「分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ」の版間の差分

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英語名:Mitogen-activated Protein Kinase  英語略名:MAPK
英語名:Mitogen-activated Protein Kinase  英語略名:MAPK


同義語:MAPキナーゼ、MAP kinase、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ
同義語:MAPキナーゼ、MAP kinase、マイトジェン活性化[[プロテインキナーゼ]]、分裂促進因子活性化[[タンパク質キナーゼ]]


 分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ (Mitogen-activated Protein Kinase, MAPK) とは様々な刺激によって活性化されるセリン/スレオニンキナーゼの一種で、活性化されたMAPKは転写因子などの基質をリン酸化し、増幅されたシグナルが核に伝わることで、基質や刺激に応じた細胞増殖や細胞分化、アポトーシスなどのストレス応答反応を引き起こす。
 分裂促進因子活性化[[タンパク質キナーゼ]] (Mitogen-activated Protein Kinase, MAPK) とは様々な刺激によって活性化されるセリン/スレオニンキナーゼの一種で、活性化されたMAPKは転写因子などの基質をリン酸化し、増幅されたシグナルが[[核]]に伝わることで、基質や刺激に応じた[[細胞増殖]]や[[細胞分化]]、[[wikipedia:ja:アポトーシス|アポトーシス]]などの[[ストレス]]応答反応を引き起こす。


==MAPKとは==
==MAPKとは==
 MAPKは様々な刺激によって活性化されるセリン/スレオニンキナーゼの一種で、上流のセリン/スレオニン/チロシンキナーゼであるMAPKキナーゼ (MAPK Kinase, MAPKK) によるリン酸化を受けて活性化し、さらにMAPKKは上流のMAPKKキナーゼ (MAPKK Kinase, MAPKKK) によるリン酸化を受けて活性化する。この一連のリン酸化シグナルカスケードはMAPキナーゼカスケードと呼ばれ、酵母から哺乳類に至るまで真核生物において進化的に高度に保存されたシグナル伝達経路である。MAPキナーゼはその活性化にキナーゼサブドメインⅦとⅧの間の活性化ループに存在するスレオニン/チロシン両残基のリン酸化を必要とするが、それら特徴を備えたMAPキナーゼは、分子のアミノ酸の一次配列の相同性に基づいて細胞外シグナル調節キナーゼ (Extracellular Signal-regulated Kinase, ERK)、p38、c-Jun N端末キナーゼ (c-Jun N-terminal kinase, JNK) に分類される。
 MAPKは様々な刺激によって活性化される[[wikipedia:ja:プロテインキナーゼ|セリン/スレオニンキナーゼ]]の一種で、上流の[[wikipedia:ja:プロテインキナーゼ|セリン/スレオニン/チロシンキナーゼ]]であるMAPKキナーゼ (MAPK Kinase, MAPKK) によるリン酸化を受けて活性化し、さらにMAPKKは上流のMAPKKキナーゼ (MAPKK Kinase, MAPKKK) によるリン酸化を受けて活性化する。この一連のリン酸化シグナルカスケードはMAPキナーゼカスケードと呼ばれ、酵母から哺乳類に至るまで真核生物において進化的に高度に保存されたシグナル伝達経路である。MAPキナーゼはその活性化にキナーゼサブドメインⅦとⅧの間の活性化ループに存在するスレオニン/チロシン両残基のリン酸化を必要とするが、それら特徴を備えたMAPキナーゼは、分子のアミノ酸の一次配列の相同性に基づいて細胞外シグナル調節キナーゼ (Extracellular Signal-regulated Kinase, ERK)、p38、c-Jun N端末キナーゼ (c-Jun N-terminal kinase, JNK) に分類される。


