「上衣細胞」の版間の差分

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===1-3. 上衣細胞成熟の分子機構===<br> 上衣細胞が正常に発達し機能するためには、細胞間での協調した繊毛運動が必要不可欠である。上衣細胞が成熟するにつれて、1本1本の繊毛が伸長し運動を始め、脳脊髄液流を生み出す。生み出された液流が基底小体の向きを同じ方向へと配向させ、協調した繊毛運動となる。この過程は平面細胞極性(Planar Cell Polarity; PCP)の形成と呼ばれ、2種類の極性が提唱されている[26](図2E)。<br> 1つ目は“Rotational Polarity”であり、基底小体及び基底仮足の配向を示す[12]。発達中の上衣細胞において、Wnt/PCPシグナルの構成因子であるVangl2は細胞頂端部/後部の境界面及び繊毛に沿って局在しており、基底小体を液流の方向へ配向させる役割を担っていることが示唆されている[14]。別のPCPシグナル因子であるDvl2やCelsr2/3もRotational Polarityの形成に必要であることが報告されている[27,28]。<br> もう1つは“Translational Polarity”であり、基底小体及び繊毛の細胞内前方への移動を示す。上衣細胞の前駆細胞である放射状グリアは1本の一次繊毛を有しており、細胞内前方に位置している。一次繊毛を欠失する変異体では、上衣細胞のTranslational Polarityが障害されることから、放射状グリアの極性が上衣細胞に分化しても引き継がれていることが示唆されている[12]。non-muscle myosin II は上衣細胞に発現しており、その機能阻害によってRotational Polarityを阻害することなくTranslational Polarityのみが阻害される[27]。このことから、上衣細胞の成熟に関与する2つの極性形成はそれぞれ独自のメカニズムで制御されていると考えられている。<br>  
===1-3. 上衣細胞成熟の分子機構===<br> 上衣細胞が正常に発達し機能するためには、細胞間での協調した繊毛運動が必要不可欠である。上衣細胞が成熟するにつれて、1本1本の繊毛が伸長し運動を始め、脳脊髄液流を生み出す。生み出された液流が基底小体の向きを同じ方向へと配向させ、協調した繊毛運動となる。この過程は平面細胞極性(Planar Cell Polarity; PCP)の形成と呼ばれ、2種類の極性が提唱されている[26](図2E)。<br> 1つ目は“Rotational Polarity”であり、基底小体及び基底仮足の配向を示す[12]。発達中の上衣細胞において、Wnt/PCPシグナルの構成因子であるVangl2は細胞頂端部/後部の境界面及び繊毛に沿って局在しており、基底小体を液流の方向へ配向させる役割を担っていることが示唆されている[14]。別のPCPシグナル因子であるDvl2やCelsr2/3もRotational Polarityの形成に必要であることが報告されている[27,28]。<br> もう1つは“Translational Polarity”であり、基底小体及び繊毛の細胞内前方への移動を示す。上衣細胞の前駆細胞である放射状グリアは1本の一次繊毛を有しており、細胞内前方に位置している。一次繊毛を欠失する変異体では、上衣細胞のTranslational Polarityが障害されることから、放射状グリアの極性が上衣細胞に分化しても引き継がれていることが示唆されている[12]。non-muscle myosin II は上衣細胞に発現しており、その機能阻害によってRotational Polarityを阻害することなくTranslational Polarityのみが阻害される[27]。このことから、上衣細胞の成熟に関与する2つの極性形成はそれぞれ独自のメカニズムで制御されていると考えられている。<br>  
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==2. 上衣細胞の種類と形態==<br> 上衣細胞は形態学的に大きく2種類に分類される。1つは繊毛を持つ立方形の形態をした上衣細胞 (Ependymal cells)であり、繊毛の本数により、多数の繊毛を持つE1細胞及び2本の繊毛を持つE2 細胞の2種類に分類される[17]。もう1つは双極性で、繊毛をほとんどもしくは全く持たない伸長上衣細胞 (Tanycytes) である[29]。2種類の上衣細胞は分布も異なっており、上衣細胞が側脳室、第3脳室、第4脳室の壁面に存在しているのに対し、伸長上衣細胞は主に第3脳室壁に存在している。E2細胞は全ての脳室壁に存在しているが数は少なく、側脳室壁においては全体の約5%である[17]。脳室から続く脊髄中心管には繊毛を1~3本持つ上衣細胞 (Central canal ependymal cells) が存在する[30,31]。  
==2. 上衣細胞の種類と形態==<br> 上衣細胞は形態学的に大きく2種類に分類される。1つは繊毛を持つ立方形の形態をした上衣細胞 (Ependymal cells)であり、繊毛の本数により、多数の繊毛を持つE1細胞及び2本の繊毛を持つE2 細胞の2種類に分類される[17]。もう1つは双極性で、繊毛をほとんどもしくは全く持たない伸長上衣細胞 (Tanycytes) である[29]。2種類の上衣細胞は分布も異なっており、上衣細胞が側脳室、第3脳室、第4脳室の壁面に存在しているのに対し、伸長上衣細胞は主に第3脳室壁に存在している。E2細胞は全ての脳室壁に存在しているが数は少なく、側脳室壁においては全体の約5%である[17]。脳室から続く脊髄中心管には繊毛を1~3本持つ上衣細胞 (Central canal ependymal cells) が存在する[30,31]。