「一酸化窒素」の版間の差分

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||[[細胞膜]]に結合しやすい性質を持っている。||カルシウム/カルモジュリン
||[[細胞膜]]に結合しやすい性質を持っている。||カルシウム/カルモジュリン
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Wikipediaより改変。遺伝子名はAllen Brain Atlasへのリンク。
Wikipediaより改変。遺伝子名はAllen Brain Atlasへのリンク。


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===グアニル酸シクラーゼ===
===グアニル酸シクラーゼ===
 NOは可溶性[[グアニル酸シクラーゼ]]を活性化し、細胞内のcGMPレベルを上げる。グアニル酸シクラーゼの活性化は、NOが酵素の活性中心のヘム鉄に高い親和性を有する性質に依存している。生成されたcGMPは複数の経路を通じて下流へシグナルを伝達する。1) cGMP依存性タンパクリン酸化酵素(Protein kinase G; PKG)を活性化し、種々のターゲット分子の働きをリン酸化によって調節する。脳のシナプス可塑性の調節に関連しては、海馬でCaMKII (Tanaka et al., Nitric Oxide, 25, 145-152, 2011)やRhoA (Wang et al., Neuron, 45, 389-403, 2005), VASP(Vasodilator-stimulated phosphoprotein)(Nikonenko et al., PNAS, 110, E4142-E4151, 2013)などがPKGのターゲットであると報告されている。小脳においてもG-substrateやIP3タイプI受容体などがPKGによってリン酸化されることが知られている (Endo, Prog. Mol. Biol. Transl, Sci., 106, 381-416, 2012)。Protein kinase Aと同様に、cAMP responsive element 結合因子(CREB)をリン酸化し、シナプス可塑性に関連したタンパク合成を調節することも報告されている。2)また、cGMPはcAMPと同様にcyclic nucleotide-gated(CNG) イオンチャンネルを開口させる。これらのCNGチャンネルは特に視覚や嗅覚の受容に重要である(Rieke and Schwartz, Neuron, 13, 863-873, 1994, Leinders-Zufall et al., PNAS, 104, 14507-14512, 2007)。3) cGMPは、cAMP特異的フォスフォジエステラーゼ(PDE) の活性を抑制または増強させるため、一部のcGMPの作用は、これにより起こるとされる。上昇したcGMP はそれ自身、PDEによって速やかに分解され、その作用を消失する。
 NOは可溶性[[グアニル酸シクラーゼ]]を活性化し、細胞内のcGMPレベルを上げる。グアニル酸シクラーゼの活性化は、NOが酵素の活性中心のヘム鉄に高い親和性を有する性質に依存している。生成されたcGMPは複数の経路を通じて下流へシグナルを伝達する。1) cGMP依存性タンパクリン酸化酵素(Protein kinase G; PKG)を活性化し、種々のターゲット分子の働きをリン酸化によって調節する。脳のシナプス可塑性の調節に関連しては、海馬でCaMKII<ref><pubmed>21255668</pubmed><ref>やRhoA <ref><pubmed>15694326</pubmed><ref>、VASP(Vasodilator-stimulated phosphoprotein)<ref><pubmed>24127602</pubmed></ref>などがPKGのターゲットであると報告されている。小脳においてもG-substrateやIP3タイプI受容体などがPKGによってリン酸化されることが知られている<ref><pubmed>22340725</pubmed></ref>。Protein kinase Aと同様に、cAMP responsive element 結合因子(CREB)をリン酸化し、シナプス可塑性に関連したタンパク合成を調節することも報告されている。2)また、cGMPはcAMPと同様にcyclic nucleotide-gated(CNG) イオンチャンネルを開口させる。これらのCNGチャンネルは特に視覚や嗅覚の受容に重要である<ref><pubmed>7946333</pubmed><ref> <ref><pubmed>17724338</pubmed><ref>。3) cGMPは、cAMP特異的フォスフォジエステラーゼ(PDE) の活性を抑制または増強させるため、一部のcGMPの作用は、これにより起こるとされる。上昇したcGMP はそれ自身、PDEによって速やかに分解され、その作用を消失する。


