「到達運動」の版間の差分

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====SLF-Iによって結ばれる領域====
====SLF-Iによって結ばれる領域====
[[頭頂連合野|上頭頂小葉]]と[[運動前野|背側運動前野]](F2)は、いずれも方向に選択性を示す到達運動ニューロンが記録される。特に、上頭頂小葉では、頭頂間溝の前壁後方部分の[[MIP]]やその背側の表面に出ている[[頭頂連合野|5野]](PE)、さらに頭頂後頭溝の前壁にある[[V6A]]など複数の領域がある。
[[頭頂連合野|上頭頂小葉]]と[[運動前野|背側運動前野]](F2)は、いずれも方向に選択性を示す到達運動ニューロンが記録される。特に、上頭頂小葉では、頭頂間溝の前壁後方部分の[[MIP]]やその背側の表面に出ている[[頭頂葉|5野]](PE)、さらに頭頂後頭溝の前壁にある[[V6A]]など複数の領域がある。


=====''[[MIP]]''=====
=====''[[頭頂葉|MIP]]''=====
この領域はParietal reach region (PRR)とも呼ばれ、主に眼球中心座標系でのターゲットの位置や運動の方向が表現されている<ref name=ref14><pubmed>12094211</pubmed></ref>サッケード運動に関わるLIPとの結合が強く、眼球運動と到達運動の協調的な制御([[Wikipedia:eye-hand coordination|eye-hand coordination]])が行われていると考えられる。空間情報が提示された後に、そのターゲットに向かってサッケードか到達運動を選択するような課題を行わせると、[[頭頂連合野|LIP]]では[[サッケード]]に先行し、MIPでは到達運動に先行する活動がそれぞれ見られたため、特定の運動の準備や意図に関すると考えられている<ref name=ref15><pubmed>12052908</pubmed></ref>。
この領域はParietal reach region (PRR)とも呼ばれ、主に[[座標系|眼球中心座標系]]でのターゲットの位置や運動の方向が表現されている<ref name=ref14><pubmed>12094211</pubmed></ref>サッケード運動に関わる[[頭頂葉|LIP]]との結合が強く、眼球運動と到達運動の協調的な制御([[Wikipedia:eye-hand coordination|eye-hand coordination]])が行われていると考えられる。空間情報が提示された後に、そのターゲットに向かってサッケードか到達運動を選択するような課題を行わせると、LIPでは[[サッケード]]に先行し、MIPでは到達運動に先行する活動がそれぞれ見られたため、特定の運動の準備や意図に関すると考えられている<ref name=ref15><pubmed>12052908</pubmed></ref>。


=====''[[頭頂連合野|5野]](PE)''=====
=====''[[頭頂葉|5野]](PE)''=====
この領域は頭頂間溝の背側の表面に出ている領域で、中心後回の最も後ろの5野の一部分に相当する。腕の初期位置からのベクトルで運動の方向を表現することから、手先中心座標の表現がある(Bremner & Andersen, 2012)。ニューロン活動に関して、時系列で情報量解析すると、感覚フィードバックを表現するものと[[遠心性コピー]](運動指令のコピー)/[[遠心性コピー|随伴発射]](予測された感覚フィードバック)を表現しているものに分類されるという研究もある(Mulliken et al., 2008)。解剖学的な結合を考えると、[[一次運動野]]や[[運動前野]]からの遠心性コピーによって、順モデルによって感覚フィードバックが予測されるというメカニズムが大脳皮質にもあることを示している。また、ターゲットの突然の変更による到達運動の軌道修正の際に、その軌道のオンラインの修正に関わっている活動も認められる(Archambault et al., 2015)。PEは、[[一次運動野]]との直接の結合も見られることから、運動をモニターしながら運動指令の修正に関わると考えられる。実際、視覚性運動失調では運動の修正ができない。また、5野のニューロンは、計画された運動と行われた運動の間の内在的なエラーとターゲットと指先の間のエラーの両方が表現することが明らかになっている(Inoue & Kitazawa, 2018)
この領域は頭頂間溝の背側の表面に出ている領域で、中心後回の最も後ろの5野の一部分に相当する。腕の初期位置からのベクトルで運動の方向を表現することから、[[座標系|手先中心座標]]の表現がある<ref name=ref16><pubmed>22841318</pubmed></ref>。ニューロン活動に関して、時系列で情報量解析すると、感覚フィードバックを表現するものと[[遠心性コピー]](運動指令のコピー)/[[遠心性コピー|随伴発射]](予測された感覚フィードバック)を表現しているものに分類されるという研究もある<ref name=ref17><pubmed>18499800</pubmed></ref>。解剖学的な結合を考えると、[[一次運動野]]や[[運動前野]]からの遠心性コピーによって、順モデルによって感覚フィードバックが予測されるというメカニズムが大脳皮質にもあることを示している。また、ターゲットの突然の変更による到達運動の軌道修正の際に、その軌道のオンラインの修正に関わっている活動も認められる。PEは、[[一次運動野]]との直接の結合も見られることから、運動をモニターしながら運動指令の修正に関わると考えられる。実際、視覚性運動失調では運動の修正ができない。また、5野のニューロンは、計画された運動と行われた運動の間の内在的なエラーとターゲットと指先の間のエラーの両方が表現することが明らかになっている<ref name=ref18><pubmed>29983313</pubmed></ref>


