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英語名:semicircular canal, otolith organ
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0123702 杉内 友理子]</font><br>
''東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 システム神経生理学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月25日 原稿完成日:2012年9月3日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ichirofujita 藤田 一郎](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
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[[image:杉内半規管耳石図1z.jpg|thumb|300px|'''図1. ヒトの前庭器官'''<br>原図はHardy 1934による、杉内、篠田 1994より引用改変]]
英語名:semicircular canals, otolith organ 独:Bogengänge, Otolithenorgans 仏:canaux semi-circulaires, organes otolithiques


[[image:杉内半規管耳石図2z.jpg|thumb|300px|'''図2. 有毛細胞の形態的極性(A)と半規管内(B)および耳石器(C)における配列'''<br>A:内野 2009より引用改変、B,C:原図はSpoendilin,1966による、篠田 1985より引用改変]]
[[Image:杉内半規管耳石図1z.jpg|thumb|350px|<b>図1. ヒトの前庭器官</b><br />原図はHardy<ref name=ref5>'''Hardy M.''' <br>Observations on the innervation of the macula sacculi in man. <br>''Anatomical Record'' 59: 403-418, 1934</ref>による、杉内、篠田<ref name=ref6>'''杉内友理子・篠田義一'''<br>運動制御にかかわる脊髄神経機構 (6)末梢迷路障害による症状,<br>''脊椎脊髄ジャーナル'' 7(3):235-240, 1994</ref>より引用改変]]  


 [[聴覚]]の受容器である[[蝸牛]]と[[平衡覚]]の受容器である[[前庭]](迷路ともいう)は、[[wikipedia:ja:側頭骨|側頭骨]]内に位置しており、内耳と呼ばれる。前庭受容器には、半規管と耳石器がある。半規管は頭部を回転した場合に生じる[[wikipedia:ja:角加速度|回転加速度]]([[wikipedia:ja:角加速度|角加速度]])を受容し、耳石器は、頭部の傾きや乗り物やエレベータに乗った場合に生じる[[wikipedia:ja:加速度|直線加速度]]を受容する(頭部の傾きの検出も、[[wikipedia:ja:重力|重力]]方向、すなわち直線加速度を感知することである)<ref name=ref1>'''Wilson VJ, Melvill-Jones G.'''<br>Mammalian vestibular physiology. New York, Plenum Press; 1979.</ref><ref name=ref2>'''内野善生'''<br>めまいと平衡調節<br>''金原出版''、2002</ref><ref name=ref3>'''内野善生、古屋信彦編集'''<br>日常臨床に役立つめまいと平衡障害<br>''金原出版''、東京、2009</ref>
[[Image:杉内半規管耳石図2z.jpg|thumb|350px|<b>図2. 有毛細胞の形態的極性(A)と半規管内(B)および耳石器(C)における配列</b><br />A:内野<ref name=ref3 />より引用改変、B,C:原図はSpoendilin<ref name=ref7>'''Spoendlin HH.'''<br>Ultrastructure of the vestiular sense organ.<br>In: The vestibular system and its disease, edited by Wolfson RJ.<br>Philadelphia: University of Pennsylvania Press, 1966</ref>による、篠田<ref name=ref8>'''篠田義一'''<br>眼球運動の生理学、眼球運動の神経学<br>小松崎篤、篠田義一、丸尾敏夫<br>医学書院、1985、p.1-147</ref>より引用改変]]


