「到達運動」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
(同じ利用者による、間の9版が非表示)
60行目: 60行目:


====SLF-Iによって結ばれる領域====
====SLF-Iによって結ばれる領域====
 上頭頂小葉と背側運動前野(F2)は、いずれも方向に選択性を示す到達運動ニューロンが記録される。特に、上頭頂小葉では、頭頂間溝の前壁後方部分の[[空間知覚#PO野(V6野)、POa野(V6a野)、7m野、MIP野|内側頭頂間溝野 (medial intraparietal area; MIP野)]]やその背側の表面に出ている[[頭頂葉#5野|5野]](PE)<u>(編集部コメント:PEは何の略でしょうか)</u>、さらに頭頂後頭溝の前壁にある[[空間知覚#PO野(V6野)、POa野(V6a野)、7m野、MIP野|V6A]]野など複数の領域がある。
 上頭頂小葉と背側運動前野(F2)は、いずれも方向に選択性を示す到達運動ニューロンが記録される。特に、上頭頂小葉では、頭頂間溝の前壁後方部分の[[空間知覚#PO野(V6野)、POa野(V6a野)、7m野、MIP野|内側頭頂間溝野 (medial intraparietal area; MIP野)]][[頭頂葉#5野|5野]](PE)<u>(編集部コメント:PEは何の略でしょうか A: 略語ではなく領域を示す記号です)</u>の表面に出ている部分、さらに頭頂後頭溝の前壁にある[[空間知覚#PO野(V6野)、POa野(V6a野)、7m野、MIP野|V6A]]野など複数の領域がある。


=====内側頭頂間溝野=====
=====内側頭頂間溝野(MIP野)=====
 この領域は[[頭頂到達領域]] (parietal reach region; PRR)とも呼ばれ、主に眼球中心座標系でのターゲットの位置や運動の方向が表現されている<ref name=ref14><pubmed>12094211</pubmed></ref>。サッケード運動に関わる[[頭頂葉#LIP野|外側頭頂間溝野 (lateral intraparietal area; LIP野)]]との結合が強く、眼球運動と到達運動の協調的な制御([[eye-hand coordination]])が行われていると考えられる。空間情報が提示された後に、そのターゲットに向かってサッケードか到達運動を選択するような課題を行わせると、LIP野では[[サッケード]]に先行し、MIP野では到達運動に先行するニューロン活動がそれぞれ見られたため、特定の運動の準備や意図に関すると考えられている<ref name=ref15><pubmed>12052908</pubmed></ref>。
 この領域は[[頭頂到達領域]] (parietal reach region; PRR)とも呼ばれ、主に眼球中心座標系でのターゲットの位置や運動の方向が表現されている<ref name=ref14><pubmed>12094211</pubmed></ref>。サッケード運動に関わる[[頭頂葉#LIP野|外側頭頂間溝野 (lateral intraparietal area; LIP野)]]の結合が強く、眼球運動と到達運動の協調的な制御([[eye-hand coordination]])が行われていると考えられる。空間情報が提示された後に、そのターゲットに向かってサッケードか到達運動を選択するような課題を行わせると、LIP野では[[サッケード]]に先行し、MIP野では到達運動に先行するニューロン活動がそれぞれ見られたため、特定の運動の準備や意図に関すると考えられている<ref name=ref15><pubmed>12052908</pubmed></ref>。


