「ロドプシン」の版間の差分

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=== 発色団レチナール ===
=== 発色団レチナール ===


 ロドプシンの大きな特徴の一つは光を受容する[[wikipedia:JA:発色団|発色団]]として[wikipedia:JA:レチナール|レチナール]]を含むことである。つまり、ロドプシンはアポタンパク質と発色団レチナールからなる。[[wikipedia:JA:アポタンパク質|アポタンパク質]]のことをオプシン(opsin)と呼ぶ(桿体視物質と錐体視物質のオプシンを区別する場合、scotopsin、photopsinと呼ぶ場合がある)。「オプシン」や「ロドプシン」という言葉は、広義には、ロドプシンに相同なタンパク質という意味でも使われている。  
 ロドプシンの大きな特徴の一つは光を受容する[[wikipedia:JA:発色団|発色団]]として[[wikipedia:JA:レチナール|レチナール]]を含むことである。つまり、ロドプシンはアポタンパク質と発色団レチナールからなる。[[wikipedia:JA:アポタンパク質|アポタンパク質]]のことをオプシン(opsin)と呼ぶ(桿体視物質と錐体視物質のオプシンを区別する場合、scotopsin、photopsinと呼ぶ場合がある)。「オプシン」や「ロドプシン」という言葉は、広義には、ロドプシンに相同なタンパク質という意味でも使われている。  


 レチナールは[[wikipedia:JA:ビタミンA|ビタミンA]]の[[wikipedia:JA:アルデヒド|アルデヒド]]型であり、ロドプシン中ではその11-シス型がオプシンのH7(ヘリックス7)に位置するN末端から296番目の[[wikipedia:JA:リシン|リシン]]残基と[[wikipedia:JA:シッフ塩基結合|シッフ塩基結合]]を介して結合している。光を受容したロドプシンでは、レチナールが11-シス型から全トランス型に光異性化される。その後、ロドプシンのタンパク質部分の構造変化がおこり、Gタンパク質を活性化する状態に変化する。この過程を「ロドプシンの光反応過程」と呼ぶ。生成した全トランスレチナールは、その後タンパク質部分から遊離し、タンパク質部分は新たに11-シス型のレチナールと結合してロドプシンになる。この過程を「ロドプシンの再生」と呼ぶ。タンパク質から遊離したレチナール(all-transに異性化)は視細胞の外に運ばれ、網膜色素上皮細胞で11- シス型に再[[wikipedia:JA:異性化|異性化]]され視細胞へ戻り、再びオプシンと結合してロドプシンになる。レチナールがどのような経路を経てオプシンと結合するのかは知られておらず、ロドプシン研究の一つの課題となっている。  
 レチナールは[[wikipedia:JA:ビタミンA|ビタミンA]]の[[wikipedia:JA:アルデヒド|アルデヒド]]型であり、ロドプシン中ではその11-シス型がオプシンのH7(ヘリックス7)に位置するN末端から296番目の[[wikipedia:JA:リシン|リシン]]残基と[[wikipedia:JA:シッフ塩基結合|シッフ塩基結合]]を介して結合している。光を受容したロドプシンでは、レチナールが11-シス型から全トランス型に光異性化される。その後、ロドプシンのタンパク質部分の構造変化がおこり、Gタンパク質を活性化する状態に変化する。この過程を「ロドプシンの光反応過程」と呼ぶ。生成した全トランスレチナールは、その後タンパク質部分から遊離し、タンパク質部分は新たに11-シス型のレチナールと結合してロドプシンになる。この過程を「ロドプシンの再生」と呼ぶ。タンパク質から遊離したレチナール(all-transに異性化)は視細胞の外に運ばれ、網膜色素上皮細胞で11- シス型に再[[wikipedia:JA:異性化|異性化]]され視細胞へ戻り、再びオプシンと結合してロドプシンになる。レチナールがどのような経路を経てオプシンと結合するのかは知られておらず、ロドプシン研究の一つの課題となっている。  
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=== ヘリックス8  ===
=== ヘリックス8  ===
 ロドプシンにはヘリックス7とC末端の間に翻訳後修飾([[パルミチル化]])を受けるシステイン残基が存在し、結合したパルミチン酸は脂質二重膜に挿入されると考えられている。そのため、ヘリックス7とシステイン残基との間が細胞質側のもう一つのループとなり、この領域はさらにヘリックス構造を形成している。このヘリックスはヘリックス8と呼ばれている。膜表面に存在するH8は両親媒性のヘリックスで膜側に疎水性の残基を含んでいる(図2参照)。
 ロドプシンにはヘリックス7とC末端の間に[[wikipedia:JA:翻訳後修飾|翻訳後修飾]]([[パルミチル化]])を受ける[[wikipedia:JA:システイン|システイン]]残基が存在し、結合したパルミチン酸は[[wikipedia:JA:脂質二重膜|脂質二重膜]]に挿入されると考えられている。そのため、ヘリックス7とシステイン残基との間が細胞質側のもう一つのループとなり、この領域はさらにヘリックス構造を形成している。このヘリックスはヘリックス8と呼ばれている。膜表面に存在するH8は[[wikipedia:JA:両親媒性|両親媒性]]のヘリックスで膜側に疎水性の残基を含んでいる(図2参照)。


