「共焦点レーザー走査型顕微鏡」の版間の差分

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 共焦点レーザー顕微鏡とは、共焦点光学系を利用しレーザーを光源とした蛍光顕微鏡であり、生物標本の光学的切片像を得られることを特徴とする。1点走査型と多点走査型があり
 共焦点レーザー顕微鏡は、共焦点光学系を利用しレーザーを光源とした顕微鏡である。
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[[image:共焦点レーザー顕微鏡2.png|thumb|300px|'''図2.落射蛍光顕微鏡の画像と共焦点レーザ顕微鏡の画像の比較'''<br>共焦点レーザ顕微鏡の画像は、焦点面前後のぼけた像がない。]]
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 落射式蛍光顕微鏡は対物レンズの焦点面以外のいわゆるボケ像も検出器に入ってきてしまうのに対し、共焦点光学系は対物レンズの焦点面と共役の位置にピンホールを配置し、焦点面以外からの光を除去し、ピントの合った像のみを観察することができる(光学的切片)。
 落射式蛍光顕微鏡は対物レンズの焦点面以外からの光(いわゆるボケ像)も検出器に入ってきてしまうのに対し、共焦点光学系は対物レンズの焦点面と共役の位置にピンホールを配置することによって、焦点面以外からの光を除去し、焦点面のみを観察することができる(光学的切片)。


 したがってサンプルまたは対物レンズを厚み方向に一定距離ずつ移動させて複数枚の画像を撮ると、そのサンプルの3次元的な蛍光物質の分布を観察することができる。
 したがってサンプルまたは対物レンズを厚み方向に一定距離ずつ移動させて複数枚の画像を撮ると、そのサンプルの3次元的な蛍光物質の分布を観察することができる。
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[[image:共焦点レーザー顕微鏡3.png|thumb|300px|'''図3.XYに走査(スキャン)する方法の概念図''']]
[[image:共焦点レーザー顕微鏡3.png|thumb|300px|'''図3.XYに走査(スキャン)する方法の概念図''']]


 共焦点レーザー顕微鏡は、点状のレーザー励起光(レーザースポット)がサンプル上を万遍なく覆うように移動(これを走査[scan]という)しながらサンプルの蛍光を検出し、像をつくる(*)。光源にレーザーが採用されている理由は、レーザー光が点光源に近いのでサンプルに点状に投影できるという理由による。またレーザーは音響光学素子によって波長ごとに高速にレーザーのOn/Offができる。
 共焦点レーザー顕微鏡は、点状に集光したレーザー励起光(レーザースポット)をサンプル上を移動(これを走査[scan]という)させながらサンプルの蛍光を検出することによって像をつくる(*)。光源にレーザーが採用されている理由は、レーザーが点光源に近いのでサンプルに点状に投影できるという理由による。また、一般に複数の波長の異なるレーザーが搭載され、音響光学素子によって波長ごとに高速にレーザーのOn/Offができる。


*線状の光を走査する方式の共焦点顕微鏡もある。
*線状の光を走査する方式の共焦点顕微鏡もある。
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 一点を走査するタイプと多点を走査するタイプがある。
 一点を走査するタイプと多点を走査するタイプがある。


===1点走査型===
===一点走査型===
[[image:共焦点レーザー顕微鏡4.png|thumb|300px|'''図4.1点走査型の概念図''']]
[[image:共焦点レーザー顕微鏡4.png|thumb|300px|'''図4.1点走査型の概念図''']]


 高速で振動するガルバノミラーを制御してその1点のレーザースポットを走査する。
 高速で駆動するガルバノミラーを制御して一点のレーザースポットを走査する。


 検出器には光電子増倍管を用いる。ガルバノミラーを振りながら光電子増倍管に入ってきた光子を増倍し、電気信号に変えてデジタル化し、画素を並べて画像を作る。したがってレーザースポットによって励起された蛍光の光量をデジタル化して画素として配置した人工的な画像であり、顕微鏡を接眼レンズで見る場合の結像された像とは異なるものである。
 検出器には光電子増倍管を用いる。ガルバノミラーを振りながら光電子増倍管によって光を電気信号に変えてデジタル化し、デジタル化された値を画素として並べて画像を作る。
 
