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<font size="+1">[http://researchmap.jp/h-morishita 森下 英晃]、[http://researchmap.jp/noborumizushima 水島 昇]</font><br>
''東京大学 医学系研究科 分子生物学分野''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月6日 原稿完成日:2012年7月9日 一部改定:2015年10月20日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
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別名:リソゾーム、ライソソーム、ライソゾーム 英語名:lysosome
別名:リソゾーム、ライソソーム、ライソゾーム 英語名:lysosome


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 リソソームは[[wikipedia:JA:真核生物|真核生物]]の[[wikipedia:JA:細胞小器官|細胞小器官]]の一つである。リソソームの内腔はpH5前後に[[wikipedia:JA:酸|酸性]]化されており、種々の[[wikipedia:JA:加水分解酵素|加水分解酵素]]を含む。リソソームは細胞内外成分の分解機能を担い、分解基質は[[エンドサイトーシス]]、[[オートファジー]]などの経路によってリソソームに輸送される。リソソームの機能異常は[[wikipedia:JA:遺伝子疾患|遺伝性疾患]]のリソソーム病を引き起こす。[[wikipedia:JA:植物|植物]]や[[wikipedia:JA:酵母|酵母]]などでは[[wikipedia:JA:液胞|液胞]](vacuole)がリソソームに相当する細胞小器官であると考えられている。
 リソソームは[[wikipedia:JA:真核生物|真核生物]]の[[wikipedia:JA:細胞小器官|細胞小器官]]の一つである。リソソームの内腔はpH5前後に[[wikipedia:JA:酸|酸性]]化されており、種々の[[wikipedia:JA:加水分解酵素|加水分解酵素]]を含む。リソソームは細胞内外成分の分解機能を担い、分解基質は[[エンドサイトーシス]]、[[オートファジー]]などの経路によってリソソームに輸送される。リソソームの機能異常は[[wikipedia:JA:遺伝子疾患|遺伝性疾患]]のリソソーム病を引き起こす。[[wikipedia:JA:植物|植物]]や[[wikipedia:JA:酵母|酵母]]などでは[[wikipedia:JA:液胞|液胞]](vacuole)がリソソームに相当する細胞小器官であると考えられている。