=====''[[空間知覚|V6A]]''=====
=====''[[空間知覚|V6A]]''=====
この領域の到達運動ニューロンも、運動の方向や奥行きにも反応選択性を示す。視覚反応も、対側の空間に視覚受容野を持ち、全体として視野の周辺部までカバーする(Galletti et al., 2003)。視覚[[受容野]]は、眼球位置によって影響を受けず、頭部中心座標系における位置情報を表現しているニューロンが認められる(Galletti et al., 1993)。さらに、腕の固有感覚や皮膚感覚など体性感覚刺激に反応するニューロンが認められている。また、近年、この領域で到達運動に関わるニューロン以外に把持運動に関連するニューロン活動が記録されている(Galletti & Fattori, 2017)。これらのニューロンは、到達運動と把持運動の協調的制御を行っていると考えられる。
この領域の到達運動ニューロンも、運動の方向や奥行きにも反応選択性を示す。視覚反応も、対側の空間に視覚受容野を持ち、全体として視野の周辺部までカバーする。視覚[[受容野]]は、眼球位置によって影響を受けず、頭部中心座標系における位置情報を表現しているニューロンが認められる<ref name=ref19><pubmed>14517595</pubmed></ref>。さらに、腕の固有感覚や皮膚感覚など体性感覚刺激に反応するニューロンが認められている。また、近年、この領域で到達運動に関わるニューロン以外に把持運動に関連するニューロン活動が記録されている<ref name=ref20><pubmed>28196647</pubmed></ref>。これらのニューロンは、到達運動と把持運動の協調的制御を行っていると考えられる。


=====''[[背側運動前野]](PMd)''=====
=====''[[背側運動前野]](PMd)''=====
PMdでは、到達運動や手首傾きに関わるニューロン活動が記録される(Rizzolatti et al., 2014)。視覚刺激を出してから遅延を与えて到達運動をする課題では、運動に先行した活動([[運動前野|set-related activity]])が見られ、運動の準備に関わると考えられる(Wise et al., 1997)。また、視覚刺激に関わる活動や運動そのものに関わる活動も見られる。運動のためのターゲットの位置が空間的に表現されるのではなく、色や形などで抽象的に表現される場合でも、同様の反応が認められる。空間情報から運動への変換過程に関わると考えられる。PMdに、運動のキネマティクスの情報が表現されていると実験結果もある(Hocherman & Wise, 1991)(Pilacinski & Lindner, 2019)。運動のターゲットを運動の途中で、運動効果器(右腕 左腕)の選択にも関わることが明らかになっている(Hoshi & Tanji, 2000)
PMdでは、到達運動や手首傾きに関わるニューロン活動が記録される<ref name=ref21><pubmed>24692357</pubmed></ref>。視覚刺激を出してから遅延を与えて到達運動をする課題では、運動に先行した活動([[運動前野|set-related activity]])が見られ、運動の準備に関わると考えられる<ref name=ref22><pubmed>9056706</pubmed></ref>また、視覚刺激に関わる活動や運動そのものに関わる活動も見られる。運動のためのターゲットの位置が空間的に表現されるのではなく、色や形などで抽象的に表現される場合でも、同様の反応が認められる。空間情報から運動への変換過程に関わると考えられる。PMdに、運動のキネマティクスの情報が表現されていると実験結果もある<ref name=ref22><pubmed>2022240</pubmed></ref><ref name=ref23><pubmed>30760821</pubmed></ref>。運動効果器(右腕 左腕)の選択にも関わることが明らかになっている<ref name=ref24><pubmed>11100727</pubmed></ref>


====SLF-IIIによって結ばれる領域====
====SLF-IIIによって結ばれる領域====
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