=====5野 (PE)=====
=====5野(PE野)=====
 [[5野]] (PE)は頭頂間溝の背側の表面に出ている領域で、中心後回の最も後ろの5野の一部分に相当する。腕の初期位置からのベクトルで運動の方向を表現することから、手先中心座標の表現がある<ref name=ref16><pubmed>22841318</pubmed></ref>。ニューロン活動をもとに時系列で情報量解析すると、感覚フィードバックを表現するものと遠心性コピー(運動指令のコピー)/随伴発射(予測された感覚フィードバック)を表現しているものに分類されるという研究がある<ref name=ref17><pubmed>18499800</pubmed></ref>。解剖学的な結合を考えると、一次運動野や運動前野からの遠心性コピーによって、順モデルによって感覚フィードバックが予測されるというメカニズムが大脳皮質にもあることを示唆している。
 中心後回の最も後ろの5野の一部分で、[[頭頂葉#5野|5野 ]]の頭頂間溝の背側の表面に出ている領域も到達運動に関わる。腕の初期位置からのベクトルで運動の方向を表現することから、手先中心座標の表現がある<ref name=ref16><pubmed>22841318</pubmed></ref>。ニューロン活動をもとに時系列で情報量解析すると、感覚フィードバックを表現するものと遠心性コピー(運動指令のコピー)/随伴発射(予測された感覚フィードバック)を表現しているものに分類されるという研究がある<ref name=ref17><pubmed>18499800</pubmed></ref>。解剖学的な結合を考えると、一次運動野や運動前野からの遠心性コピーによって、順モデルによって感覚フィードバックが予測されるというメカニズムが大脳皮質にもあることを示唆している。


 また、ターゲットの突然の変更による到達運動の軌道修正の際に、その軌道のオンラインの修正に関わっている活動も認められる<ref name=ref18><pubmed>25264945</pubmed></ref>。5野は、[[一次運動野]]との直接の結合も見られることから、運動をモニターしながら運動指令の修正に関わると考えられる。実際、[[上頭頂小葉]]の障害で起こる[[視覚性運動失調]]では運動の修正ができない。また、5野のニューロンは、計画された運動と行われた運動の間の内在的なエラーとターゲットと指先の間のエラーの両方を表現することが明らかになっている<ref name=ref19><pubmed>29983313</pubmed></ref>。
 また、ターゲットの突然の変更による到達運動の軌道修正の際に、その軌道のオンラインの修正に関わっている活動も認められる<ref name=ref18><pubmed>25264945</pubmed></ref>。5野は、[[一次運動野]]との直接の結合も見られることから、運動をモニターしながら運動指令の修正に関わると考えられる。実際、[[上頭頂小葉]]の障害で起こる[[視覚性運動失調]]では運動の修正ができない。また、5野のニューロンは、計画された運動と行われた運動の間の内在的なエラーとターゲットと指先の間のエラーの両方を表現することが明らかになっている<ref name=ref19><pubmed>29983313</pubmed></ref>。
77行目: 77行目:


====SLF-IIIによって結ばれる領域====
====SLF-IIIによって結ばれる領域====
 [[腹側運動前野]](F4野)と頭頂間溝の底部にある[[腹側頭頂間溝野]] (ventral intraparietal area; VIP野)は、SLF-IIIによって結合しており、いずれも身体のある部分の[[体性感覚]][[受容野]]とともに、そのすぐ近くの[[空間知覚#身体周辺空間|身体周辺空間]](ペリパーソナルスペース)に視覚の受容野を持ち、手の届く範囲の身体部分中心座標を表現している<ref name=ref28><pubmed>8836215</pubmed></ref><ref name=ref29><pubmed>9425183</pubmed></ref>。また腹側運動前野のF5と頭頂間溝の外側壁の[[空間知覚#AIP野|anterior intraparietal area, AIP]]を結ぶ回路は、主に把持運動に関わっているが、手の到達位置によって異なる反応を示すニューロンも見つかっている。
 [[腹側運動前野]](F4野)と頭頂間溝の底部にある[[空間知覚#VIP野|ventral intraparietal area, VIP]]は、SLF-IIIによって結合しており、いずれも身体のある部分の[[体性感覚]][[受容野]]とともに、そのすぐ近くの[[空間知覚#身体周辺空間|身体周辺空間]](ペリパーソナルスペース)に視覚の受容野を持ち、手の届く範囲の身体部分中心座標を表現している<ref name=ref28><pubmed>8836215</pubmed></ref><ref name=ref29><pubmed>9425183</pubmed></ref>。また腹側運動前野のF5と頭頂間溝の外側壁の[[空間知覚#AIP野|anterior intraparietal area, AIP]]を結ぶ回路は、主に把持運動に関わっているが、手の到達位置によって異なる反応を示すニューロンも見つかっている。


