「前脳基底部」の版間の差分

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==機能==
==機能==
===コリン作動性ニューロンと可塑性===  
===コリン作動性ニューロンと可塑性===  
 前脳基底部は[[前交通動脈瘤]]または[[前大脳動脈]]瘤の破裂による[[クモ膜下出血]]によって傷害されることが多く、その結果[[記憶障害]]や[[睡眠障害]]が起こることが多い。
 [[wikipedia:ja:サル|サル]]においてもこの脳部位の破壊により記憶の障害が見られる。[[wikipedia:ja:ネズミ|ネズミ]]でもこの脳部位の破壊でいろいろな[[学習]]行動が阻害される。
 前脳基底部のコリン作動性ニューロンは好ましい、嫌悪的である、あるいは新規である、というような生物学的に意味のある刺激があったときに出力部位にその情報を送り、その部位を活性化し、行動的[[覚醒]]、そして[[注意]]、[[集中]]を促す。コリン作動性ニューロンは情報を運ぶというより、脳全般の活動を調整することにより脳可塑性、すなわち学習に重要な役割を果たしていると考えられている<ref name="ref1"><pubmed>12797965</pubmed></ref>。実際、サルの前脳基底部には、刺激が報酬あるいは嫌悪刺激と結びついている、という学習をする過程並びにその学習の結果を反映した活動を示すニューロンが見られる。なお学習に関係してこの部位の破壊で海馬における[[長期増強]](long term potentiation:LTP)が抑制され、電気刺激ではLTPが促進されることも示されている。
 前脳基底部のコリン作動性ニューロンは好ましい、嫌悪的である、あるいは新規である、というような生物学的に意味のある刺激があったときに出力部位にその情報を送り、その部位を活性化し、行動的[[覚醒]]、そして[[注意]]、[[集中]]を促す。コリン作動性ニューロンは情報を運ぶというより、脳全般の活動を調整することにより脳可塑性、すなわち学習に重要な役割を果たしていると考えられている<ref name="ref1"><pubmed>12797965</pubmed></ref>。実際、サルの前脳基底部には、刺激が報酬あるいは嫌悪刺激と結びついている、という学習をする過程並びにその学習の結果を反映した活動を示すニューロンが見られる。なお学習に関係してこの部位の破壊で海馬における[[長期増強]](long term potentiation:LTP)が抑制され、電気刺激ではLTPが促進されることも示されている。


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=== 記憶障害  ===
=== 記憶障害  ===
 前脳基底部は[[前交通動脈瘤]]または[[前大脳動脈]]瘤の破裂による[[クモ膜下出血]]によって傷害されることが多く、その結果[[記憶障害]]や[[睡眠障害]]が起こることが多い。 [[wikipedia:ja:サル|サル]]においてもこの脳部位の破壊により記憶の障害が見られる。[[wikipedia:ja:ネズミ|ネズミ]]でもこの脳部位の破壊でいろいろな[[学習]]行動が阻害される。


 この部位の損傷患者は、記憶以外では神経心理テストで異常を示さないことが多い。記憶については、損傷前の数年から数十年の記憶がない、という「[[逆行性健忘]]」、今がいつで、自分がどこにいるのか、という「[[見当識の障害]]」、そして新しいことが憶えられないという「[[順行性健忘]]」が見られる。[[プライミング]]などの[[潜在記憶]]は部分的に障害を受けるが、運転技術とか、泳ぎなどの[[手続記憶]]は障害を受けない。損傷患者では、ある情報をいつ、どこで得たのかに関する健忘([[出典健忘]])が見られる。また記憶の個々の項目同士をうまく結び付けすることが出来ず、起こったことを別の文脈のものと取り違えたりする行動や、空想的な「[[作話]]」もよく見られる。損傷患者は「[[想起]]」(思い出すこと)全般に障害を示すが、「[[再生法]]」では思い出せなくても、「聞いた事あるいは見たことがあるかどうか」を問う「[[再認法]]」で調べると一定の記憶は残っていることが示されることもある。  
 記憶については、損傷前の数年から数十年の記憶がない、という「[[逆行性健忘]]」、今がいつで、自分がどこにいるのか、という「[[見当識の障害]]」、そして新しいことが憶えられないという「[[順行性健忘]]」が見られる。[[プライミング]]などの[[潜在記憶]]は部分的に障害を受けるが、運転技術とか、泳ぎなどの[[手続記憶]]は障害を受けない。損傷患者では、ある情報をいつ、どこで得たのかに関する健忘([[出典健忘]])が見られる。また記憶の個々の項目同士をうまく結び付けすることが出来ず、起こったことを別の文脈のものと取り違えたりする行動や、空想的な「[[作話]]」もよく見られる。損傷患者は「[[想起]]」(思い出すこと)全般に障害を示すが、「[[再生法]]」では思い出せなくても、「聞いた事あるいは見たことがあるかどうか」を問う「[[再認法]]」で調べると一定の記憶は残っていることが示されることもある。 この部位の損傷患者は、記憶以外では神経心理テストで異常を示さないことが多い。


===アルツハイマー病===
===アルツハイマー病===