==ERK==
==ERK==
===ERKとは===
===ERKとは===
 ERKはEGFや血清刺激、酸化ストレスなどによって活性化されるMAPKのサブファミリーで、ERKはその関わるシグナル伝達経路の違いからERK1/2, ERK5, ERK7, ERK8に分けられる。上皮増殖促進因子受容体 (Epidermal Growth Factor Receptor, EGFR) などのチロシンキナーゼ受容体にリガンドが結合することでシグナルが流れた結果、ERKの活性化ループに存在するTEYモチーフがリン酸化されて活性化する。ERK1/2は分子量が44 kDaのERK1と42 kDaのERK2から成り、アミノ酸配列の一次構造は互いに85%の相同性を有する。上流のMAPKKKはRafやMos、MAPKKはMEK1/2で、ERK1/2はEGF刺激などの結果MEK1/2にリン酸化されて活性化すると、Elk1やc-Mycなどの転写因子、またはRSKなどのリン酸化酵素をリン酸化することで細胞増殖シグナルを活性化する。ERK5は、N端はERK1/2と高い相同性を示すがC末はERK1/2に比べて長く、分子量は115 kDa と他のMAPKの約2倍の大きさである。上流のMAPKKKはMEKK2とMEKK3、MAPKKはMEK5であり、酸化ストレスや血清刺激、EGF刺激によって活性化されるとSap1a, c-Myc, RSKなどの基質をリン酸化し、ERK1/2同様に細胞増殖シグナルを活性化する。ERK7は他のERK分子同様リン酸化をうけるTEYモチーフを持つが、上流の活性化因子は報告されておらず、自己リン酸化によって活性化されることが知られている<ref><pubmed> 11287416 </pubmed></ref>。他のERK分子と異なりEGF刺激による活性化は起こらないが、血清飢餓刺激によって活性化されることが知られている<ref><pubmed> 9891064 </pubmed></ref>。ERK8は約60 kDaのタンパク質で、ERK7とアミノ酸の一次配列において約69 %の相同性をもつ。ERK8はERK7同様上流のMAPKKが報告されておらず、またEGFやPMA刺激による活性変化はほぼ見られない。過酸化水素や浸透圧刺激によって活性化されるが、その活性化の生理的な意義は未だよくわかっていない<ref><pubmed> 16336213 </pubmed></ref>。
 ERKは[[上皮成長因子|EGF]]や血清刺激、酸化ストレスなどによって活性化されるMAPKのサブファミリーで、ERKはその関わるシグナル伝達経路の違いからERK1/2, ERK5, ERK7, ERK8に分けられる。[[wikipedia:ja:上皮増殖促進因子受容体|上皮増殖促進因子受容体]] (Epidermal Growth Factor Receptor, EGFR) などのチロシンキナーゼ受容体にリガンドが結合することでシグナルが流れた結果、ERKの活性化ループに存在するTEYモチーフがリン酸化されて活性化する。ERK1/2は分子量が44 kDaのERK1と42 kDaのERK2から成り、アミノ酸配列の一次構造は互いに85%の相同性を有する。上流のMAPKKKはRafやMos、MAPKKはMEK1/2で、ERK1/2はEGF刺激などの結果MEK1/2にリン酸化されて活性化すると、[[wikipwdia:Elk1|Elk1]]やc-Mycなどの転写因子、またはRSKなどのリン酸化酵素をリン酸化することで細胞増殖シグナルを活性化する。ERK5は、N端はERK1/2と高い相同性を示すがC末はERK1/2に比べて長く、分子量は115 kDa と他のMAPKの約2倍の大きさである。上流のMAPKKKはMEKK2とMEKK3、MAPKKはMEK5であり、酸化ストレスや血清刺激、EGF刺激によって活性化されるとSap1a, c-Myc, RSKなどの基質をリン酸化し、ERK1/2同様に細胞増殖シグナルを活性化する。ERK7は他のERK分子同様リン酸化をうけるTEYモチーフを持つが、上流の活性化因子は報告されておらず、自己リン酸化によって活性化されることが知られている<ref><pubmed> 11287416 </pubmed></ref>。他のERK分子と異なりEGF刺激による活性化は起こらないが、血清飢餓刺激によって活性化されることが知られている<ref><pubmed> 9891064 </pubmed></ref>。ERK8は約60 kDaのタンパク質で、ERK7とアミノ酸の一次配列において約69 %の相同性をもつ。ERK8はERK7同様上流のMAPKKが報告されておらず、またEGFやPMA刺激による活性変化はほぼ見られない。過酸化水素や浸透圧刺激によって活性化されるが、その活性化の生理的な意義は未だよくわかっていない<ref><pubmed> 16336213 </pubmed></ref>。


===神経系とERKの関わり===
===神経系とERKの関わり===
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