「一酸化窒素」の版間の差分

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 NOの脳における重要な機能として[[シナプス]]可塑性の調節因子としての働きが挙げられる<ref name=ref2><pubmed>24198758</pubmed></ref>。NOが関与するシナプス可塑性としては[[小脳]]の[[長期抑圧]]、[[海馬]]の[[長期増強]]、[[大脳皮質]]の長期増強などがある。いずれの場合も、特定の膜に閉ざされたコンパートメントから、別の膜に閉ざされたコンパートメントに、NOのガス拡散特性によって情報を伝達しているという点に特徴がある(図)。NOの放出部位はシナプス前部、後部、[[抑制性介在神経]]と多彩であり、NOはシナプスの可塑性に必須な因子というより、状況に応じて誘発を促進する調節因子であるという点が共通している。
 NOの脳における重要な機能として[[シナプス]]可塑性の調節因子としての働きが挙げられる<ref name=ref2><pubmed>24198758</pubmed></ref>。NOが関与するシナプス可塑性としては[[小脳]]の[[長期抑圧]]、[[海馬]]の[[長期増強]]、[[大脳皮質]]の長期増強などがある。いずれの場合も、特定の膜に閉ざされたコンパートメントから、別の膜に閉ざされたコンパートメントに、NOのガス拡散特性によって情報を伝達しているという点に特徴がある(図)。NOの放出部位はシナプス前部、後部、[[抑制性介在神経]]と多彩であり、NOはシナプスの可塑性に必須な因子というより、状況に応じて誘発を促進する調節因子であるという点が共通している。
===小脳長期抑圧現象===
====小脳長期抑圧現象====
 小脳皮質からの唯一の出力細胞である[[プルキンエ細胞]]は、[[平行線維]]と[[登上線維]]からシナプス入力を受け。この二つが同期して起きたときに平行線維-プルキンエ細胞間シナプスが長期[[抑圧]]を起こす。小脳の長期抑圧は、ある種の運動学習の基礎メカニズムであると考えられている。小脳の長期抑圧は、シナプス後部であるプルキンエ細胞において生ずる。一方、平行線維を出す[[顆粒細胞]]はnNOSを多量に含み、NOは平行線維から放出されてプルキンエ細胞に、あるいは平行線維自身に作用すると考えられている。培養プルキンエ細胞を用た単純な実験系ではNOの関与なしに[[グルタミン酸]]応答の抑圧が起きるが、小脳長期抑圧を必要とする運動学習はNO依存性を示す、つまり標本による違いはあるものの、少なくとも個体レベルにおいて[[運動学習]]はNOによって促進的な修飾作用を受けると考えられる。
 小脳皮質からの唯一の出力細胞である[[プルキンエ細胞]]は、[[平行線維]]と[[登上線維]]からシナプス入力を受け。この二つが同期して起きたときに平行線維-プルキンエ細胞間シナプスが長期[[抑圧]]を起こす。小脳の長期抑圧は、ある種の運動学習の基礎メカニズムであると考えられている。小脳の長期抑圧は、シナプス後部であるプルキンエ細胞において生ずる。一方、平行線維を出す[[顆粒細胞]]はnNOSを多量に含み、NOは平行線維から放出されてプルキンエ細胞に、あるいは平行線維自身に作用すると考えられている。培養プルキンエ細胞を用た単純な実験系ではNOの関与なしに[[グルタミン酸]]応答の抑圧が起きるが、小脳長期抑圧を必要とする運動学習はNO依存性を示す、つまり標本による違いはあるものの、少なくとも個体レベルにおいて[[運動学習]]はNOによって促進的な修飾作用を受けると考えられる。
===海馬長期増強現象===
====海馬長期増強現象====
 [[海馬]][[錘体細胞]]への入力線維を高頻度で刺激すると、[[シナプス後膜]]の[[NMDA型グルタミン酸受容体]]が活性化されてカルシウムが流入し、長期増強が起きる。長期増強には、シナプス後部のグルタミン酸[[受容体]]数が増加する型と、[[シナプス前部]]からのグルタミン酸放出量が増大する型がある。[[シナプス前]]部でグルタミン酸の放出が起きるためには、カルシウム流入があったシナプス後部からシナプス前部へと逆行性に情報を伝達するメカニズムがあるのではないかと想定され、NOもそのような[[逆行性情報伝達]]物質の候補として考えられた。しかしNOが長期増強の誘導に関与するにしても実験温度や動物の週令、刺激強度や刺激パターンなど様々な実験条件が適切に設定された場合のみであることが判ってきた。即ちNOは長期増強の成立には必須ではないが、実験条件によっては長期増強を促進する調節物質の一つであると思われる。
 [[海馬]][[錐体細胞]]への入力線維を高頻度で刺激すると、[[シナプス後膜]]の[[NMDA型グルタミン酸受容体]]が活性化されてカルシウムが流入し、長期増強が起きる。長期増強には、シナプス後部のグルタミン酸[[受容体]]数が増加する型と、[[シナプス前部]]からのグルタミン酸放出量が増大する型がある。[[シナプス前]]部でグルタミン酸の放出が起きるためには、カルシウム流入があったシナプス後部からシナプス前部へと逆行性に情報を伝達するメカニズムがあるのではないかと想定され、NOもそのような[[逆行性情報伝達]]物質の候補として考えられた。しかしNOが長期増強の誘導に関与するにしても実験温度や動物の週令、刺激強度や刺激パターンなど様々な実験条件が適切に設定された場合のみであることが判ってきた。即ちNOは長期増強の成立には必須ではないが、実験条件によっては長期増強を促進する調節物質の一つであると思われる。
===大脳皮質長期増強現象===
====大脳皮質長期増強現象====
 [[大脳皮質]]でも長期増強は起きる。この長期増強とNOとの関係には大脳皮質の層毎の違いがある。即ち大脳皮質のIV層を刺激するとII/III層及びV層の両方にLTPが起きるが、V層のLTPのみが一酸化窒素合成酵素阻害剤によって有意に小さくなる。大脳皮質のNO合成酵素は主に深い層の小型の[[介在神経細胞]]に局在し、これが活動する時にNOも放出される。
 [[大脳皮質]]でも長期増強は起きる。この長期増強とNOとの関係には大脳皮質の層毎の違いがある。即ち大脳皮質のIV層を刺激するとII/III層及びV層の両方にLTPが起きるが、V層のLTPのみが一酸化窒素合成酵素阻害剤によって有意に小さくなる。大脳皮質のNO合成酵素は主に深い層の小型の[[介在神経細胞]]に局在し、これが活動する時にNOも放出される。