「味覚受容体」の版間の差分

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<div align="right"> 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/nktanaka 田中暢明]</font><br>
''北海道大学 創成研究機構''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月7日 原稿完成日:2012年7月9日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
</div>
英:taste receptor、gustatory receptor 独:Geschmacksrezeptor 仏:récepteurs gustatifs  
英:taste receptor、gustatory receptor 独:Geschmacksrezeptor 仏:récepteurs gustatifs  


 味覚受容体は、接触した[[wikipedia:JA:化学物質|化学物質]]を検出するための受容体で、1999年に、[[味細胞]]に発現する7回膜貫通型の[[Gタンパク質共役型受容体]]として初めて哺乳類から同定された<ref><pubmed> 10052456 </pubmed></ref>。その後、[[wikipedia:JA:分子生物学的手法|分子生物学的手法]]や[[wikipedia:JA:ゲノムプロジェクト|ゲノムプロジェクト]]の発展に伴い、各種モデル動物の味覚受容体遺伝子のクローニングが進み、同時に受容体に対する[[リガンド]](ligand)も特定されていった<ref name=ref5><pubmed> 19837029 </pubmed></ref>。  
{{box|text=
 味覚受容体は、接触した[[wikipedia:JA:化学物質|化学物質]]を検出するための[[受容体]]で、1999年に、[[味細胞]]に発現する7回膜貫通型の[[Gタンパク質共役型受容体]]として初めて哺乳類から同定された<ref><pubmed> 10052456 </pubmed></ref>。その後、[[wikipedia:JA:分子生物学的手法|分子生物学的手法]]や[[wikipedia:JA:ゲノムプロジェクト|ゲノムプロジェクト]]の発展に伴い、各種[[モデル動物]]の味覚受容体遺伝子のクローニングが進み、同時に受容体に対する[[リガンド]](ligand)も特定されていった<ref>'''二ノ宮裕三、重村憲徳、實松敬介'''<br>化学受容の科学(東原和成編)5章「味覚受容体」<br>''化学同人(京都)'':2012</ref><ref name="ref5"><pubmed> 19837029 </pubmed></ref>。  


 哺乳類にとって、味には、[[甘味]]、[[酸味]]、[[塩味]]、[[苦味]]、[[うま味]]の[[5基本味]]がある。それぞれの基本味は、異なる受容体で検知されていると考えられているが、2012年現在、それぞれの基本味に対する受容機構の全貌は甘味を除いて解明されていない。また、基本味以外にも、[[カルシウム味]]や[[脂肪味]]などに応答する味細胞が存在することが報告されているが、それらに対する受容機構の研究は始まったばかりである<ref><pubmed> 11581497 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21653867 </pubmed></ref>。ここでは、主に[[wikipedia:JA:哺乳類|哺乳類]]([[ヒト]]と[[マウス]])と[[wikipedia:JA:昆虫|昆虫]]([[ショウジョウバエ]])の知見を基に、味覚受容体を概説する。  
 哺乳類にとって、味には、[[甘味]]、[[酸味]]、[[塩味]]、[[苦味]]、[[うま味]]の[[5基本味]]がある。2012年現在、それぞれの基本味に対する主要な受容体は、酸味を除いて同定されている。一方、基本味以外にも、[[カルシウム味]]や[[脂肪味]]などに応答する味細胞が存在することが報告されているが、それらに対する受容機構の研究は始まったばかりである<ref><pubmed> 11581497 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21653867 </pubmed></ref>。ここでは、主に[[wikipedia:JA:哺乳類|哺乳類]]([[wikipedia:JA:ヒト|ヒト]]と[[wikipedia:JA:齧歯類|齧歯類]])と[[wikipedia:JA:昆虫|昆虫]]([[ショウジョウバエ]])の知見を基に、味覚受容体を概説する。  
}}


