「味覚受容体」の版間の差分

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 味には、[[甘味]]、[[酸味]]、[[塩味]]、[[苦味]]、[[うま味]]の[[5基本味]]があるが、それぞれの味覚を生じさせる味物質は、[[味細胞]]に発現する特定の味覚受容体を介して検出される。味覚受容体には、7回膜貫通型の[[Gタンパク質共役型受容体]]や[[イオンチャネル型受容体]]が報告されており、それぞれの基本味に対する主要な味覚受容体は既に同定されている。その一方で、基本味以外にも、[[カルシウム味]]や[[脂肪酸味]]などに応答する[[味細胞]]が存在することが報告されているが、カルシウムや脂肪酸に対する受容体はいまだ確定されていない。}}  
 味には、[[甘味]]、[[酸味]]、[[塩味]]、[[苦味]]、[[うま味]]の[[5基本味]]があるが、それぞれの味覚を生じさせる味物質は、[[味細胞]]に発現する特定の味覚受容体を介して検出される。味覚受容体には、7回膜貫通型の[[Gタンパク質共役型受容体]]や[[イオンチャネル型受容体]]が報告されており、それぞれの基本味に対する主要な味覚受容体は既に同定されている。その一方で、基本味以外にも、[[カルシウム味]]や[[脂肪酸味]]などに応答する[[味細胞]]が報告されているが、カルシウムや脂肪酸に対する受容体はいまだ確定されていない。}}  


== 哺乳類の味覚受容体  ==
== 哺乳類の味覚受容体  ==


 味覚受容体は、接触した[[wikipedia:JA:化学物質|化学物質]]を検出するための[[受容体]]で、1999年に、[[味細胞]]に発現する7回膜貫通型の[[Gタンパク質共役型受容体]]として初めて哺乳類から同定された<ref><pubmed> 10052456 </pubmed></ref>。その後、[[wikipedia:JA:分子生物学的手法|分子生物学的手法]]や[[wikipedia:JA:ゲノムプロジェクト|ゲノムプロジェクト]]の発展に伴い、各種[[モデル動物]]の味覚受容体遺伝子のクローニングが進められ、[[甘味]]、[[酸味]]、[[塩味]]、[[苦味]]、[[うま味]]の[[5基本味]]に対する主要な受容体が同定された<ref>'''二ノ宮裕三、重村憲徳、實松敬介'''<br>化学受容の科学(東原和成編)5章「味覚受容体」<br>''化学同人(京都)'':2012</ref><ref name="ref5"><pubmed> 19837029 </pubmed></ref>。 哺乳類の味覚受容体には、7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体([[T1R]]、[[T2R]]ファミリー)と、[[イオンチャネル型受容体]]などがある(図)。そうした味覚受容体を発現する味細胞は、主に、舌の[[味蕾]](taste buds)にあるが、[[wikipedia:JA:軟口蓋|軟口蓋]]、[[wikipedia:JA:喉頭蓋|喉頭蓋]]などにも分布している<ref name="ref5" />。さらに、甘味受容体などが[[wikipedia:JA:腸管|腸管]]や脳内でも発現していることが明らかになっている<ref><pubmed> 15667333 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19587847 </pubmed></ref>。[[Image:味覚受容体.jpg|thumb|right|250px|'''図 味覚受容体の構造'''<br>化学受容の科学(化学同人)5章より改変(實松敬介氏提供)]]<br>  
 味覚受容体は、接触した[[wikipedia:JA:化学物質|化学物質]]を検出するための[[受容体]]で、1999年に、[[味細胞]]に発現する7回膜貫通型の[[Gタンパク質共役型受容体]]として初めて哺乳類から同定された<ref><pubmed> 10052456 </pubmed></ref>。その後、[[wikipedia:JA:分子生物学的手法|分子生物学的手法]]や[[wikipedia:JA:ゲノムプロジェクト|ゲノムプロジェクト]]の発展に伴い、さまざまな動物で味覚受容体遺伝子のクローニングが進められ、[[甘味]]、[[酸味]]、[[塩味]]、[[苦味]]、[[うま味]]の[[5基本味]]に対する主要な受容体が同定された<ref>'''二ノ宮裕三、重村憲徳、實松敬介'''<br>化学受容の科学(東原和成編)5章「味覚受容体」<br>''化学同人(京都)'':2012</ref><ref name="ref5"><pubmed> 19837029 </pubmed></ref>。 哺乳類の味覚受容体には、7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体([[T1R]]、[[T2R]]ファミリー)と、[[イオンチャネル型受容体]]などがある(図)。そうした味覚受容体を発現する味細胞は、主に、舌の[[味蕾]](taste buds)にあるが、[[wikipedia:JA:軟口蓋|軟口蓋]]、[[wikipedia:JA:喉頭蓋|喉頭蓋]]などにも分布している<ref name="ref5" />。さらに、甘味受容体などが[[wikipedia:JA:腸管|腸管]]や脳内でも発現していることが明らかになっている<ref><pubmed> 15667333 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19587847 </pubmed></ref>。[[Image:味覚受容体.jpg|thumb|right|250px|'''図 味覚受容体の構造'''<br>化学受容の科学(化学同人)5章より改変(實松敬介氏提供)]]<br>  


