「前帯状皮質」の版間の差分

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1.帯状皮質運動野の位置
1.帯状皮質運動野の位置
大脳半球の内側部に、補足運動野(SMA)と前補足運動野(Pre-SMA)以外に、もう一組の運動領野がある。内側面を見ると、脳梁のすぐ上部にある、帯状溝より下で内側面に出ている皮質は、帯状回と名付けられている(Vogt et al., 1987)。帯状回は大脳辺縁系に属する、いわゆる古い皮質であり、新皮質である帯状皮質運動野はそこには含まれない(Morecraft et al., 2004, 2012)。すなわち、帯状回(cingulate gyrus)と帯状皮質運動野cingulate motor area: CMA)は、解剖学的にも生理学的にも別の領域である。CMAは前後に2領域、吻側帯状皮質運動野(rostral CMA: CMAr、ブロードマン24野)と尾側帯状皮質運動野(caudal CMA: CMAc、ブロードマン23野と6c野)に分けられている(Picard and Strick, 1996)。Pre-SMAの下方で、前後レベルでの位置関係の対比では皮質表面の弓状溝後端から前方に位置しているCMAr、それより後方でSMAのすぐ下に位置する CMAcである。また、最近の分類ではCMAcは、帯状溝を挟んで、背側に位置するCMAd (6c野)と腹側のCMAv(23c野)の2つに分類されることが多い (Dum and Strick, 1991, 2002, Picard and Strick, 1996)(図1)。CMAcおよびCMArの体部位局在(再現)は、手と脚の領域が分かれることが知られているが、加えて、帯状皮質にも眼球運動調節に関与するる領域 (cingulate eye field) が存在することも議論されている(He et al.,1995, Paus et al., 1993, 2001, Picard and Strick, 1996, Wang et al.,2004)。
 
ヒトおよびサルで、CMAr と CMAc の境界はほぼVCA line(level of the anterior commissure) に相当する。ヒトとサルの大脳半球内側部における運動関連領野(SMA, Pre-SMA, CMAr, CMAc)の位置はかなり相同性が高い(Dum and Strick, 1991, Picard and Strick, 1996, 2001)。
大脳半球の内側部に、補足運動野(SMA)と前補足運動野(Pre-SMA)以外に、もう一組の運動領野がある。内側面を見ると、脳梁のすぐ上部にある、帯状溝より下で内側面に出ている皮質は、帯状回と名付けられている(Vogt et al., 1987)。帯状回は大脳辺縁系に属する、いわゆる古い皮質であり、新皮質である帯状皮質運動野はそこには含まれない(Morecraft et al., 2004, 2012)。すなわち、帯状回(cingulate gyrus)と帯状皮質運動野cingulate motor area: CMA)は、解剖学的にも生理学的にも別の領域である。CMAは前後に2領域、吻側帯状皮質運動野(rostral CMA: CMAr、ブロードマン24野)と尾側帯状皮質運動野(caudal CMA: CMAc、ブロードマン23野と6c野)に分けられている(Picard and Strick, 1996)。Pre-SMAの下方で、前後レベルでの位置関係の対比では皮質表面の弓状溝後端から前方に位置しているCMAr、それより後方でSMAのすぐ下に位置する CMAcである。また、最近の分類ではCMAcは、帯状溝を挟んで、背側に位置するCMAd (6c野)と腹側のCMAv(23c野)の2つに分類されることが多い (Dum and Strick, 1991, 2002, Picard and Strick, 1996)(図1)。CMAcおよびCMArの体部位局在(再現)は、手と脚の領域が分かれることが知られているが、加えて、帯状皮質にも眼球運動調節に関与するる領域 (cingulate eye field) が存在することも議論されている(He et al.,1995, Paus et al., 1993, 2001, Picard and Strick, 1996, Wang et al.,2004)。ヒトおよびサルで、CMAr と CMAc の境界はほぼVCA line(level of the anterior commissure) に相当する。ヒトとサルの大脳半球内側部における運動関連領野(SMA, Pre-SMA, CMAr, CMAc)の位置はかなり相同性が高い(Dum and Strick, 1991, Picard and Strick, 1996, 2001)。  


2.帯状皮質運動野と神経回路
2.帯状皮質運動野と神経回路
帯状皮質運動野に関する神経回路の特徴は、大脳辺縁系からの情報を強く受けていることである(Vogt and Gabriel, 1993)。大脳辺縁系の要である帯状回と多くの神経接続があり、海馬、扁桃核、視床下部などの皮質下の組織からの情報が入ってくる。また、前頭前野からは外側部だけでなく内側部、眼窩部からの入力もある(Luppino et al.,1993, Lu et al., 1994, Morecraft and Van Hoesen, 1993)。一方、Takadaら (2004) の最近の研究は、前頭前野からCMArへの直接入力はそれほど濃密ではなく、むしろ運動前野の前背側部、前腹側部を介しての入力が主体ではないかと主張している(see also Hatanaka et al., 2003)
 
帯状皮質運動野からの出力としては一次運動野、高次運動野に広範に出力する(Dum and Strick, 2002, He et al., 1995, Wang et al., 2001, 2004)。この回路をみると、情動や身体情報、そして内的な欲求や動機付け情報と、運動野における動作の企画や指令とを結びつける位置に帯状皮質運動野が据えられている、と考えることが可能である。また、前頭前野からの入力は帯状皮質運動野への多くの情報の流れを制御しているという見方も可能である。