== 哺乳類の味覚受容体  ==
== 哺乳類の味覚受容体  ==


 哺乳類の味覚受容体には、7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体([[T1R]]、[[T2R]]ファミリー)と、[[イオンチャネル型受容体]]などがある。そうした味覚受容体を発現する味細胞は、主に、舌の[[味蕾]](taste buds)にあるが、[[wikipedia:JA:軟口蓋|軟口蓋]]、[[wikipedia:JA:喉頭蓋|喉頭蓋]]などにも分布している<ref name=ref5 />。さらに最近の研究で、甘味受容体などが[[wikipedia:JA:腸管|腸管]]や脳内でも発現していることが明らかになっている<ref><pubmed> 15667333 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19587847 </pubmed></ref>。<br>  
 哺乳類の味覚受容体には、7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体([[T1R]]、[[T2R]]ファミリー)と、[[イオンチャネル型受容体]]などがある(図)。そうした味覚受容体を発現する味細胞は、主に、舌の[[味蕾]](taste buds)にあるが、[[wikipedia:JA:軟口蓋|軟口蓋]]、[[wikipedia:JA:喉頭蓋|喉頭蓋]]などにも分布している<ref name="ref5" />。さらに最近の研究で、甘味受容体などが[[wikipedia:JA:腸管|腸管]]や脳内でも発現していることが明らかになっている<ref><pubmed> 15667333 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19587847 </pubmed></ref>。[[Image:味覚受容体.jpg|thumb|right|250px|'''図 味覚受容体の構造'''<br>化学受容の科学(化学同人)5章より改変(實松敬介氏提供)]]<br>  


=== Gタンパク質共役型受容体  ===
=== Gタンパク質共役型受容体  ===


 7回膜貫通型のタンパク質で、多量体を形成し、味物質と結合すると[[Gタンパク質]]を活性化することにより、セカンドメッセンジャー経路を介して、最終的には[[Transient receptor potential channel type M5]](TRPM5)を開口させて、Na<sup>+</sup>を細胞内に流入させて、[[味細胞]]を脱分極させると考えられている<ref><pubmed> 12581520 </pubmed></ref>。個々の受容体タンパク質に複数のリガンド結合サイトがあると考えられており、一つの受容体は複数の味覚刺激物質を検出する<ref><pubmed> 15353592 </pubmed></ref><ref><pubmed> 17935609 </pubmed></ref>。大きく分けて、生体にとって栄養源となるうま味や甘味などを認識するT1Rファミリーと、生体にとって有害な苦味を検出するT2Rファミリーの2種があり、T1RとT2Rはそれぞれ異なる味細胞で発現することが知られている<ref><pubmed> 10761934 </pubmed></ref>。  
 7回膜貫通型のタンパク質で、多量体を形成し、味物質と結合すると[[Gタンパク質]]を活性化することにより、セカンドメッセンジャー経路を介して、最終的には[[Transient receptor potential channel]] type M5(TRPM5)を開口させて、Na<sup>+</sup>を細胞内に流入させて、[[味細胞]]を[[脱分極]]させる<ref><pubmed> 12581520 </pubmed></ref>。個々の受容体タンパク質に複数のリガンド結合サイトがあると考えられており、一つの受容体は複数の味覚刺激物質を検出する<ref><pubmed> 15353592 </pubmed></ref><ref><pubmed> 17935609 </pubmed></ref>。大きく分けて、生体にとって栄養源となるうま味や甘味などを認識するT1Rファミリーと、生体にとって有害な苦味を検出するT2Rファミリーの2種があり、T1RとT2Rはそれぞれ異なる味細胞で発現することが知られている<ref><pubmed> 10761934 </pubmed></ref>。  


 味覚受容体は、一般的なGタンパク質共役型受容体と比較すると種間のアミノ酸配列の相違が大きく、この相違が種間の味覚の違いを生んでいることが示されている。例えばマウスでは、大部分のL型[[wikipedia:JA:アミノ酸|アミノ酸]]がうま味として認識されるのに対して、ヒトではL型[[グルタミン酸]]やL型[[アスパラギン酸]]しか強く認識されない<ref name=ref2><pubmed> 11894099 </pubmed></ref>。  
 味覚受容体は、一般的なGタンパク質共役型受容体と比較すると種間のアミノ酸配列の相違が大きく、この相違が種間の味覚の違いを生んでいることが示されている。例えばマウスでは、大部分のL型[[wikipedia:JA:アミノ酸|アミノ酸]]がうま味として認識されるのに対して、ヒトではL型[[グルタミン酸]]やL型[[アスパラギン酸]]しか強く認識されないのは、受容体の構造の違いによる<ref name="ref2"><pubmed> 11894099 </pubmed></ref>。  


