「不平等嫌悪」の版間の差分

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==社会的選好の類型と不平等回避==
==社会的選好の類型と不平等回避==


 社会的選好の定式化は。大きく2つに分けられる。1つは分配に関する選好、もう1つは他者の意図に対する選好である。<ref>'''Ernst Fehr, Klaus M Schmidt'''<br>The economics of fairness, reciprocity and altruism―experimental evidence and new theories.<br>In: Serge-Christophe Kolm and Jean M. Ythier (ads), ''Handbook of the Economics of Giving, Altruism and Reciprocity'', North-Holland: Elsevier, 2006;615-691</ref>
 社会的選好の定式化は。大きく2つに分けられる。1つは分配に関する選好、もう1つは他者の意図に対する選好である。<ref>'''Ernst Fehr, Klaus M Schmidt'''<br>The economics of fairness, reciprocity and altruism―experimental evidence and new theories.<br>In: Serge-Christophe Kolm and Jean M. Ythier (ads), ''Handbook of the Economics of Giving, Altruism and Reciprocity'', North-Holland: Elsevier, 2006;615-691</ref>
不平等回避は、前者の一形態である。
不平等回避は、前者の一形態である。


 前者の分配に関する選好は、結果に依存した定式化で、結果(典型的には、お金)がどのように分布しているかが個人の選好に影響する。その結果がもたらされた過程は問わない。後者の意図に対する選好は、他者の行動、そしてその背後にある意図が選好に影響を与えるとする。後者のほうがより現実を生々しく描写しているが、モデルが複雑になるという欠点がある。前者はより簡便で扱いやすい。
 前者の分配に関する選好は、結果に依存した定式化で、結果(典型的には、お金)がどのように分布しているかが個人の選好に影響する。その結果がもたらされた過程は問わない。後者の意図に対する選好は、他者の行動、そしてその背後にある意図が選好に影響を与えるとする。後者のほうがより現実を生々しく描写しているが、モデルが複雑になるという欠点がある。前者はより簡便で扱いやすい。


 分配に関する選好は、他者の状態がどのように個人に影響を与えるかという点でいくつかに分類される。例えば、他者の利益が本人の効用に常に正の影響を与えるという[[wikipedia:jp: 利他主義|利他主義]]的定式化が挙げられる。この中で最も有名と言えるのが、不平等回避である。不平等回避は、個人が本人の利益と他者の利益の相対的な水準を意識し、平等な状態から乖離するほど不効用を感じるとする。例えば、プレーヤーが2人の場合、以下のような定式化<ref>'''Ernst Fehr, Klaus M Schmidt'''<br>A theory of fairness, competition, and cooperation. <br>''Quarterly Journal of Economics'': 1999, 114(3);817-868</ref>
 分配に関する選好は、他者の状態がどのように個人に影響を与えるかという点でいくつかに分類される。例えば、他者の利益が本人の効用に常に正の影響を与えるという[[wikipedia:jp: 利他主義|利他主義]]的定式化が挙げられる。この中で最も有名と言えるのが、不平等回避である。不平等回避は、個人が本人の利益と他者の利益の相対的な水準を意識し、平等な状態から乖離するほど不効用を感じるとする。例えば、プレーヤーが2人の場合、以下のような定式化<ref>'''Ernst Fehr, Klaus M Schmidt'''<br>A theory of fairness, competition, and cooperation. <br>''Quarterly Journal of Economics'': 1999, 114(3);817-868</ref>
が考えられる。
が考えられる。


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 社会的選好を純粋な形で検証するためには、個人の「評判」が行動に影響することを可能な限り避ける必要がある。良い評判が個人の利益につながるような状況を設定すると、自分の一時的な利益を犠牲にしてでも良い評判を得ようとする行動が増える可能性がある。そのような状況では、自分の利益より他者の利益を優先する行動が、社会的選好によるものなのか、評判を通して最終的に自己の利益を増やそうとする利己的な行動なのかが区別できなくなってしまう。
 社会的選好を純粋な形で検証するためには、個人の「評判」が行動に影響することを可能な限り避ける必要がある。良い評判が個人の利益につながるような状況を設定すると、自分の一時的な利益を犠牲にしてでも良い評判を得ようとする行動が増える可能性がある。そのような状況では、自分の利益より他者の利益を優先する行動が、社会的選好によるものなのか、評判を通して最終的に自己の利益を増やそうとする利己的な行動なのかが区別できなくなってしまう。


 これを避けるため、実験では同じゲームを同じメンバーで繰り返さず、1回のみのゲームとし、実験内での評判形成を避ける。また、実験外での評判形成を避けるため、可能な限り匿名の状況を設定し、どの行動を誰がとったのかを特定できないようにする。
 これを避けるため、実験では同じゲームを同じメンバーで繰り返さず、1回のみのゲームとし、実験内での評判形成を避ける。また、実験外での評判形成を避けるため、可能な限り匿名の状況を設定し、どの行動を誰がとったのかを特定できないようにする。


 こうした経済実験は数多く行われ、社会的選好は国や世代を超えた幅広い層で存在することが確認されている。<ref>'''Colin F Camerer'''<br>Behavioral Game Theory―Experiments in Strategic Interaction.<br>Princeton, NJ: Princeton University Press, 2006</ref><ref><pubmed>14574401</pubmed></ref>
 こうした経済実験は数多く行われ、社会的選好は国や世代を超えた幅広い層で存在することが確認されている。<ref>'''Colin F Camerer'''<br>Behavioral Game Theory―Experiments in Strategic Interaction.<br>Princeton, NJ: Princeton University Press, 2006</ref><ref><pubmed>14574401</pubmed></ref>
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(執筆者:大竹 文雄、担当編集委員:定藤 規弘) 
(執筆者:大竹文雄 担当編集委員:定藤規弘)