帯状皮質運動野に関する神経回路の特徴は、大脳辺縁系からの情報を強く受けていることである(Vogt and Gabriel, 1993)。大脳辺縁系の要である帯状回と多くの神経接続があり、海馬、扁桃核、視床下部などの皮質下の組織からの情報が入ってくる。また、前頭前野からは外側部だけでなく内側部、眼窩部からの入力もある(Luppino et al.,1993, Lu et al., 1994, Morecraft and Van Hoesen, 1993)。一方、Takadaら (2004) の最近の研究は、前頭前野からCMArへの直接入力はそれほど濃密ではなく、むしろ運動前野の前背側部、前腹側部を介しての入力が主体ではないかと主張している(see also Hatanaka et al., 2003)。帯状皮質運動野からの出力としては一次運動野、高次運動野に広範に出力する(Dum and Strick, 2002, He et al., 1995, Wang et al., 2001, 2004)。この回路をみると、情動や身体情報、そして内的な欲求や動機付け情報と、運動野における動作の企画や指令とを結びつける位置に帯状皮質運動野が据えられている、と考えることが可能である。また、前頭前野からの入力は帯状皮質運動野への多くの情報の流れを制御しているという見方も可能である。  


3.帯状皮質運動野の使われ方
3.帯状皮質運動野の使われ方
当初、帯状皮質運動野は、Hutchins ら(1988) による解剖学の研究によって、その存在が想定された。その後、帯状皮質運動野が実際にどのように使われているのかを、Tanji研究室 (Shima et al., 1991) での細胞活動の解析によって研究された。彼らは、まず、第一に単純な運動系を設定して(サル前肢を使っての、自己発動性運動課題と外刺激トリガー性運動課題の遂行)、活動の基本的特性を調べた。明らかになったことは、多くの帯状皮質の細胞活動が、主動筋の筋活動に先行する活動を示すことであった。また、動作の指示信号を視覚、聴覚、体性感覚の信号で与えると、いくつかの前部および後部帯状皮質運動野の細胞は反応するが、その信号の有する物理特性に対する選択性は強くなかった。他方、動作の種類や方向などを指示すると、動作の企画や実行過程にも明瞭な反応が見られるが、動作のパラメターに関する特性も、他の運動野ほど明瞭ではない(Hoshi et al., 2005)。つまり、帯状皮質運動野は動作出力の細目(ディテール)にはあまり関与しないことを示している。むしろ、運動課題遂行中、信号がどのタイミングで入力し、運動出力がいつ出されたかというエポックをモニターするのに適した細胞特性と考えられる。
 
このことは、帯状皮質運動野の特性を十分に引き出せる認知・運動課題を設定しないと、帯状皮質運動野が真に果たしている機能を反映する活動は見ることができないことを意味している。
当初、帯状皮質運動野は、Hutchins ら(1988) による解剖学の研究によって、その存在が想定された。その後、帯状皮質運動野が実際にどのように使われているのかを、Tanji研究室 (Shima et al., 1991) での細胞活動の解析によって研究された。彼らは、まず、第一に単純な運動系を設定して(サル前肢を使っての、自己発動性運動課題と外刺激トリガー性運動課題の遂行)、活動の基本的特性を調べた。明らかになったことは、多くの帯状皮質の細胞活動が、主動筋の筋活動に先行する活動を示すことであった。また、動作の指示信号を視覚、聴覚、体性感覚の信号で与えると、いくつかの前部および後部帯状皮質運動野の細胞は反応するが、その信号の有する物理特性に対する選択性は強くなかった。他方、動作の種類や方向などを指示すると、動作の企画や実行過程にも明瞭な反応が見られるが、動作のパラメターに関する特性も、他の運動野ほど明瞭ではない(Hoshi et al., 2005)。つまり、帯状皮質運動野は動作出力の細目(ディテール)にはあまり関与しないことを示している。むしろ、運動課題遂行中、信号がどのタイミングで入力し、運動出力がいつ出されたかというエポックをモニターするのに適した細胞特性と考えられる。このことは、帯状皮質運動野の特性を十分に引き出せる認知・運動課題を設定しないと、帯状皮質運動野が真に果たしている機能を反映する活動は見ることができないことを意味している。


4.吻側帯状運動野皮質の機能
4.吻側帯状運動野皮質の機能
4-1:報酬情報に依拠した動作選択
4-1:報酬情報に依拠した動作選択
吻側帯状皮質運動野、特にCMArが果たしている機能に最初に言及した研究の一つにShima and Tanjiの論文 (1998)がある。彼らは、動作選択を外的に指示されるのではなく、サル自らが主体的に選択を行う条件を導入した。動作選択自体は単純化し、ハンドルを押すか、回すかのどちらかを選択する実験設定とした。大切な事は、どちらを選択するかを明示する信号が存在せず、もっぱらサル自身が選択の決定をするということである。
第2の工夫は、動作選択の手がかりを、報酬というもので与えたということである。つまり、動作の結果、得られた報酬の量の変化を察知して、それを判断材料にして動作選択を行うという状況設定である。ここで大切な事は、報酬そのものがハンドルを押すか、回転するという動作を明示するものではなく、報酬の変化がサルの動作選択に対する対処の変えるという点である。具体的な課題設定は以下のようになっている。最初サルが選択する動作はハンドルを押す、あるいは回す、のどちらかで、“trial-and-error”で正解の動作を見つける。当初は、みつけた正しい動作を繰り返す度に一定量のジュースを報酬として与える。次に、何回か繰り返すとジュースの量が一定の割合で減っていく。このモードに入ると、動作を切り替えない限り、報酬は減少していく。すなわち、サルは報酬量の減少を察知し、動作を切り替えることを要求される。言うまでもなく、報酬量が減少してないときに動作を変更するとエラー(エラー信号の呈示)となり報酬はゼロになる。
この課題を正確に遂行できるようになった段階でCMArとCMAc の細胞活動を調べた。ここで注目する時期は、減少した報酬を受け取ってから、動作を切り替えるまでの間であり、その間にどのような細胞活動が出現するのか、という点である。結果は非常に興味深いもので、その時期にのみ活動する細胞がCMArで非常に多く認められ、CMAcでは殆ど認められなかった。すなわち、CMArにおいて、報酬の量が減少して動作の切り替えを行った時に限定して、報酬出現後に顕著な活動の上昇が認められた。しかし、報酬が一定量であった時や、動作選択の切り替えのない場合には報酬に対する活動変化は認められない。なお、動作を切り替えに先行しての細胞活動には、大きく分けて4種類あり、報酬出現後短時間 (約1秒間) の応答(A), 比較的、長い時間の応答(約2-3秒間)(B), 次の動作開始まで待機期間中持続する応答(C), 切り替えられた動作開始に向かって漸増する活動(D),である。これら4種類(A-D)の細胞応答をリレーすることによって、報酬減少の察知から動作の切り替えへと、CMAr内で情報を繋いでいることが想定される(図2)。
