「前帯状皮質」の版間の差分

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4.吻側帯状運動野皮質の機能 4-1:報酬情報に依拠した動作選択吻側帯状皮質運動野、特にCMArが果たしている機能に最初に言及した研究の一つにShima and Tanjiの論文 (1998)がある。彼らは、動作選択を外的に指示されるのではなく、サル自らが主体的に選択を行う条件を導入した。動作選択自体は単純化し、ハンドルを押すか、回すかのどちらかを選択する実験設定とした。大切な事は、どちらを選択するかを明示する信号が存在せず、もっぱらサル自身が選択の決定をするということである。第2の工夫は、動作選択の手がかりを、報酬というもので与えたということである。つまり、動作の結果、得られた報酬の量の変化を察知して、それを判断材料にして動作選択を行うという状況設定である。ここで大切な事は、報酬そのものがハンドルを押すか、回転するという動作を明示するものではなく、報酬の変化がサルの動作選択に対する対処の変えるという点である。具体的な課題設定は以下のようになっている。最初サルが選択する動作はハンドルを押す、あるいは回す、のどちらかで、“trial-and-error”で正解の動作を見つける。当初は、みつけた正しい動作を繰り返す度に一定量のジュースを報酬として与える。次に、何回か繰り返すとジュースの量が一定の割合で減っていく。このモードに入ると、動作を切り替えない限り、報酬は減少していく。すなわち、サルは報酬量の減少を察知し、動作を切り替えることを要求される。言うまでもなく、報酬量が減少してないときに動作を変更するとエラー(エラー信号の呈示)となり報酬はゼロになる。この課題を正確に遂行できるようになった段階でCMArとCMAc の細胞活動を調べた。ここで注目する時期は、減少した報酬を受け取ってから、動作を切り替えるまでの間であり、その間にどのような細胞活動が出現するのか、という点である。結果は非常に興味深いもので、その時期にのみ活動する細胞がCMArで非常に多く認められ、CMAcでは殆ど認められなかった。すなわち、CMArにおいて、報酬の量が減少して動作の切り替えを行った時に限定して、報酬出現後に顕著な活動の上昇が認められた。しかし、報酬が一定量であった時や、動作選択の切り替えのない場合には報酬に対する活動変化は認められない。なお、動作を切り替えに先行しての細胞活動には、大きく分けて4種類あり、報酬出現後短時間 (約1秒間) の応答(A), 比較的、長い時間の応答(約2-3秒間)(B), 次の動作開始まで待機期間中持続する応答(C), 切り替えられた動作開始に向かって漸増する活動(D),である。これら4種類(A-D)の細胞応答をリレーすることによって、報酬減少の察知から動作の切り替えへと、CMAr内で情報を繋いでいることが想定される(図2)。この結果から、CMArは報酬情報を随意的な動作選択を文脈依存性に行うために使っていると解釈される。つまり、帯状皮質運動野、特にCMArは本能行動の制御系ではなく、報酬由来の内的情報に依拠するアクションの選択(action change、及び action persistenceの両方を意味する)へと導く、いわゆる高次運動領野として機能していると考えられる。この帯状皮質運動野(CMArとCMAc)にムシモールを微量注入し機能脱落を生じさせると、課題遂行にどのような変化が見られるかを観察した。その結果、CMArに可逆的破壊を加えると、サルは報酬量が減っているにも関わらず(報酬量はほぼ“0”になっている)同一の動作を繰り返したり、あるいは逆に、報酬は100%の量(一定量)をもらい続けているにも関わらず、動作を切り替えたりする。面白い事に、そのような状態でも、音指示信号を使って動作の切り替えを要求した際には正確な行動応答をし、サルは全く問題なく(ほぼ100% の正答率)違う動作への変更ができる。したがって、報酬情報を手掛かりにして、自らの判断で行うことに帯状皮質運動野が関与していることを示している。なお、CMAcへのムシモールの注入ではサルの課題遂行に影響は認められない。興味深いのは、Shima and Tanji (1998)が用いた認知課題をヒトにも適用し、Bushら(2002)はf-MRIで、Williamsら(2004)はヒト前部帯状皮質(ACC:anterior cingulate cortex)から単一細胞活動を記録し、この領域が報酬関連情報をアクション・動作選択にリンクする場所であることを支持する結果を提示している(Reward maximizing 仮説と名付ける)。このように、報酬情報に影響されて動作の選択の仕方を変えるということは、個体の decision making の重要な部分を占めていると思われるが、脳がどうようにして報酬情報を来るべきアクションに結びつけているかについて、いろいろな観点から多くの研究がなされている(Amiez et al., 2006, Matsumoto et al., 2007, Kennerley et al.,2004, Hadland et al., 2003, Hayden and Platt, 2010, Quilodran et al., 2008, Rangel et al., 2008, Schultz et al., 1997)。現在、学習理論を基盤としての、報酬による行動修飾や行動学習のメカニズムに関する研究が帯状皮質領域のみならず、精力的になされている (Hayden et al., 2011, Platt and Glimcher, 1999)。  