==== うま味/甘味受容体(T1Rファミリー) ====
==== うま味/甘味受容体(T1Rファミリー)====


 T1Rファミリーには、[[T1R1]]、[[T1R2]]、[[T1R3]]の3種類のサブユニットがあり、T1R1とT1R3がヘテロ2量体を形成している場合はグルタミン酸などのうま味物質の受容体として<ref name=ref2 />、T1R2とT1R3がヘテロ2量体を形成している際は[[糖]]や[[グリシン]]、甘味を持つタンパク質([[wikipedia:JA:モネリン|モネリン]]や[[wikipedia:JA:ソーマチン|ソーマチン]])などの受容体として機能する<ref><pubmed> 14636554 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11509186 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11894099 </pubmed></ref>。 ただし、うま味受容体に関しては、T1R1/T1R3以外にも、味蕾に発現しているtaste-mGluR4がグルタミン酸を受容しているという報告もある<ref><pubmed> 10649565 </pubmed></ref>。
 T1Rファミリーには、[[T1R1]]、[[T1R2]]、[[T1R3]]の3種類のサブユニットがあり、T1R1とT1R3がヘテロ2量体を形成している場合はグルタミン酸などのうま味物質の受容体として<ref name="ref2" />、T1R2とT1R3がヘテロ2量体を形成している際は[[糖]]や[[グリシン]]、甘味を持つタンパク質([[wikipedia:JA:モネリン|モネリン]]や[[wikipedia:JA:ソーマチン|ソーマチン]])などの受容体として機能する<ref><pubmed> 14636554 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11509186 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11894099 </pubmed></ref>。 ただし、うま味受容体に関しては、T1R1/T1R3以外にも、味蕾に発現しているtaste-[[mGluR]]4がグルタミン酸を受容しているという報告もある<ref><pubmed> 10649565 </pubmed></ref>。  


==== 苦味受容体(T2Rファミリー) ====
==== 苦味受容体(T2Rファミリー) ====


 T2Rファミリーには多種の受容体が存在し、マウスでは30種類ほどある<ref><pubmed> 10761934 </pubmed></ref>。T2Rファミリー受容体の大部分は同じ細胞に共発現し、ヘテロオリゴマーを形成して苦味物質を検出する<ref><pubmed> 20212011 </pubmed></ref>。  
 T2Rファミリーには多種の受容体が存在し、マウスでは30種類ほどある<ref><pubmed> 10761934 </pubmed></ref>。その多種の受容体が同じ細胞に共発現し、ホモ/ヘテロ・オリゴマーを形成して苦味物質を検出する<ref><pubmed> 20212011 </pubmed></ref>。  


=== イオンチャネル型受容体  ===
=== イオンチャネル型受容体  ===


 Gタンパク質共役型受容体が味物質と結合してGタンパク質を活性化するのとは対照的に、イオンチャネル型受容体は、細胞外のH<sup>+</sup>(酸味)やNa<sup>+</sup>(塩味)などのイオンによって開口し、これらのイオンを透過させるイオンチャネルとして働くことにより、味細胞を脱分極させる。
 Gタンパク質共役型受容体が味物質と結合してGタンパク質を活性化するのとは対照的に、イオンチャネル型受容体は、細胞外のH<sup>+</sup>(酸味)やNa<sup>+</sup>(塩味)などのイオンによって開口し、陽イオンを透過させる[[イオンチャネル]]として働くことにより、味細胞を脱分極させる。