この結果から、CMArは報酬情報を随意的な動作選択を文脈依存性に行うために使っていると解釈される。つまり、帯状皮質運動野、特にCMArは本能行動の制御系ではなく、報酬由来の内的情報に依拠するアクションの選択(action change、及び action persistenceの両方を意味する)へと導く、いわゆる高次運動領野として機能していると考えられる。
この帯状皮質運動野(CMArとCMAc)にムシモールを微量注入し機能脱落を生じさせると、課題遂行にどのような変化が見られるかを観察した。その結果、CMArに可逆的破壊を加えると、サルは報酬量が減っているにも関わらず(報酬量はほぼ“0”になっている)同一の動作を繰り返したり、あるいは逆に、報酬は100%の量(一定量)をもらい続けているにも関わらず、動作を切り替えたりする。面白い事に、そのような状態でも、音指示信号を使って動作の切り替えを要求した際には正確な行動応答をし、サルは全く問題なく(ほぼ100% の正答率)違う動作への変更ができる。したがって、報酬情報を手掛かりにして、自らの判断で行うことに帯状皮質運動野が関与していることを示している。なお、CMAcへのムシモールの注入ではサルの課題遂行に影響は認められない。
興味深いのは、Shima and Tanji (1998)が用いた認知課題をヒトにも適用し、Bushら(2002)はf-MRIで、Williamsら(2004)はヒト前部帯状皮質(ACC:anterior cingulate cortex)から単一細胞活動を記録し、この領域が報酬関連情報をアクション・動作選択にリンクする場所であることを支持する結果を提示している(Reward maximizing 仮説と名付ける)。このように、報酬情報に影響されて動作の選択の仕方を変えるということは、個体の decision making の重要な部分を占めていると思われるが、脳がどうようにして報酬情報を来るべきアクションに結びつけているかについて、いろいろな観点から多くの研究がなされている(Amiez et al., 2006, Matsumoto et al., 2007, Kennerley et al.,2004, Hadland et al., 2003, Hayden and Platt, 2010, Quilodran et al., 2008, Rangel et al., 2008, Schultz et al., 1997)。現在、学習理論を基盤としての、報酬による行動修飾や行動学習のメカニズムに関する研究が帯状皮質領域のみならず、精力的になされている (Hayden et al., 2011, Platt and Glimcher, 1999)。


4-2:吻側帯状運動野皮質の他の機能
吻側帯状皮質運動野、特にCMArが果たしている機能に最初に言及した研究の一つにShima and Tanjiの論文 (1998)がある。彼らは、動作選択を外的に指示されるのではなく、サル自らが主体的に選択を行う条件を導入した。動作選択自体は単純化し、ハンドルを押すか、回すかのどちらかを選択する実験設定とした。大切な事は、どちらを選択するかを明示する信号が存在せず、もっぱらサル自身が選択の決定をするということである。第2の工夫は、動作選択の手がかりを、報酬というもので与えたということである。つまり、動作の結果、得られた報酬の量の変化を察知して、それを判断材料にして動作選択を行うという状況設定である。ここで大切な事は、報酬そのものがハンドルを押すか、回転するという動作を明示するものではなく、報酬の変化がサルの動作選択に対する対処の変えるという点である。具体的な課題設定は以下のようになっている。最初サルが選択する動作はハンドルを押す、あるいは回す、のどちらかで、“trial-and-error”で正解の動作を見つける。当初は、みつけた正しい動作を繰り返す度に一定量のジュースを報酬として与える。次に、何回か繰り返すとジュースの量が一定の割合で減っていく。このモードに入ると、動作を切り替えない限り、報酬は減少していく。すなわち、サルは報酬量の減少を察知し、動作を切り替えることを要求される。言うまでもなく、報酬量が減少してないときに動作を変更するとエラー(エラー信号の呈示)となり報酬はゼロになる。この課題を正確に遂行できるようになった段階でCMArとCMAc の細胞活動を調べた。ここで注目する時期は、減少した報酬を受け取ってから、動作を切り替えるまでの間であり、その間にどのような細胞活動が出現するのか、という点である。結果は非常に興味深いもので、その時期にのみ活動する細胞がCMArで非常に多く認められ、CMAcでは殆ど認められなかった。すなわち、CMArにおいて、報酬の量が減少して動作の切り替えを行った時に限定して、報酬出現後に顕著な活動の上昇が認められた。しかし、報酬が一定量であった時や、動作選択の切り替えのない場合には報酬に対する活動変化は認められない。なお、動作を切り替えに先行しての細胞活動には、大きく分けて4種類あり、報酬出現後短時間 (約1秒間) の応答(A), 比較的、長い時間の応答(約2-3秒間)(B), 次の動作開始まで待機期間中持続する応答(C), 切り替えられた動作開始に向かって漸増する活動(D),である。これら4種類(A-D)の細胞応答をリレーすることによって、報酬減少の察知から動作の切り替えへと、CMAr内で情報を繋いでいることが想定される(図2)。この結果から、CMArは報酬情報を随意的な動作選択を文脈依存性に行うために使っていると解釈される。つまり、帯状皮質運動野、特にCMArは本能行動の制御系ではなく、報酬由来の内的情報に依拠するアクションの選択(action change、及び action persistenceの両方を意味する)へと導く、いわゆる高次運動領野として機能していると考えられる。この帯状皮質運動野(CMArとCMAc)にムシモールを微量注入し機能脱落を生じさせると、課題遂行にどのような変化が見られるかを観察した。その結果、CMArに可逆的破壊を加えると、サルは報酬量が減っているにも関わらず(報酬量はほぼ“0”になっている)同一の動作を繰り返したり、あるいは逆に、報酬は100%の量(一定量)をもらい続けているにも関わらず、動作を切り替えたりする。面白い事に、そのような状態でも、音指示信号を使って動作の切り替えを要求した際には正確な行動応答をし、サルは全く問題なく(ほぼ100% の正答率)違う動作への変更ができる。したがって、報酬情報を手掛かりにして、自らの判断で行うことに帯状皮質運動野が関与していることを示している。なお、CMAcへのムシモールの注入ではサルの課題遂行に影響は認められない。興味深いのは、Shima and Tanji (1998)が用いた認知課題をヒトにも適用し、Bushら(2002)はf-MRIで、Williamsら(2004)はヒト前部帯状皮質(ACC:anterior cingulate cortex)から単一細胞活動を記録し、この領域が報酬関連情報をアクション・動作選択にリンクする場所であることを支持する結果を提示している(Reward maximizing 仮説と名付ける)。