「マーの小脳理論」の版間の差分

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=== 登上線維による教師あり学習 ===
=== 登上線維による教師あり学習 ===


 最近の計算論的神経科学では、学習を教師あり学習、[[強化学習]]、教[[師無し学習]]に分類する<ref><pubmed> 12662639 </pubmed></ref>[5]
 最近の計算論的神経科学では、学習を教師あり学習、[[強化学習]]、教[[師無し学習]]に分類する<ref><pubmed> 12662639 </pubmed></ref>。


 ニューロンが教師無し学習を実現しようとすれば、[[ヘッブ則]]に基づいてシナプス荷重を変更する必要がある。つまり、シナプスに入力があり、後シナプスニューロンが発火したとき、そのシナプスが選択的に増強される。これが成立するためには、ニューロンが発火したという情報をシナプスまで伝達する必要がある。[[大脳皮質]]と[[海馬]]の[[錐体細胞]]では、[[軸索初節]]から[[樹状突起]]の末端部に向けて逆伝搬する[[活動電位]]がこの情報伝搬を実現している。
 ニューロンが教師無し学習を実現しようとすれば、[[ヘッブ則]]に基づいてシナプス荷重を変更する必要がある。つまり、シナプスに入力があり、後シナプスニューロンが発火したとき、そのシナプスが選択的に増強される。これが成立するためには、ニューロンが発火したという情報をシナプスまで伝達する必要がある。[[大脳皮質]]と[[海馬]]の[[錐体細胞]]では、[[軸索初節]]から[[樹状突起]]の末端部に向けて逆伝搬する[[活動電位]]がこの情報伝搬を実現している。
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 [[強化学習]]は、このヘッブ則に加えて、[[ドーパミン]]などの[[モノアミン]]がシナプス可塑性を修飾する機構により実現されている。
 [[強化学習]]は、このヘッブ則に加えて、[[ドーパミン]]などの[[モノアミン]]がシナプス可塑性を修飾する機構により実現されている。


 しかし、プルキンエ細胞では樹状突起の分岐が著しいため、樹状突起の末梢側が電気的に大きな負荷になるなどの理由で、活動電位逆伝搬が起きない。また錐体細胞でシナプス前活動と逆伝搬した活動電位の同時性検出を司る[[NMDA受容体が成体のプルキンエ細胞]]に存在しない。つまり、ヘッブ則を実現することができない。
 しかし、プルキンエ細胞では樹状突起の分岐が著しいため、樹状突起の末梢側が電気的に大きな負荷になるなどの理由で、活動電位逆伝搬が起きない。また錐体細胞でシナプス前活動と逆伝搬した活動電位の同時性検出を司る[[NMDA型グルタミン酸受容体]]が成体のプルキンエ細胞に存在しない。つまり、ヘッブ則を実現することができない。


 その一方で、プルキンエ細胞では登上線維が活動すると、樹状突起で大きな脱分極が引き起こされる。その数十から100ミリ秒程度前に平行線維入力があったスパインでは、[[代謝型グルタミン酸受容体]]の活性化を経由して[[イノシトール3リン酸]]が数十ミリ秒の時間経過で増加する。脱分極でスパイン内に流入した[[カルシウムイオン]]とイノシトール3リン酸増加の同時性検出が、カルシウムを貯蔵している[[小胞体]]の[[イノシトール3リン酸受容体]]で行われる。つまり平行線維入力と数十ミリ秒程度遅れた登上線維入力の同時性が小胞体からのカルシウム誘導カルシウム放出をおこして、スパイン内のカルシウム濃度が数十マイクロモルオーダーで増加し、シナプス特異的、また2種類の興奮性入力の間で連合的にシナプス可塑性が生じる<ref><pubmed> 15673676 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21665461 </pubmed></ref>[6,7]
 その一方で、プルキンエ細胞では登上線維が活動すると、樹状突起で大きな脱分極が引き起こされる。その数十から100ミリ秒程度前に平行線維入力があったスパインでは、[[代謝型グルタミン酸受容体]]の活性化を経由して[[イノシトール3リン酸]]が数十ミリ秒の時間経過で増加する。脱分極でスパイン内に流入した[[カルシウムイオン]]とイノシトール3リン酸増加の同時性検出が、カルシウムを貯蔵している[[小胞体]]の[[イノシトール3リン酸受容体]]で行われる。つまり平行線維入力と数十ミリ秒程度遅れた登上線維入力の同時性が小胞体からのカルシウム誘導カルシウム放出をおこして、スパイン内のカルシウム濃度が数十マイクロモルオーダーで増加し、シナプス特異的、また2種類の興奮性入力の間で連合的にシナプス可塑性が生じる<ref><pubmed> 15673676 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21665461 </pubmed></ref>。


 まとめると、理論で提案された教師あり学習は、プルキンエ細胞の電気生理と分子神経科学および最近のモデル研究からも支持されている。
 まとめると、理論で提案された教師あり学習は、プルキンエ細胞の電気生理と分子神経科学および最近のモデル研究からも支持されている。