 
 一点走査式の共焦点レーザー顕微鏡は、落射蛍光顕微鏡にはないいくつかの特徴がある。
 一点走査式の共焦点レーザー顕微鏡は、落射蛍光顕微鏡にはないいくつかの特徴がある。


 画素をそのままにしてガルバノミラーの振り幅を小さくすることによるズーム機能、斜め方向にスキャンすることによる画像回転機能、また特定の部分のみに光を当てる光刺激の実験も可能である。
:'''スキャンによるズーム機能''':ガルバノミラーの振り幅を小さくすることによって、サンプルの特定の箇所を集中的に走査し、その部分を拡大して見せる機能。


 音響光学素子によって、2つの波長のレーザーと2つのディテクタを高速で切り替えることができ、GFPとDsRedなど2種類の色素を使っている場合に、青色レーザーで励起している時は緑色のディテクタのみで検出するという具合に2つの蛍光色素のクロストークを最小化することができる(もちろん、干渉フィルターを用いた他の画像取得方法でも可能できるが、機械的にフィルターを交換する時間がかかる)。
:'''スキャンによる画像回転機能''':スキャンする方向をX方向またはY方向だけではなく、斜め方向にスキャンすることによってあたかもサンプルが回転したかのように見える機能。


 1点のみの走査なので、像をつくるのに時間がかかるという欠点がある。したがって時間的な変化があるサンプルの場合、像の上部と下部では取得時刻に時間差があり、同じ画面内で同じ現象が映っていても全体が同時に起きているとは言えない。速く撮ろうとすると画素を少なくするなど工夫しなければならない。(最近、共振ガルバノミラーという高速で振動するミラーがあり、1秒に30枚程度の画像を取得することができるようになった。)
:'''光刺激機能''':特定の部分のみに光を照射する機能。細胞の一部に光を照射しその後の時間的経過を調べるたり、サンプルの一部分の蛍光を褪色させてその後周囲からの蛍光物質の流入を調べたりすることができる。


 また、光電子増倍管の中で発生する熱電子がノイズとなり、十分な蛍光シグナルが得られない場合は画面がザラついた感じになる。(最近はガリウム砒素リン光電子増倍管があり、検出器を冷やしてノイズ発生を抑えている。)
:'''シーケンシャルスキャン機能''':2つの波長のレーザーと2つの検出器を電気的に高速で切り替えることができ、2色の蛍光色素を用いている場合に互いの蛍光波長の重複(クロストーク)を最小化することができる。例えばGFPとDsRedの2種類の蛍光タンパクを使っている場合、青色レーザーでGFPを励起し、緑色の蛍光波長のみを第1の検出器で検出し、緑色レーザーでDsRedを励起し赤色の波長のみを第2の検出器で検出するという具合に行なう。(落射蛍光顕微鏡とカメラの組み合わせの場合、機械的にフィルターを交換する時間がかかり、共焦点レーザー顕微鏡ほど早く制御できない。)
 
 一点のみの走査なので、像をつくるのに時間がかかるという欠点がある。したがって時間的な変化があるサンプルの場合、像の上部と下部では取得時刻に時間差があり、同じ画面内で同じ現象が映っていても全体が同時に起きているとは言えない。速く撮ろうとすると画素を少なくするなど工夫しなければならない。(最近、共振ガルバノミラーという高速で振動するミラーがあり、1秒に30枚程度の画像を取得することができるようになった。)
 
 また、十分な蛍光シグナルが得られない場合、光電子増倍管による信号の増幅率を高くすると、光電子増倍管の中で発生する熱電子によるノイズが顕著に現れ、画像がザラついた感じになる。このような場合、走査する速度を遅くして信号強度を増やす、複数枚の画像の平均処理を行うなどして、画像の改善を行う。(最近はガリウム砒素リン光電子増倍管など、より高感度な検出器も登場している。)


===多点走査型===
===多点走査型===
[[image:共焦点レーザー顕微鏡5.png|thumb|300px|'''図5.多点走査型の概念図''']]
[[image:共焦点レーザー顕微鏡5.png|thumb|300px|'''図5.多点走査型の概念図''']]