このように、報酬情報に影響されて動作の選択の仕方を変えるということは、個体の decision making の重要な部分を占めていると思われるが、脳がどうようにして報酬情報を来るべきアクションに結びつけているかについて、いろいろな観点から多くの研究がなされている(Amiez et al., 2006, Matsumoto et al., 2007, Kennerley et al.,2004, Hadland et al., 2003, Hayden and Platt, 2010, Quilodran et al., 2008, Rangel et al., 2008, Schultz et al., 1997)。現在、学習理論を基盤としての、報酬による行動修飾や行動学習のメカニズムに関する研究が帯状皮質領域のみならず、精力的になされている (Hayden et al., 2011, Platt and Glimcher, 1999)。
CMArは前部帯状皮質(ACC)の中で相当広い皮質領域を占めている。先に述べた、報酬に基づくアクション、或いは動作の選択という機能以外にも、CMArは多くの働きを担っていると思われる。実際、広い領野であるACCがどのような認知機能に関与しているのか、あるいは、より狭い領域の担う機能の特殊性・区分(segregation)の有無など、細かな点については、ほとんど不明である。ACC(CMAr ?)について、最近、主に4つの説が提唱されている。
 
第一は、Conflictへの関与(Conflict monitoring)であり、殆どの研究はヒトでの脳画像診断法を用いての研究である。被験者に課している課題は Flanker task あるいは Stroop task、或いはその変形であることが多い。この説を唱えた最近の仕事の中の一つにCohenらの研究がある(Botvinick etal., 1999, 2001, 2004, )。応答を促す指示もしくは信号に二組の相反する組み合わせがあり、その矛盾を乗り越えて動作を行うときに、ACCが役割を果たすという考え方で、魅力的な説として広まったが、真にConflictを明示できる課題設定になっているのか、Conflict以外の、他の解釈の余地を残さない課題構築(問題設定)になっているのかという問題点がある。具体的には、課題の困難性(degree of difficulty)の程度の反映との区別、あるいはエラー反応との明瞭な区別のできる課題設定になっているのか、という問題点を解決できてないように思われる。従って、これまでの研究で、帯状皮質運動野の細胞活動で報告されてきた、限定的解釈の困難なエラー様反応を、異なる観点・局面から見ているにすぎないのでは、という考え方を排除することは難しい。これはConflict monitoring説を唱える研究に共通した問題点かもしれない。総括すると、現時点では、CMArはConflict monitoringに直接的には関与していない、という考えが有力であるように思われる(Ito et al., 2003, Roelofs et al., 2006 )
4-2:吻側帯状運動野皮質の他の機能  
第二は、一連の行動の中で、外界で何が起こり、そして自己が何を行ったかをモニターする機能である。特に、外界の事象と自分の動作が一連の時系列をなすことに意味がある場合に、その時系列のどこまで進行したかを逐次モニターすることは大切である。そのモニター機能をACCが果たしているという考えで、ヒトの脳イメージング研究 (Walton et al., 2004) はその仮説を支持する。最近のShidara and Richmond (2002)のサルでの研究もこの仮説を支持する結果であると考えられる。彼らは、サルが報酬を得るまでの手順を制御し、CMArの細胞活動が報酬までの手順の長短に依存して変化することを明示した(see also Toda et al., 2012)
 
第三は、動作のディテールは抜きにして、何らかのアクションを開始しようという意識の発動、 もしくは実質的始動がこの領域の活動の上昇に起因するという考え方である(Lauら、2004)。Hoshiら(2005)のサル内側前頭皮質での実験結果もこの説を裏付けており、SMAおよびPre-SMAに比較して、多くのCMAr細胞の運動プランニング時の活動は特定の運動パラメター(使用する左・右の手、到達すべき左・右のターゲット)に依存しないことを明示している。
CMArは前部帯状皮質(ACC)の中で相当広い皮質領域を占めている。先に述べた、報酬に基づくアクション、或いは動作の選択という機能以外にも、CMArは多くの働きを担っていると思われる。実際、広い領野であるACCがどのような認知機能に関与しているのか、あるいは、より狭い領域の担う機能の特殊性・区分(segregation)の有無など、細かな点については、ほとんど不明である。ACC(CMAr ?)について、最近、主に4つの説が提唱されている。第一は、Conflictへの関与(Conflict monitoring)であり、殆どの研究はヒトでの脳画像診断法を用いての研究である。被験者に課している課題は Flanker task あるいは Stroop task、或いはその変形であることが多い。この説を唱えた最近の仕事の中の一つにCohenらの研究がある(Botvinick etal., 1999, 2001, 2004, )。応答を促す指示もしくは信号に二組の相反する組み合わせがあり、その矛盾を乗り越えて動作を行うときに、ACCが役割を果たすという考え方で、魅力的な説として広まったが、真にConflictを明示できる課題設定になっているのか、Conflict以外の、他の解釈の余地を残さない課題構築(問題設定)になっているのかという問題点がある。具体的には、課題の困難性(degree of difficulty)の程度の反映との区別、あるいはエラー反応との明瞭な区別のできる課題設定になっているのか、という問題点を解決できてないように思われる。従って、これまでの研究で、帯状皮質運動野の細胞活動で報告されてきた、限定的解釈の困難なエラー様反応を、異なる観点・局面から見ているにすぎないのでは、という考え方を排除することは難しい。これはConflict monitoring説を唱える研究に共通した問題点かもしれない。総括すると、現時点では、CMArはConflict monitoringに直接的には関与していない、という考えが有力であるように思われる(Ito et al., 2003, Roelofs et al., 2006 )。