 リソソームは1955年に[[wikipedia:JA:クリスチャン・ド・デューブ|ド・デューブ(Christian de Duve)]]によって[[wikipedia:Cell fractionation|細胞分画]]法・[[wikipedia:JA:生化学|生化学]]的手法を用いて発見された<ref name="ref1"><pubmed> 13249955 </pubmed></ref>。ド・デューブはラット肝臓への[[wikipedia:JA:インスリン|インスリン]]の作用を解析する過程で、[[wikipedia:JA:肝細胞|肝細胞]]内の加水分解酵素を含む顆粒が膜に包まれていることを生化学的に偶然発見し、それらの顆粒をギリシア語の”lyso”(分解する)+”soma”(小体)を語源としてlysosomeと名付けた。さらに[[wikipedia:JA:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]を用いてリソソームが実際に細胞小器官であることを1956年に報告した<ref name="ref2"><pubmed> 13357540 </pubmed></ref>。ド・デューブは「細胞の構造と機能に関する諸発見」によって[[wikipedia:JA:アルベルト・クラウデ|クラウデ(Albert Claude)]]、[[wikipedia:JA:ジョージ・エミール・パラーデ|パラーデ(George E. Palade)]]と共に1974年に[[wikipedia:JA:ノーベル生理学・医学賞|ノーベル医学生理学賞]]を受賞した。
 リソソームは1955年に[[wikipedia:JA:クリスチャン・ド・デューブ|ド・デューブ(Christian de Duve)]]によって[[wikipedia:Cell fractionation|細胞分画]]法・[[wikipedia:JA:生化学|生化学]]的手法を用いて発見された<ref name="ref1"><pubmed> 13249955 </pubmed></ref>。ド・デューブはラット肝臓への[[wikipedia:JA:インスリン|インスリン]]の作用を解析する過程で、[[wikipedia:JA:肝細胞|肝細胞]]内の加水分解酵素を含む顆粒が膜に包まれていることを生化学的に偶然発見し、それらの顆粒をギリシア語の”lyso”(分解する)+”soma”(小体)を語源としてlysosomeと名付けた。さらに[[wikipedia:JA:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]を用いてリソソームが実際に細胞小器官であることを1956年に報告した<ref name="ref2"><pubmed> 13357540 </pubmed></ref>。ド・デューブは「細胞の構造と機能に関する諸発見」によって[[wikipedia:JA:アルベルト・クラウデ|クラウデ(Albert Claude)]]、[[wikipedia:JA:ジョージ・エミール・パラーデ|パラーデ(George E. Palade)]]と共に1974年に[[wikipedia:JA:ノーベル生理学・医学賞|ノーベル医学生理学賞]]を受賞した。
[[Image:FigLysosome.jpg|thumb|400px|'''図 リソソームへの経路と機能'''<br>リソソームは細胞内外成分の分解機能を担い、エンドサイトーシス経路(ピノサイト―シス、ファゴサイトーシス)やオートファジー経路(マクロ、シャペロン介在性、ミクロ)から輸送されてきた基質を分解する。細胞外成分、EGF・EGF受容体、病原体などはエンドサイトーシス経路でリソソームへ輸送される。サイトゾル成分や細胞内小器官などはオートファジー経路でリソソームへ輸送される。リソソーム膜上にはV-ATPaseが存在し、内腔を酸性化する。リソソーム内には各種加水分解酵素が存在し、基質をアミノ酸、脂質、糖などにまで分解する。リソソームはエキソサイト―シスされることもある。リソソーム構成タンパク質の多くは、トランスゴルジ網から生合成経路を通り、後期エンドソームに運ばれた後、リソソームに到達する。膜タンパク質の一部は、構成性分泌経路で細胞膜に出た後、エンドサイトーシス経路でリソソームに到達する。]]
[[Image:FigLysosome.jpg|thumb|400px|'''図 リソソームへの経路と機能'''<br>リソソームは細胞内外成分の分解機能を担い、エンドサイトーシス経路(ピノサイト―シス、ファゴサイトーシス)やオートファジー経路(マクロ、シャペロン介在性、ミクロ)から輸送されてきた基質を分解する。細胞外成分、EGF・EGF受容体、病原体などはエンドサイトーシス経路でリソソームへ輸送される。サイトゾル成分や細胞内小器官などはオートファジー経路でリソソームへ輸送される。リソソーム膜上にはV-ATPaseが存在し、内腔を酸性化する。リソソーム内には各種加水分解酵素が存在し、基質をアミノ酸、脂質、糖などにまで分解する。リソソームはエキソサイト―シスされることもある。リソソーム構成タンパク質の多くは、トランスゴルジ網から生合成経路を通り、後期エンドソームに運ばれた後、リソソームに到達する。膜タンパク質の一部は、構成性分泌経路で細胞膜に出た後、エンドサイトーシス経路でリソソームに到達する。]]
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==種類と構造==
==種類と構造==
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 リソソーム可溶性タンパク質の多くは、生合成経路およびエンドサイトーシス経路を介してリソソームに輸送される(図)。[[粗面小胞体]]で合成された加水分解酵素などの可溶性タンパク質は、シスゴルジ体で糖鎖部分にマンノース6-リン酸([[wikipedia:mannose 6-phosphate|mannose 6-phosphate]]: M6P)の付加を受け、トランスゴルジ網でマンノース6-リン酸受容体([[wikipedia:Mannose 6-phosphate receptor|mannose 6-phosphate receptor]])と結合し、[[クラスリン]]/[[アダプタータンパク質]]小胞に取り込まれる。その後、クラスリン被覆は脱重合し、被覆を失った小胞は後期エンドソームと融合する。後期エンドソームに入ったリソソーム酵素は、酸性環境下におかれることでM6P受容体から解離し、マンノース残基のリン酸基が除去され、リソソームへ輸送される。被覆タンパク質とM6P受容体はトランスゴルジ網に回収され再利用される。なおM6P非依存的な局在化機構も存在する<ref name="ref4" />。
 リソソーム可溶性タンパク質の多くは、生合成経路およびエンドサイトーシス経路を介してリソソームに輸送される(図)。[[粗面小胞体]]で合成された加水分解酵素などの可溶性タンパク質は、シスゴルジ体で糖鎖部分にマンノース6-リン酸([[wikipedia:mannose 6-phosphate|mannose 6-phosphate]]: M6P)の付加を受け、トランスゴルジ網でマンノース6-リン酸受容体([[wikipedia:Mannose 6-phosphate receptor|mannose 6-phosphate receptor]])と結合し、[[クラスリン]]/[[アダプタータンパク質]]小胞に取り込まれる。その後、クラスリン被覆は脱重合し、被覆を失った小胞は後期エンドソームと融合する。後期エンドソームに入ったリソソーム酵素は、酸性環境下におかれることでM6P受容体から解離し、マンノース残基のリン酸基が除去され、リソソームへ輸送される。被覆タンパク質とM6P受容体はトランスゴルジ網に回収され再利用される。なおM6P非依存的な局在化機構も存在する<ref name="ref4" />。