 多数のピンホールを渦巻状に配置した回転円板(ニポウディスク)を利用し、これを回転させて点状の光をサンプル上に投影してこれを走査する。1画面上には約1000個の点状投影があり、それが万遍なくサンプルを覆うように移動して走査する。
 多数のピンホールを渦巻状に配置した円板(ニポウディスク)を利用し、励起光をこのピンホールを通してサンプル上に投影することで、多数の点状の励起を同時に行う。1画面上には約1000個の点状投影があり、円板を高速で回転させることで、点が万遍なくサンプルを覆うように移動して走査する。


 検出器には高感度CCDカメラを使用する。1点走査式の共焦点レーザー顕微鏡と違い、CCDに既に画素のデバイスが物理的に存在し、そこにレーザースポットで励起された蛍光が入ってくる。一方1点走査式共焦点顕微鏡は、1画素をつくる時間が非常に短い(ナノ秒~マイクロ秒)が、多点走査型は1画素をつくる時間がCCDカメラの露光時間に等しい(通常はミリ秒)。
 サンプルから発せられた蛍光もピンホールを通り、前後のぼけた像を取り除く。検出器は高感度CCDカメラまたはCMOSカメラ等の2次元検出器を使用する。1点走査式の共焦点レーザー顕微鏡と違い、落射蛍光顕微鏡と同じように画面内での時間差はほぼ無い。逆に、一点走査式共焦点顕微鏡は、1画素をつくる時間が非常に短い(ナノ秒~マイクロ秒))が、多点走査型は1画素をつくる時間がCCDカメラの露光時間に等しい(通常はミリ秒)。


 特徴としては、走査速度が非常に速いことである。現在製品として世に出ている多点共焦点顕微鏡では、1秒間に最大2000回走査することができる。実際的には、光電子増倍型の高感度CCDを用いての培養細胞などの蛍光画像取得において、1秒間に数百フレームの速度で撮ることができる。
 特徴としては、走査速度が非常に速いことである。現在製品として世に出ている多点共焦点顕微鏡では、1秒間に最大2000枚像を取得することができる。実質的には、電子増倍型の高感度CCDを用いての培養細胞などの蛍光画像取得では、1秒間に数百フレームの速度で撮ることができる。

2015年9月3日 (木) 10:03時点における版

田島 鉄也
国立研究開発法人理化学研究所 BSI-オリンパス連携センター
DOI:10.14931/bsd.3648 原稿受付日:2015年7月15日 原稿完成日:2015年月日
担当編集委員:河西 春郎(東京大学 大学院医学系研究科)

英:Confocal Laser Scanning Microscope 英略語:CLSM, LSM

 共焦点レーザー顕微鏡は、共焦点光学系を利用しレーザーを光源とした顕微鏡である。

共焦点レーザー顕微鏡の特徴1(光学的切片効果)

図1.共焦点光学系の概念図
図2.落射蛍光顕微鏡の画像と共焦点レーザ顕微鏡の画像の比較
共焦点レーザ顕微鏡の画像は、焦点面前後のぼけた像がない。

 落射式蛍光顕微鏡は対物レンズの焦点面以外からの光(いわゆるボケ像)も検出器に入ってきてしまうのに対し、共焦点光学系は対物レンズの焦点面と共役の位置にピンホールを配置することによって、焦点面以外からの光を除去し、焦点面のみを観察することができる(光学的切片)。

 したがってサンプルまたは対物レンズを厚み方向に一定距離ずつ移動させて複数枚の画像を撮ると、そのサンプルの3次元的な蛍光物質の分布を観察することができる。

共焦点レーザー顕微鏡の特徴2(励起光の走査)

図3.XYに走査(スキャン)する方法の概念図

 共焦点レーザー顕微鏡は、点状に集光したレーザー励起光(レーザースポット)をサンプル上を移動(これを走査[scan]という)させながらサンプルの蛍光を検出することによって像をつくる(*)。光源にレーザーが採用されている理由は、レーザーが点光源に近いのでサンプルに点状に投影できるという理由による。また、一般に複数の波長の異なるレーザーが搭載され、音響光学素子によって波長ごとに高速にレーザーのOn/Offができる。