第二は、一連の行動の中で、外界で何が起こり、そして自己が何を行ったかをモニターする機能である。特に、外界の事象と自分の動作が一連の時系列をなすことに意味がある場合に、その時系列のどこまで進行したかを逐次モニターすることは大切である。そのモニター機能をACCが果たしているという考えで、ヒトの脳イメージング研究 (Walton et al., 2004) はその仮説を支持する。最近のShidara and Richmond (2002)のサルでの研究もこの仮説を支持する結果であると考えられる。彼らは、サルが報酬を得るまでの手順を制御し、CMArの細胞活動が報酬までの手順の長短に依存して変化することを明示した(see also Toda et al., 2012)。第三は、動作のディテールは抜きにして、何らかのアクションを開始しようという意識の発動、 もしくは実質的始動がこの領域の活動の上昇に起因するという考え方である(Lauら、2004)。Hoshiら(2005)のサル内側前頭皮質での実験結果もこの説を裏付けており、SMAおよびPre-SMAに比較して、多くのCMAr細胞の運動プランニング時の活動は特定の運動パラメター(使用する左・右の手、到達すべき左・右のターゲット)に依存しないことを明示している。第四はError monitoring への関与で、ACCが動作や反応の エラー を探知・認識しているとする説で、古くから論じられている。サルでの細胞活動での研究 (Ito et al., 2003, Niki and Watanabe, 1976)、およびヒトでのf-MRIでの研究(Holroyd et al., 2004, Ullsperger and von Cramon, 2004)から多くの研究者が言及している。しかし、CarterとCohenらのグループ(Botvinick et al., 2004, Carter et al., 1998)は、ヒト f-MRIでの研究で、それを否定している。彼らは、ACCの活動は、確かに被験者が間違った反応をした際に上昇するが、同じ部位の活動上昇が response competition の状況でも認められることから、この反応はエラー それ自体を反映しているのではなく、エラー が起こるかもしれないという状況を反映している、という考えを提示している(Conflict monitoring 説に含まれる)。最後に、帯状回が本来担っている本能行動の発現のためには、海馬と扁桃体で統合された情報が帯状回に入力し、次いで脳幹に出力される系が考えられる。従って、これまで述べてきたような帯状皮質運動野を含む運動関連皮質、わけても高次皮質領域の関与は少ないものと考えられる。
第四はError monitoring への関与で、ACCが動作や反応の エラー を探知・認識しているとする説で、古くから論じられている。サルでの細胞活動での研究 (Ito et al., 2003, Niki and Watanabe, 1976)、およびヒトでのf-MRIでの研究(Holroyd et al., 2004, Ullsperger and von Cramon, 2004)から多くの研究者が言及している。しかし、CarterとCohenらのグループ(Botvinick et al., 2004, Carter et al., 1998)は、ヒト f-MRIでの研究で、それを否定している。彼らは、ACCの活動は、確かに被験者が間違った反応をした際に上昇するが、同じ部位の活動上昇が response competition の状況でも認められることから、この反応はエラー それ自体を反映しているのではなく、エラー が起こるかもしれないという状況を反映している、という考えを提示している(Conflict monitoring 説に含まれる)。
最後に、帯状回が本来担っている本能行動の発現のためには、海馬と扁桃体で統合された情報が帯状回に入力し、次いで脳幹に出力される系が考えられる。従って、これまで述べてきたような帯状皮質運動野を含む運動関連皮質、わけても高次皮質領域の関与は少ないものと考えられる。


5.尾側帯状皮質運動野の機能
5.尾側帯状皮質運動野の機能
尾側の帯状皮質運動野(CMAc)の機能については、現在のところ大部分が明らかにされてない。解剖学的にこの領域はCMArよりも密に運動関連領域と神経連絡がある。特に、第一次運動野、および脳幹、脊髄との結合は強く、CMArが高次の認知的側面に深く関与するのに比較して、CMAcは運動の出力側にあり、階層的に低いレベルにあることが推察される。帯状皮質に運動野が存在する可能性はStrick研究室 (Hutchins et al., 1988) での解剖学的実験により提起され、つづいて、Tanji研究室 (Shima et al., 1991, Wang et al., 2001, 2004) とRizzolatti研究室 (Luppino et al., 1991, Matelli et al.,1991)で、生理学的および解剖学的同定がなされ、CMAcとCMArに分類された。シンプルな運動課題を用いて確認したCMAcの細胞活動は一次運動野と大きな違いはなかった。最近のRichardsonら(2008)の研究では、動的に変化させた環境で帯状皮質運動野の細胞活動がどのように適応するかを調べた実験で、CMArは視覚指示信号に応答する細胞が多いのに対し、CMAcの細胞活動はforce-field の変化に影響を受けることを明らかにしている。Crutcherらのグループ はjoystickでの視覚ターゲット到達課題遂行中のCMAc(CMAd とCMAv)の細胞活動を記録し、方向選択性活動の存在、加えて、その活動はSMAと類似であったことを報告しており、CMAd, CMAc, SMA の3部位は、運動遂行に関して類似の関与(parallel information processing)をしているという議論を展開している(Crutcher et al., 2004, Backus et al., 2001, Russo et al., 2002)。しかし、視覚誘導性到達課題がCMAcとSMA の機能特徴を明示するのに相応しいか否かを考える必要があるように思われる。
 
このように、現時点では、CMAcの特徴的機能は十分解明されているとは言えないものの、今後、色々な仮説を設定して、ヒトでのf-MRI実験、サルでの細胞活動の分析および破壊実験がなされることにより、この部位が果たしている責任機能の解明が期待される。
