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Junko kurahashi (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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<font size="+1">吉田 竜介</font><br> | <font size="+1">吉田 竜介</font><br> | ||
''九州大学大学院歯学研究院口腔機能解析学分野、九州大学大学院歯学研究院OBT研究センター''<br> | ''九州大学大学院歯学研究院口腔機能解析学分野、九州大学大学院歯学研究院OBT研究センター''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2018年1月23日 原稿完成日:2018年4月26日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ichirofujita 藤田 一郎](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/ichirofujita 藤田 一郎](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br> | ||
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英語:taste bud 独語:Geschmacksknospe 仏語:bourgeon du goût | 英語:taste bud 独語:Geschmacksknospe 仏語:bourgeon du goût | ||
{{box|text= | {{box|text= 味蕾は主に舌、軟口蓋などに存在する蕾状の器官で味覚の受容を担う。各味蕾はおよそ50~150個の様々な性質を持つ細胞から構成され、それらの一部が味覚受容体を発現し、味刺激に応答する味受容細胞(味細胞)として機能する。味蕾内の細胞は上皮細胞由来だが、味刺激に応答を示す味細胞は電位依存性Na+チャネルを発現し活動電位を発生することから神経細胞様の性質を持つ<ref name=ref16971686><pubmed>16971686</pubmed></ref>。また、味蕾の維持には神経支配が必要で、支配神経を挫滅・切断すると味蕾は消失する<ref><pubmed>838892</pubmed></ref>。本稿ではヒトおよびげっ歯類(マウス、ラット)の味蕾について概説する。}} | ||
== 存在部位== | == 存在部位== | ||
舌表面には乳頭と呼ばれる多数の小突起が存在し、形態や存在部位により4種([[茸状乳頭]](じじょうにゅうとう)、[[有郭乳頭]]、[[葉状乳頭]]、[[糸状乳頭]])に分類される。味蕾は舌上の3種の[[乳頭]](茸状乳頭、有郭乳頭、葉状乳頭)に存在するが、糸状乳頭には存在しない('''図1''')。また味蕾は、[[軟口蓋]]、[[喉頭蓋]]、[[咽頭]]などにも存在する。 | |||
[[ファイル: | [[ファイル:mirai_rev1-Fig1.jpg|サムネイル|300px|'''図1. マウス舌上における味蕾の存在位置'''<br>舌上では味蕾は茸状、有郭、葉状乳頭に存在する。有郭、葉状乳頭では、溝の壁面に沿って多くの味蕾が存在する。]] | ||
=== 茸状乳頭 === | === 茸状乳頭 === | ||
茸状乳頭(じじょう)は舌の前方部に点在し、舌の先端部での密度が高い。各茸状乳頭には[[げっ歯類]]では1つ、[[ヒト]]では1~数個の味蕾が存在する。茸状乳頭味蕾は[[鼓索神経]]により支配される。 | 茸状乳頭(じじょう)は舌の前方部に点在し、舌の先端部での密度が高い。各茸状乳頭には[[げっ歯類]]では1つ、[[ヒト]]では1~数個の味蕾が存在する。茸状乳頭味蕾は[[鼓索神経]]により支配される。 | ||
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=== 葉状乳頭 === | === 葉状乳頭 === | ||
葉状乳頭は舌後方の側面に存在し、複数の溝で構成される。葉状乳頭味蕾はこの溝の壁面に沿って多数存在する。個々の葉状乳頭味蕾は鼓索神経(前方部)、または舌咽神経(後方部)のいずれかにより支配される。 | |||
=== 軟口蓋 === | === 軟口蓋 === | ||
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== 味蕾細胞 == | == 味蕾細胞 == | ||