=== Gタンパク質共役型受容体  ===
=== Gタンパク質共役型受容体  ===


 7回膜貫通型のタンパク質で、多量体を形成する。味物質と結合すると[[Gタンパク質]]を活性化することにより、セカンドメッセンジャー経路を介して、最終的に[[Transient receptor potential channel]] type M5(TRPM5)を開口させて、Na<sup>+</sup>を細胞内に流入させて、[[味細胞]]を[[脱分極]]させる<ref><pubmed> 12581520 </pubmed></ref>。個々の受容体タンパク質に複数のリガンド結合サイトがあると考えられており、1個の受容体は複数の味覚刺激物質を検出する<ref><pubmed> 15353592 </pubmed></ref><ref><pubmed> 17935609 </pubmed></ref>。生体にとって栄養源となるうま味や甘味などを認識するT1Rファミリーと、生体にとって有害な苦味を検出するT2Rファミリーの2種があり、T1RとT2Rはそれぞれ異なる味細胞で発現することが知られている<ref><pubmed> 10761934 </pubmed></ref>。  
 7回膜貫通型のタンパク質で、多量体を形成する。味物質と結合すると[[Gタンパク質]]を活性化することにより、セカンドメッセンジャー経路を介して、最終的に[[Transient receptor potential channel]] type M5(TRPM5)を開口させる。その結果、Na<sup>+</sup>が細胞内に流入して、[[味細胞]]を[[脱分極]]させる<ref><pubmed> 12581520 </pubmed></ref>。個々の受容体タンパク質に複数のリガンド結合サイトがあると考えられており、1個の受容体は複数の味覚刺激物質を検出する<ref><pubmed> 15353592 </pubmed></ref><ref><pubmed> 17935609 </pubmed></ref>。生体にとって栄養源となるうま味や甘味などを認識するT1Rファミリーと、生体にとって有害な苦味を検出するT2Rファミリーの2種があり、T1RとT2Rはそれぞれ異なる味細胞で発現することが知られている<ref><pubmed> 10761934 </pubmed></ref>。  


 味覚受容体は、一般的なGタンパク質共役型受容体と比較すると種間のアミノ酸配列の相違が大きく、この相違が種間の味覚の違いを生んでいることが示されている。例えばマウスでは、大部分のL型[[wikipedia:JA:アミノ酸|アミノ酸]]がうま味として認識されるのに対して、ヒトではL型[[グルタミン酸]]やL型[[アスパラギン酸]]しか強く認識されないのは、受容体の構造の違いによる<ref name="ref2"><pubmed> 11894099 </pubmed></ref>。  
 味覚受容体は、一般的なGタンパク質共役型受容体と比較すると種間のアミノ酸配列の相違が大きく、この相違が種間の味覚の違いを生んでいることが示されている。例えばマウスでは、大部分のL型[[wikipedia:JA:アミノ酸|アミノ酸]]がうま味として認識されるのに対して、ヒトではL型[[グルタミン酸]]やL型[[アスパラギン酸]]しか強く認識されないのは、受容体の構造の違いによる<ref name="ref2"><pubmed> 11894099 </pubmed></ref>。  
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