尾側の帯状皮質運動野(CMAc)の機能については、現在のところ大部分が明らかにされてない。解剖学的にこの領域はCMArよりも密に運動関連領域と神経連絡がある。特に、第一次運動野、および脳幹、脊髄との結合は強く、CMArが高次の認知的側面に深く関与するのに比較して、CMAcは運動の出力側にあり、階層的に低いレベルにあることが推察される。帯状皮質に運動野が存在する可能性はStrick研究室 (Hutchins et al., 1988) での解剖学的実験により提起され、つづいて、Tanji研究室 (Shima et al., 1991, Wang et al., 2001, 2004) とRizzolatti研究室 (Luppino et al., 1991, Matelli et al.,1991)で、生理学的および解剖学的同定がなされ、CMAcとCMArに分類された。シンプルな運動課題を用いて確認したCMAcの細胞活動は一次運動野と大きな違いはなかった。最近のRichardsonら(2008)の研究では、動的に変化させた環境で帯状皮質運動野の細胞活動がどのように適応するかを調べた実験で、CMArは視覚指示信号に応答する細胞が多いのに対し、CMAcの細胞活動はforce-field の変化に影響を受けることを明らかにしている。Crutcherらのグループ はjoystickでの視覚ターゲット到達課題遂行中のCMAc(CMAd とCMAv)の細胞活動を記録し、方向選択性活動の存在、加えて、その活動はSMAと類似であったことを報告しており、CMAd, CMAc, SMA の3部位は、運動遂行に関して類似の関与(parallel information processing)をしているという議論を展開している(Crutcher et al., 2004, Backus et al., 2001, Russo et al., 2002)。しかし、視覚誘導性到達課題がCMAcとSMA の機能特徴を明示するのに相応しいか否かを考える必要があるように思われる。このように、現時点では、CMAcの特徴的機能は十分解明されているとは言えないものの、今後、色々な仮説を設定して、ヒトでのf-MRI実験、サルでの細胞活動の分析および破壊実験がなされることにより、この部位が果たしている責任機能の解明が期待される。  


6.ヒト帯状皮質の機能に関する神経科学知見
6.ヒト帯状皮質の機能に関する神経科学知見
解剖学的には、先に紹介したサルでの特徴と相同である。動物実験(サル)と機能画像法のメタ解析から前後、二つの領域に分かれることが示されている(Picard and Strick 1996)。ヒトの脳ではVCA line より後方を後方帯状皮質(caudal cingulate zone :CCZ),それより前方を前方帯状皮質(rostral cingulate zone :RCZ:ACCと相同)と呼ぶ。RCZは、さらに前後の2領域、RCZpとRCZaに分けられ、それぞれ異なる働きをしていると考えられている(Carter et al., 2000, Picard and Strick, 1996, 2001)(図3)。RCZの後方に位置するCCZは、動作の構成や実行への関与が示唆されており、RCZは、より認知的な働きに関与すると考えられる。一方、RCZpとRCZaに関する研究はまだ途に就いた段階で、其々の機能については今後の研究をまたなければならないが、RCZpは入力情報に基づく反応選択、RCZaはそれに先行する情報の評価への関与などが推測される。最近、主にヒトf-MRIでの研究でも、RCZという呼称に代えて、ACCと表記したり、或いはACCの背側部(dorsal division)に強い活動が局在することが多いため、その場合には、より限定的領域として dACCと表記する論文も多数ある。
 
CCZに関して、比較的初期のPassingham 研究室のFinkら(1997)の脳イメージング法(positron emission tomography)を用いての研究がある。彼らはシンプルな足の屈曲・伸展、および手首の内転・外転遂行時の脳活動を測定し、大脳半球内側面ではSMAに加え、CCZ (CMAvとCMAd) の活動が上昇することを明らかにした。その後、Stephan ら(1999)はCCZに関して、両手動作との関連性を調べるために、両手動作が同相か、それとも反対の相で動かすかというような両手の連続または同時運動時の動作解析を行った研究で、帯状皮質に傷害を持っている患者では、両手動作の時間的適応に障害が認められることが分かった。また片手動作を行うときに他の手の動作も誘発されてしまう片手の独立性の障害も認められることを報告している。加えて、同様の両手の運動課題を用いて、健常者での脳機能的画像研究も行った結果、両手の同相か逆相の運動かに依存して帯状皮質運動野で活動差が認められたことを報告している。Debaereら(2004)は両手協調運動の学習の際に、前頭前野、右運動前野は学習と伴に低下するが、左運動前野、帯状皮質運動野は、学習とともに増加する傾向にあったことを示している。これらの知見は、CCZが新規に協調運動を学習することに関与することを示唆している。 両手動作の制御に関しても、視覚手がかりで行う外的誘導両手課題か、記憶に基づく内的誘導両手課題かで、活動に差がみられた(Debaere et al., 2003)。外的誘導性の両手課題では、運動前野、小脳皮質、上頭頂連合野でより活動が強く、逆に内的誘導性の両手課題では、帯状皮質、補足運動野、下頭頂連合野、基底核、小脳核で活動が強かった。この結果は、同じ両手運動でも、その要求・条件に依存して、多くの異なる領野で分散的に制御されている事を示唆している。
解剖学的には、先に紹介したサルでの特徴と相同である。動物実験(サル)と機能画像法のメタ解析から前後、二つの領域に分かれることが示されている(Picard and Strick 1996)。ヒトの脳ではVCA line より後方を後方帯状皮質(caudal cingulate zone :CCZ),それより前方を前方帯状皮質(rostral cingulate zone :RCZ:ACCと相同)と呼ぶ。RCZは、さらに前後の2領域、RCZpとRCZaに分けられ、それぞれ異なる働きをしていると考えられている(Carter et al., 2000, Picard and Strick, 1996, 2001)(図3)。RCZの後方に位置するCCZは、動作の構成や実行への関与が示唆されており、RCZは、より認知的な働きに関与すると考えられる。一方、RCZpとRCZaに関する研究はまだ途に就いた段階で、其々の機能については今後の研究をまたなければならないが、RCZpは入力情報に基づく反応選択、RCZaはそれに先行する情報の評価への関与などが推測される。最近、主にヒトf-MRIでの研究でも、RCZという呼称に代えて、ACCと表記したり、或いはACCの背側部(dorsal division)に強い活動が局在することが多いため、その場合には、より限定的領域として dACCと表記する論文も多数ある。 