「レビー小体型認知症」の版間の差分

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 [[大脳]]と[[脳幹]]を含む[[中枢神経系]]に神経脱落と[[レビー小体]]の出現をみる。レビー小体は[[脳]]・[[脊髄]]ばかりでなく、[[心臓]]、[[消化管]]、[[膀胱]]、[[皮膚]]などの末梢[[自律神経節後線維]]にも認められる。レビー小体の主要構成蛋白は[[α‐シヌクレイン]]であり、主に[[グリア]]内にα‐シヌクレインが蓄積する[[多系統萎縮症]]とともに[[α‐シヌクレイノパチー]](α-synucleinopathy)と称される。
 [[大脳]]と[[脳幹]]を含む[[中枢神経系]]に神経脱落と[[レビー小体]]の出現をみる。レビー小体は[[脳]]・[[脊髄]]ばかりでなく、[[心臓]]、[[消化管]]、[[膀胱]]、[[皮膚]]などの末梢[[自律神経節後線維]]にも認められる。レビー小体の主要構成蛋白は[[α‐シヌクレイン]]であり、主に[[グリア]]内にα‐シヌクレインが蓄積する[[多系統萎縮症]]とともに[[α‐シヌクレイノパチー]](α-synucleinopathy)と称される。


 レビー小体は形態上、脳幹型と皮質型に区別できる。[[脳幹型レビー小体]]は[[黒質]]や[[青斑核]]、[[迷走神経]][[背側核]]などの脳幹諸核、[[視床下部]]、[[Mynert基底核]]などの[[間脳]]諸核に好発し、ハローを有しエオジン好性の明瞭な球形の核を持つ('''図1''')。[[皮質型レビー小体]]は脳幹型に比べると不正円形で小さくハローも不明瞭なため、α‐シヌクレイン免疫染色で初めて明瞭になることが多く、[[大脳辺縁系]]([[側頭葉]]内側部、[[帯状回]]、[[島回]]、[[扁桃核]]など)に好発する。レビー小体の形成は[[神経細胞体]]のみならず[[軸索]]や[[樹状突起]]などの[[神経突起]]にも及び、[[レビー神経突起]](Lewy neurite)と呼ばれる。
 レビー小体は形態上、脳幹型と皮質型に区別できる。[[脳幹型レビー小体]]は[[黒質]]や[[青斑核]]、[[迷走神経]][[背側核]]などの脳幹諸核、[[視床下部]]、[[Meynert基底核]]などの[[間脳]]諸核に好発し、ハローを有しエオジン好性の明瞭な球形の核を持つ('''図1''')。[[皮質型レビー小体]]は脳幹型に比べると不正円形で小さくハローも不明瞭なため、α‐シヌクレイン免疫染色で初めて明瞭になることが多く、[[大脳辺縁系]]([[側頭葉]]内側部、[[帯状回]]、[[島回]]、[[扁桃核]]など)に好発する。レビー小体の形成は[[神経細胞体]]のみならず[[軸索]]や[[樹状突起]]などの[[神経突起]]にも及び、[[レビー神経突起]](Lewy neurite)と呼ばれる。