[[ファイル:味蕾図2.jpg|サムネイル|300px|''' | [[ファイル:mirai_fig2.png|サムネイル|350px|'''図2. 末梢味覚伝導路の模式図'''<br>味蕾内に存在する味細胞は味孔を介し味物質を検知する。その情報は味神経線維へと伝達され、さらに高次への中枢へと伝達される。]] | ||
各味蕾の中には、その長軸方向に沿って50~150個程度の細胞が存在し、味孔を介して口腔内の化学物質(味物質)と接触する。これら細胞は電子顕微鏡像より[[I型細胞|I]]、[[II型細胞|II]]、[[III型細胞|III型]]に分類され<ref>'''Murray R.'''<br>The ultrastructure of taste buds.<br>In: Friedemann, I. (Ed.)The Ultrastructure of Sensory Organs<br>''North-Holland'', Amsterdam, pp. 1-81, 1973</ref>、基底部には幹細胞と考えられる[[IV型細胞]]が存在する。味蕾細胞のターンオーバーは早く、約10日とされる<ref><pubmed>5884625</pubmed></ref> | [[ファイル:味蕾図2.jpg|サムネイル|300px|'''図3. マウス有郭乳頭の薄切[[切片]]像'''<br>緑色の細胞はPLCβ2を発現する味細胞(II型細胞)。マゼンタの細胞はCAR4を発現する細胞(III型細胞)。白色の矢頭は味孔の位置を示す。バーは10μm。]] | ||
各味蕾の中には、その長軸方向に沿って50~150個程度の細胞が存在し、味孔を介して口腔内の化学物質(味物質)と接触する。これら細胞は電子顕微鏡像より[[I型細胞|I]]、[[II型細胞|II]]、[[III型細胞|III型]]に分類され<ref>'''Murray R.'''<br>The ultrastructure of taste buds.<br>In: Friedemann, I. (Ed.)The Ultrastructure of Sensory Organs<br>''North-Holland'', Amsterdam, pp. 1-81, 1973</ref>、基底部には幹細胞と考えられる[[IV型細胞]]が存在する。味蕾細胞のターンオーバーは早く、約10日とされる<ref><pubmed>5884625</pubmed></ref>('''図2'''、'''図3''')。 | |||
=== I型細胞 === | === I型細胞 === | ||
電子顕微鏡像で細胞質の部分が暗く見えることから'''暗調細胞'''とも呼ばれる。味蕾の中ではおよそ50~60%程度の割合を占める。 | 電子顕微鏡像で細胞質の部分が暗く見えることから'''暗調細胞'''とも呼ばれる。味蕾の中ではおよそ50~60%程度の割合を占める。 | ||
味孔側には長い[[微絨毛]]が存在し、湾入した核を持つ。[[ | 味孔側には長い[[微絨毛]]が存在し、湾入した核を持つ。[[グルタミン酸トランスポーター|グルタミン酸・アスパラギン酸トランスポーター]] ([[glutamate-aspartate transporter]]; [[GLAST]])<ref><pubmed>10998100</pubmed></ref>や[[エクトヌクレオチド三リン酸ジホスホヒドロラーゼ‐2]] ([[ectonucleoside triphosphate diphosphohydrolase-2]]; [[ecto-ATPase]])<ref><pubmed>16680780</pubmed></ref>などを発現し、神経系における[[グリア細胞]]様の機能を持つと考えられる。また形態的にはII型細胞やIII型細胞を包むように存在する様子が見られる。 | ||
I型細胞には[[塩味受容体]]として機能する[[ | I型細胞には[[塩味受容体]]として機能する[[上皮性ナトリウムチャネル]]([[ENaC]])が存在するという報告<ref><pubmed>18171468</pubmed></ref>もあるが、I型細胞が塩味受容細胞として機能するかは不明である。 | ||
=== II型細胞 === | === II型細胞 === | ||
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味孔側には短い微絨毛が存在し、大きな丸い核を持つ。[[甘味受容体|甘味]]、[[苦味受容体|苦味]]、[[うま味受容体|うま味]]の受容に関連する遺伝子群([[ガストドューシン]], [[ホスホリパーゼCβ2]], [[transient receptor potential channel M5]] ([[TRPM5]])など)を発現し<ref name=ref14681927><pubmed>14681927</pubmed></ref><ref><pubmed>10940948</pubmed></ref><ref><pubmed>12368808</pubmed></ref>、これらの味質の受容を担うと考えられる。