== '''翻訳後修飾'''  ==
== '''翻訳後修飾'''  ==
 視細胞のERで生合成されたオプシンは外節につながる繊毛部分に輸送され、外節の根元から生成する新たな円盤膜に取り込まれていく。前述したように、光受容体であるロドプシンは翻訳後にレチナールを取り込む必要があるが、それ以外にも円盤膜に運ばれるまでにいくつかの翻訳後修飾を受ける。ロドプシンの大きな特徴の一つがC110とC187の間に形成されるS−S結合である(図2参照)。このジスフィルド結合は多くの[[GPCR]]でも保存されておりECL2とH3を架橋することによって構造安定化に寄与している。  
 視細胞の[[wikipedia:JA:ER|ER]]で生合成されたオプシンは外節につながる繊毛部分に輸送され、外節の根元から生成する新たな円盤膜に取り込まれていく。前述したように、光受容体であるロドプシンは翻訳後にレチナールを取り込む必要があるが、それ以外にも円盤膜に運ばれるまでにいくつかの翻訳後修飾を受ける。ロドプシンの大きな特徴の一つがC110とC187の間に形成される[[wikipedia:JA:S−S結合|S−S結合]]である(図2参照)。このジスフィルド結合は多くの[[GPCR]]でも保存されておりECL2とH3を架橋することによって構造安定化に寄与している。  


 また、ロドプシンのN2/N15は糖鎖修飾を受ける。このためロドプシンのN2/N15は生物種を超えて良く保存されている。このようなタンパク質のN結合型糖鎖付加は、修飾されるアミノ酸残基の位置は異なるが、オプシン類そしてファミリー1のGPCRにも見られる。一般に、糖鎖修飾はタンパク質の輸送やフォールディングに関わると考えられている。これ以外にもN末端のメチル基はアセチル化され、前述のC末端のC322/C322のシステイン残基はパルミチン酸化(脂質修飾)されている。
 また、ロドプシンのN2/N15は[[wikipedia:JA:糖鎖修飾|糖鎖修飾]]を受ける。このためロドプシンのN2/N15は生物種を超えて良く保存されている。このようなタンパク質の[[wikipedia:JA:N結合型糖鎖付加|N結合型糖鎖付加]]は、修飾されるアミノ酸残基の位置は異なるが、オプシン類そしてファミリー1のGPCRにも見られる。一般に、糖鎖修飾はタンパク質の輸送やフォールディングに関わると考えられている。これ以外にもN末端の[[wikipedia:JA:メチル基|メチル基]]は[[wikipedia:JA:アセチル化|アセチル化]]され、前述のC末端のC322/C322のシステイン残基はパルミチン酸化(脂質修飾)されている。