 半規管は、約2/3周の円弧をなす膜でできた管状の構造物であり、内部は[[wikipedia:ja:内リンパ液|内リンパ液]]で満たされている。一側の内耳に3個存在し、外側(水平)半規管、前(上)半規管、後半規管(前・後半規管をあわせて垂直半規管と呼ぶ)から成る(図1)。それらが存在する平面(半規管平面)は、互いにほぼ直角の角度を成す。外側半規管は、[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]][[wikipedia:ja:サル|サル]][[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]では、水平面から前方が約30度上方に傾いている。前・後半規管の存在する平面は、正中矢状面(体の左右の中央点を通り、前後軸と上下軸を含む平面)と約45度を成し、一側の前半規管平面と対側の後半規管平面はほぼ平行となっている。頭部のあらゆる方向への回転は、この3個の半規管平面内のそれぞれの回転としての成分ベクトルに分解されて感知される<ref name=ref4>'''鈴木淳一'''<br>単一半規管神経電気刺激による迷路頚反射・迷路眼反射<br>''神経耳科学'', 時田喬・鈴木淳一・曽田豊二編<br>''金原出版'', 1985, p. 103-129.</ref>。
{{box|text= 半規管と耳石器は平衡覚に関与する末梢器官である。それらは、聴覚の受容器である[[蝸牛]]とともに内耳(迷路とも呼ばれる)を形成する。半規管は頭部を回転した場合に生じる[[wj:角加速度|回転加速度]][[wj:角加速度|角加速度]])を受容し、耳石器は、頭部の傾きや乗り物やエレベータに乗った場合に生じる[[wj:加速度|直線加速度]]を受容する(頭部の傾きの検出も、[[wj:重力|重力]]方向、すなわち直線加速度を感知することである)<ref name="ref1">'''Wilson VJ, Melvill-Jones G.'''<br>Mammalian vestibular physiology<br>Plenum Press, New York, 1979</ref><ref name="ref2">'''内野善生'''<br>めまいと平衡調節<br>金原出版、2002</ref><ref name="ref3">'''内野善生、古屋信彦編集'''<br>日常臨床に役立つめまいと平衡障害<br>金原出版、東京、2009</ref>。 }}


 各半規管は[[卵形嚢]]に開いており、その開口部の一端は、ふくれて[[wikipedia:ja:膨大部|膨大部]](ampulla)を形成し、この内部に[[wikipedia:ja:膨大部稜|膨大部稜]](crista)という[[wikipedia:ja:感覚上皮|感覚上皮]]部がある。前および外側半規管では前端が、後半規管では後端が膨大部を形成している。感覚上皮の表面には感覚細胞([[有毛細胞]] hair cell)があり、有毛細胞の感覚毛はゼラチン質から成る[[クプラ]](cupula)の中にのび、包みこまれている。頭部が回転すると、内リンパ液は[[wikipedia:ja:慣性の法則|慣性の法則]]により、そのままその位置に留まろうとするが、頭部に固定されている有毛細胞は、頭部と一緒に動くので、結果として、内リンパ液は、頭の回転と逆方向に流れる。これにより、頭の回転と逆方向にクプラの偏位をきたし、これが感覚毛の屈曲をもたらし、有毛細胞への刺激となる。
== 半規管  ==


 前庭感覚細胞は、多数の[[不動毛]](stereocilia)と1本の[[動毛]](kinocilium)をもつ。不動毛は動毛に近いほど長く、遠ざかるにつれて短くなる。有毛細胞に興奮を起こさせるのは、感覚毛の動毛側への屈曲であり、反対方向への屈曲は抑制として働き、その結果、それぞれが一次前庭神経の活動を増加、減少させる。
 半規管は、上皮細胞と間葉性細胞の裏打ちからなる膜でできており、3/4周ほどの環状をした管状の構造物であり、内部は[[wj:内リンパ液|内リンパ液]]で満たされている。一側の内耳に3個存在し、外側(水平)半規管、前(上)半規管、後半規管(前・後半規管をあわせて垂直半規管と呼ぶ)から成る('''図1''')。それらが存在する平面(半規管平面)は、互いにほぼ直角の角度を成す。外側半規管は、[[wj:ネコ|ネコ]]・[[wj:サル|サル]]・[[wj:ヒト|ヒト]]では、水平面から前方が約30度上方に傾いている。前・後半規管の存在する平面は、正中矢状面(体の左右の中央点を通り、[[前後軸]]と上下軸を含む平面)と約45度を成し、一側の前半規管平面と対側の後半規管平面はほぼ平行となっている。頭部のあらゆる方向への回転は、この3個の半規管平面における成分ベクトルに分解されて感知される<ref name="ref4">'''鈴木淳一'''<br>単一半規管神経電気刺激による迷路頚反射・迷路眼反射<br>''神経耳科学'', 時田喬・鈴木淳一・曽田豊二編<br>金原出版, 1985, p. 103-129.</ref>。


