「初代培養」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
13行目: 13行目:
== 神経細胞の初代培養  ==
== 神経細胞の初代培養  ==


脊髄後根神経節や、皮質および海馬由来の神経細胞の培養が一般的に用いられている。マウス、ラットのみならずニワトリ、カエルなど多様な生物の神経細胞の初代培養系が確立されている。主に胎生期の動物の脳や脊髄を摘出し、顕微鏡下でおおまかに目的の部位を切り出す。これをトリプシンなどで処理し、細胞を解離する。この細胞をあらかじめラミニンやポリ-L-リシンなどでコートした培養皿に播く。培養後一日程で、神経突起の伸長が観察される(図.1 海馬培養神経細胞培養3日目)。また、およそ7日後にはシナプスの形成が認められ、軸索伸長のメカニズムや樹状突起の形成、さらには電気生理学的な性質を解析することが可能である。海馬由来培養神経細胞の場合5ヶ月程度培養したという報告があるが<references />、運動神経などは長期間の培養が困難である。 <br><br>  
脊髄後根神経節や、皮質および海馬由来の神経細胞の培養が一般的に用いられている。[[Image:顕微鏡像.jpg|frame|254x183px]]マウス、ラットのみならずニワトリ、カエルなど多様な生物の神経細胞の初代培養系が確立されている。主に胎生期の動物の脳や脊髄を摘出し、顕微鏡下でおおまかに目的の部位を切り出す。これをトリプシンなどで処理し、細胞を解離する。この細胞をあらかじめラミニンやポリ-L-リシンなどでコートした培養皿に播く。培養後一日程で、神経突起の伸長が観察される(図.1 海馬培養神経細胞培養3日目)。また、およそ7日後にはシナプスの形成が認められ、軸索伸長のメカニズムや樹状突起の形成、さらには電気生理学的な性質を解析することが可能である。海馬由来培養神経細胞の場合5ヶ月程度培養したという報告があるが<references />、運動神経などは長期間の培養が困難である。 <br><br>  


== グリア細胞の初代培養  ==
== グリア細胞の初代培養  ==


グリア系の初代培養には、神経細胞の培養より後期の脳組織を材料として用いる事が多い(齧歯類では生後0-3日目程度)。神経組織を細胞解離酵素で処理し、血清存在下の培地で培養すると、様々なグリア細胞が増殖する。このグリア系細胞を、培養基質に対する接着性などの違いを利用して分離することによって、それぞれアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアの初代培養が可能である。また、細胞表面抗原に対するモノクローン抗体(グリア系前駆細胞のマーカーであるA2B5抗体、オリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカーであるO4抗体など)によって、解離した細胞をペトリ皿上に吸着することにより、特定の細胞種を分離するimmunopanning法もしばしば用いられる(4)。末梢神経系に存在するシュワン細胞は、主にマウスやラットの坐骨神経から単離する。<br><br>  
グリア系の初代培養には、神経細胞の培養より後期の脳組織を材料として用いる事が多い(齧歯類では生後0-3日目程度)。神経組織を細胞解離酵素で処理し、血清存在下の培地で培養すると、様々なグリア細胞が増殖する。このグリア系細胞を、培養基質に対する接着性などの違いを利用して分離することによって、それぞれアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアの初代培養が可能である。また、細胞表面抗原に対するモノクローン抗体(グリア系前駆細胞のマーカーであるA2B5抗体、オリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカーであるO4抗体など)によって、解離した細胞をペトリ皿上に吸着することにより、特定の細胞種を分離するimmunopanning法もしばしば用いられる<references />。末梢神経系に存在するシュワン細胞は、主にマウスやラットの坐骨神経から単離する。<br><br>  


=== アストロサイトの初代培養  ===
=== アストロサイトの初代培養  ===


グリア系の初代培養には、神経細胞の培養より後期の脳組織を材料として用いる事が多い(齧歯類では生後0-3日目程度)。神経組織を細胞解離酵素で処理し、血清存在下の培地で培養すると、様々なグリア細胞が増殖する。このグリア系細胞を、培養基質に対する接着性などの違いを利用して分離することによって、それぞれアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアの初代培養が可能である。また、細胞表面抗原に対するモノクローン抗体(グリア系前駆細胞のマーカーであるA2B5抗体、オリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカーであるO4抗体など)によって、解離した細胞をペトリ皿上に吸着することにより、特定の細胞種を分離するimmunopanning法もしばしば用いられる。末梢神経系に存在するシュワン細胞は、主にマウスやラットの坐骨神経から単離する<references />
 フラスコ内で、グリア混合培養を増殖させてコンフルエントにする。そのフラスコを激しく振とうすることによって、接着性の弱いミクログリアやオリゴデンドロサイト前駆細胞を除く。その後、残存した細胞をトリプシンなどで処理し、新たなプレートに播種する。全細胞におけるアストロサイトの純度は、アストロサイトマーカーであるグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)に対する抗体を用いた免疫染色で確認することができる。<br>上記の培養法と異なり、より生体内条件に近いとされるアストロサイトの培養方法が近年報告されている <references /> 。これは、前述のimmunopanning法によってアストロサイトを吸着し、培養する方法である。<br>


=== オリゴデンドロサイトの初代培養  ===
フラスコ内で培養した、グリア混合培養をコンフルエントとなるまで培養し、振とうすることによってアストロサイト以外の細胞を培養上清中に回収する。その後に、コートしないペトリ皿上に上清を入れて静置する。この過程で接着能力の高いミクログリアはペトリ皿上に接着し、オリゴデンドロサイト前駆細胞は付着せず上清中に浮遊したままとなる。そこで、上清を単離し、無血清培地にPDGFやbFGFを添加した培地で培養することによって、オリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖がおこる。培地を分化培地(PDGF, bFGFを含まない、triiodothyronineを含む培地)で培養することによって、ミエリンの形成が誘導される。尚、ラット脳を材料とした場合であれば上記の方法で培養が可能であるが、マウス脳ではこの方法ではオリゴデンドロサイトの培養ができない。そのため、マウス脳を材料とする時には、一旦神経幹細胞からニューロスフィアーを形成させ、そこからオリゴデンドロサイトを分化誘導する方法が一般的である。
=== ミクログリアの初代培養  ===


=== オリゴデンドロサイトの初代培養 ===
  前項のペトリ皿上に付着した細胞を回収することによって純度の高いミクログリアの培養系が得られる。培地にリポ多糖(LPS)などを添加すると、ミクログリアの活性化が誘導され、様々なサイトカインの放出が誘発される。そのため、いわゆる炎症性(反応性)ミクログリアのモデルとして用いられる。
 フラスコ内で飼育した、グリア混合培養をコンフルエントとなるまで培養し、振とうすることによってアストロサイト以外の細胞を培養上清中に回収する。その後に、コートしないペトリ皿上に上清を入れて静置する。この過程で接着能力の高いミクログリアはペトリ皿上に接着し、オリゴデンドロサイト前駆細胞は付着せず上清中に浮遊したままとなる。そこで、上清を単離し、無血清培地にPDGFやbFGFを添加した培地で培養することによって、オリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖がおこる。培地を分化培地(PDGF, bFGFを含まない、triiodothyronineを含む培地)で培養することによって、ミエリンの形成が誘導される。尚、ラット脳を材料とした場合であれば上記の方法で培養が可能であるが、マウス脳ではこの方法ではオリゴデンドロサイトの培養ができない。そのため、マウス脳を材料とする時には、一旦神経幹細胞からニューロスフィアーを形成させ、そこからオリゴデンドロサイトを分化誘導する方法が一般的である(6)
18

回編集