 リソソーム可溶性タンパク質への特異的なM6Pの付加は、ゴルジ体に局在するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)-1-リン酸転移酵素([[wikipedia:N-acetylglucosamine-1-phosphate transferase|N-acetylglucosamine-1-phosphate transferase]])およびGlcNAc-1-リン酸ジエステルα-GlcNAc転移酵素([[wikipedia:N-acetylglucosamine-1-phosphodiester alpha-N-acetylglucosaminidase|N-acetylglucosamine-1-phosphodiester-α-N-acetylglucosaminidase]])が担っている。多くのリソソーム酵素は前者に特異的に認識されるアミノ酸配列を持ち、この酵素が欠損すると様々なリソソーム酵素がリソソームに輸送されず、リソソーム病の[[wikipedia:ja:ムコ脂質症Ⅱ型|ムコ脂質症Ⅱ型]](I細胞病、[[wikipedia:I-cell disease|I-cell disease]])・[[wikipedia:ja:ムコ脂質症ⅡI型|IⅡ型]]を引き起こす。
 リソソーム可溶性タンパク質への特異的なM6Pの付加は、ゴルジ体に局在するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)-1-リン酸転移酵素([[wikipedia:N-acetylglucosamine-1-phosphate transferase|N-acetylglucosamine-1-phosphate transferase]])およびGlcNAc-1-リン酸ジエステルα-GlcNAc転移酵素([[wikipedia:N-acetylglucosamine-1-phosphodiester alpha-N-acetylglucosaminidase|N-acetylglucosamine-1-phosphodiester-α-N-acetylglucosaminidase]])が担っている。多くのリソソーム酵素は前者に特異的に認識されるアミノ酸配列を持ち、この酵素が欠損すると様々なリソソーム酵素がリソソームに輸送されず、リソソーム病の[[wikipedia:ja:ムコ脂質症Ⅱ型|ムコ脂質症Ⅱ型]](I細胞病、[[wikipedia:I-cell disease|I-cell disease]])・[[wikipedia:ja:ムコ脂質症Ⅲ型|IⅡ型]]を引き起こす。


 リソソーム膜タンパク質の局在化機構の詳細は十分に明らかにされていないが、細胞質領域に輸送シグナル(チロシンモチーフ、ジロイシンモチーフなど)を持つものはトランスゴルジ網でクラスリン/アダプタータンパク質小胞に取り込まれ、後期エンドソームを経てリソソームに運ばれると考えられている<ref name="ref4" />。またLAMP-1などの膜タンパク質の一部は構成性分泌経路(constitutive secretory pathway)を介してもリソソームに運ばれる。この場合は、ゴルジ体を出たあと[[細胞膜]]表面に運ばれ、エンドサイトーシス経路でリソソームに到達すると考えられている<ref name="ref4" />。
 リソソーム膜タンパク質の局在化機構の詳細は十分に明らかにされていないが、細胞質領域に輸送シグナル(チロシンモチーフ、ジロイシンモチーフなど)を持つものはトランスゴルジ網でクラスリン/アダプタータンパク質小胞に取り込まれ、後期エンドソームを経てリソソームに運ばれると考えられている<ref name="ref4" />。またLAMP-1などの膜タンパク質の一部は構成性分泌経路(constitutive secretory pathway)を介してもリソソームに運ばれる。この場合は、ゴルジ体を出たあと[[細胞膜]]表面に運ばれ、エンドサイトーシス経路でリソソームに到達すると考えられている<ref name="ref4" />。
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#直接融合モデル:後期エンドソームとリソソームが直接融合しハイブリッドオルガネラを形成した後、両者が再形成される。
#直接融合モデル:後期エンドソームとリソソームが直接融合しハイブリッドオルガネラを形成した後、両者が再形成される。