4.吻側帯状運動野皮質の機能 4-1:報酬情報に依拠した動作選択吻側帯状皮質運動野、特にCMArが果たしている機能に最初に言及した研究の一つにShima and Tanjiの論文 (1998)がある。彼らは、動作選択を外的に指示されるのではなく、サル自らが主体的に選択を行う条件を導入した。動作選択自体は単純化し、ハンドルを押すか、回すかのどちらかを選択する実験設定とした。大切な事は、どちらを選択するかを明示する信号が存在せず、もっぱらサル自身が選択の決定をするということである。第2の工夫は、動作選択の手がかりを、報酬というもので与えたということである。つまり、動作の結果、得られた報酬の量の変化を察知して、それを判断材料にして動作選択を行うという状況設定である。ここで大切な事は、報酬そのものがハンドルを押すか、回転するという動作を明示するものではなく、報酬の変化がサルの動作選択に対する対処の変えるという点である。具体的な課題設定は以下のようになっている。最初サルが選択する動作はハンドルを押す、あるいは回す、のどちらかで、“trial-and-error”で正解の動作を見つける。当初は、みつけた正しい動作を繰り返す度に一定量のジュースを報酬として与える。次に、何回か繰り返すとジュースの量が一定の割合で減っていく。このモードに入ると、動作を切り替えない限り、報酬は減少していく。すなわち、サルは報酬量の減少を察知し、動作を切り替えることを要求される。言うまでもなく、報酬量が減少してないときに動作を変更するとエラー(エラー信号の呈示)となり報酬はゼロになる。この課題を正確に遂行できるようになった段階でCMArとCMAc の細胞活動を調べた。ここで注目する時期は、減少した報酬を受け取ってから、動作を切り替えるまでの間であり、その間にどのような細胞活動が出現するのか、という点である。結果は非常に興味深いもので、その時期にのみ活動する細胞がCMArで非常に多く認められ、CMAcでは殆ど認められなかった。すなわち、CMArにおいて、報酬の量が減少して動作の切り替えを行った時に限定して、報酬出現後に顕著な活動の上昇が認められた。しかし、報酬が一定量であった時や、動作選択の切り替えのない場合には報酬に対する活動変化は認められない。なお、動作を切り替えに先行しての細胞活動には、大きく分けて4種類あり、報酬出現後短時間 (約1秒間) の応答(A), 比較的、長い時間の応答(約2-3秒間)(B), 次の動作開始まで待機期間中持続する応答(C), 切り替えられた動作開始に向かって漸増する活動(D),である。これら4種類(A-D)の細胞応答をリレーすることによって、報酬減少の察知から動作の切り替えへと、CMAr内で情報を繋いでいることが想定される(図2)。この結果から、CMArは報酬情報を随意的な動作選択を文脈依存性に行うために使っていると解釈される。つまり、帯状皮質運動野、特にCMArは本能行動の制御系ではなく、報酬由来の内的情報に依拠するアクションの選択(action change、及び action persistenceの両方を意味する)へと導く、いわゆる高次運動領野として機能していると考えられる。この帯状皮質運動野(CMArとCMAc)にムシモールを微量注入し機能脱落を生じさせると、課題遂行にどのような変化が見られるかを観察した。その結果、CMArに可逆的破壊を加えると、サルは報酬量が減っているにも関わらず(報酬量はほぼ“0”になっている)同一の動作を繰り返したり、あるいは逆に、報酬は100%の量(一定量)をもらい続けているにも関わらず、動作を切り替えたりする。面白い事に、そのような状態でも、音指示信号を使って動作の切り替えを要求した際には正確な行動応答をし、サルは全く問題なく(ほぼ100% の正答率)違う動作への変更ができる。したがって、報酬情報を手掛かりにして、自らの判断で行うことに帯状皮質運動野が関与していることを示している。なお、CMAcへのムシモールの注入ではサルの課題遂行に影響は認められない。興味深いのは、Shima and Tanji (1998)が用いた認知課題をヒトにも適用し、Bushら(2002)はf-MRIで、Williamsら(2004)はヒト前部帯状皮質(ACC:anterior cingulate cortex)から単一細胞活動を記録し、この領域が報酬関連情報をアクション・動作選択にリンクする場所であることを支持する結果を提示している(Reward maximizing 仮説と名付ける)。