 半規管では有毛細胞が全て一定方向に並んでおり、その感覚毛の配列の方向性のために、外側半規管では膨大部へ向かう内リンパ流(向膨大部流)により、前半規管、後半規管は、膨大部から遠ざかる向きの内リンパ流(反膨大部流)により興奮する。それとは逆方向への内リンパ流によって、各半規管は抑制される。
 各半規管は[[卵形嚢]]に開いており、その開口部の一端は、ふくれて[[wj:膨大部|膨大部]](ampulla)を形成し、この内部に[[wj:膨大部稜|膨大部稜]](crista)という[[wj:感覚上皮|感覚上皮]]部がある。前および外側半規管では前端が、後半規管では後端が膨大部を形成している。感覚上皮の表面には感覚細胞([[有毛細胞]] hair cell)があり、有毛細胞の感覚毛はゼラチン質からなる[[クプラ]](cupula)によって包みこまれている。頭部が回転すると、半規管内の内リンパ液は[[wj:慣性の法則|慣性の法則]]により、そのままその位置に留まろうとするが、頭部に固定されている有毛細胞は、頭部と一緒に動くので、結果として、内リンパ液は、頭の回転と逆方向に流れる。これにより、頭の回転と逆方向にクプラの偏位をきたし、これが感覚毛の屈曲をもたらし、有毛細胞への刺激となる。


 耳石器には卵形嚢(utricle) と[[球形嚢]](saccule)がある。これらには、それぞれに[[平衡斑]](macula)という前庭神経の終末器官がある。平衡斑には、半規管と同様に有毛細胞が並んでいる感覚上皮があり、この表面にゼラチン様物質から成る[[耳石膜]]があり、感覚毛を包んでいる。この膜の表面には[[wikipedia:ja:炭酸カルシウム|炭酸カルシウム]]から成る結晶状の[[耳石]]が載っている。耳石は、内リンパ液より比重が重いので、直線加速度が加わると、耳石は取り残され、耳石膜が動き、これが有毛細胞の感覚毛を屈曲することにより、有毛細胞を刺激する。屈曲の方向とその効果(興奮または抑制)の関係は、上述した半規管の場合と同様である。半規管と異なり、耳石器全体としては、有毛細胞の感覚毛の配列に関する形態的極性は、[[分水嶺]](striola)を境に逆向きになっている(図2)。卵形嚢班の分水嶺は、U字状であり、その両側にある有毛細胞の極性は分水嶺に向いている。また、球形嚢班においては、分水嶺はS字状であり、有毛細胞の極性は、辺縁を向いている。これにより、有毛細胞があらゆる方向の加速度を検知できる。卵形嚢と球形嚢の平衡斑は互いに直交していて、卵形嚢ではほぼ水平面内にあって感覚毛が上方を向き、球形嚢では矢状面内にあって感覚毛が外側を向いている。そのため、エレベーターの昇降など上下方向の直線加速度は球形嚢が、電車などの水平方向の直線加速度は卵形嚢が受容器として働いている。また、正常頭位近傍における頭位の変化には卵形嚢が、側臥位の状態での頭位の変化には主に球形嚢が働く。
 前庭感覚細胞の感覚毛は、多数の[[不動毛]](stereocilia)と1本の[[動毛]](kinocilium)からなる。不動毛は動毛に近いほど長く、遠ざかるにつれて短い。有毛細胞に興奮を起こさせるのは、不動毛の動毛側への屈曲であり、反対方向への屈曲は抑制として働き、その結果、それぞれが一次前庭神経の活動を増加、減少させる。(このため、厳密な意味での感覚毛とは不動毛のことであるが、広義には動毛を含めて感覚毛と呼ぶことがある。)


== 関連項目 ==
 半規管では有毛細胞が全て一定方向に並んでおり、その感覚毛の配列の方向性のために、外側半規管では膨大部へ向かう内リンパ流(向膨大部流)により、前半規管、後半規管は、膨大部から遠ざかる向きの内リンパ流(反膨大部流)により興奮する。それとは逆方向への内リンパ流によって、各半規管は抑制される。


*[[有毛細胞]]
== 耳石器  ==
*[[動毛]]
*[[不動毛]]
*[[クプラ]]
*[[一次前庭神経]]
*[[平衡斑]]
*[[分水嶺]]