CCZに関して、比較的初期のPassingham 研究室のFinkら(1997)の脳イメージング法(positron emission tomography)を用いての研究がある。彼らはシンプルな足の屈曲・伸展、および手首の内転・外転遂行時の脳活動を測定し、大脳半球内側面ではSMAに加え、CCZ (CMAvとCMAd) の活動が上昇することを明らかにした。その後、Stephan ら(1999)はCCZに関して、両手動作との関連性を調べるために、両手動作が同相か、それとも反対の相で動かすかというような両手の連続または同時運動時の動作解析を行った研究で、帯状皮質に傷害を持っている患者では、両手動作の時間的適応に障害が認められることが分かった。また片手動作を行うときに他の手の動作も誘発されてしまう片手の独立性の障害も認められることを報告している。加えて、同様の両手の運動課題を用いて、健常者での脳機能的画像研究も行った結果、両手の同相か逆相の運動かに依存して帯状皮質運動野で活動差が認められたことを報告している。Debaereら(2004)は両手協調運動の学習の際に、前頭前野、右運動前野は学習と伴に低下するが、左運動前野、帯状皮質運動野は、学習とともに増加する傾向にあったことを示している。これらの知見は、CCZが新規に協調運動を学習することに関与することを示唆している。 両手動作の制御に関しても、視覚手がかりで行う外的誘導両手課題か、記憶に基づく内的誘導両手課題かで、活動に差がみられた(Debaere et al., 2003)。外的誘導性の両手課題では、運動前野、小脳皮質、上頭頂連合野でより活動が強く、逆に内的誘導性の両手課題では、帯状皮質、補足運動野、下頭頂連合野、基底核、小脳核で活動が強かった。この結果は、同じ両手運動でも、その要求・条件に依存して、多くの異なる領野で分散的に制御されている事を示唆している。一方、ACC は、動作あるいは運動の制御というより、認知的な要素が付与された、より複雑な課題遂行時に活性化される。例えば予想される行動結果に基づいた行動選択や、自分の行動結果をモニターすること、いわゆるAction monitoringに関係していることが報告されている(Debener et al., 2005, Fujiwara et al., 2009、Magno et al., 2006)。例えば、最近のFujiwaraら(2009)のFree-choice task を用いての研究は、報酬(Reward)、あるいは罰(Punishment)で、それぞれ特異的に活動が上昇する領域が帯状皮質に存在することを報告している。この課題では、被験者の選択した deck (一組のカード) 毎に、それぞれ、お金がもらえる(報酬)、或いは、お金を失う(罰)状況が設定されている。それぞれの状況で選択的に活動が上昇した部位は、報酬に関しては、ACC の前方部 (RCZaに対応)とCCZに、罰についてはACCの中央部 (RCZa) と後方部(RCZc)の2ヶ所に位置しており、報酬と罰に関連する領域は、大部分、重複していないことを明示している。加えて、彼らのメタ解析は、報酬と罰に関連する二領域は、それぞれポジティブな感情、およびネガティブな情動や精神的な痛み(Eisenberger et al., 2003, Raij et al., 2005, Singer et al., 2004)を引き起こす際に活動の上昇がみられる部位と重複することを示唆している。一方、別の観点からの研究で、Marsら(2005)は、Trial-and-Errorよる視覚運動連合学習時に、現在の感覚―運動連関から期待される行動結果と一致するかどうかという内的エラーと、新たな状況で外から与えられる外的フィードバックとしての外的エラーが想定され、学習時期によって、エラーのタイプが変化する事を論じており、帯状皮質の前方領域(ACC)でこのようなエラーに対する反応が学習時期に応じて変化していくことを見いだした(Mars et al., 2005)。 Stroop task, あるいはFlanker taskなどの、反応が拮抗する(付随する状況が被験者の正しい反応を妨害する)課題遂行時にヒトACCの活動の上昇がみられることから、この領域が、個体が直面している色々な状況での拮抗状態をモニターするとするConflict monitoring説を提唱する多くの報告がある(Abutalebi et al., 2011, Carter et al., 1998, Botvinick et al., 1999, 2004, Kerns et al., 2004, Weissman et al., 2005)。しかし、この説には反論も多く(Ito et al., 2003, Roelofs et al., 2006 )、現時点でその結論は出ておらず、今後の研究の推移が待たれる。最近、Brown and Brever (2005) はChange signal task (Stop-signal task の変法) を用いて、興味深い結論を導き出している。課題の概要は、high-error condition と low-error condition を設定し、後者に比べ前者の状態(モニター上の画像の色の違いで報せる)では、被験者が同じ反応をしてもエラーと判定される確率が上昇している。ACC の活動はhigh-error condition でより高くなり、興味深いのはhigh-error condition では、100% 正解の条件(状況)でもACCの活動は有意な上昇を示していたという結果である。彼らは、ACCの機能として、 活動の上昇をConflict monitoring、 あるいはError detectionと解釈するより、より一般化された、Error-likelihood の状態を反映した活動と捉える方がより実態に適合していると主張している。 MacDonaldら(2000)も ACCは行動評価過程に関わっており、行動調節過程には外側前頭前野が関与するとする結果を示している。その研究では、前頭前野の内側領域と外側領域は機能的な違いがあるが、拮抗解決には機能的連関をもって両領域が協調的に働いていることを示唆している。作業記憶課題への影響に関して、背外側前頭前野の損傷で顕著な障害を起こす事が知られているが、ACCの損傷では影響が少ないことから、ACCは記憶情報の保持というより、行動結果とその評価に依拠して自身の行動の調節をすることに関与していると思われる。すなわち、Action value に基づくAdaptive coding、或いは、より直接的に、時々刻々報酬が最大になるようなアクションを選択するという意味でReward maximizingという表現が可能かも知れない(see also Jocham et al., 2009)。このReward maximizing仮説を支持する知見として、ACCが報酬に基づくアクションの変更に関与することを示す興味深い研究結果が報告されている(Bush et al., 2002, Williams et al., 2004)。特に、Williamsら(2004)はヒトdACCから記録した単一細胞活動の多くが、報酬の量が減少し、将来行なうアクションが変更される前の待機期間中の発火頻度が、特異的に上昇することを示している。さらに、同一の被験者で、この領域を切除すると、報酬に基づくアクションの切り替えが正確にできなくなることを報告している。最近の総説では、ACCが意図から行動への変換に関与する可能性が述べられている(Paus, 2001)。また、Ridderinkhoff ら(2004)は、望ましくない結果の検出と他の前頭前野領野との連携による行動調節機能にACCが関与している可能性を提示している。