このように、報酬情報に影響されて動作の選択の仕方を変えるということは、個体の decision making の重要な部分を占めていると思われるが、脳がどうようにして報酬情報を来るべきアクションに結びつけているかについて、いろいろな観点から多くの研究がなされている(Amiez et al., 2006, Matsumoto et al., 2007, Kennerley et al.,2004, Hadland et al., 2003, Hayden and Platt, 2010, Quilodran et al., 2008, Rangel et al., 2008, Schultz et al., 1997)。現在、学習理論を基盤としての、報酬による行動修飾や行動学習のメカニズムに関する研究が帯状皮質領域のみならず、精力的になされている (Hayden et al., 2011, Platt and Glimcher, 1999)。  


4-2:吻側帯状運動野皮質の他の機能 CMArは前部帯状皮質(ACC)の中で相当広い皮質領域を占めている。先に述べた、報酬に基づくアクション、或いは動作の選択という機能以外にも、CMArは多くの働きを担っていると思われる。実際、広い領野であるACCがどのような認知機能に関与しているのか、あるいは、より狭い領域の担う機能の特殊性・区分(segregation)の有無など、細かな点については、ほとんど不明である。ACC(CMAr ?)について、最近、主に4つの説が提唱されている。第一は、Conflictへの関与(Conflict monitoring)であり、殆どの研究はヒトでの脳画像診断法を用いての研究である。被験者に課している課題は Flanker task あるいは Stroop task、或いはその変形であることが多い。この説を唱えた最近の仕事の中の一つにCohenらの研究がある(Botvinick etal., 1999, 2001, 2004, )。応答を促す指示もしくは信号に二組の相反する組み合わせがあり、その矛盾を乗り越えて動作を行うときに、ACCが役割を果たすという考え方で、魅力的な説として広まったが、真にConflictを明示できる課題設定になっているのか、Conflict以外の、他の解釈の余地を残さない課題構築(問題設定)になっているのかという問題点がある。具体的には、課題の困難性(degree of difficulty)の程度の反映との区別、あるいはエラー反応との明瞭な区別のできる課題設定になっているのか、という問題点を解決できてないように思われる。従って、これまでの研究で、帯状皮質運動野の細胞活動で報告されてきた、限定的解釈の困難なエラー様反応を、異なる観点・局面から見ているにすぎないのでは、という考え方を排除することは難しい。これはConflict monitoring説を唱える研究に共通した問題点かもしれない。総括すると、現時点では、CMArはConflict monitoringに直接的には関与していない、という考えが有力であるように思われる(Ito et al., 2003, Roelofs et al., 2006 )。第二は、一連の行動の中で、外界で何が起こり、そして自己が何を行ったかをモニターする機能である。特に、外界の事象と自分の動作が一連の時系列をなすことに意味がある場合に、その時系列のどこまで進行したかを逐次モニターすることは大切である。そのモニター機能をACCが果たしているという考えで、ヒトの脳イメージング研究 (Walton et al., 2004) はその仮説を支持する。最近のShidara and Richmond (2002)のサルでの研究もこの仮説を支持する結果であると考えられる。彼らは、サルが報酬を得るまでの手順を制御し、CMArの細胞活動が報酬までの手順の長短に依存して変化することを明示した(see also Toda et al., 2012)。第三は、動作のディテールは抜きにして、何らかのアクションを開始しようという意識の発動、 もしくは実質的始動がこの領域の活動の上昇に起因するという考え方である(Lauら、2004)。Hoshiら(2005)のサル内側前頭皮質での実験結果もこの説を裏付けており、SMAおよびPre-SMAに比較して、多くのCMAr細胞の運動プランニング時の活動は特定の運動パラメター(使用する左・右の手、到達すべき左・右のターゲット)に依存しないことを明示している。第四はError monitoring への関与で、ACCが動作や反応の エラー を探知・認識しているとする説で、古くから論じられている。サルでの細胞活動での研究 (Ito et al., 2003, Niki and Watanabe, 1976)、およびヒトでのf-MRIでの研究(Holroyd et al., 2004, Ullsperger and von Cramon, 2004)から多くの研究者が言及している。しかし、CarterとCohenらのグループ(Botvinick et al., 2004, Carter et al., 1998)は、ヒト f-MRIでの研究で、それを否定している。彼らは、ACCの活動は、確かに被験者が間違った反応をした際に上昇するが、同じ部位の活動上昇が response competition の状況でも認められることから、この反応はエラー それ自体を反映しているのではなく、エラー が起こるかもしれないという状況を反映している、という考えを提示している(Conflict monitoring 説に含まれる)。最後に、帯状回が本来担っている本能行動の発現のためには、海馬と扁桃体で統合された情報が帯状回に入力し、次いで脳幹に出力される系が考えられる。従って、これまで述べてきたような帯状皮質運動野を含む運動関連皮質、わけても高次皮質領域の関与は少ないものと考えられる。  
