二分頭蓋

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英語名:anencephaly

同義語:無脳体、無脳児

 無脳症とは、神経管閉鎖障害(neural tube defects ; NTDs)に属する最も重度な奇形で、頭蓋の形成がなく脳実質を欠く病態である。初期には無頭蓋のみで脳組織の存在するものもあるが、子宮内で次第に損傷され消失すると考えられる。超音波断層法で頭蓋冠の欠如を認めることから出生前診断は容易である。重度の欠損のため生存は困難である。児は出生時に生存していたとしても数時間以内に亡くなるが、数日から数週生存する場合もある。

病態

図1.神経管閉鎖部位を示す模式図(文献1,2改変引用)
正常の一次神経管の閉鎖は、従来は髄脳(胎児期の終脳最尾側にあり延髄となる部分)と脊髄との間の一か所から頭側および尾側にそれぞれジッパーが閉じるように進むと考えられてきたが(continuous closure model)、近年の研究では、この部以外の複数箇所から閉鎖するモデル(multisite closure model)が唱えられている。Van Allenらの説では、A)正常神経管の閉鎖は1→2→3→4→5の順で矢印の方向に閉鎖が進む。B)閉鎖2の障害によって無脳症が発生する。C)閉鎖5は二次神経管に相当し、この閉鎖障害で仙骨部二分脊髄が発生する。

 神経管(neural tube)の形成過程(neurulation)で発生する中枢神経系の形成異常による種々の疾患群は神経管閉鎖障害と総称される。同義語として閉鎖不全(症)(dysraphism)がある。閉鎖障害は神経管が最も遅く閉鎖する部位と考えられている神経管の頭側部(脳)や尾側部(腰仙部脊髄)に発生しやすく、頭部では二分頭蓋(cranium bifidum)または頭蓋閉鎖不全症(cranial dysraphism)、脊椎部では二分脊椎(spina bifida)または脊椎閉鎖不全症(spinal dysraphism)と呼ばれる[1] [2] [3]

 神経管の閉鎖障害が高度であれば、閉鎖障害が発生した部分では中枢神経組織は形成されず、また本来神経組織の周りを覆うべき組織も閉鎖しないため、形成異常をきたした神経組織は外表に露出する。これを開放性閉鎖障害(閉鎖不全症)と呼ぶ。一方、神経管の閉鎖障害が軽度であれば中枢神経組織はある程度形成され、また神経管の周囲の構造物は閉鎖して神経組織を覆うため神経組織は外表に露出しない。これを潜在性(閉鎖性)閉鎖障害(閉鎖不全症)と呼ぶ[2]

 二分頭蓋・脳瘤(cephalocele)は、神経管閉鎖障害の頭側に生じた異常と考えられている。その中で、無脳症は、神経管形成の時期に発生した開放性閉鎖障害であり、尾側では脊髄髄膜瘤(myelomeningocele)(脊髄裂:myeloschisis)がこれに該当する。一方、脳瘤は神経管閉鎖後すなわちpostneurulationの時期に、間葉組織の形成不全によって頭蓋内容物の頭蓋外への脱出が原因とされるとういのが最近の考えである[1] [2] [3]

分類

 二分頭蓋(cranium bifidum)は、開放性二分頭蓋(cranium bifida aperta)と潜在性二分頭蓋(cranium bifida occulta)に大別される。

  1. 開放性二分頭蓋(open cranial bifidum)・大脳裂(encephaloschisis)
    開放性二分頭蓋は、大脳裂ともいうべき神経管閉鎖障害による病態で、無頭蓋症(acrania)、無脳症(anencephaly)、あるいは外脳症(exencephaly)と呼ばれる。
  2. 潜在性二分頭蓋(occult cranial bifidum)・脳瘤(cephalocele)
    潜在性二分頭蓋は、脳瘤と呼ばれており、頭蓋骨と硬膜に欠損があり、それを介して頭蓋内内容物の突出を伴う状態である[3] [4]。その瘤の内容によって、病理学的には以下に細分類される[3] [4]

  ①髄膜瘤(meningocele):髄液腔(髄膜[meninges]と脳脊髄液とが脱出)のみの突出の場合
  ②脳髄膜瘤(encephalomeningocele):髄液腔と脳組織の両方の突出を認める場合
  ③脳嚢瘤(encephalocystocele)・水脳髄膜瘤(hydroencephalomeningocele):②に脳室系も含まれる場合
  ④停止性(遺残性)脳瘤(atretic encephalocele):脳瘤が胎生期に退縮したもの。硬膜、繊維組織、変性した脳組織が結節を形成する。
  ⑤gliocele:グリア細胞で裏打ちされた嚢胞の突出を認める場合

発生頻度

 文献的には、脳瘤の発生率は10000出生あたり0.8-3人、無脳症は1000人出生あたり0.29人と報告されている[4]。無脳症の発生頻度は単胎と双胎でその発生頻度が異なり、前者で高いとの報告があり、海外では北アイルランドにおける1974年から1979年における疫学調査において、単胎で10000出生あたり24.3人、双胎で9.1人と報告されている[5] [6]。 本邦における無脳症の発生頻度に関しては、1000人出生あたり0.64人で、性差は2:1で女性に多く、母親の年齢が35歳以上と20歳未満に多く、出産順位と共に頻度が増すとの報告がある[6] [7]。日本産婦人科学会による調査では、1970年代から80年代前半には10000人分娩あたり10人程度の発生頻度であったものが、近年は10000人あたり1人程度に減少傾向を示している。その理由として、胎児超音波検査等の進歩に伴って出生前に診断される機会が増え、出産に至らないケースが増えてきている可能性があると指摘されている[8]

関連項目

参考文献

  1. 1.0 1.1 Van Allen, M.I., Kalousek, D.K., Chernoff, G.F., Juriloff, D., Harris, M., McGillivray, B.C., ..., & Chitayat, D. (1993).
    Evidence for multi-site closure of the neural tube in humans. American journal of medical genetics, 47(5), 723-43. [PubMed:8267004] [WorldCat] [DOI]
  2. 2.0 2.1 2.2 坂本博昭
    神経管の発生とその障害
    横田晃 監修・山崎麻美・坂本博昭編
    小児脳神経外科学、金芳堂、2009,243-246
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 山崎麻美
    二分頭蓋・脳瘤
    横田晃 監修・山崎麻美・坂本博昭編
    小児脳神経外科学、金芳堂、2009,247-263
  4. 4.0 4.1 4.2 Naidich, T.P., Altman, N.R., Braffman, B.H., McLone, D.G., & Zimmerman, R.A. (1992).
    Cephaloceles and related malformations. AJNR. American journal of neuroradiology, 13(2), 655-90. [PubMed:1566723] [WorldCat]
  5. Little, J., & Nevin, N.C. (1989).
    Congenital anomalies in twins in Northern Ireland. II: Neural tube defects, 1974-1979. Acta geneticae medicae et gemellologiae, 38(1-2), 17-25. [PubMed:2609905] [WorldCat] [DOI]
  6. 6.0 6.1 林隆士
    無脳症, 神経管閉鎖不全による代表的疾患、脳・脊髄奇形の画像と臨床、
    篠原出版、1994, 23-25
  7. 宝道定孝, 家島厚, 高嶋幸男
    こどもをとりまく危険因子 II 胎生期との関係 先天異常(脳・神経奇形との関係) 小児科的立場から
    産婦人科の世界 1988; 40 : 49-58
  8. 胎児期水頭症 診断と治療ガイドライン 改訂2版
    金芳堂、2010,54


(執筆者:押田奈都、金村米博 担当編集委員:岡野栄之)