*線状の光を走査する方式の共焦点顕微鏡もある。

共焦点レーザー顕微鏡の種類

 一点を走査するタイプと多点を走査するタイプがある。

一点走査型

図4.1点走査型の概念図

 高速で駆動するガルバノミラーを制御して一点のレーザースポットを走査する。

 検出器には光電子増倍管を用いる。ガルバノミラーを振りながら光電子増倍管によって光を電気信号に変えてデジタル化し、デジタル化された値を画素として並べて画像を作る。    一点走査式の共焦点レーザー顕微鏡は、落射蛍光顕微鏡にはないいくつかの特徴がある。

スキャンによるズーム機能:ガルバノミラーの振り幅を小さくすることによって、サンプルの特定の箇所を集中的に走査し、その部分を拡大して見せる機能。
スキャンによる画像回転機能:スキャンする方向をX方向またはY方向だけではなく、斜め方向にスキャンすることによってあたかもサンプルが回転したかのように見える機能。
光刺激機能:特定の部分のみに光を照射する機能。細胞の一部に光を照射しその後の時間的経過を調べるたり、サンプルの一部分の蛍光を褪色させてその後周囲からの蛍光物質の流入を調べたりすることができる。
シーケンシャルスキャン機能:2つの波長のレーザーと2つの検出器を電気的に高速で切り替えることができ、2色の蛍光色素を用いている場合に互いの蛍光波長の重複(クロストーク)を最小化することができる。例えばGFPとDsRedの2種類の蛍光タンパクを使っている場合、青色レーザーでGFPを励起し、緑色の蛍光波長のみを第1の検出器で検出し、緑色レーザーでDsRedを励起し赤色の波長のみを第2の検出器で検出するという具合に行なう。(落射蛍光顕微鏡とカメラの組み合わせの場合、機械的にフィルターを交換する時間がかかり、共焦点レーザー顕微鏡ほど早く制御できない。)

 一点のみの走査なので、像をつくるのに時間がかかるという欠点がある。したがって時間的な変化があるサンプルの場合、像の上部と下部では取得時刻に時間差があり、同じ画面内で同じ現象が映っていても全体が同時に起きているとは言えない。速く撮ろうとすると画素を少なくするなど工夫しなければならない。(最近、共振ガルバノミラーという高速で振動するミラーがあり、1秒に30枚程度の画像を取得することができるようになった。)

 また、十分な蛍光シグナルが得られない場合、光電子増倍管による信号の増幅率を高くすると、光電子増倍管の中で発生する熱電子によるノイズが顕著に現れ、画像がザラついた感じになる。このような場合、走査する速度を遅くして信号強度を増やす、複数枚の画像の平均処理を行うなどして、画像の改善を行う。(最近はガリウム砒素リン光電子増倍管など、より高感度な検出器も登場している。)

多点走査型

図5.多点走査型の概念図

 多数のピンホールを渦巻状に配置した円板(ニポウディスク)を利用し、励起光をこのピンホールを通してサンプル上に投影することで、多数の点状の励起を同時に行う。1画面上には約1000個の点状投影があり、円板を高速で回転させることで、点が万遍なくサンプルを覆うように移動して走査する。

 サンプルから発せられた蛍光もピンホールを通り、前後のぼけた像を取り除く。検出器は高感度CCDカメラまたはCMOSカメラ等の2次元検出器を使用する。1点走査式の共焦点レーザー顕微鏡と違い、落射蛍光顕微鏡と同じように画面内での時間差はほぼ無い。逆に、一点走査式共焦点顕微鏡は、1画素をつくる時間が非常に短い(ナノ秒~マイクロ秒))が、多点走査型は1画素をつくる時間がCCDカメラの露光時間に等しい(通常はミリ秒)。

 特徴としては、走査速度が非常に速いことである。現在製品として世に出ている多点共焦点顕微鏡では、1秒間に最大2000枚像を取得することができる。実質的には、電子増倍型の高感度CCDを用いての培養細胞などの蛍光画像取得では、1秒間に数百フレームの速度で撮ることができる。