4-2:吻側帯状運動野皮質の他の機能 CMArは前部帯状皮質(ACC)の中で相当広い皮質領域を占めている。先に述べた、報酬に基づくアクション、或いは動作の選択という機能以外にも、CMArは多くの働きを担っていると思われる。実際、広い領野であるACCがどのような認知機能に関与しているのか、あるいは、より狭い領域の担う機能の特殊性・区分(segregation)の有無など、細かな点については、ほとんど不明である。ACC(CMAr ?)について、最近、主に4つの説が提唱されている。第一は、Conflictへの関与(Conflict monitoring)であり、殆どの研究はヒトでの脳画像診断法を用いての研究である。被験者に課している課題は Flanker task あるいは[[ストループ課題]]、或いはその変形であることが多い。この説を唱えた最近の仕事の中の一つにCohenらの研究がある(Botvinick etal., 1999, 2001, 2004, )。応答を促す指示もしくは信号に二組の相反する組み合わせがあり、その矛盾を乗り越えて動作を行うときに、ACCが役割を果たすという考え方で、魅力的な説として広まったが、真にConflictを明示できる課題設定になっているのか、Conflict以外の、他の解釈の余地を残さない課題構築(問題設定)になっているのかという問題点がある。具体的には、課題の困難性(degree of difficulty)の程度の反映との区別、あるいはエラー反応との明瞭な区別のできる課題設定になっているのか、という問題点を解決できてないように思われる。従って、これまでの研究で、帯状皮質運動野の細胞活動で報告されてきた、限定的解釈の困難なエラー様反応を、異なる観点・局面から見ているにすぎないのでは、という考え方を排除することは難しい。これはConflict monitoring説を唱える研究に共通した問題点かもしれない。総括すると、現時点では、CMArはConflict monitoringに直接的には関与していない、という考えが有力であるように思われる(Ito et al., 2003, Roelofs et al., 2006 )。第二は、一連の行動の中で、外界で何が起こり、そして自己が何を行ったかをモニターする機能である。特に、外界の事象と自分の動作が一連の時系列をなすことに意味がある場合に、その時系列のどこまで進行したかを逐次モニターすることは大切である。そのモニター機能をACCが果たしているという考えで、ヒトの脳イメージング研究 (Walton et al., 2004) はその仮説を支持する。最近のShidara and Richmond (2002)のサルでの研究もこの仮説を支持する結果であると考えられる。彼らは、サルが報酬を得るまでの手順を制御し、CMArの細胞活動が報酬までの手順の長短に依存して変化することを明示した(see also Toda et al., 2012)。第三は、動作のディテールは抜きにして、何らかのアクションを開始しようという意識の発動、 もしくは実質的始動がこの領域の活動の上昇に起因するという考え方である(Lauら、2004)。Hoshiら(2005)のサル内側前頭皮質での実験結果もこの説を裏付けており、SMAおよびPre-SMAに比較して、多くのCMAr細胞の運動プランニング時の活動は特定の運動パラメター(使用する左・右の手、到達すべき左・右のターゲット)に依存しないことを明示している。第四はError monitoring への関与で、ACCが動作や反応の エラー を探知・認識しているとする説で、古くから論じられている。サルでの細胞活動での研究 (Ito et al., 2003, Niki and Watanabe, 1976)、およびヒトでのf-MRIでの研究(Holroyd et al., 2004, Ullsperger and von Cramon, 2004)から多くの研究者が言及している。しかし、CarterとCohenらのグループ(Botvinick et al., 2004, Carter et al., 1998)は、ヒト f-MRIでの研究で、それを否定している。彼らは、ACCの活動は、確かに被験者が間違った反応をした際に上昇するが、同じ部位の活動上昇が response competition の状況でも認められることから、この反応はエラー それ自体を反映しているのではなく、エラー が起こるかもしれないという状況を反映している、という考えを提示している(Conflict monitoring 説に含まれる)。最後に、帯状回が本来担っている本能行動の発現のためには、海馬と扁桃体で統合された情報が帯状回に入力し、次いで脳幹に出力される系が考えられる。従って、これまで述べてきたような帯状皮質運動野を含む運動関連皮質、わけても高次皮質領域の関与は少ないものと考えられる。  