 レビー小体型認知症をレビー関連病理の出現部位によって分類すると、[[脳幹型]]、[[辺縁型]](移行型)、[[びまん性新皮質型]]に分けられる<ref name=McKeith2005><pubmed>16237129</pubmed></ref>。またレビー小体型認知症では多くの症例で様々な程度の[[アルツハイマー病]]病理を伴う。ただし典型的な[[老人班]]と[[神経原線維]]変化がみられるとは限らず、新皮質に[[アミロイド]]沈着は認めるが神経原線維変化を欠く症例もみられる。
 レビー小体型認知症をレビー関連病理の出現部位によって分類すると、[[脳幹型]]、[[辺縁型]](移行型)、[[びまん性新皮質型]]に分けられる<ref name=McKeith2005><pubmed>16237129</pubmed></ref>。またレビー小体型認知症では多くの症例で様々な程度の[[アルツハイマー病]]病理を伴う。ただし典型的な[[老人班]]と[[神経原線維]]変化がみられるとは限らず、新皮質に[[アミロイド]]沈着は認めるが神経原線維変化を欠く症例もみられる。
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== 鑑別診断 ==
== 鑑別診断 ==
 アルツハイマー病との鑑別では、幻視、パーキンソニズム、REM睡眠行動異常症、認知機能の変動のうち1つが明らかな場合、指標的バイオマーカーの検査を計画すると良い。特に認知症が軽症の時期から幻視が明らか、あるいはREM睡眠行動異常症がみられればレビー小体型認知症である可能性は高い。幻視の類縁症状である[[実体意識性]]、[[通過幻視]]などは本人に質問して初めて判明することも多い。幻視がなくても認知症が軽症のうちから[[人物誤認]]などの[[誤認症状]]がみられる場合、レビー小体型認知症を疑う根拠になるのでバイオマーカーによる鑑別を検討する。ただし中等度以上に認知症が進行するとアルツハイマー病でも誤認症状はみられるようになるので慎重な鑑別が必要になる。一方で妄想、興奮、意欲低下はアルツハイマー病, レビー小体型認知症いずれでも初期からみられ、非特異的な症状である。また幻聴は幻視に比べるとレビー小体型認知症への特異性は低く、初期アルツハイマー病でも高齢女性では幻聴、特に[[幻音楽]]は時々経験する。
 アルツハイマー病との鑑別では、幻視、パーキンソニズム、[[REM睡眠行動異常症]]、認知機能の変動のうち1つが明らかな場合、指標的バイオマーカーの検査を計画すると良い。特に認知症が軽症の時期から幻視が明らか、あるいはREM睡眠行動異常症がみられればレビー小体型認知症である可能性は高い。幻視の類縁症状である[[実体意識性]]、[[通過幻視]]などは本人に質問して初めて判明することも多い。幻視がなくても認知症が軽症のうちから[[人物誤認]]などの[[誤認症状]]がみられる場合、レビー小体型認知症を疑う根拠になるのでバイオマーカーによる鑑別を検討する。ただし中等度以上に認知症が進行するとアルツハイマー病でも誤認症状はみられるようになるので慎重な鑑別が必要になる。一方で妄想、興奮、意欲低下はアルツハイマー病, レビー小体型認知症いずれでも初期からみられ、非特異的な症状である。また幻聴は幻視に比べるとレビー小体型認知症への特異性は低く、初期アルツハイマー病でも高齢女性では幻聴、特に[[幻音楽]]は時々経験する。


 幻視はないが筋強剛、寡動が主体の非定型パーキンソニズムと認知症がみられる場合、[[進行性核上性麻痺]]、[[大脳皮質基底核症候群]]、多系統萎縮症などの鑑別が必要である。これらの疾患との鑑別にはMIBG心筋シンチグラフィーが有用である。筋強剛はないが[[すり足歩行]]、[[小股歩行]]がみられ認知症を呈する場合には[[正常圧水頭症]]、[[皮質下型血管性認知症]]が鑑別に挙がる。これらの疾患との鑑別には頭部MRI、[[脳血流SPECT]]が有用である。
 幻視はないが筋強剛、寡動が主体の非定型パーキンソニズムと認知症がみられる場合、[[進行性核上性麻痺]]、[[大脳皮質基底核症候群]]、多系統萎縮症などの鑑別が必要である。これらの疾患との鑑別にはMIBG心筋シンチグラフィーが有用である。筋強剛はないが[[すり足歩行]]、[[小股歩行]]がみられ認知症を呈する場合には[[正常圧水頭症]]、[[皮質下型血管性認知症]]が鑑別に挙がる。これらの疾患との鑑別には頭部MRI、[[脳血流SPECT]]が有用である。
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<sup>123</sup>I-ioflupaneなどを用いてSPECTで大脳基底核のドパミントランスポーターを評価すると、レビー小体型認知症では取り込みの低下がみられる。全ての症例で低下する訳ではなく、アルツハイマー病との鑑別能は感度78%、特異度90%程度である<ref name=McKeith2005><pubmed>16237129</pubmed></ref>。
<sup>123</sup>I-ioflupaneなどを用いてSPECTで大脳基底核のドパミントランスポーターを評価すると、レビー小体型認知症では取り込みの低下がみられる。全ての症例で低下する訳ではなく、アルツハイマー病との鑑別能は感度78%、特異度90%程度である<ref name=McKeith2005><pubmed>16237129</pubmed></ref>。
==== <sup>123</sup>I-meta-iodobenzylguanidine 心筋シンチグラフィー ====
==== <sup>123</sup>I-meta-iodobenzylguanidine 心筋シンチグラフィー ====
 <sup>123</sup>I-meta-iodobenzylguanidine (MIBG)心筋シンチグラフィーは心臓交感神経機能評価の指標であるが、レビー小体型認知症およびパーキンソン病で高率に取り込み低下がみられるので、アルツハイマー病や他のパーキンソン関連疾患との鑑別を目的に用いられる(図2)。ただし全例で低下するわけではなく、アルツハイマー病との鑑別能は感度69%、特異度87%である<ref name=Yoshita2015><pubmed>25793585</pubmed></ref>。MIBGの心筋への取り込みは虚血性心疾患や慢性心不全の合併、糖尿病、薬剤([[三環系抗うつ薬]]など)の影響などでも低下するので注意を要する。
 <sup>123</sup>I-meta-iodobenzylguanidine (MIBG)心筋シンチグラフィーは心臓交感神経機能評価の指標であるが、レビー小体型認知症およびパーキンソン病で高率に取り込み低下がみられるので、アルツハイマー病や他のパーキンソン関連疾患との鑑別を目的に用いられる('''図2''')。ただし全例で低下するわけではなく、アルツハイマー病との鑑別能は感度69%、特異度87%である<ref name=Yoshita2015><pubmed>25793585</pubmed></ref>。MIBGの心筋への取り込みは虚血性心疾患や慢性心不全の合併、糖尿病、薬剤([[三環系抗うつ薬]]など)の影響などでも低下するので注意を要する。