==== 酸味受容体 ====
==== 酸味受容体 ====


 [[Transient receptor potential channel]](TRP)の1種である[[PKD2L1]]を発現している味細胞を欠くと酸味応答がなくなることが報告されている<ref><pubmed> 16929298 </pubmed></ref>。しかしながら、PKD2L1の膜局在に必要な[[PKD1L3]]を欠損するマウスでも酸味に対する応答が変化しなかったり<ref><pubmed> 20605874 </pubmed></ref>、PKD2L1とPKD1L3を共発現させた培養細胞が、酸を除いた際にしか応答しないことから<ref><pubmed> 18535624 </pubmed></ref>、PKD2L1以外に酸を受容する機構がある。現在、Zn<sup>2</sup><sup>+</sup>感受性のH<sup>+</sup>チャネルが、酸味受容体として働いていることが示唆されているが、このチャネルの実体は未同定である<ref><pubmed> 21098668 </pubmed></ref>。  
 [[Transient receptor potential channel]](TRP channel)の1種である[[PKD2L1]]を発現している味細胞を欠くと酸味応答がなくなることが報告されている<ref><pubmed> 16929298 </pubmed></ref>。しかしながら、PKD2L1の膜局在に必要な[[PKD1L3]]を欠損するマウスでも酸味に対する応答が変化しなかったり<ref><pubmed> 20605874 </pubmed></ref>、PKD2L1とPKD1L3を共発現させた[[培養細胞]]が、酸刺激をとめた時にしか応答しないことから<ref><pubmed> 18535624 </pubmed></ref>、PKD2L1は酸味の後味に関与していて、PKD以外にも酸受容体があると考えられている。酸味を受容する受容体としては、これまで[[Acid-sensing ion channel]](ASIC)や[[hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated channel]] (HCN channel) などが候補として挙げられてきたが、どれも個体レベルで酸味の検出に必要だという証明はされていない<ref><pubmed> 12736332 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11675786 </pubmed></ref>。また、最近、Zn<sup>2</sup><sup>+</sup>感受性のH<sup>+</sup>チャネルが、酸味受容体として働いていることが示されたが、このチャネルの実体は未同定である<ref><pubmed> 21098668 </pubmed></ref>。  


==== 塩味受容体 ====
==== 塩味受容体 ====


 低濃度の塩味(Na<sup>+</sup>イオン)に対するマウスの嗜好性は、[[アミロライド]]によって抑制されるので、上皮性アミロライド感受性Na<sup>+</sup>チャネル(ENaC)によって、塩味は受容されると考えられている<ref><pubmed> 20107438 </pubmed></ref>。一方で、高濃度の塩味に対する嫌悪は、アミロライドによって抑制されないことから、高濃度の塩味は別の機構で受容されており、TRPV1t(vanilloid receptor)がその候補として考えられている<ref><pubmed> 15146042 </pubmed></ref>。<br>  
 低濃度の塩味(Na<sup>+</sup>イオン)に対するマウスの嗜好性は、[[アミロライド]]によって抑制されるので、[[上皮性アミロライド感受性Na+チャネル|上皮性アミロライド感受性Na<sup>+</sup>チャネル]](ENaC)によって、塩味は受容されると考えられている<ref><pubmed> 20107438 </pubmed></ref>。一方で、高濃度の塩味に対する嫌悪は、アミロライドによって抑制されないことから、高濃度の塩味は別の機構で受容されており、[[TRPV1t]](vanilloid receptor)がその候補として考えられている<ref><pubmed> 15146042 </pubmed></ref>。<br>


== 昆虫の味覚受容体  ==
== 昆虫の味覚受容体  ==


 進化的には哺乳類とかけはなれた昆虫も、味に対する区分は哺乳類と極めて類似しており、糖や低濃度の塩に対しては嗜好性を示し、高濃度の塩や苦味などは嫌悪する<ref name=ref5 />。さらに、[[甘味受容体]]の数が、[[苦味受容体]]に比べると少ない点も共通している<ref><pubmed> 21262465 </pubmed></ref>。ただ、昆虫においては、食べ物を味わう目的以外にも味覚受容が用いられており、例えば、脚にある味覚受容器の味覚受容体が、産卵する宿主植物の持つ化学物質や、求愛相手の[[wikipedia:JA:性フェロモン|性フェロモン]]の検知に関わっていることが報告されている<ref><pubmed> 22086342 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22632976 </pubmed></ref>。  
 進化的には哺乳類とかけはなれた昆虫も、味に対する区分は哺乳類と極めて類似しており、糖や低濃度の塩に対しては嗜好性を示し、高濃度の塩や苦味などは嫌悪する<ref name="ref5" />。さらに、[[甘味受容体]]の数が、[[苦味受容体]]に比べると少ない点も共通している<ref><pubmed> 21262465 </pubmed></ref>。ただ、昆虫においては、食べ物を味わう目的以外にも味覚受容が用いられており、例えば、脚にある味覚受容器の味覚受容体が、産卵する宿主植物の持つ化学物質や、求愛相手の[[wikipedia:JA:性フェロモン|性フェロモン]]の検知に関わっていることが報告されている<ref><pubmed> 22086342 </pubmed></ref><ref><pubmed> 22632976 </pubmed></ref>。  