===タンパク質のニトロシル化===
===タンパク質のニトロシル化===
 NOは、タンパク分子内に存在するシステインの-SH残基をニトロシル化し、ニトロシルチオール残基を形成する (Smith and Marletta, Current Opinion in Chem. Biol., 16, 498-506, 2012, Hess et al., Nature Rev. Mol. Cell Biol. 6, 150-166 2005)
 NOは、タンパク分子内に存在するシステインの-SH残基をニトロシル化し、ニトロシルチオール残基を形成する<ref><pubmed>23127359</pubmed><ref> <ref><pubmed>15688001</pubmed><ref>




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 ニトロシル化されたタンパク質は、その活性が修飾され、これにより、いくつかの神経タンパクの作用が変化することが知られている。シナプス膜関連タンパクではグルタミン酸NMDA受容体, AMPA受容体及びシンタキシンを始めとして10種類以上がNOによりニトロシル化されることが知られている (Nakamura et al., Neuron, 78, 596-614, 2013)。近年、タンパク質機能解析及び微量定量法の目覚ましい進歩により、生体内でニトロシル化を受けるタンパクの同定が進んでいるが、実験条件によっては、ニトロシル化の可逆性及び分子間転移性による不安定からくる誤差を十分考慮して、解析する必要がある。
 ニトロシル化されたタンパク質は、その活性が修飾され、これにより、いくつかの神経タンパクの作用が変化することが知られている。シナプス膜関連タンパクではグルタミン酸NMDA受容体, AMPA受容体及びシンタキシンを始めとして10種類以上がNOによりニトロシル化されることが知られている<ref><pubmed>2371916</pubmed><ref>。近年、タンパク質機能解析及び微量定量法の目覚ましい進歩により、生体内でニトロシル化を受けるタンパクの同定が進んでいるが、実験条件によっては、ニトロシル化の可逆性及び分子間転移性による不安定からくる誤差を十分考慮して、解析する必要がある。


===タンパク質のニトロ化===
===タンパク質のニトロ化===
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 ニトロ化は、後述されるように、NOの活性酸素窒素種としての反応により起こる不可逆的反応である (Gunter et al., JBC, 272, 17086-17090, 1997, Radi, PNAS, 101, 4003-4008, 2004)。DNA合成に重要なリボヌクレオチドリダクターゼの活性中心に存在するチロシン残基のニトロ化が知られている (Lepoivre et al., JBC, 269, 21891-21897, 1994)。比較的高濃度のNOにより検出され、NOによる細胞死の誘導やストレス経路の活性化に重要であるとされる。  
 ニトロ化は、後述されるように、NOの活性酸素窒素種としての反応により起こる不可逆的反応である<ref><pubmed>9202025</pubmed><ref> <ref><pubmed>15020765</pubmed><ref>。DNA合成に重要なリボヌクレオチドリダクターゼの活性中心に存在するチロシン残基のニトロ化が知られている<ref><pubmed>7520445</pubmed><ref>。比較的高濃度のNOにより検出され、NOによる細胞死の誘導やストレス経路の活性化に重要であるとされる。  




===活性酸素窒素種(Reactive oxygen and nitrogen spieces, RONS)としての作用===
===活性酸素窒素種(Reactive oxygen and nitrogen spieces, RONS)としての作用===
 NOは、比較的高濃度においてRONSとして細胞に対してストレス応答を引き起こす。これには、DNAの傷害によるがん抑制遺伝子p53の誘導、ERストレス、p38 MAPキナーゼの活性化やミトコンドリアの機能障害などが関係して神経細胞死の誘導につながる (Brown, Nitric oxide, 23, 153-165, 2010)
 NOは、比較的高濃度においてRONSとして細胞に対してストレス応答を引き起こす。これには、DNAの傷害によるがん抑制遺伝子p53の誘導、ERストレス、p38 MAPキナーゼの活性化やミトコンドリアの機能障害などが関係して神経細胞死の誘導につながる<ref><pubmed>20547235</pubmed><ref>


==機能==
==機能==