[[Image:Rhodopsin structure.png|thumb|right|300px|'''図2:ロドプシンの立体構造モデル'''<br />a:基底状態のロドプシンの立体構造(PDBID:1U19)。H1を青色で示しH8をオレンジ色で示している。7本の膜貫通ヘリックスに加えて膜面に平行なH8が特徴的である。H3は大きく傾いていて細胞質側はH4とH5の間に入り込んでいる。上が円板膜内側、下がGタンパク質と相互作用する細胞質側である。手前のH7にレチナール(11−シス)とその結合部位であるK296、そしてシッフ塩基の対イオンとして機能するH3のE113のアミノ酸、C110-C187のジスフィルド結合、細胞質側にはH3にERYモチーフH7にはNPXXYモチーフのアミノ酸を示している。<br />b:活性化に伴う構造変化。基底状態(緑色PDBID:1U19)と較べて活性状態は(オレンジ色PDBID:3PQR)H6が大きく外側に動きH5も細胞質側に伸びるている。また基底状態ではH3とH6間のイオニックロックの相互作用が活性状態では解除されR135はNPXXYモチーフやY223等と新たな相互作用を形成する。]]  
[[Image:Rhodopsin structure.png|thumb|right|300px|'''図2:ロドプシンの立体構造モデル'''<br />a:基底状態のロドプシンの立体構造(PDBID:1U19)。H1を青色で示しH8をオレンジ色で示している。7本の膜貫通ヘリックスに加えて膜面に平行なH8が特徴的である。H3は大きく傾いていて細胞質側はH4とH5の間に入り込んでいる。上が円板膜内側、下がGタンパク質と相互作用する細胞質側である。手前のH7にレチナール(11−シス)とその結合部位であるK296、そしてシッフ塩基の対イオンとして機能するH3のE113のアミノ酸、C110-C187のジスフィルド結合、細胞質側にはH3にERYモチーフH7にはNPXXYモチーフのアミノ酸を示している。<br />b:活性化に伴う構造変化。[[wikipedia:JA:基底状態|基底状態]](緑色PDBID:1U19)と較べて[[wikipedia:JA:活性状態|活性状態]]は(オレンジ色PDBID:3PQR)H6が大きく外側に動きH5も細胞質側に伸びるている。また基底状態ではH3とH6間のイオニックロックの相互作用が活性状態では解除されR135はNPXXYモチーフやY223等と新たな相互作用を形成する。]]  


== '''膜環境'''  ==
== '''膜環境'''  ==


 膜タンパク質であるロドプシンの分子特性はその膜環境に大きく依存する。ただし、ヘリックス領域に囲まれている発色団の光化学的な特性(分子吸光係数、量子収率、光感受性など)は膜環境による影響を受けにくい。一方で、中間体や活性状態の平衡、寿命や生成速度等は膜環境の影響を顕著に受ける。
 膜タンパク質であるロドプシンの分子特性はその膜環境に大きく依存する。ただし、ヘリックス領域に囲まれている発色団の光化学的な特性([[wikipedia:JA:分子吸光係数|分子吸光係数]]、[[wikipedia:JA:量子収率|量子収率]]、[[wikipedia:JA:光感受性|光感受性]]など)は膜環境による影響を受けにくい。一方で、中間体や活性状態の平衡、寿命や生成速度等は膜環境の影響を顕著に受ける。


 桿体外節の円盤膜はPC(phosphatidylcholine)やPE(phosphatidylethanolamine)を主成分とし、他にもPS(phosphatidylserine)やPI(phosphatidylinositol)を含むことが知られている。また膜のコレステロール含有量によってロドプシンの活性状態とその前駆体の平衡が変化することが知られている。
 桿体外節の円盤膜はPC([[wikipedia:phosphatidylcholine]])やPE(wikipedia:JA:phosphatidylethanolamine)を主成分とし、他にもPS(wikipedia:JA:phosphatidylserine)やPI(wikipedia:JA:phosphatidylinositol)を含むことが知られている。また膜のwikipedia:JA:コレステロール含有量によってロドプシンの活性状態とその前駆体の平衡が変化することが知られている。


== '''シッフ塩基プロトン・対イオン'''  ==
== '''シッフ塩基プロトン・対イオン'''  ==