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<font size="+1">稲田 健、[http://researchmap.jp/read0207912 石郷岡 純]</font><br> | <font size="+1">稲田 健、[http://researchmap.jp/read0207912 石郷岡 純]</font><br> | ||
''東京女子医科大学医学部''<br> | ''東京女子医科大学医学部''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年1月30日 原稿完成日:2016年2月29日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | ||
</div> | </div> | ||
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==向精神薬とは== | ==向精神薬とは== | ||
向精神薬とは、[[中枢神経系]]に作用し、精神機能を変容させる薬物の総称である。広義には、[[アルコール]]や[[たばこ]] | 向精神薬とは、[[中枢神経系]]に作用し、精神機能を変容させる薬物の総称である。広義には、[[アルコール]]や[[たばこ]]などの嗜好品や、オピオイド(モルヒネなど)、カンナビノイド(大麻など)、幻覚剤(リゼルグ酸など)、覚醒剤(メタンフェタミンなど)、その他のいわゆる危険ドラッグなどの違法に乱用される薬物も含まれるが、厳密な定義や分類があるわけではなく国際的にも統一的な用語になっていない。一般的には、[[精神疾患]]の治療に用いられる薬物を指す。 | ||
===近代以前=== | ===近代以前=== | ||
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19世紀に入ると、阿片から[[モルヒネ]]が抽出され、薬用動[[植物]]からの成分抽出や新規化合物の合成が始まった。 | 19世紀に入ると、阿片から[[モルヒネ]]が抽出され、薬用動[[植物]]からの成分抽出や新規化合物の合成が始まった。 | ||
向精神薬としては、1850年代に臭化カリウムなどの臭化物)が[[てんかん]]や[[不眠症]]に用いられ、1903年ころに[[バルビツール酸]]誘導体が導入された。 | |||
===精神科における薬物療法の導入=== | ===精神科における薬物療法の導入=== | ||
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{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+ | |+表.治療に用いる向精神薬の分類 | ||
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|rowspan="2" | [[抗精神病薬]] | |rowspan="2" | [[抗精神病薬]] | ||
| colspan="2" | [[第一世代抗精神病薬]] | |colspan="2" | [[第一世代抗精神病薬]] | ||
|- | |- | ||
| colspan="2" | [[第二世代抗精神病薬]] | |colspan="2" | [[第二世代抗精神病薬]] | ||
|- | |- | ||
|rowspan="5" | [[抗うつ薬]] | |rowspan="5" | [[抗うつ薬]] | ||
|rowspan="2" | 化学構造式による分類 | |rowspan="2" | 化学構造式による分類 | ||
|[[三環系抗うつ薬]] | | [[三環系抗うつ薬]] | ||
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|[[四環系抗うつ薬]] | | [[四環系抗うつ薬]] | ||
|- | |- | ||
|rowspan="3" | 薬理作用による分類 | |rowspan="3" | 薬理作用による分類 | ||
|[[SSRI]] | | [[SSRI]]:選択的セロトニン再取り込み阻害薬 | ||
|- | |- | ||
|[[SNRI]] | | [[SNRI]]:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 | ||
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|[[NaSSA]] | | [[NaSSA]]:ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬 | ||
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| colspan=" | | [[気分安定薬]] | ||
|colspan="2" | | |||
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| colspan=" | |rowspan="2" | [[抗不安薬]] | ||
|colspan="2" | [[ベンゾジアゼピン受容体作動薬]] | |||
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|colspan="2" | [[セロトニン1A受容体部分作動薬]] | |||
| colspan="2" | [[ | |||
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| | |rowspan="4" | [[睡眠薬]] | ||
|rowspan="2" | ベンゾジアゼピン受容体作動薬 | |||