5.尾側帯状皮質運動野の機能尾側の帯状皮質運動野(CMAc)の機能については、現在のところ大部分が明らかにされてない。解剖学的にこの領域はCMArよりも密に運動関連領域と神経連絡がある。特に、第一次運動野、および脳幹、脊髄との結合は強く、CMArが高次の認知的側面に深く関与するのに比較して、CMAcは運動の出力側にあり、階層的に低いレベルにあることが推察される。帯状皮質に運動野が存在する可能性はStrick研究室 (Hutchins et al., 1988) での解剖学的実験により提起され、つづいて、Tanji研究室 (Shima et al., 1991, Wang et al., 2001, 2004) とRizzolatti研究室 (Luppino et al., 1991, Matelli et al.,1991)で、生理学的および解剖学的同定がなされ、CMAcとCMArに分類された。シンプルな運動課題を用いて確認したCMAcの細胞活動は一次運動野と大きな違いはなかった。最近のRichardsonら(2008)の研究では、動的に変化させた環境で帯状皮質運動野の細胞活動がどのように適応するかを調べた実験で、CMArは視覚指示信号に応答する細胞が多いのに対し、CMAcの細胞活動はforce-field の変化に影響を受けることを明らかにしている。Crutcherらのグループ はjoystickでの視覚ターゲット到達課題遂行中のCMAc(CMAd とCMAv)の細胞活動を記録し、方向選択性活動の存在、加えて、その活動はSMAと類似であったことを報告しており、CMAd, CMAc, SMA の3部位は、運動遂行に関して類似の関与(parallel information processing)をしているという議論を展開している(Crutcher et al., 2004, Backus et al., 2001, Russo et al., 2002)。しかし、視覚誘導性到達課題がCMAcとSMA の機能特徴を明示するのに相応しいか否かを考える必要があるように思われる。このように、現時点では、CMAcの特徴的機能は十分解明されているとは言えないものの、今後、色々な仮説を設定して、ヒトでのf-MRI実験、サルでの細胞活動の分析および破壊実験がなされることにより、この部位が果たしている責任機能の解明が期待される。  
5.尾側帯状皮質運動野の機能尾側の帯状皮質運動野(CMAc)の機能については、現在のところ大部分が明らかにされてない。解剖学的にこの領域はCMArよりも密に運動関連領域と神経連絡がある。特に、第一次運動野、および脳幹、脊髄との結合は強く、CMArが高次の認知的側面に深く関与するのに比較して、CMAcは運動の出力側にあり、階層的に低いレベルにあることが推察される。帯状皮質に運動野が存在する可能性はStrick研究室 (Hutchins et al., 1988) での解剖学的実験により提起され、つづいて、Tanji研究室 (Shima et al., 1991, Wang et al., 2001, 2004) とRizzolatti研究室 (Luppino et al., 1991, Matelli et al.,1991)で、生理学的および解剖学的同定がなされ、CMAcとCMArに分類された。シンプルな運動課題を用いて確認したCMAcの細胞活動は一次運動野と大きな違いはなかった。最近のRichardsonら(2008)の研究では、動的に変化させた環境で帯状皮質運動野の細胞活動がどのように適応するかを調べた実験で、CMArは視覚指示信号に応答する細胞が多いのに対し、CMAcの細胞活動はforce-field の変化に影響を受けることを明らかにしている。Crutcherらのグループ はjoystickでの視覚ターゲット到達課題遂行中のCMAc(CMAd とCMAv)の細胞活動を記録し、方向選択性活動の存在、加えて、その活動はSMAと類似であったことを報告しており、CMAd, CMAc, SMA の3部位は、運動遂行に関して類似の関与(parallel information processing)をしているという議論を展開している(Crutcher et al., 2004, Backus et al., 2001, Russo et al., 2002)。しかし、視覚誘導性到達課題がCMAcとSMA の機能特徴を明示するのに相応しいか否かを考える必要があるように思われる。このように、現時点では、CMAcの特徴的機能は十分解明されているとは言えないものの、今後、色々な仮説を設定して、ヒトでのf-MRI実験、サルでの細胞活動の分析および破壊実験がなされることにより、この部位が果たしている責任機能の解明が期待される。