 昆虫では、味覚受容体を発現する味細胞は、口吻、咽頭、跗節や交尾器などの感覚子(sensillum)に存在する<ref name=ref4><pubmed> 8118845 </pubmed></ref>。ショウジョウバエの口吻の1つの感覚子には、[[糖受容細胞]]、[[水受容細胞]]、[[塩受容細胞]]、[[苦味/高濃度塩受容細胞]]の4種類の味細胞、もしくは、[[糖/低塩受容細胞]]、[[苦味/高濃度塩受容細胞]]の2種類の味細胞が含まれている<ref name=ref4 /><ref><pubmed> 15389687 </pubmed></ref>。現在までに、ショウジョウバエから68種類の7回膜貫通型受容体遺伝子が同定されており、個々の受容細胞が発現する受容体やその一部のリガンドが明らかになってきている<ref><pubmed> 19660932 </pubmed></ref>。また、7回膜貫通型受容体以外にも、[[上皮性ナトリウムチャネル|上皮性Na<sup>+</sup>チャネル]](ENaC)ファミリーの[[Pickpocket28]](PPK28)が、水受容細胞が低浸透圧を検知するために必須であることや、苦味受容体細胞が[[TrpA1]]遺伝子を発現することが[[wikipedia:ja:ワサビ|ワサビ]]の味を感知するために必要であることが報告されている<ref><pubmed> 20364123 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16647259 </pubmed></ref>。  
 昆虫では、味覚受容体を発現する味細胞は、口吻、咽頭、跗節や交尾器などの[[感覚子]](sensillum)に存在する<ref name="ref4"><pubmed> 8118845 </pubmed></ref>。ショウジョウバエの口吻の1つの感覚子には、[[糖受容細胞]]、[[水受容細胞]]、[[塩受容細胞]]、[[苦味/高濃度塩受容細胞]]の4種類の味細胞、もしくは、[[糖/低塩受容細胞]]、[[苦味/高濃度塩受容細胞]]の2種類の味細胞が含まれている<ref name="ref4" /><ref><pubmed> 15389687 </pubmed></ref>。現在までに、ショウジョウバエから68種類の7回膜貫通型受容体遺伝子が同定されており、個々の受容細胞が発現する受容体やその一部のリガンドが明らかになってきている<ref><pubmed> 19660932 </pubmed></ref>。また、7回膜貫通型受容体以外にも、ENaCファミリーの[[Pickpocket28]](PPK28)が水受容細胞が低浸透圧を検知するために必須であることや、苦味受容体細胞が[[TrpA1]]遺伝子を発現することが[[wikipedia:ja:ワサビ|ワサビ]]の味を感知するために必要であることが報告されている<ref><pubmed> 20364123 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16647259 </pubmed></ref>。  


 昆虫においても、甘味や苦味に対する受容体は、7回膜貫通型でありGタンパク質共役型であると考えられている。実際にGタンパク質を欠損させると、味覚応答が部分的に低下する<ref><pubmed> 16121192 </pubmed></ref>。しかしながら、近年、これらの受容体はイオンチャネルとしての性質も持ち、昆虫の甘味や苦味に対する受容機構は脊椎動物とは異なることが示唆されている<ref><pubmed> 21709218 </pubmed></ref>。  
 昆虫においても、甘味や苦味に対する受容体は、7回膜貫通型でGタンパク質共役型であると考えられている。実際にGタンパク質を欠損させると、味覚応答が部分的に低下する<ref><pubmed> 16121192 </pubmed></ref>。しかしながら、フルクトースに応答する7回膜貫通型受容体に、リガンド結合型イオンチャネルとしての性質があることが報告され、少なくとも一部はGタンパク質共役型ではないと考えられている<ref><pubmed> 21709218 </pubmed></ref>。  


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==
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== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />  
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(執筆者:田中暢明 担当編集委員:柚崎通介)

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