 これらのモデルのうちいずれが正しいかについてはまだ決着がついていないが、[[wikipedia:JA:共焦点レーザー顕微鏡|共焦点顕微鏡]]を用いた生細胞タイムラプス観察の結果では、Kiss-and-runおよび直接融合が主な生合成機構であるとの報告がある<ref name="ref6"><pubmed> 15723798 </pubmed></ref>。また長時間の飢餓条件下では、マクロオートファジーによって形成されたオートリソソームからもリサイクルによってリソソームが再合成される<ref name="ref3" />。この場合の再合成は[[wikipedia:JA:MTOR|mTORC1複合体]]の再活性化に依存しており、オートリソソームから伸長したチューブ様構造体から小胞(リソソーム前駆体)が出芽し、それらがリソソームに成熟する。
 これらのモデルのうちいずれが正しいかについてはまだ決着がついていないが、[[wikipedia:JA:共焦点レーザー顕微鏡|共焦点顕微鏡]]を用いた生細胞[[タイムラプス解析|タイムラプス観察]]の結果では、Kiss-and-runおよび直接融合が主な生合成機構であるとの報告がある<ref name="ref6"><pubmed> 15723798 </pubmed></ref>。また長時間の飢餓条件下では、マクロオートファジーによって形成されたオートリソソームからもリサイクルによってリソソームが再合成される<ref name="ref3" />。この場合の再合成は[[wikipedia:JA:MTOR|mTORC1複合体]]の再活性化に依存しており、オートリソソームから伸長したチューブ様構造体から小胞(リソソーム前駆体)が出芽し、それらがリソソームに成熟する。


 リソソーム生合成のマスター遺伝子としては、[[転写因子]]の[[wikipedia:TFEB|TFEB]]が同定されている<ref name="ref7"><pubmed> 19556463 </pubmed></ref>。リソソーム構成タンパク質の多くは[[プロモーター]]領域に共通の配列モチーフを持っており、それらの配列にTFEBが結合して遺伝子発現を誘導することで、リソソーム生合成が促進される。TFEBは通常はリソソーム膜上に局在しているが、飢餓やリソソームストレス条件下では核に移行し、遺伝子発現を誘導すると考えられている。
 リソソーム生合成のマスター遺伝子としては、[[転写因子]]の[[wikipedia:TFEB|TFEB]]が同定されている<ref name="ref7"><pubmed> 19556463 </pubmed></ref>。リソソーム構成タンパク質の多くは[[プロモーター]]領域に共通の配列モチーフを持っており、それらの配列にTFEBが結合して遺伝子発現を誘導することで、リソソーム生合成が促進される。TFEBは通常はリソソーム膜上のmTORC1複合体によりリン酸化されて細胞質に存在しているが、飢餓やリソソームストレス条件下では、脱リン酸化されて核内に移行し、遺伝子発現を誘導すると考えられている。


==分解基質の輸送経路==
==分解基質の輸送経路==
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 リソソームの主な機能は、生体高分子の分解と再利用である。エンドサイトーシスの飲作用(ピノサイト―シス)による細胞外成分や細胞膜成分の分解は、[[wikipedia:JA:ターンオーバー (生物)|代謝回転]]、栄養供給などに重要である。[[上皮増殖因子]]([[wikipedia:Epidermal growth factor|EGF]])やその受容体(EGFR)などの分解は、[[シグナル伝達]]を遮断するうえで重要である。エンドサイトーシスの食作用(ファゴサイトーシス)による病原体、異物、[[アポトーシス]]細胞などの分解は、生体防御、[[wikipedia:JA:抗原提示|抗原提示]]、[[wikipedia:JA:自己免疫疾患|自己免疫疾患]]抑制などに重要である。マクロオートファジーによるサイトゾル成分や細胞小器官の分解は、細胞内の代謝回転、品質管理、飢餓時の栄養供給、抗原提示などに重要である。
 リソソームの主な機能は、生体高分子の分解と再利用である。エンドサイトーシスの飲作用(ピノサイト―シス)による細胞外成分や細胞膜成分の分解は、[[wikipedia:JA:ターンオーバー (生物)|代謝回転]]、栄養供給などに重要である。[[上皮増殖因子]]([[wikipedia:Epidermal growth factor|EGF]])やその受容体(EGFR)などの分解は、[[シグナル伝達]]を遮断するうえで重要である。エンドサイトーシスの食作用(ファゴサイトーシス)による病原体、異物、[[アポトーシス]]細胞などの分解は、生体防御、[[wikipedia:JA:抗原提示|抗原提示]]、[[wikipedia:JA:自己免疫疾患|自己免疫疾患]]抑制などに重要である。マクロオートファジーによるサイトゾル成分や細胞小器官の分解は、細胞内の代謝回転、品質管理、飢餓時の栄養供給、抗原提示などに重要である。