実際II型細胞は甘味、苦味またはうま味刺激に対し最も強い応答を示す<ref name=ref17913917><pubmed>17913917</pubmed></ref><ref name=ref12368808 ><pubmed>12368808</pubmed></ref>。 | 味孔側には短い微絨毛が存在し、大きな丸い核を持つ。[[甘味受容体|甘味]]、[[苦味受容体|苦味]]、[[うま味受容体|うま味]]の受容に関連する遺伝子群([[ガストドューシン]], [[ホスホリパーゼCβ2]], [[transient receptor potential channel M5]] ([[TRPM5]])など)を発現し<ref name=ref14681927><pubmed>14681927</pubmed></ref><ref><pubmed>10940948</pubmed></ref><ref><pubmed>12368808</pubmed></ref>、これらの味質の受容を担うと考えられる。実際II型細胞は甘味、苦味またはうま味刺激に対し最も強い応答を示す<ref name=ref17913917><pubmed>17913917</pubmed></ref><ref name=ref12368808 ><pubmed>12368808</pubmed></ref>。 | ||
II型細胞には明確な[[シナプス]]構造が見られないが、神経線維と非常に近接した部位に[[subsurface cisternae]]と呼ばれる構造が見られ<ref name=ref14681927 /> | II型細胞には明確な[[シナプス]]構造が見られないが、神経線維と非常に近接した部位に[[subsurface cisternae]]と呼ばれる構造が見られ<ref name=ref14681927 />、ここで神経線維への情報伝達が行われると考えられる。II型細胞は味刺激に応じ[[活動電位]]を生じ、[[calcium homeostasis modulator 1]] ([[CALHM1]]、[[ATP透過性イオンチャネル]])や[[ヘミチャネル]](1~2 nmの孔を持つ六角柱状のタンパク質複合体)を通じ[[ATP]]を放出する<ref><pubmed>17389364</pubmed></ref><ref><pubmed>20519578</pubmed></ref><ref><pubmed>23467090</pubmed></ref>。放出された[[ATP]]は神経線維側に存在する受容体([[P2X2受容体|P2X2]]/[[P2X3受容体]])を活性化<ref><pubmed>16322458</pubmed></ref>することでII型細胞から神経線維へシナプスを介さずに情報が伝達されると考えられる。[[skn-1a]][[遺伝子欠損マウス]]ではII型細胞が消失することから<ref><pubmed>21572433</pubmed></ref>、[[skn-1a]]がII型細胞の[[分化]]や維持に重要な機能を持つと考えられる。 | ||
=== III型細胞 === | === III型細胞 === | ||
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III型細胞は[[酸味受容体]]候補遺伝子である[[polycystic kidney disease 2L1]] ([[PKD2L1]])を発現し<ref><pubmed>18156604</pubmed></ref>、実際に多くのIII型細胞は酸味刺激に対し応答を示す12)。また多種の味質に対し応答を示すIII型細胞も存在する。さらに、III型細胞が水の受容に関与することも示されている<ref><pubmed>28553944</pubmed></ref>)。 | III型細胞は[[酸味受容体]]候補遺伝子である[[polycystic kidney disease 2L1]] ([[PKD2L1]])を発現し<ref><pubmed>18156604</pubmed></ref>、実際に多くのIII型細胞は酸味刺激に対し応答を示す12)。また多種の味質に対し応答を示すIII型細胞も存在する。さらに、III型細胞が水の受容に関与することも示されている<ref><pubmed>28553944</pubmed></ref>)。 | ||
味神経線維への情報伝達はシナプスを介すると考えられ、酸刺激によりセロトニンや[[ノルエピネフリン]]などの神経伝達物質が放出されることが示されているが<ref><pubmed>15673664</pubmed></ref><ref><pubmed>19052199</pubmed></ref>、実際にどの神経伝達物質が機能するかについては明らかとなっていない。 | |||
=== IV型細胞 === | === IV型細胞 === |