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=== 神経細胞移動  ===
=== 神経細胞移動  ===


移動中の神経細胞はまず'''先導突起'''と呼ばれる神経突起を移動方向へと伸長させ、その内部に[[wikipedia:jp:細胞核|細胞核]]およびその他の細胞内小器官を移入させる。この際、中心体は細胞核の前方(先導突起側)に局在することが知られている。また、生細胞イメージングによる観察から中心体が細胞核に先行して先導突起内に移動する様子が報告されたこと、細胞核が微小管の籠状構造(microtubule cage)に囲まれていることから、中心体がそこから伸長する微小管によって先導突起と細胞核を連結し細胞核を牽引するというモデルが提唱された。実際、多くの中心体関連タンパク質および微小管関連タンパク質が神経細胞移動に関与することが報告されている。その一方で、神経細胞移動において細胞核が中心体を一時的に追い抜く事例や移動中の神経細胞内では微小管が必ずしも中心体に収束していないといった上記のモデルとは矛盾する結果も報告されており、神経細胞移動における中心体の正確な役割についてはいまだ結論が出ていない。また中心体自体の移動についても微小管モータータンパク質であるダイニンに依存するという報告とアクチンモーターであるミオシンに依存するという報告があるがその詳細についてもいまだ不明である。
移動中の神経細胞はまず'''先導突起'''と呼ばれる神経突起を移動方向へと伸長させ、その内部に[[wikipedia:jp:細胞核|細胞核]]およびその他の細胞内小器官を移入させる。この際、中心体は細胞核の前方(先導突起側)に局在することが知られている。また、生細胞イメージングによる観察から中心体が細胞核に先行して先導突起内に移動する様子が報告されたこと、細胞核が微小管の籠状構造('''microtubule cage''')に囲まれていることから、中心体がそこから伸長する微小管によって先導突起と細胞核を連結し細胞核を牽引するというモデルが提唱された。実際、多くの中心体関連タンパク質および微小管関連タンパク質が神経細胞移動に関与することが報告されている。その一方で、神経細胞移動において細胞核が中心体を一時的に追い抜く事例や移動中の神経細胞内では微小管が必ずしも中心体に収束していないといった上記のモデルとは矛盾する結果も報告されており、神経細胞移動における中心体の正確な役割についてはいまだ結論が出ていない。また中心体自体の移動についても微小管モータータンパク質である[[ダイニン]]に依存するという報告とアクチンモーターである[[ミオシン]]に依存するという報告があるがその詳細についてもいまだ不明である。


=== 軸索形成  ===
=== 軸索形成  ===


分散培養下の海馬ニューロンはまず複数の未分化な神経突起を形成する。その後、そのうちの1本が急速に伸長を開始し軸索へと分化する。その際、中心体は軸索へと分化する神経突起の根元に局在することが報告されており、中心体が神経細胞における軸索決定を担う因子であることが示唆されている。同様の結果はin vivoでの大脳皮質ニューロンにおいても得られている。その一方で、他のニューロンにおいては軸索決定と中心体の位置に相関は見られないという報告もあり、軸索決定における中心体の局在は特定の神経細胞において必要なのか、もしくは神経細胞の極性形成に付随して起こる結果にすぎないのかという問題に関してはさらなる検証が必要とされる。また、決定した後の軸索の伸長には中心体が必要ないことも報告されている。軸索決定後の神経細胞においてレーザー照射により中心体を破壊しても軸索の伸長および再生には影響を与えない。分化した神経細胞では中心体の微小管重合能は低下しており、主な微小管重合は軸索および樹状突起内に広く分布した非中心体性のγ-tubulinによって担われると考えられている。  
[[初代培養|分散培養]]下の[[海馬]]ニューロンはまず複数の未分化な神経突起を形成する。その後、そのうちの1本が急速に伸長を開始し[[軸索]]へと分化する。その際、中心体は軸索へと分化する神経突起の根元に局在することが報告されており、中心体が神経細胞における軸索決定を担う因子であることが示唆されている。同様の結果は組織培養下の大脳皮質ニューロンにおいても得られている。その一方で、他のニューロンにおいては軸索決定と中心体の位置に相関は見られないという報告もあり、軸索決定における中心体の局在は特定の神経細胞において必要なのか、もしくは神経細胞の極性形成に付随して起こる結果にすぎないのかという問題に関してはさらなる検証が必要とされる。また、決定した後の軸索の伸長には中心体が必要ないことも報告されている。軸索決定後の神経細胞においてレーザー照射により中心体を破壊しても軸索の伸長および再生には影響を与えない。分化した神経細胞では中心体の微小管重合能は低下しており、主な微小管重合は軸索および樹状突起内に広く分布した非中心体性のγ-tubulinによって担われると考えられている。  


=== 一次繊毛の形成  ===
=== 一次繊毛の形成  ===


神経幹細胞を含む多くの細胞は一次繊毛と呼ばれる微小管束によって膜が突出したアンテナ状構造を持つ。一次繊毛はhedgehogシグナルなどの細胞外シグナル分子に対するセンサーとして働く。間期の細胞において中心体は基底小体となって一次繊毛の基部に存在しその形成に関与する。一次繊毛の欠失は脳の発生において左右差の形成不全やhedgehogシグナル依存的な細胞増殖の不全などを引き起こす。
神経幹細胞を含む多くの細胞は一次繊毛と呼ばれる微小管束によって膜が突出したアンテナ状構造を持つ。一次繊毛は[[wikipedia:jp:ソニック・ヘッジホッグ|hedgehog]]シグナルなどの細胞外シグナル分子に対するセンサーとして働く。間期の細胞において中心体は基底小体となって一次繊毛の基部に存在しその形成に関与する。一次繊毛の欠失は脳の発生において左右差の形成不全やhedgehogシグナル依存的な細胞増殖の不全などを引き起こす。


== 中心体関連タンパク質と神経疾患  ==
== 中心体関連タンパク質と神経疾患  ==


これまで脳の形成不全に関与する分子として多くの中心体関連タンパク質が同定されている。小頭症ではその原因遺伝子として7つの中心体関連遺伝子が同定されている。小頭症では大脳皮質の神経細胞数が著しく減少していることから、細胞分裂または対称・非対称分裂の制御に異常があることが示唆される。その一方、皮質の層構造などには異常が見られないことから神経細胞移動の関与は少ないと考えられる。Ⅰ型滑脳症では大脳皮質の層構造に異常が見られることから神経細胞移動の異常が関与すると考えられる。Ⅰ型滑脳症の原因遺伝子としてLis1、Doublecortinなど微小管関連分子が同定されているがこれらの分子もまた中心体に局在することが報告されている。
これまで脳の形成不全に関与する分子として多くの中心体関連タンパク質が同定されている。小頭症ではその原因遺伝子として7つの中心体関連遺伝子が同定されている。小頭症では大脳皮質の神経細胞数が著しく減少していることから、細胞分裂または対称・非対称分裂の制御に異常があることが示唆される。その一方、皮質の層構造などには異常が見られないことから神経細胞移動の関与は少ないと考えられる。Ⅰ型滑脳症では大脳皮質の層構造に異常が見られることから神経細胞移動の異常が関与すると考えられる。Ⅰ型滑脳症の原因遺伝子としてLis1、Doublecortinなど微小管関連分子が同定されているがこれらの分子もまた中心体に局在することが報告されている。
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