[[ファイル:Nagahama Dementia with Lewie Bodies Fig2.jpg|サムネイル|'''図2. レビー小体型認知症でみられるMIBG心筋シンチグラフィー取り込み低下''']]
[[ファイル:Nagahama Dementia with Lewie Bodies Fig2.jpg|サムネイル|'''図2. レビー小体型認知症でみられるMIBG心筋シンチグラフィー取り込み低下''']]
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==== CT/MRI ====
==== CT/MRI ====
 側頭葉内側の萎縮はアルツハイマー病に比べると軽い傾向がみられる。しかし個々の症例では側頭葉内側萎縮が明らかな例もあるのでアルツハイマー病との鑑別には有用とはいえない。  
 側頭葉内側の萎縮はアルツハイマー病に比べると軽い傾向がみられる。しかし個々の症例では側頭葉内側萎縮が明らかな例もあるのでアルツハイマー病との鑑別には有用とはいえない。  
[[ファイル:Nagahama Dementia with Lewie Bodies Fig3.jpg|サムネイル|'''図3. DLBの脳血流SPECT画像'''<br>矢印:後頭葉の血流低下を示す。A)の上の像では後部帯状回の血流が一部保たれている(cingulate island sign)。]]
==== PET/SPECT ====
==== PET/SPECT ====
 [[FDG-PET|<sup>18</sup>F-fluorodeoxyglucose (FDG) PET]]では頭頂葉、側頭葉、後頭葉皮質での糖代謝が低下し、特に[[一次視覚野]]を含む後頭葉での低下はレビー小体型認知症に特徴的でアルツハイマー病との鑑別に有用である。前頭葉から後頭葉まで皮質代謝がびまん性に低下する症例も多く、その場合には基底核や視床の代謝が相対的に高くみえる。相対的に後部帯状回付近の代謝が高く見える帯状回島徴候(cingulate island sign)がみられることもある <ref name=McKeith2017><pubmed>28592453</pubmed></ref>。SPECTによる脳血流検査でもPETと同様の所見が得られるが、PETに比べると感度は劣る。
 [[FDG-PET|<sup>18</sup>F-fluorodeoxyglucose (FDG) PET]]では頭頂葉、側頭葉、後頭葉皮質での糖代謝が低下し、特に[[一次視覚野]]を含む後頭葉での低下はレビー小体型認知症に特徴的でアルツハイマー病との鑑別に有用である。前頭葉から後頭葉まで皮質代謝がびまん性に低下する症例も多く、その場合には基底核や視床の代謝が相対的に高くみえる。相対的に後部帯状回付近の代謝が高く見える帯状回島徴候(cingulate island sign)がみられることもある <ref name=McKeith2017><pubmed>28592453</pubmed></ref>。SPECTによる脳血流検査でもPETと同様の所見が得られるが('''図3''')、PETに比べると感度は劣る。


==== 脳波 ====
==== 脳波 ====
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==関連項目==
==関連項目==
* [[REM睡眠行動異常症]]
* [[REM睡眠行動異常症]]
* [[αシンヌクレイン]]
* [[αシヌクレイン]]


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==

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