 リソソームは細胞内の分解装置としてだけでなく、他にも様々な機能を有している。リソソームの[[エクソサイト―シス]]は、損傷した細胞膜の修復、[[細胞外マトリックス]]の分解などに関与する。またリソソーム膜の透過性亢進と細胞死との関連も報告されている。
 リソソームは細胞内の分解装置としてだけでなく、他にも様々な機能を有している。リソソームの[[エクソサイト―シス]]は、損傷した細胞膜の修復、[[細胞外マトリックス]]の分解などに関与する。またリソソーム膜の透過性亢進(lysosomal membrane permeabilization)と細胞死との関連も報告されている。


 リソソームは細胞内の栄養状態(アミノ酸など)を感知する場としても重要である。mTORC1複合体は細胞内のアミノ酸濃度を感知して、細胞成長・代謝・タンパク質合成などの様々な細胞機能を制御する重要なシグナル因子であるが、その活性化はリソソーム膜上で起こる<ref name="ref8"><pubmed> 20381137 </pubmed></ref>。mTORC1複合体は低栄養条件下では不活性型として細胞質に存在するが、細胞内のアミノ酸濃度が上昇すると、リソソーム膜上の活性型[[wikipedia:RRAGA|Rag]]複合体([[wikipedia:JA:グアノシン三リン酸|GTP]]型RagA/B、[[wikipedia:JA:グアノシン二リン酸|GDP型]]RagC/D)と結合することでリソソームへ移行し、活性化される。Rag複合体はRagulatorと呼ばれるリソソーム膜タンパク質を含む複合体(p14、MP1、p18)を介してリソソーム膜上に恒常的に局在している<ref name="ref8" />。
 リソソームは細胞内の栄養状態(アミノ酸など)を感知する場としても重要である。mTORC1複合体は細胞内のアミノ酸濃度を感知して、細胞成長・代謝・タンパク質合成などの様々な細胞機能を制御する重要なシグナル因子であるが、その活性化はリソソーム膜上で起こる<ref name="ref8"><pubmed> 20381137 </pubmed></ref>。mTORC1複合体は低栄養条件下では不活性型として細胞質に存在するが、細胞内のアミノ酸濃度が上昇すると、リソソーム膜上の活性型[[wikipedia:RRAGA|Rag]]複合体([[wikipedia:JA:グアノシン三リン酸|GTP]]型RagA/B、[[wikipedia:JA:グアノシン二リン酸|GDP型]]RagC/D)と結合することでリソソームへ移行し、活性化される。Rag複合体はRagulatorと呼ばれるリソソーム膜タンパク質を含む複合体(p14、MP1、p18)を介してリソソーム膜上に恒常的に局在している<ref name="ref8" />。