一方、ACC は、動作あるいは運動の制御というより、認知的な要素が付与された、より複雑な課題遂行時に活性化される。例えば予想される行動結果に基づいた行動選択や、自分の行動結果をモニターすること、いわゆるAction monitoringに関係していることが報告されている(Debener et al., 2005, Fujiwara et al., 2009、Magno et al., 2006)。例えば、最近のFujiwaraら(2009)のFree-choice task を用いての研究は、報酬(Reward)、あるいは罰(Punishment)で、それぞれ特異的に活動が上昇する領域が帯状皮質に存在することを報告している。この課題では、被験者の選択した deck (一組のカード) 毎に、それぞれ、お金がもらえる(報酬)、或いは、お金を失う(罰)状況が設定されている。それぞれの状況で選択的に活動が上昇した部位は、報酬に関しては、ACC の前方部 (RCZaに対応)とCCZに、罰についてはACCの中央部 (RCZa) と後方部(RCZc)の2ヶ所に位置しており、報酬と罰に関連する領域は、大部分、重複していないことを明示している。加えて、彼らのメタ解析は、報酬と罰に関連する二領域は、それぞれポジティブな感情、およびネガティブな情動や精神的な痛み(Eisenberger et al., 2003, Raij et al., 2005, Singer et al., 2004)を引き起こす際に活動の上昇がみられる部位と重複することを示唆している。一方、別の観点からの研究で、Marsら(2005)は、Trial-and-Errorよる視覚運動連合学習時に、現在の感覚―運動連関から期待される行動結果と一致するかどうかという内的エラーと、新たな状況で外から与えられる外的フィードバックとしての外的エラーが想定され、学習時期によって、エラーのタイプが変化する事を論じており、帯状皮質の前方領域(ACC)でこのようなエラーに対する反応が学習時期に応じて変化していくことを見いだした(Mars et al., 2005)。
Stroop task, あるいはFlanker taskなどの、反応が拮抗する(付随する状況が被験者の正しい反応を妨害する)課題遂行時にヒトACCの活動の上昇がみられることから、この領域が、個体が直面している色々な状況での拮抗状態をモニターするとするConflict monitoring説を提唱する多くの報告がある(Abutalebi et al., 2011, Carter et al., 1998, Botvinick et al., 1999, 2004, Kerns et al., 2004, Weissman et al., 2005)。しかし、この説には反論も多く(Ito et al., 2003, Roelofs et al., 2006 )、現時点でその結論は出ておらず、今後の研究の推移が待たれる。最近、Brown and Brever (2005) はChange signal task (Stop-signal task の変法) を用いて、興味深い結論を導き出している。課題の概要は、high-error condition と low-error condition を設定し、後者に比べ前者の状態(モニター上の画像の色の違いで報せる)では、被験者が同じ反応をしてもエラーと判定される確率が上昇している。ACC の活動はhigh-error condition でより高くなり、興味深いのはhigh-error condition では、100% 正解の条件(状況)でもACCの活動は有意な上昇を示していたという結果である。彼らは、ACCの機能として、 活動の上昇をConflict monitoring、 あるいはError detectionと解釈するより、より一般化された、Error-likelihood の状態を反映した活動と捉える方がより実態に適合していると主張している。
MacDonaldら(2000)も ACCは行動評価過程に関わっており、行動調節過程には外側前頭前野が関与するとする結果を示している。その研究では、前頭前野の内側領域と外側領域は機能的な違いがあるが、拮抗解決には機能的連関をもって両領域が協調的に働いていることを示唆している。作業記憶課題への影響に関して、背外側前頭前野の損傷で顕著な障害を起こす事が知られているが、ACCの損傷では影響が少ないことから、ACCは記憶情報の保持というより、行動結果とその評価に依拠して自身の行動の調節をすることに関与していると思われる。すなわち、Action value に基づくAdaptive coding、或いは、より直接的に、時々刻々報酬が最大になるようなアクションを選択するという意味でReward maximizingという表現が可能かも知れない(see also Jocham et al., 2009)。このReward maximizing仮説を支持する知見として、ACCが報酬に基づくアクションの変更に関与することを示す興味深い研究結果が報告されている(Bush et al., 2002, Williams et al., 2004)。特に、Williamsら(2004)はヒトdACCから記録した単一細胞活動の多くが、報酬の量が減少し、将来行なうアクションが変更される前の待機期間中の発火頻度が、特異的に上昇することを示している。さらに、同一の被験者で、この領域を切除すると、報酬に基づくアクションの切り替えが正確にできなくなることを報告している。最近の総説では、ACCが意図から行動への変換に関与する可能性が述べられている(Paus, 2001)。また、Ridderinkhoff ら(2004)は、望ましくない結果の検出と他の前頭前野領野との連携による行動調節機能にACCが関与している可能性を提示している。
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