=====腹側運動前野 (F4)と腹側頭頂間溝野 (VIP野)=====
=====腹側運動前野 (F4)と腹側頭頂間溝野 (VIP野)=====
85行目: 85行目:
 F5野とAIP野では、これまで把持運動の物体の形やそれを把持するときの手の形に選択性を持つニューロンが見つかっており<ref name=ref34><pubmed>10805659</pubmed></ref>主に把持運動の制御に関わる。近年、それらのニューロンの中に注視点の位置やターゲットの視線をもとにした位置に影響を受けるものが見つかっている<ref name=ref35><pubmed>23595761</pubmed></ref>。また、AIPでは物体内のターゲットの相対位置によって(例えば物体の中のスイッチの位置)、反応が異なるニューロンも見つかっていて、[[座標系|物体中心座標系]]におけるターゲットの位置の情報も持っている<ref name=ref36><pubmed>26562332</pubmed></ref>。物体の中のどこに到達すべきかを制御すると考えられる。
 F5野とAIP野では、これまで把持運動の物体の形やそれを把持するときの手の形に選択性を持つニューロンが見つかっており<ref name=ref34><pubmed>10805659</pubmed></ref>主に把持運動の制御に関わる。近年、それらのニューロンの中に注視点の位置やターゲットの視線をもとにした位置に影響を受けるものが見つかっている<ref name=ref35><pubmed>23595761</pubmed></ref>。また、AIPでは物体内のターゲットの相対位置によって(例えば物体の中のスイッチの位置)、反応が異なるニューロンも見つかっていて、[[座標系|物体中心座標系]]におけるターゲットの位置の情報も持っている<ref name=ref36><pubmed>26562332</pubmed></ref>。物体の中のどこに到達すべきかを制御すると考えられる。


====一次運動野]](F1)====
====一次運動野(F1)====
 到達運動に関して一次運動野のニューロン活動は、力<ref name=ref37><pubmed>4966614</pubmed></ref>、運動や力の方向<ref name=ref38><pubmed>8817266</pubmed></ref>、速度<ref name=ref39><pubmed>10561437</pubmed></ref>など、いくつかの運動のパラメーターに相関を持つことが複数の研究で示されている。
 到達運動に関して一次運動野のニューロン活動は、力<ref name=ref37><pubmed>4966614</pubmed></ref>、運動や力の方向<ref name=ref38><pubmed>8817266</pubmed></ref>、速度<ref name=ref39><pubmed>10561437</pubmed></ref>など、いくつかの運動のパラメーターに相関を持つことが複数の研究で示されている。


98行目: 98行目:
===脳損傷による到達運動の障害===
===脳損傷による到達運動の障害===
====視覚性運動失調====
====視覚性運動失調====
 [[視覚性運動失調]]には注視下の物体へうまく手を到達させることができないoptiche Ataxiaと、周辺視野への到達障害であるataxie optiqueがある。いずれも[[頭頂葉|上頭頂小葉]]の損傷で起こると考えられている。<u>(編集部コメント:同じ単語のドイツ語表記とフランス語表記に思えますが、異なるのでしょうか)</u>
 [[視覚性運動失調]]には注視下の物体へうまく手を到達させることができないoptiche Ataxiaと、周辺視野への到達障害であるataxie optiqueがある。いずれも[[頭頂葉|上頭頂小葉]]の損傷で起こると考えられている。<u>(編集部コメント:同じ単語のドイツ語表記とフランス語表記に思えますが、異なるのでしょうか A: 神経心理学的には、説明にもある通り区別して使われます。日本語では、両者を統一してしまっているのです)</u>


====推尺異常====
====推尺異常====
106行目: 106行目:
 到達運動など、随意的に運動している場合に軌道に震えが生じることを[[企図振戦]]という。目標点に近づくにしたがって著明になる。
 到達運動など、随意的に運動している場合に軌道に震えが生じることを[[企図振戦]]という。目標点に近づくにしたがって著明になる。


 [[測定障害]]も企図振戦も小脳の障害で起こる。
 推尺異常も企図振戦も小脳の障害で起こる。


==関連項目==
==関連項目==
356

回編集

案内メニュー