「前庭動眼反射」の版間の差分

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 このような神経結合により、頭が右に回転した時、右側の眼球の内直筋は収縮(興奮)し、外直筋は弛緩(抑制)する。同様に左側の眼球の内直筋は弛緩し、外直筋は収縮する。その結果、両側の眼球は頭とは逆に左に回転する。このようにVORは基本的には3個の神経細胞からなる反射の回路(反射弓)で構成される。水平性のVOR では左右の水平半規管に相反的な活動が生じるが、垂直のVORの場合には一側の前半規管と対側後半規管、一側の後半規管と対側の前半規管との間にそれぞれ相反的な活動が生じる(図1D)。前半規管と同側の眼球の[[wikipedia:ja:上直筋|上直筋]]と[[wikipedia:ja:下直筋|下直筋]]との神経結合や対側の眼球の[[wikipedia:ja:上斜筋|上斜筋]]と[[wikipedia:ja:下斜筋|下斜筋]]との神経結合、ならびに後半規管と同側の眼球の上斜筋と下斜筋との神経結合や対側の眼球の上直筋と下直筋との神経結合については表1を参照されたい<ref name="ref1">'''Ito M'''<br>The cerebellum and neural control. <br>Raven, New York, 1984. </ref> <ref name="ref2">'''篠田義一'''<br>眼球運動の生理学<br>眼球運動の神経学(小松崎、篠田、丸尾編),医学書院,東京、1985</ref>。  
 このような神経結合により、頭が右に回転した時、右側の眼球の内直筋は収縮(興奮)し、外直筋は弛緩(抑制)する。同様に左側の眼球の内直筋は弛緩し、外直筋は収縮する。その結果、両側の眼球は頭とは逆に左に回転する。このようにVORは基本的には3個の神経細胞からなる反射の回路(反射弓)で構成される。水平性のVOR では左右の水平半規管に相反的な活動が生じるが、垂直のVORの場合には一側の前半規管と対側後半規管、一側の後半規管と対側の前半規管との間にそれぞれ相反的な活動が生じる(図1D)。前半規管と同側の眼球の[[wikipedia:ja:上直筋|上直筋]]と[[wikipedia:ja:下直筋|下直筋]]との神経結合や対側の眼球の[[wikipedia:ja:上斜筋|上斜筋]]と[[wikipedia:ja:下斜筋|下斜筋]]との神経結合、ならびに後半規管と同側の眼球の上斜筋と下斜筋との神経結合や対側の眼球の上直筋と下直筋との神経結合については表1を参照されたい<ref name="ref1">'''Ito M'''<br>The cerebellum and neural control. <br>Raven, New York, 1984. </ref> <ref name="ref2">'''篠田義一'''<br>眼球運動の生理学<br>眼球運動の神経学(小松崎、篠田、丸尾編),医学書院,東京、1985</ref>。  


[[Image:図1revVOR.jpg|thumb|250px|<b>図1.前庭器官と外眼筋</b><br />(A)半規管系、耳石器と蝸牛。(B)眼球と6つの外眼筋。(C)半規管膨大部。膨大部には有毛細胞があり、毛はゼラチン質からなるクプラで覆われている。頭の回転により生じた内リンパ液の流れでクプラが変形することで、有毛細胞が興奮ないし抑制される。(D)三半規管系と膨大部の位置。青の矢印は有毛細胞が興奮を受ける頭の回転方向を示す。内リンパ流の向きはこれと反対である。]]
[[Image:図1revVOR.jpg|thumb|250px|<b>図1.前庭器官と外眼筋</b><br />(A)半規管系、耳石器と蝸牛。<BR>(B)眼球と6つの外眼筋。<BR>(C)半規管膨大部。膨大部には有毛細胞があり、毛はゼラチン質からなるクプラで覆われている。頭の回転により生じた内リンパ液の流れでクプラが変形することで、有毛細胞が興奮ないし抑制される。<BR>(D)三半規管系と膨大部の位置。青の矢印は有毛細胞が興奮を受ける頭の回転方向を示す。内リンパ流の向きはこれと反対である。]]


