「不平等嫌悪」の版間の差分

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==社会的選好とは==
==社会的選好とは==


 経済学の世界では伝統的に「個人は自分の利益のみを動機として行動する」と仮定していた。これは、旧来の[[wikipedia:ja:|経済学]]が、主として多数の個人からなる市場での行動を分析していたことに由来する。実際、市場実験による結果は、利己的な個人をモデルとした予測によりかなりの程度が説明できる。<ref>'''Vernon L Smith'''<br>Microeconomic systems as an experimental science.<br>''American Economic Review'': 1982, 72(5);923-955</ref><ref>'''Vernon L Smith'''<br>An experimental study of competitive market behavior. <br>''Journal of Political Economy'': 1962, 70(2);111-137</ref>
 経済学の世界では伝統的に「個人は自分の利益のみを動機として行動する」と仮定していた。これは、旧来の[[wikipedia:ja:経済学|経済学]]が、主として多数の個人からなる市場での行動を分析していたことに由来する。実際、市場実験による結果は、利己的な個人をモデルとした予測によりかなりの程度が説明できる。<ref>'''Vernon L Smith'''<br>Microeconomic systems as an experimental science.<br>''American Economic Review'': 1982, 72(5);923-955</ref><ref>'''Vernon L Smith'''<br>An experimental study of competitive market behavior. <br>''Journal of Political Economy'': 1962, 70(2);111-137</ref>


 しかし[[wikipedia:ja:|ゲーム理論]]の進展に伴い、経済学がより少数の個人からなる経済行動を分析するようになると、利己的な個人を基にしたモデルの当てはまりは悪くなっていった。そこで予測のずれを説明するために導入された概念の1つが、「個人は他者の利益や行動も考慮する」と考える、社会的選好である。
 しかし[[wikipedia:ja:ゲーム理論|ゲーム理論]]の進展に伴い、経済学がより少数の個人からなる経済行動を分析するようになると、利己的な個人を基にしたモデルの当てはまりは悪くなっていった。そこで予測のずれを説明するために導入された概念の1つが、「個人は他者の利益や行動も考慮する」と考える、社会的選好である。


==社会的選好の類型と不平等回避==
==社会的選好の類型と不平等回避==
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==経済実験による検証==
==経済実験による検証==


 不平等回避を含む社会的選好は、様々な経済実験によりその存在が確かめられている。経済実験では、簡単なゲームの結果に応じて報酬を支払う。そのゲームにおける行動を分析することで、社会的選好が存在するかどうかを検証している。[[wikipedia:ja:|最後通牒ゲーム]]・[[wikipedia:ja:|独裁者ゲーム]]・[[wikipedia:ja:|信頼ゲーム]]・[[wikipedia:ja:|公共財ゲーム]]などの代表的ゲームが、様々な環境で行われている。
 不平等回避を含む社会的選好は、様々な経済実験によりその存在が確かめられている。経済実験では、簡単なゲームの結果に応じて報酬を支払う。そのゲームにおける行動を分析することで、社会的選好が存在するかどうかを検証している。[[wikipedia:ja:最後通牒ゲーム|最後通牒ゲーム]]・[[wikipedia:ja:独裁者ゲーム|独裁者ゲーム]]・[[wikipedia:ja:信頼ゲーム|信頼ゲーム]]・[[wikipedia:ja:公共財ゲーム|公共財ゲーム]]などの代表的ゲームが、様々な環境で行われている。


 社会的選好を純粋な形で検証するためには、個人の「評判」が行動に影響することを可能な限り避ける必要がある。良い評判が個人の利益につながるような状況を設定すると、自分の一時的な利益を犠牲にしてでも良い評判を得ようとする行動が増える可能性がある。そのような状況では、自分の利益より他者の利益を優先する行動が、社会的選好によるものなのか、評判を通して最終的に自己の利益を増やそうとする利己的な行動なのかが区別できなくなってしまう。
 社会的選好を純粋な形で検証するためには、個人の「評判」が行動に影響することを可能な限り避ける必要がある。良い評判が個人の利益につながるような状況を設定すると、自分の一時的な利益を犠牲にしてでも良い評判を得ようとする行動が増える可能性がある。そのような状況では、自分の利益より他者の利益を優先する行動が、社会的選好によるものなのか、評判を通して最終的に自己の利益を増やそうとする利己的な行動なのかが区別できなくなってしまう。