|ベンゾジアゼピン系薬 | |||
|- | |- | ||
| | |非ベンゾジアゼピン系薬 | ||
|- | |- | ||
| colspan=" | | colspan="2" | [[メラトニン受容体作動薬]] | ||
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| colspan="2" | [[オレキシン受容体拮抗薬]] | |||
| colspan=" | |||
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| colspan=" | | rowspan="2" | 精神刺激薬 | ||
| colspan="2" | メチルフェニデート | |||
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| colspan=" | | colspan="2" | (選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬) | ||
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| rowspan="2" | 認知症治療薬 | |||
| colspan="2" | コリンエステラーゼ阻害薬 | |||
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| colspan="2" | NMDA受容体拮抗薬 | |||
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|} | |} | ||
===抗精神病薬=== | ===抗精神病薬=== | ||
主に[[統合失調症]]の治療薬である。[[双極性障害]]や[[うつ病]]、[[せん妄]] | 主に[[統合失調症]]の治療薬である。[[双極性障害]]や[[うつ病]]、[[せん妄]]などの治療にも用いられる。抗精神病薬は、全て[[ドーパミン]][[D2受容体]]に親和性を有し、ドーパミン神経伝達を制御する。[[第一世代抗精神病薬]]と[[第二世代抗精神病薬]]がある。第二世代抗精神病薬は、第一世代で問題となった[[錐体外路症状]]の副作用が軽減している。 | ||
===気分安定薬=== | ===気分安定薬=== | ||
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[[バルビツール酸]]系薬、ベンゾジアゼピン系薬、非ベンゾジアゼピン系薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬がある。 | [[バルビツール酸]]系薬、ベンゾジアゼピン系薬、非ベンゾジアゼピン系薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬がある。 | ||
バルビツール酸系薬は古い薬物で、現在睡眠薬として使用される機会はほとんどない。 | |||
ベンゾジアゼピン系薬、非ベンゾジアゼピン系薬はいずれもベンゾジアゼピン受容体作動薬である。非ベンゾジアゼピン系薬はベンゾジアゼピン系薬よりも筋弛緩作用が少ないとされる<ref name=ref3><pubmed>8463441</pubmed></ref>。 | ベンゾジアゼピン系薬、非ベンゾジアゼピン系薬はいずれもベンゾジアゼピン受容体作動薬である。非ベンゾジアゼピン系薬はベンゾジアゼピン系薬よりも筋弛緩作用が少ないとされる<ref name=ref3><pubmed>8463441</pubmed></ref>。 | ||
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===精神刺激薬=== | ===精神刺激薬=== | ||
[[注意欠如・多動性障害]]([[ADHD]])の治療薬、[[ナルコレプシー]]の治療薬である[[メチルフェニデート]] | [[注意欠如・多動性障害]]([[ADHD]])の治療薬、[[ナルコレプシー]]の治療薬である[[メチルフェニデート]]などがある。ADHDの治療薬としてはほかに、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるアトモキセチンがある。アトモキセチンを精神刺激薬に含めるか否かは議論がある(''[[向精神薬#命名法についての議論|命名法についての議論]]''を参照)。 | ||
===認知症治療薬=== | ===認知症治療薬=== | ||
認知症の原因疾患のうち、[[アルツハイマー病]]、[[レビー小体型認知症]] | 認知症の原因疾患のうち、[[アルツハイマー病]]、[[レビー小体型認知症]]の治療薬として、コリンエステラーゼ阻害薬、NMDA(NメチルDアスパラギン酸)受容体拮抗薬がある。 | ||
コリンエステラーゼ阻害薬は、神経伝達物質である[[アセチルコリン]]の分解酵素を阻害することによりアセチルコリン性神経伝達を維持する。ドネペジル塩酸塩、リバスチグミン、ガランタミンがある。 | |||
NMDA受容体拮抗薬は、グルタミン酸受容体のサブタイプであるNMDA受容体の過剰な活性化を阻害し、神経伝達を回復するもので、メマンチンがある。 | |||
コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬の、いずれも神経細胞の消失を阻止するものではなく、根本治療薬ではない。しかし、認知、日常生活動作(ADL)、行動障害を改善し<ref name=ref8 /> <ref name=ref1 />、進行を抑制するので、施設入所をおおむね2年間遅らせる<ref name=ref2 /> <ref name=ref3 />などの効果が得られる。 | |||
==命名法についての議論== | ==命名法についての議論== |