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<font size="+1">佐藤 正之、冨本 秀和</font><br> | <font size="+1">佐藤 正之、冨本 秀和</font><br> | ||
''三重大学大学院医学研究科 認知症医療学講座''<br> | ''三重大学大学院医学研究科 認知症医療学講座''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年3月28日 原稿完成日:2013年10月18日 更新日:2015年7月15日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真] | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学医学部 内科学講座 神経内科)<br> | ||
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自分の経験として思い出すことのできる記憶を[[顕在記憶]](explicit memory)、そうでないものを[[潜在記憶]](implicit memory)とよぶ。エピソード記憶(episodic memory)とは、特定の時と場所で学習された記憶で、いつ、どこで、何をしたか・何があったかという個人史・社会的記憶のことである。その記憶や知識を有していることを本人が意識し、意図的にアクセスすることができるため、顕在記憶に属する。 | 自分の経験として思い出すことのできる記憶を[[顕在記憶]](explicit memory)、そうでないものを[[潜在記憶]](implicit memory)とよぶ。エピソード記憶(episodic memory)とは、特定の時と場所で学習された記憶で、いつ、どこで、何をしたか・何があったかという個人史・社会的記憶のことである。その記憶や知識を有していることを本人が意識し、意図的にアクセスすることができるため、顕在記憶に属する。 | ||
[[意味記憶]](semantic memory) | [[意味記憶]](semantic memory)は、単語や数字、物事の概念など一般的な知識に関する記憶である。エピソード記憶は“覚えている”という状態であるのに対し、意味記憶は“知っている”という表現に相当する。山鳥は意味記憶を、言語情報としての言語性意味記憶と、感覚モダリティ横断性の情報としての非言語性意味記憶に分類している<ref>'''山鳥 重'''<br>記憶の神経心理学<br>''医学書院''、東京、2002.</ref>。言語性意味記憶は、顕在記憶に含まれる。エピソード記憶と意味記憶は、本人が何らかの形で言葉やイメージで表すことができるため、両者を合わせて[[陳述記憶]](declarative memory, 宣言的記憶ともいう)と呼ぶ。 | ||
[[手続き記憶]](procedural memory)は、いわゆる技能に該当する記憶で、“体で覚えている”と例えられるものである。 | [[手続き記憶]](procedural memory)は、いわゆる技能に該当する記憶で、“体で覚えている”と例えられるものである。 | ||
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[[古典的条件付け]](classical conditioning)とは、[[パブロフの犬]]に代表される記憶に基づく生理反応である。 | [[古典的条件付け]](classical conditioning)とは、[[パブロフの犬]]に代表される記憶に基づく生理反応である。 | ||
手続き記憶、プライミング、古典的条件付けは、言葉やイメージで表すことができないため[[非陳述記憶]](non-declarative memory, 非宣言的記憶) | 手続き記憶、プライミング、古典的条件付けは、言葉やイメージで表すことができないため[[非陳述記憶]](non-declarative memory, 非宣言的記憶)と呼ばれる。またこれら3つと非言語性意味記憶は、それらを有していることを本人は自覚できないため潜在記憶に属している。しかし、上記の分類は研究者により異なり、陳述記憶と顕在記憶とほぼ同義として扱う立場や、意味記憶を潜在記憶に含める研究者もいる。 | ||
健忘患者では一般に、エピソード記憶の障害が目立つが、潜在記憶の障害は目立たない。特に手続き記憶は、重度の健忘患者でも保たれている。[[神経変性疾患]]のなかには、初期に意味記憶だけが顕著に障害されることがあり、[[意味性認知症]](semantic dementia)と総称される。手続き記憶には、[[小脳]]や[[大脳基底核]]が関与しており、[[パーキンソン病]]や[[脊髄小脳変性症]]、[[ハンチントン病]]などで低下すると報告されている<ref name=ref9>'''望月寛子'''<br>手続き記憶の神経基盤<br>''Brain and Nerve'', 60: 825-832, 2008.</ref> 。 | 健忘患者では一般に、エピソード記憶の障害が目立つが、潜在記憶の障害は目立たない。特に手続き記憶は、重度の健忘患者でも保たれている。[[神経変性疾患]]のなかには、初期に意味記憶だけが顕著に障害されることがあり、[[意味性認知症]](semantic dementia)と総称される。手続き記憶には、[[小脳]]や[[大脳基底核]]が関与しており、[[パーキンソン病]]や[[脊髄小脳変性症]]、[[ハンチントン病]]などで低下すると報告されている<ref name=ref9>'''望月寛子'''<br>手続き記憶の神経基盤<br>''Brain and Nerve'', 60: 825-832, 2008.</ref> 。 | ||
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== まとめ == | == まとめ == | ||
記憶障害の研究に一大転機をもたらした症例HMに始まり、記憶の機能解剖、分類、そして健忘症候群に属するいくつかの疾患について解説した。健忘は認知症の主症状であり、超高齢者社会を迎えるわが国おいて、医療面・社会面・経済面のいずれにおいても重要性が増している。記憶のメカニズムを明らかにすることにより、治療法やリハビリ、代替手段の開発に役立つと期待される。 | |||
== 関連項目 == | |||
* [[認知症]] | |||
* [[前向性健忘]] | |||
* [[逆行性健忘]] | |||
* [[記憶の分類]] | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references/> | <references/> |