== 参考文献 ==
 耳石器には卵形嚢(utricle) と[[球形嚢]](saccule)がある。これらには、それぞれに[[平衡斑]](macula)という前庭神経の終末器官がある。平衡斑には、半規管と同様に有毛細胞が並んでいる感覚上皮があり、この表面にゼラチン様物質から成る[[耳石膜]]があり、感覚毛を包んでいる。この膜の表面には[[wj:炭酸カルシウム|炭酸カルシウム]]から成る結晶状の[[耳石]]が載っている。耳石は、内リンパ液より比重が重いので、直線加速度が加わると、耳石は取り残され、耳石膜が動き、これが有毛細胞の感覚毛を屈曲することにより、有毛細胞を刺激する。屈曲の方向とその効果(興奮または抑制)の関係は、上述した半規管の場合と同様である。半規管と異なり、耳石器全体としては、有毛細胞の感覚毛の配列に関する形態的極性は、[[分水嶺]](striola)を境に逆向きになっている('''図2''')。卵形嚢班の分水嶺は、U字状であり、その両側にある有毛細胞の極性は分水嶺に向いている。従って、有毛細胞の形態的極性は耳石膜の部位により異なり('''図2下'''、耳石器における有毛細胞の配列を参照)、耳石器全体としては、有毛細胞があらゆる方向の加速度を検知できる。卵形嚢と球形嚢の平衡斑は互いに直交していて、卵形嚢ではほぼ水平面内にあって感覚毛が上方を向き、球形嚢では矢状面内にあって感覚毛が外側を向いている。そのため、エレベーターの昇降など上下方向の直線加速度は球形嚢が、電車などの水平方向の直線加速度は卵形嚢が受容器として働いている。また、正常頭位近傍における頭位の変化には卵形嚢が、側臥位の状態での頭位の変化には主に球形嚢が働く。


<references />
== 関連項目  ==


5. Hardy M. Observations on the innervation of the macula sacculi in man. Anatomical Record 59: 403-418, 1934. DOI: 10.1002/ar.1090590403(PMIDなし)
*[[有毛細胞]]
*[[動毛]]
*[[不動毛]]
*[[クプラ]]
*[[前庭神経]]
*[[平衡斑]]
*[[分水嶺]]


6. 杉内友理子・篠田義一,運動制御にかかわる脊髄神経機構 (6)末梢迷路障害による症状,脊椎脊髄ジャーナル 7(3):235-240, 1994.
== 参考文献  ==


7. Spoendlin HH. Ultrastructure of the vestiular sense organ. In: The vestibular system and its disease, edited by Wolfson RJ. Philadelphia: University of Pennsylvania Press, 1966. PMID: 5929505
<references />
 
8. 篠田義一、眼球運動の生理学、眼球運動の神経学、小松崎篤、篠田義一、丸尾敏夫、医学書院、1985、p.1-147.
 
 
(執筆者:杉内友理子 担当編集委員:藤田一郎)

2021年6月5日 (土) 13:46時点における最新版

杉内 友理子
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 システム神経生理学
DOI:10.14931/bsd.1769 原稿受付日:2012年5月25日 原稿完成日:2012年9月3日
担当編集委員:藤田 一郎(大阪大学 大学院生命機能研究科)

英語名:semicircular canals, otolith organ 独:Bogengänge, Otolithenorgans 仏:canaux semi-circulaires, organes otolithiques

図1. ヒトの前庭器官
原図はHardy[1]による、杉内、篠田[2]より引用改変
図2. 有毛細胞の形態的極性(A)と半規管内(B)および耳石器(C)における配列
A:内野[3]より引用改変、B,C:原図はSpoendilin[4]による、篠田[5]より引用改変

 半規管と耳石器は平衡覚に関与する末梢器官である。それらは、聴覚の受容器である蝸牛とともに内耳(迷路とも呼ばれる)を形成する。半規管は頭部を回転した場合に生じる回転加速度角加速度)を受容し、耳石器は、頭部の傾きや乗り物やエレベータに乗った場合に生じる直線加速度を受容する(頭部の傾きの検出も、重力方向、すなわち直線加速度を感知することである)[6][7][3]

半規管

 半規管は、上皮細胞と間葉性細胞の裏打ちからなる膜でできており、3/4周ほどの環状をした管状の構造物であり、内部は内リンパ液で満たされている。一側の内耳に3個存在し、外側(水平)半規管、前(上)半規管、後半規管(前・後半規管をあわせて垂直半規管と呼ぶ)から成る(図1)。それらが存在する平面(半規管平面)は、互いにほぼ直角の角度を成す。外側半規管は、ネコサルヒトでは、水平面から前方が約30度上方に傾いている。前・後半規管の存在する平面は、正中矢状面(体の左右の中央点を通り、前後軸と上下軸を含む平面)と約45度を成し、一側の前半規管平面と対側の後半規管平面はほぼ平行となっている。頭部のあらゆる方向への回転は、この3個の半規管平面における成分ベクトルに分解されて感知される[8]

