルティノッチ細胞間のフィードバック抑制の役割として、大脳皮質が異常興奮した際における皮質活動の正常化が考えられる<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref>。また、生きた[[マウス]]の感覚野5層錐体細胞の遠位樹状突起から活動を記録した研究において、後肢への刺激強度(入力)と樹状突起活動(出力)との間に正比例の入出力関係が報告されている。この入出力関係はマルチノッチ細胞の活動により維持されている事が明らかになっている<ref name=ref9 />
一つのマルチノッチ細胞による抑制は弱いが、錐体細胞に複数のマルチノッチ細胞の入力が収束すると超加算される[8,10]。そのため、マルチノッチ細胞は同期して活動すると、局所神経回路に与える影響が著しくなる。錐体細胞のある集団が同期して活動し、多くのマルチノッチ細胞が活動すると、その活動が異なる集団を強力に抑制すると考えられる[11]。マルチノッチ細胞によるこのような回路抑制は、大脳皮質の興奮における、手に負えない興奮 (runaway excitation) を防ぐと考えられている。
 
 一つのマルチノッチ細胞による抑制は弱いが、錐体細胞に複数のマルチノッチ細胞の入力が収束すると超加算される<ref name=ref8 /> <ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref>。そのため、マルチノッチ細胞は同期して活動すると、局所神経回路に与える影響が著しくなる。錐体細胞のある集団が同期して活動し、多くのマルチノッチ細胞が活動すると、その活動が異なる集団を強力に抑制すると考えられる<ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref>。マルチノッチ細胞によるこのような回路抑制は、大脳皮質の興奮における、手に負えない興奮 (runaway excitation) を防ぐと考えられている。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==