{| cellspacing="1" cellpadding="5" border="1" style="width: 412px; height: 368px;"
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[[Image:図2VOR.jpg|thumb|300px|<b>図2.VORの測定法</b><br />(A)回転台の正弦波状回転により生じたアカゲザルの眼球運動。黒線は眼球位置データ。青線は眼球位置データから急速相とドリフトを除去したもの。
[[Image:図2VOR.jpg|thumb|300px|<b>図2.VORの測定法</b><br />(A)回転台の正弦波状回転により生じたアカゲザルの眼球運動。黒線は眼球位置データ。青線は眼球位置データから急速相とドリフトを除去したもの。
<ref><pubmed>20674618</pubmed></ref>より改変。(B)VORのゲインと位相差。青線は平均眼球位置トレース。赤線は頭(台)の位置トレース。(C)オランダウサギ(□)と黒眼ウサギ(●)のVORの利得と位相。<ref name="ref3" />より改変。]]
<ref><pubmed>20674618</pubmed></ref>より改変。<BR>(B)VORのゲインと位相差。青線は平均眼球位置トレース。赤線は頭(台)の位置トレース。<BR>(C)オランダウサギ(□)と黒眼ウサギ(●)のVORの利得と位相。<ref name="ref3" />より改変。]]


== 動特性 ==
== 動特性 ==
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 水平性のVORの動特性は魚([[wikipedia:ja:コイ|コイ]]、[[wikipedia:ja:キンギョ|キンギョ]])、[[wikipedia:ja:ニワトリ|ニワトリ]]、[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]、[[wikipedia:ja:ウサギ|ウサギ]]、ネコ、サルやヒトで測定されている。ゲインは動物種によってほぼ一定で周波数依存性はあまりない。サルでは1前後、ヒトでは0.8~0.9、ネコは0.6~0.8程度、他の動物種では0.3~0.6程度である。図2Bにウサギの水平性VORの動特性を示す。垂直性のVORは、測定が水平性のVORに比べて大がかりになるので、あまり調べられていないが、垂直性のVORのゲインは一般的に水平性VORのゲインより低い。位相差はゲインが高いところでは0度付近であり、ゲインが下がるにつれて進みが大きくなる<ref name="ref2" /><ref name="ref3"><pubmed>6609085</pubmed></ref>。
 水平性のVORの動特性は魚([[wikipedia:ja:コイ|コイ]]、[[wikipedia:ja:キンギョ|キンギョ]])、[[wikipedia:ja:ニワトリ|ニワトリ]]、[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]、[[wikipedia:ja:ウサギ|ウサギ]]、ネコ、サルやヒトで測定されている。ゲインは動物種によってほぼ一定で周波数依存性はあまりない。サルでは1前後、ヒトでは0.8~0.9、ネコは0.6~0.8程度、他の動物種では0.3~0.6程度である。図2Bにウサギの水平性VORの動特性を示す。垂直性のVORは、測定が水平性のVORに比べて大がかりになるので、あまり調べられていないが、垂直性のVORのゲインは一般的に水平性VORのゲインより低い。位相差はゲインが高いところでは0度付近であり、ゲインが下がるにつれて進みが大きくなる<ref name="ref2" /><ref name="ref3"><pubmed>6609085</pubmed></ref>。


[[Image:図3VOR.jpg|thumb|300px|<b>図3.VORの適応と片葉仮説</b><br />(A)黒眼ウサギのVORゲイン適応。●は縞模様のスクリーンと台を0.1Hz-10度で逆の方向に正弦波状に回転させトレーニングした時、▲は0.1Hz-10度で逆の方向に正弦波状に回転させトレーニングした時のゲインの変化。□は対照として4時間暗闇の中で台の回転によるVORのトレーニングした時のゲインの変化を示す。(B)両側の小脳片葉をカイニン酸で破壊後、Aと同様のトレーニングをしたもの。AとBは(3)を改変。(C)VORのゲイン適応における片葉の役割と適応の記憶の場。1~数時間のトレーニングによる適応の記憶は片葉に保持されているが、数日のトレーニングの記憶は前庭核に保持される。]]
[[Image:図3VOR.jpg|thumb|300px|<b>図3.VORの適応と片葉仮説</b><br />(A)黒眼ウサギのVORゲイン適応。●は縞模様のスクリーンと台を0.1Hz-10度で逆の方向に正弦波状に回転させトレーニングした時、▲は0.1Hz-10度で逆の方向に正弦波状に回転させトレーニングした時のゲインの変化。□は対照として4時間暗闇の中で台の回転によるVORのトレーニングした時のゲインの変化を示す。<BR>(B)両側の小脳片葉をカイニン酸で破壊後、Aと同様のトレーニングをしたもの。AとBは(3)を改変。<BR>(C)VORのゲイン適応における片葉の役割と適応の記憶の場。1~数時間のトレーニングによる適応の記憶は片葉に保持されているが、数日のトレーニングの記憶は前庭核に保持される。]]


== 小脳片葉によるゲインの適応制御  ==
== 小脳片葉によるゲインの適応制御  ==