 各半規管は卵形嚢に開いており、その開口部の一端は、ふくれて膨大部(ampulla)を形成し、この内部に膨大部稜(crista)という感覚上皮部がある。前および外側半規管では前端が、後半規管では後端が膨大部を形成している。感覚上皮の表面には感覚細胞(有毛細胞 hair cell)があり、有毛細胞の感覚毛はゼラチン質からなるクプラ(cupula)によって包みこまれている。頭部が回転すると、半規管内の内リンパ液は慣性の法則により、そのままその位置に留まろうとするが、頭部に固定されている有毛細胞は、頭部と一緒に動くので、結果として、内リンパ液は、頭の回転と逆方向に流れる。これにより、頭の回転と逆方向にクプラの偏位をきたし、これが感覚毛の屈曲をもたらし、有毛細胞への刺激となる。

 前庭感覚細胞の感覚毛は、多数の不動毛(stereocilia)と1本の動毛(kinocilium)からなる。不動毛は動毛に近いほど長く、遠ざかるにつれて短い。有毛細胞に興奮を起こさせるのは、不動毛の動毛側への屈曲であり、反対方向への屈曲は抑制として働き、その結果、それぞれが一次前庭神経の活動を増加、減少させる。(このため、厳密な意味での感覚毛とは不動毛のことであるが、広義には動毛を含めて感覚毛と呼ぶことがある。)

 半規管では有毛細胞が全て一定方向に並んでおり、その感覚毛の配列の方向性のために、外側半規管では膨大部へ向かう内リンパ流(向膨大部流)により、前半規管、後半規管は、膨大部から遠ざかる向きの内リンパ流(反膨大部流)により興奮する。それとは逆方向への内リンパ流によって、各半規管は抑制される。

耳石器

 耳石器には卵形嚢(utricle) と球形嚢(saccule)がある。これらには、それぞれに平衡斑(macula)という前庭神経の終末器官がある。平衡斑には、半規管と同様に有毛細胞が並んでいる感覚上皮があり、この表面にゼラチン様物質から成る耳石膜があり、感覚毛を包んでいる。この膜の表面には炭酸カルシウムから成る結晶状の耳石が載っている。耳石は、内リンパ液より比重が重いので、直線加速度が加わると、耳石は取り残され、耳石膜が動き、これが有毛細胞の感覚毛を屈曲することにより、有毛細胞を刺激する。屈曲の方向とその効果(興奮または抑制)の関係は、上述した半規管の場合と同様である。半規管と異なり、耳石器全体としては、有毛細胞の感覚毛の配列に関する形態的極性は、分水嶺(striola)を境に逆向きになっている(図2)。卵形嚢班の分水嶺は、U字状であり、その両側にある有毛細胞の極性は分水嶺に向いている。従って、有毛細胞の形態的極性は耳石膜の部位により異なり(図2下、耳石器における有毛細胞の配列を参照)、耳石器全体としては、有毛細胞があらゆる方向の加速度を検知できる。卵形嚢と球形嚢の平衡斑は互いに直交していて、卵形嚢ではほぼ水平面内にあって感覚毛が上方を向き、球形嚢では矢状面内にあって感覚毛が外側を向いている。そのため、エレベーターの昇降など上下方向の直線加速度は球形嚢が、電車などの水平方向の直線加速度は卵形嚢が受容器として働いている。また、正常頭位近傍における頭位の変化には卵形嚢が、側臥位の状態での頭位の変化には主に球形嚢が働く。

関連項目

参考文献

  1. Hardy M.
    Observations on the innervation of the macula sacculi in man.
    Anatomical Record 59: 403-418, 1934
  2. 杉内友理子・篠田義一
    運動制御にかかわる脊髄神経機構 (6)末梢迷路障害による症状,
    脊椎脊髄ジャーナル 7(3):235-240, 1994
  3. 3.0 3.1 内野善生、古屋信彦編集
    日常臨床に役立つめまいと平衡障害
    金原出版、東京、2009
  4. Spoendlin HH.
    Ultrastructure of the vestiular sense organ.
    In: The vestibular system and its disease, edited by Wolfson RJ.
    Philadelphia: University of Pennsylvania Press, 1966
  5. 篠田義一
    眼球運動の生理学、眼球運動の神経学
    小松崎篤、篠田義一、丸尾敏夫
    医学書院、1985、p.1-147
  6. Wilson VJ, Melvill-Jones G.
    Mammalian vestibular physiology
    Plenum Press, New York, 1979
  7. 内野善生
    めまいと平衡調節
    金原出版、2002
  8. 鈴木淳一
    単一半規管神経電気刺激による迷路頚反射・迷路眼反射
    神経耳科学, 時田喬・鈴木淳一・曽田豊二編
    金原出版, 1985, p. 103-129.