 さらに細胞内のアミノ酸濃度を感知するセンサータンパク質の多くもリソソーム膜上に局在する。ロイシルtRNA合成酵素([[wikipedia:leucyl-tRNA synthetase|leucyl-tRNA synthetase]])は細胞内の[[wikipedia:JA:ロイシン|ロイシン]]濃度が上昇すると細胞質からリソソームへ移行し、Rag複合体を活性化する<ref name="ref9"><pubmed> 22424946 </pubmed></ref>。その際、ロイシルtRNA合成酵素はRag複合体と直接結合し、RagDの[[wikipedia:JA:低分子量GTPアーゼ|GTPase活性化タンパク質]](GAP)として機能することでRag複合体を活性型に変換し、mTORC1複合体をリソソームへ移行させる。ロイシルtRNA合成酵素は酵母でも保存されており、液胞膜上でのロイシン依存的なTOR活性化に必要である<ref name="ref10"><pubmed> 22500735 </pubmed></ref>。一方、リソソーム内腔のアミノ酸が液胞型プロトンポンプの構造変化を介してRag複合体やmTOR複合体の活性を制御するという報告もある<ref name="ref11"><pubmed> 22053050 </pubmed></ref>。したがって、リソソーム自体が積極的に細胞機能を制御している可能性も示唆されている。
 さらに細胞内のアミノ酸濃度を感知するセンサータンパク質の多くもリソソーム膜上に局在する。ロイシルtRNA合成酵素([[wikipedia:leucyl-tRNA synthetase|leucyl-tRNA synthetase]])は細胞内の[[wikipedia:JA:ロイシン|ロイシン]]濃度が上昇すると細胞質からリソソームへ移行し、Rag複合体を活性化する<ref name="ref9"><pubmed> 22424946 </pubmed></ref>。その際、ロイシルtRNA合成酵素はRag複合体と直接結合し、RagDの[[wikipedia:JA:低分子量GTPアーゼ|GTPase活性化タンパク質]](GAP)として機能することでRag複合体を活性型に変換し、mTORC1複合体をリソソームへ移行させる。ロイシルtRNA合成酵素は酵母でも保存されており、液胞膜上でのロイシン依存的なTOR活性化に必要である<ref name="ref10"><pubmed> 22500735 </pubmed></ref>。ロイシンセンサーとしては他にロイシンと直接結合するSestrin2の関与が報告されている<ref name="ref16"><pubmed> 26449471 </pubmed></ref>。一方、リソソーム内腔のアミノ酸が液胞型プロトンポンプの構造変化を介してRag複合体やmTOR複合体の活性を制御するという報告もある<ref name="ref11"><pubmed> 22053050 </pubmed></ref>。さらにアルギニンはリソソーム上のアミノ酸トランスポーターSLC38A9により感知される<ref name="ref17"><pubmed> 25567906 </pubmed></ref>。したがって、リソソーム自体が積極的に細胞機能を制御している可能性も示唆されている。


==リソソーム病==
==リソソーム病==
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| Ⅰ型([[wikipedia:ja:ハーラー症候群|ハーラー症候群]]ハーラー症候群、[[wikipedia:Hurler syndrome|Hurler/Scheie syndrome]])  
| Ⅰ型([[wikipedia:ja:ハーラー症候群|ハーラー症候群]][[wikipedia:Hurler syndrome|Hurler/Scheie syndrome]])  
| [[wikipedia:Iduronidase|α-Iduronidase]]
| [[wikipedia:Iduronidase|α-Iduronidase]]
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|[[wikipedia:CTNS (gene)|Cystinosin]]
|[[wikipedia:CTNS (gene)|Cystinosin]]
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|[[wikipedia:ja:離シアル酸蓄積症|離シアル酸蓄積症]]([[wikipedia:Salla disease|Sialic acid storage disorder]]、[[wikipedia:Salla disease|Salla disease]])
|[[wikipedia:ja:遊離シアル酸蓄積症|遊離シアル酸蓄積症]]([[wikipedia:Salla disease|Sialic acid storage disorder]]、[[wikipedia:Salla disease|Salla disease]])
|[[wikipedia:SLC17A5|Sialin]]
|[[wikipedia:SLC17A5|Sialin]]
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===好塩基球顆粒===
===好塩基球顆粒===


 好塩基球顆粒(basophil granule)は[[wikipedia:JA:好塩基球|好塩基球]]に存在し、加水分解酵素、LAMP-1/2などを有する。好塩基球顆粒には[[wikipedia:JA:ヒスタミン|ヒスタミン]]、[[wikipedia:JA:セロトニン|セロトニン]]などが存在し、それらは[[wikipedia:JA:免疫グロブリンE|免疫グロブリンE]]の細胞膜への結合に伴って細胞外へ分泌され、[[wikipedia:JA:免疫|免疫]]応答を惹起する。
 好塩基球顆粒(basophil granule)は[[wikipedia:JA:好塩基球|好塩基球]]に存在し、加水分解酵素、LAMP-1/2などを有する。好塩基球顆粒には[[ヒスタミン]]、[[セロトニン]]などが存在し、それらは[[wikipedia:JA:免疫グロブリンE|免疫グロブリンE]]の細胞膜への結合に伴って細胞外へ分泌され、[[wikipedia:JA:免疫|免疫]]応答を惹起する。


===ラメラ体===
===ラメラ体===
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<references />
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(執筆者:森下英晃、水島昇  担当編集者:大隅典子)

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